楽園の在処

まめ太郎

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 月との情事を終え、ペットボトルの水を飲んでいた藤崎と目が合う。
 俺は何か言いたいことがあるのに、その言葉が思いだせないような、変な気持ちになった。
 じっと藤崎を見つめる俺に硝が言う。
「海。もしかして俺と藤崎さんで二輪挿しして欲しいの?」
「馬鹿野郎。そんなわけあるか」
 慌てて俺は硝の頭を叩いた。
「海。流石だな。もうそんなマニアックなプレイをお望みか」
 藤崎はそう言うと、近づいてきて、俺の頬に触れた。
「今すぐ叶えてやろうか?」
 にやりと笑いながら言う。
 俺は真っ赤な顔で肩を震わした。
「そんな事したいわけねえだろー」
 俺の叫びに、藤崎の豪快な笑い声が重なった。
 
 翌日、目を覚ますと昼を過ぎていた。
 酷使しすぎた体がだるかった。風呂には入ったが、料理をする気はおきず、宅配ピザをとった。
 ベッドの上でピザを頬張っていると、硝が部屋に入ってきた。勝手に俺のとったピザを手に取り、食べ始める。
 ピザの半分を平らげると、硝はいつも通りベッドに座って文庫本を読み始めた。
 俺はテレビをつけると、ベッドに寝転がった。

 テレビでは「一般人の悩みを芸能人がズバッと解決します」というような番組が放送されていた。専業主婦の三十代の女が、旦那に殴られ、離婚を考えていると相談している。
 以前付き合った女で、この手の番組が大好きな奴がいたが、俺は嫌いだった。
 赤の他人の人生に口を出して、お前ら責任が取れるのかと偉そうな回答者の奴らにいつも腹が立って、最後まで見たためしがない。
 今もテレビの中では芸能界屈指のご意見番とテロップのついた女優が「あんた絶対その男と別れた方がいいわよ。その方が絶対に幸せになれる」などと訳知り顔で答えている。
 馬鹿らしくなり、俺は口の端を歪めた。
 この世の中に絶対なんてありはしないのに、このばばあは何を言っているのだろう。この相談者の女が旦那と別れ、小さな子供を抱えてシングルマザーになった時、旦那に殴られるよりも悲惨な目に合わないと誰が保証できるのだろうか。
 俺の母親みたいにならない保証なんてどこにもないのに。
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