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俺は舌打ちすると、硝の首をぐいっと引き寄せ噛みつくようにキスをした。
「さっさと、気持ちよくしろ」
そう言うと硝がぷっと吹き出し、「りょーかい」と言った。
急に腰を激しく突き上げ始める。
俺は喘ぎながら、頬に流れる雫を、快楽からくる生理現象だと、何度も自分に言いきかせた。
翌朝、俺は仕事に行く時と同じ時間に家を出て、三枝のところにいった。
職場には今日で辞めるから、他のバイトを雇ってくれとだけ伝えた。
佳代さんは電話一つで突然仕事を辞める不義理な俺に、すごく助かった。今までありがとう。いつでも戻ってきていいからねと涙声で言った。
三枝に与えられたマンションは偶然にも藤崎に飼われていた場所とよく似ていた。
高層階のベランダで俺は真下の通行人たちをぼんやりと眺めていた。
「人がゴミのようだあ。なんてな」
俺は手すりに両手をかけ、ため息をついた。
「海」
呼ばれた気がして振り返ると、星が笑顔でこちらを見ていた。
「ねえ、今日の夕飯、オムライスがいいよねえ?僕と月は絶対オムライスだって言ってるんだけど、硝がラーメンがいいって聞かないの」
「オムライスは一昨日も食べた」
ぶすりとそう言う硝の向かいに座わる藤崎が、コーヒーを飲みながら苦笑する。
「昼はラーメンで夜はオムライスにしようぜ。どうだ?」
藤崎が読んでいた新聞をテーブルに置き、言う。
「それ賛成」
月が手をあげる。
「俺もそれでいいけど」
硝が頷く。
「だってよ。なあ、海、勝手に決めちまったけど、いいよな?」
笑顔の藤崎がこちらを向く。
俺は何かを堪えるように、瞬きを一度した。
今見た光景が全て消え去る。
俺はその場でずるずるとしゃがみこんだ。
分かっている。
今のは俺の脳が勝手に作り出した、都合のいい白昼夢だ。
「海。大好き」
硝の声が聞こえた気がして、顔を上げるが、そこは誰もいないがらんとした室内だった。
あいつはずっとこんな俺の傍にいると言ってくれたのに、俺が自ら離れた。
俺の傍にいるより、三枝と仕事をしていたほうがあいつの為になる。
珍しくそんなことを考えたのが間違いだったのか?
いや、間違っていたのは俺の消せない過去だ。
俺が誰かを傷つけるようなことさえしてこなければ、今この瞬間も、堂々と硝の隣にいることができたのに。
「ごめん」
その弱々しい謝罪は誰に向けたものなのか。
呟いた自分ですら分からなかった。
「さっさと、気持ちよくしろ」
そう言うと硝がぷっと吹き出し、「りょーかい」と言った。
急に腰を激しく突き上げ始める。
俺は喘ぎながら、頬に流れる雫を、快楽からくる生理現象だと、何度も自分に言いきかせた。
翌朝、俺は仕事に行く時と同じ時間に家を出て、三枝のところにいった。
職場には今日で辞めるから、他のバイトを雇ってくれとだけ伝えた。
佳代さんは電話一つで突然仕事を辞める不義理な俺に、すごく助かった。今までありがとう。いつでも戻ってきていいからねと涙声で言った。
三枝に与えられたマンションは偶然にも藤崎に飼われていた場所とよく似ていた。
高層階のベランダで俺は真下の通行人たちをぼんやりと眺めていた。
「人がゴミのようだあ。なんてな」
俺は手すりに両手をかけ、ため息をついた。
「海」
呼ばれた気がして振り返ると、星が笑顔でこちらを見ていた。
「ねえ、今日の夕飯、オムライスがいいよねえ?僕と月は絶対オムライスだって言ってるんだけど、硝がラーメンがいいって聞かないの」
「オムライスは一昨日も食べた」
ぶすりとそう言う硝の向かいに座わる藤崎が、コーヒーを飲みながら苦笑する。
「昼はラーメンで夜はオムライスにしようぜ。どうだ?」
藤崎が読んでいた新聞をテーブルに置き、言う。
「それ賛成」
月が手をあげる。
「俺もそれでいいけど」
硝が頷く。
「だってよ。なあ、海、勝手に決めちまったけど、いいよな?」
笑顔の藤崎がこちらを向く。
俺は何かを堪えるように、瞬きを一度した。
今見た光景が全て消え去る。
俺はその場でずるずるとしゃがみこんだ。
分かっている。
今のは俺の脳が勝手に作り出した、都合のいい白昼夢だ。
「海。大好き」
硝の声が聞こえた気がして、顔を上げるが、そこは誰もいないがらんとした室内だった。
あいつはずっとこんな俺の傍にいると言ってくれたのに、俺が自ら離れた。
俺の傍にいるより、三枝と仕事をしていたほうがあいつの為になる。
珍しくそんなことを考えたのが間違いだったのか?
いや、間違っていたのは俺の消せない過去だ。
俺が誰かを傷つけるようなことさえしてこなければ、今この瞬間も、堂々と硝の隣にいることができたのに。
「ごめん」
その弱々しい謝罪は誰に向けたものなのか。
呟いた自分ですら分からなかった。
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