楽園の在処

まめ太郎

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 しかし実際事が始まると駄目だった。
 硝の緑色の瞳や、その中に浮かぶ金、筋肉で覆われた固い肉体を思い出してしまい、理沙の嬌声を聞く度、自分の熱がどんどん冷めていった。

「ねえ、海。まじでどうしたの?居なくなってた間、AV俳優でもやってた?私、こんなにすごいエッチ初めてだよ」
 男としてはかなり嬉しい部類に入る褒め言葉も、喜ぶ気力が湧かない。
 何も言わない俺に理沙は近づいてくると、顔を覗き込んだ。
「やっぱ本命いたんじゃん」
「いねえって」
「嘘。海、後悔してる顔してる」
 俺は理沙に何も言い返すことができなかった。

 ホテル代は言った通り、理沙が払った。
「もうセックスなしでもいいからさ。たまには、ご飯行こうよ」
 そう言われて俺は理沙と番号を交換した。
 硝以外で俺のスマホに登録する初めての相手だった。

 ホテルの前で理沙と別れ、歩いて家に戻る。
 深夜だったが、まだ硝が帰宅するまで数時間はあるはずだった。
 帰ってもう一度、シャワーを浴びよう。
 別に硝に女と寝たことがばれたってどうってことはない。ただ硝が出て行ってその稼ぎがなくなるのが惜しいだけだ。
 俺はアパートの階段をなんとなくもやもやとした気分を抱えながら上がった。

 部屋の扉を開けると、そこには磨かれた革靴が揃えてあった。
 顔を上げると、硝が立っている。
 どうやら帰宅したばかりのようで、まだスーツ姿だった。
「早かったんだな」
 俺は内心の動揺を隠して、平坦な声で言った。
「今日は客の入りが悪くて、先に上がって良いって言われたんだ。ねえ、こんな時間までどこ行ってたの?」
 俺はスニーカーを脱いで台所に立つと、グラスに水を入れ、一気に飲んだ。
「パチンコだよ」
「こんな遅くまでやってる店ないよね?」
「その後、居酒屋で飲んでた」
「一人で?」
「ああ。疲れたから、シャワー浴びて寝るわ」
 そう言った俺の体をふいに硝が抱きしめた。
「何だよ」
 俺は心臓をバクバクさせながら言った。
「うちのと違う石鹼の匂いがする」
「そうか?気のせいだろ」
 俺は離れようと硝の体を押したがびくともしない。
「ねえ、海。最近忙しくてしてないよね?今からしよ」
「嫌だ。俺は疲れてるって言っただろ」
 硝が俺の足を払うと、床に転がし、上に覆いかぶさった。
「しよ」
 きつい硝の視線にさらされ、俺はごくりと唾を飲んだ。
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