楽園の在処

68

　退院してきた日、硝は少し痩せたように見えた。
　しかし夕飯の時、好物のオムライスを三度もお代わりした姿を見て、これは直ぐに回復すると思った。
「海」
　目の前の硝に呼びかけられて、俺はチキンスープから顔を上げた。
「色々ありがとう」
「やめろよ。お前の体調が悪いのに気付いたのは星だし、病院連れてったのは藤崎さんだろ」
「うん。でもありがとう」
　硝は高熱を出した時、俺に抱き締められたのを覚えているのだろうか？だとしたら、かなり恥ずかしいのだが。
　俺は少し火照った頬で、目の前のサラダを口に運んだ。
　強い視線を感じ、もう一度顔を上げると、硝と目が合った。
　硝はこちらがたじろぐくらい、喰らいつきそうな瞳で俺を見ていた。何故そんな目を俺に向けるのか問おうとした瞬間、硝は表情緩め、俺に微笑んだ。
「海。ありがとう」
「何度言えば気が済むんだよ。もう、分かったから」
　俺がそう言うと、珍しく硝は声を立てて笑った。