楽園の在処

まめ太郎

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「でも硝さ、今まで色んなことに関心薄くて、俺がいくら揶揄っても、無視だった。なのに、海が来てから感情みたいなのが表に出てきて。…昨日の硝、確かにちょっと怖かったけど、今までのように人形みたくただ生きてますってよりも、俺はいい感じだと思った」
 星の言葉にちょっと怖いどころか殺されるかとかなりびびったという情けない俺個人の感想は心の中にしまっておいた。
「でもきっと藤崎さんは硝の変化を歓迎しないと思う」
 月ははっきりとそう言った。
 星は何か言いたげに顔を上げたが、結局目線を落として黙りこくった。

 生地ができると、月がなにやら一生懸命、細工をし始めた。
「じゃん。これ海」
 そう言って、焼く前のクッキーを見せる。
 そこにはココア生地で髪や顔を作られた、俺に全く似ていない可愛いキャラクタークッキーが置かれていた。
「これ、俺か?妙に目がでかいし、俺こんなにすげえ笑ったりしねえだろ」
「ええ、似てない?」
「髪型だけは似てるし、クオリティがめちゃ高いのは認めるけどな」
 俺はその隣のクッキーを指さした。
「これは硝だろ」
 顔の火傷はココアの髪で隠されていた。何気に俺のと比べて小顔に作られているところもよくできている。
「あと、これは藤崎さん」
 眉間にココア生地で皺が寄っている。
「お前ら二人の奴も似てんじゃん」
 髪の分け目だけ変えた、同じ顔をしたクッキーにそっと触れる。
 月が満足そうに頷くと、星が「早く焼こう」と飛び跳ねた。

「ねえ。海。オーブン160度だって」
「間違えないでね」
「ああ、分かってるよ」
 俺が温度設定をしていると、硝が寝室から出てきた。
 星と月に両側から抱きつかれている俺を見て、硝の顔が顰められる。
「あ、もうすぐクッキー焼けるけど、お前も食うか?」
 俺の問いに硝はぷいと顔を背けた。返事すらしない。
 硝はトイレだけ行くと、すぐに寝室に戻ってしまう。
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