楽園の在処

まめ太郎

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「お前らを助けるのはこれが最後だ。硝に渡した電話番号はもう二度と俺にはつながらない」
 藤崎はそれだけ言うと、車のドアを開け、外に出た。

「海。どうする?これ以上痛い目を見るのが辛いというなら、あそこに俺と戻りたいというなら、また飼ってやろうか?ただし、硝は連れて行かない。お前だけだ」
 俺に向かって手を差し伸ばす藤崎を睨みつける。
 硝を振り返ると、下唇をぎゅっと噛み、目を潤ませていた。その表情を見て、俺の気持ちはかたまった。
 俺は藤崎を見上げた。

「行かない。俺には責任があるから」
 それだけで藤崎は言いたいことが分かったようだった。
「そうか」
 サングラスをかけ、ドアを閉めると、一度も振り返らずに道の反対に止まっていた車に乗り込み、去って行く。
 俺達の乗っていた車もようやく動き始めた。

「どうやって藤崎さんと連絡をとったんだ?」
「出て行く時に、本当にやばいことになったら連絡しろって、電話番号のメモ渡された。でも、もう使えないね」
 硝はぽつりとそう言った。
 俺は自分の全身をゆっくり摩った。
 骨はどこも異常がなさそうだった。
 この感触からいくと、二週間もすれば痛みもとれるだろう。
 俺は息を吐くと、シートに背中を預けた。

「なあ。もし俺がさっき藤崎さんの手をとって、お前を捨てていたらどうした?」
 前を見たまま聞いた。
「そうだね。藤崎さんにつきまとって、もう一度俺も飼ってもらえるよう頼みこむかな」
 こいつは俺が自分を選ばない可能性も十分にあると分かっている。それでも俺を責めたりはしない。

「俺と海が離れるなんて」
 そこまで言うと、硝はシートに投げ出されていた、俺の指先を握り、鼻を鳴らした。
「ありえないよ」
 俺は目を閉じ、寒いくらい空調の効いた車内で、唯一のぬくもりである硝の指を軽く握り返した。
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