楽園の在処

まめ太郎

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 暇つぶしに硝と寝るのはなかなか良い。
 硝が最中、調子に乗るのはムカつくが、終わった後、疲れた俺に奴隷のように傅くのは悪くない。

「海、何考えてるの?」
 突然黙り込んだ俺に硝が問う。
「いや、空から札束が降ってこねえかなと思ってさ」
 俺が笑って言うと、急に背中の重みが消えた。
 俺が顔を上げると、硝が枕元に正座していた。

「海。俺働こうと思う」
 硝が真顔で俺に告げる。
「はあ?いきなり何言ってんだよ」
 目を細めた俺の前で、硝は自分のバッグを漁ると、一枚の名刺を手渡してきた。

「ホストクラブpurewhite…お前これ」
「先週、海がパチンコやってるとき、俺、店の前で待ってただろ?その時にスカウトされたんだ」
 俺はため息をつくと、自分も正座し、硝の両肩を掴んだ。
「いいか?ホストって楽な仕事じゃないんだぞ。確かにお前、顔は抜群にいいが女と会話を続けたりできないだろ?トーク力のないホストなんて売れるわけねえ。やめとけ」
 俺はもう一度ため息をつくと、昔の仲間にそろそろ連絡を取ろうかと考えていた。番号は昔のスマホを取り上げられたので分からないが、溜まり場に行けば、一人くらい見知った顔がいるだろう。

 まあ、そこでレイジと鉢合わせしちまったら、アウトだけどな。

 俺が黙って自分の顎を撫でていると、硝が言った。
「でも、スカウトしてきた人が言ってた。店のナンバー1になれば月収一千万も夢じゃないって。俺ならそのナンバー1になれるって」
「ああいう奴らは、ちょっと見た目が良い男、みんなに同じこと言ってるんだよ。俺みたいなのだってスカウトされたことあるんだぜ」
 俺は頭を掻きながら冷蔵庫の前に移動し、座りこんだ。
 リサイクルショップで買った小さな冷蔵庫は藤崎のところのものと比べると、哀しいくらいみすぼらしい。
 開けると、中にはもやしの袋が一つ。
 俺は舌打ちすると、「今夜もラーメンでいいよな」と冷蔵庫を閉めた。
 立ち上がって振り返ると、目の前に硝が立っていた。

「わっ、なんだよ」
「じゃあ、どうやってお金稼ぐつもり?もう藤崎さんから貰ったの、ほとんどないでしょ?」
「俺だって色々考えてる。だからお前は黙って俺に従っていれば…」
 カッとして言い返すと、硝が眉を顰めて俺を見た。

「海。また悪いことするつもりだろ」
 硝の言葉に俺の目が泳いだ。
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