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「興が削がれた。寝る」
藤崎はそれだけ言うと、さっさと出て行ってしまう。
月が星に手を貸し立たせると、二人は藤崎の後を追った。
部屋には俺と硝が残された。
俺はそろりと硝に近づくと、肩に触れた。
「おい、大丈夫か」
硝は俺の手をとると、殴られた自分の頬を包むようにさせ、掌に口づけを落とした。
俺はその時ばかりは硝のやりたいようにさせておいた。
硝が顔を上げ、にっこりと微笑む。
「ねえ、海。俺、少しは役にたったでしょ?」
俺はなんと返していいか分からず、ただ黙っていた。
「海が俺のこと、一番と思っていなくたって、好きじゃなくたっていいよ。でもお願いだから、俺を拒否しないで。俺、海の為に頑張るからさ」
子供のようなひたむきさで俺を見つめながら言う。
「なんで、お前はそこまで」
俺の言葉に硝は首を振った。
「惚れた方が負けって言葉があるだろ」
硝はそこまで言うと俺の腰を引き寄せ、きつく抱きしめた。
「これからは俺が海のことを守るよ。誰にだって傷つけさせたりしないから」
硝が囁いた。
先ほどまでの子供みたいな態度を一変させ、今度は俺を守るなんて言いだす。
俺はお前に守ってもらうほど弱くなんてない。
偉そうにすんな。
頭の中でもう一人の俺がぎゃんぎゃん喚いているのに、何故か一つも言葉にならず。
俺はただ大きな体を無言で抱きしめ返した。
翌日、藤崎は休みだった。
藤崎は昨日起こったことなど何もなかったかのように、昼過ぎに起きてくると俺の作ったチャーハンを食べ始めた。インスタントの中華スープを飲み干すと、手をあわせて「ごちそう様」と言った。
星と月はまだ半分以上チャーハンが残っているのに、藤崎に構ってもらいたいからか、スプーンを置き、じっと藤崎を見つめた。
硝は傷が痛むのか、熱いスープが冷めるまで手をつけずに、チャーハンばかりがつがつとかきこんでいる。
藤崎はふうと息を吐くと、よく通る声で言った。
「今日の夜、海と硝はここを出て行く」
藤崎はそれだけ言うと、さっさと出て行ってしまう。
月が星に手を貸し立たせると、二人は藤崎の後を追った。
部屋には俺と硝が残された。
俺はそろりと硝に近づくと、肩に触れた。
「おい、大丈夫か」
硝は俺の手をとると、殴られた自分の頬を包むようにさせ、掌に口づけを落とした。
俺はその時ばかりは硝のやりたいようにさせておいた。
硝が顔を上げ、にっこりと微笑む。
「ねえ、海。俺、少しは役にたったでしょ?」
俺はなんと返していいか分からず、ただ黙っていた。
「海が俺のこと、一番と思っていなくたって、好きじゃなくたっていいよ。でもお願いだから、俺を拒否しないで。俺、海の為に頑張るからさ」
子供のようなひたむきさで俺を見つめながら言う。
「なんで、お前はそこまで」
俺の言葉に硝は首を振った。
「惚れた方が負けって言葉があるだろ」
硝はそこまで言うと俺の腰を引き寄せ、きつく抱きしめた。
「これからは俺が海のことを守るよ。誰にだって傷つけさせたりしないから」
硝が囁いた。
先ほどまでの子供みたいな態度を一変させ、今度は俺を守るなんて言いだす。
俺はお前に守ってもらうほど弱くなんてない。
偉そうにすんな。
頭の中でもう一人の俺がぎゃんぎゃん喚いているのに、何故か一つも言葉にならず。
俺はただ大きな体を無言で抱きしめ返した。
翌日、藤崎は休みだった。
藤崎は昨日起こったことなど何もなかったかのように、昼過ぎに起きてくると俺の作ったチャーハンを食べ始めた。インスタントの中華スープを飲み干すと、手をあわせて「ごちそう様」と言った。
星と月はまだ半分以上チャーハンが残っているのに、藤崎に構ってもらいたいからか、スプーンを置き、じっと藤崎を見つめた。
硝は傷が痛むのか、熱いスープが冷めるまで手をつけずに、チャーハンばかりがつがつとかきこんでいる。
藤崎はふうと息を吐くと、よく通る声で言った。
「今日の夜、海と硝はここを出て行く」
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