楽園の在処

まめ太郎

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 予定の時間よりだいぶ遅れて、ラーメンはできあがった。
 五人前のそれをテーブルに運ぶ。
「たかがラーメンに、時間かかりすぎ」
 星が席に着きながら言う。
「じゃあ、食うなよ」
 俺の言葉に言い返そうとする星を、藤崎が止める。
「おい、食事の前に揉めるな」
 星はベッと俺に舌を出した。

「いただきます」
 ここで揃って食事をする時、皆で手を合わせてそう言うのが決まりだった。
 内心星の態度にむかつきながらも、俺も皆と同様に手を合わせた。
「あっ、美味しっ」
 一口食べて月が言った。言うつもりはなかったようで、恥ずかし気に口を押えている。
「まっ、まあまあなんじゃない?」
 星はそんな風に言いながらも、すごい勢いで麺を啜っている。猫舌なようで「あちっ」と呟きながらも食べる手を止めない。

 俺も箸を持って食べようとすると、頬辺りに視線を感じた。
 隣を向くと、硝がこちらをじっと見つめていた。
「何だよ?」
 いつものぼんやりとした目ではなく、妙にはっきりとした硝の視線にたじろぎながら俺は言った。
「海はすごい」
「は?」
「こんな美味しい物作れるなんて、海は天才だ」
「おいおい。たかがインスタントラーメンだろ。こんなもん誰でも作れる」
 俺の答えに、硝がぶんぶんと首を振った。
「ううん、海はすごいよ」
 きらきらした眼差しで見つめられ、照れくさくなった俺は俯いた。
「うん。美味い」
 藤崎の感想に俺は顔を上げた。
「こんな美味しいラーメン初めて食った」
「大げさ…」
 藤崎の感想に俺はどんな顔をしていいのか分からなかった。
「家族みんなでまた食べたいな」
 藤崎はにっこり笑うとそう言った。今まで何度も人に料理を作ったことはあったが、ここまで褒められた経験はなかった。
 家族。
 こんなの家族ごっこじゃねえか。
 食事なんて誰と食べたって変わりなんかない。
 そう思っているのはずなのに、何故か俺の胸はむず痒かった。
 その日、全員がスープ一滴たりとも残さずに、俺のラーメンを完食した。
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