楽園の在処

まめ太郎

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 硝はあれから、店に謝りに戻ったが、その場でクビを言い渡された。
 誕生日の日にお祝いに来てくれた客をおいて消えるだなんて、罰金を課されないだけでもありがたいと思えとマネージャーから𠮟責され、今月分の給料はもらえなかったらしい。
 俺達はまた、ともに無職となった。
 
 硝の今までの稼ぎと貢物が残っているとはいえ、そうそう遊んで暮らせるほどではない。
 すぐにでも金を稼ぐ方法を考えなければいけない状況だが、それでも俺は昔の仲間に連絡をとるという考えはすっぱり諦めた。 
 つい先日、簡単に美人局に引っかかった俺だ。
 今、あいつらと関わったらいいカモにされるのは間違いないだろう。

 俺だけならまだしも、こいつまで食いモノにされちゃな。
 
 隣を歩く硝に視線を向けると、「ん?」と目線で訴えてくる。
「なんでもねえよ」
 俺がそう言うとまた硝が前を向く。

「ねえ、海。お腹空かない?」
 硝の問いに頷いた。
「そうだな。昨日歩いた時に見つけた、あの中華屋行ってみるか」
 俺はそう言うと、公園をでて右に曲がった。
 
 職探しをしなくてはいけない俺達なのだが、俺はいつも通りやる気がなく、部屋に籠っていた。
 俺が布団に寝ころんでいると、硝が缶ビール片手に戻ってきて、それを手渡す。
 礼を言って受け取ると、プルタブを開け、グビグビっと一気に呷った。
 季節は秋に移り変わっていたが、まだ残暑を感じる日が多く、セックス後の発泡酒は格別に美味かった。
 そんな俺をじっと見ながら硝がぽつりと言った。

「海。太ったよね」
「は?ふざけんな。太ってなんかねーよ」
「でも、海が上に乗った時、重くなったように感じるんだけど」
 そう言いながら、硝が俺の腹の肉を摘まんで引っ張る。
 つられて自分の腹に視線を落とし、俺は愕然とした。
 そこにあったのは正月の鏡餅だった。
 白くて、まるっこくて、それが二段に分かれていた。
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