楽園の在処

まめ太郎

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 うるさいくらいの客引きの声と、目に痛いくらいのネオン。
 見慣れた光景なのに、離れていたせいかどこか違和感を覚えた。
 部下の男から荷物を手渡され、俺はぶらりと歩き出した。
 俺の後を硝が走って追いかけてくる。

「ねえ、海。今日はどこに泊まるつもりなの?」
 俺は横目で硝を見ると、薄暗い路地裏に奴を引っ張っていった。
「何?」
 生ごみのすえた匂いとアンモニア臭の漂う場所で硝は困惑したように俺を見た。
「さっき藤崎さんからもらった金、半分俺に寄越しな」
「えっ?」
「いいから、さっさとしろ」
 俺は無遠慮に硝のジャケットに手を突っ込み、札束を取り出すと、適当に半分と思われる量をとり、元の場所に戻した。

「じゃあな」
 俺が背中を向けると、硝が抱きついてきた。
「どういうこと?なんで?」
 俺はわざと大きなため息をついた。
「察しの悪い馬鹿はこれだから嫌なんだよ」
 俺は硝と向き合った。
「いいか。今から俺とお前は別々に生きていくんだ」
「何で?硝は俺のご主人様だろ」
 俺は硝の言葉を鼻で笑った。
「ご主人様ってメイド喫茶かよ。確かにあそこでは仕方なく、ご主人様ごっこに付き合ってやったけどな。でもそれはあの限られた空間の中での話だ。これからの生活に、お前は足手まといなんだよ」
 これから俺は金を稼ぐために以前のような犯罪まがいのことをするつもりだった。その姿を何故だかこいつには見られたくなかった。

「嫌だ、海。お願い。置いていかないで。何でもするから」
「うるせえ」
 俺は硝の肩を掴み、引き離そうと、壁に押し付けた。
 肩を打ったのか、蹲り、顔を顰めた硝がそれでも俺の足に縋りつく。
「海、好きだ。お願い。行かないで」
「触んな」
 俺が蹴ると、痛みからか硝が目を閉じた。
 しかし硝は俺の足を離さず、両足をいっぺんに掴んだせいで、俺は地面に両膝をついた。
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