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俺が上半身を起こし額を擦っていると、寝室の扉が開いた。硝が腰に手を当てながら、顔を出す。
「おい、大丈夫かよ?お前顔色悪いぞ」
俺の言葉に硝は顔を顰めた。
「餞別だって、掘られた」
俺は硝の言葉に自分の状況も忘れて爆笑した。
「海。藤崎さんが呼んでる」
俺は泣き過ぎて涙の浮いた目尻を拭い、立ち上がった。俺に心配げな目線を送る硝の首に、もう首輪はなかった。
部屋に行くと、藤崎は下着姿でベッドに腰かけていた。
俺が近づくと、手を伸ばす。
俺はその手を無視して俯いた。
藤崎の苦笑する声が聞こえた後、俺はベッドに引きずり込まれた。
驚くくらい優しく一度だけ藤崎は俺を抱くと、目元にキスを落とし、体を離した。
俺はまだ整わない呼吸が煩わしく、大きく息を吐いた。
「お前、10年後何してんだろうな」
突然の問いに俺は隣を見た。
藤崎は裸のまま自分の両手を頭の下にいれ、寝転んで上を見ていた。
「たまに考えるんだよ。星や月や硝やお前…10年後何してるのかなって」
「何してると思うんだよ?」
俺は藤崎の横顔から視線を離し、同じように真っ白な天井を見つめた。
「さあな。ただどんな未来を思い描いても、その隣に俺の姿はないんだ」
俺はハッと乾いた笑いを浮かべた。
「結局捨てないだなんだ言っても、ペットと一生一緒に居る覚悟はないってことだろ」
「かもな」
藤崎は俺の言葉に反論せず、黙り込んだ。
「俺は自分が10年後何してるか、分かるぜ。馬鹿な奴騙して、金ふんだくって…。ここに来る前と同じ生活を、飽きもせずに死ぬまで繰り返しているだけだ」
俺は沈黙を破るように言った。
「俺はそうは思わないけどな」
俺が藤崎を見ると、奴もこちらを見ていた。
「今のお前には硝がいる。お前は本気で硝を悲しませるようなことをする奴じゃない」
そう言うと俺を抱き寄せる。
「俺と違ってお前はいいご主人様だからな」
俺は黙って首を振った。何故だか泣きそうになっている自分が嫌だった。
藤崎が俺の首の後ろに手を回すと、かちりと音がした。
藤崎の手に、俺がこの何か月も付けていた黒い首輪が握られている。
それは所有の証だった。
それが主人によって外された。
ああ、俺はもう誰のものでもないんだ。
その考えは俺の心を軽くするはずだったのに、なぜ道に迷ったような心境になるのだろう。
「幸せになれよ。海。これが俺からの最後の命令だ」
俺は縋るような目で藤崎を見上げ、そして小さく頷いた。
藤崎はにっこり笑うと、俺の額にキスを落とした。
「おい、大丈夫かよ?お前顔色悪いぞ」
俺の言葉に硝は顔を顰めた。
「餞別だって、掘られた」
俺は硝の言葉に自分の状況も忘れて爆笑した。
「海。藤崎さんが呼んでる」
俺は泣き過ぎて涙の浮いた目尻を拭い、立ち上がった。俺に心配げな目線を送る硝の首に、もう首輪はなかった。
部屋に行くと、藤崎は下着姿でベッドに腰かけていた。
俺が近づくと、手を伸ばす。
俺はその手を無視して俯いた。
藤崎の苦笑する声が聞こえた後、俺はベッドに引きずり込まれた。
驚くくらい優しく一度だけ藤崎は俺を抱くと、目元にキスを落とし、体を離した。
俺はまだ整わない呼吸が煩わしく、大きく息を吐いた。
「お前、10年後何してんだろうな」
突然の問いに俺は隣を見た。
藤崎は裸のまま自分の両手を頭の下にいれ、寝転んで上を見ていた。
「たまに考えるんだよ。星や月や硝やお前…10年後何してるのかなって」
「何してると思うんだよ?」
俺は藤崎の横顔から視線を離し、同じように真っ白な天井を見つめた。
「さあな。ただどんな未来を思い描いても、その隣に俺の姿はないんだ」
俺はハッと乾いた笑いを浮かべた。
「結局捨てないだなんだ言っても、ペットと一生一緒に居る覚悟はないってことだろ」
「かもな」
藤崎は俺の言葉に反論せず、黙り込んだ。
「俺は自分が10年後何してるか、分かるぜ。馬鹿な奴騙して、金ふんだくって…。ここに来る前と同じ生活を、飽きもせずに死ぬまで繰り返しているだけだ」
俺は沈黙を破るように言った。
「俺はそうは思わないけどな」
俺が藤崎を見ると、奴もこちらを見ていた。
「今のお前には硝がいる。お前は本気で硝を悲しませるようなことをする奴じゃない」
そう言うと俺を抱き寄せる。
「俺と違ってお前はいいご主人様だからな」
俺は黙って首を振った。何故だか泣きそうになっている自分が嫌だった。
藤崎が俺の首の後ろに手を回すと、かちりと音がした。
藤崎の手に、俺がこの何か月も付けていた黒い首輪が握られている。
それは所有の証だった。
それが主人によって外された。
ああ、俺はもう誰のものでもないんだ。
その考えは俺の心を軽くするはずだったのに、なぜ道に迷ったような心境になるのだろう。
「幸せになれよ。海。これが俺からの最後の命令だ」
俺は縋るような目で藤崎を見上げ、そして小さく頷いた。
藤崎はにっこり笑うと、俺の額にキスを落とした。
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