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第6話
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「加奈はそうね……まだ眠っているわ」
彼女が加奈の母親だと知って小春が始めに聞いたのは、加奈の容態のことだった。
「でも、きっとすぐに良くなるわ」
亜子はそう言って微笑んだ。
竹内の話によると、小春の処分が決定するまで、彼女は経過観察のために訪れたらしい。なぜか場所は二階建ての一軒家に移され、共同生活を送ることになった。経過観察と言っても、特に何もすることはなかった。
亜子はといえば、一日の三分の一を絵を描いて過ごしていた。また、食事を作ってくれたり、空いた時間には話し相手になったりしてくれた。
「私と加奈は血は繋がってないからかしらね、あまり似てないのは」
「血?」
「人間にはね、命を維持するために体中を液体が流れているの」
「もしかして、赤い?」
「よく知っているわね」
「加奈が、流していたから」
「……そう」
「それで、血が繋がるってどういうことですか?」
「うーん、そうね……人間の男女は特殊な細胞を分け合って子供を作るの。だから、親子で体をつくっている情報が似通うの。だから、血が繋がるって言うんだけど……分かるかしら?」
「何となく」
「ごめんなさいね、説明が下手くそで」
苦笑する亜子に、小春は首を横に振る。
「いえ、教えてくれてありがとうございます」
亜子は「ふふ」っと笑って話を変える。
「今度は私から質問していいかしら?」
「どうぞ」
「ありがとう。……加奈は、学校ではどんな感じで過ごしていたのかしら?」
「山下さんは……加奈さんの第一印象は少し怖い人だなって感じでした」
「どうして?」
「感情をあまり表に出さなくて、言っていることが理論的過ぎるというか。でも、同じ美術部で学年も同じだからこのままなのは寂しいなって思って、いっぱい話しかけたんです。正直、うるさかったかもしれません。だけど、だんだん加奈さんも話をしてくれるようになって、それが嬉しくて、部活の時はいつも隣で絵を描いていました。そして、いつの間にか、それが当たり前になって、私にとって加奈さんの隣が一番落ち着く場所になってました。
二年生になって、私のために泣いてくれたことがあって、あんなに感情を出す加奈さんは初めて見ました。それからです。加奈さんが前よりおかしな行動をすることが多くなったのは。私はそれが何でなのか分からなくて戸惑いました。でも、何だか前より加奈さんのことが好きになって、もっとずっと一緒にいられたらいいなって思ったんです。だけど、あの時だけは違いました」
「あの時?」
「加奈さんが、飛び降りた時です。すごく怖くて、すごく嫌で、すごく悲しくて、すごく怒りたい気持ちになりました」
「そう、小花さんは加奈のことを、心配してくれたのね」
「心配……そう、かもしれませんね」
「ありがとう、小春さんと加奈のこと知れて嬉しかったわ」
「亜子さんは加奈さんのお母さんですよね?」
「そうだけど?」
「良く知ってるんじゃないんですか?」
「親子だからって何でも分かる訳じゃないのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。……さぁ、もうこんな時間。お昼ご飯作るわね」
「あの」
「何かしら?」
「間違ってたらごめんなさい。でも、私たぶんご飯っていらないんじゃないかと思うんですけど」
亜子は笑う。
「食事はただのエネルギー補給じゃないのよ」
亜子は人間のことを色々教えてくれた。体に関すること、社会のこと、国のこと。そして、他にも教えてくれたことがある。
「すごく、心がこもっていていい絵ね」
小花が描いた絵を見て、亜子はそう褒めてくれた。時々、こうして絵を教わっているのだ。
「心……」
「そう、心」
「アンドロイドにも、心ってあるんでしょうか?」
「哲学的な質問ね」
「すみません……」
「ううん、いいのよ。そうね、アンドロイドに心があるかは正直よく分からないわ。それほどアンドロイドのことを知っている訳じゃないもの」
「そう、ですか……」
「でも、小花ちゃんに心はあるわ」
「何で分かるんですか?」
「だって、心がない人にそんな絵は描けないわ」
ニッコリと笑う亜子。
「だけど」
「だけど?」
「絵の技術はまだまだね」
「あはは……」
苦笑いを浮かべながら、小花は話題を変えることにした。
「亜子さんは、何で画家になったんですか?」
「そうね……最初はすごく綺麗な絵を見つけて、その絵に憧れたからだったわ。でも、本気で画家を目指したのは、そうしたいって思ったからかしら」
「それって、竹内さんが言ってたみたいな?」
「ええ、たぶんそうかもしれないわね。絵を描きたい、もっと描きたい、心が熱くなるような絵を描きたいって思ったのよ」
「『そうしたい』……私が加奈さんに会いたいって思ったのも、そうですか?」
「それも、その一つね」
「じゃあ、加奈さんも『そうしたい』から、飛び降りたんですか?」
「…………」
「……ごめんなさい」
「ああ、ごめんなさい。別に怒ってる訳じゃないから。ただ、そうね……加奈は飛び降りたかったんじゃないと思うわ。その先にしたいことがあったから……その目的のために飛び降りたんだと思うわ」
「加奈さんのしたかったことって何ですか?」
亜子は少しの間、目を閉じた。
そして、決心したように目を開け、「少し待っててね」と言って部屋を出た。
しばらくして戻ってきた彼女の手には一冊のノートがあった。
「小花ちゃんにこれを読んでほしいの」
「これは?」
「これは、加奈の日記よ」
『二一二八年 三月二十一日
今日から特区での暮らしが始まった。孤児院で育った私にとって、何の負い目も
なく高校に通えるのは嬉しいことだ。院長である母さんにも、負担をかけなくて済
む。アンドロイドだらけの学校というのは不安だけれど、これが最良の選択だ。
・
・
二一二八年 四月五日
高校生活が始まった。部活は夢のために美術部に入ろう。
・
・
二一二八年 五月十一日
美術部におかしなアンドロイドがいる。やたらと話しかけてくるし、表情の変化
が激しくて鬱陶しい。彼女だけじゃない、新世代のアンドロイドはこんなにも感情
があるのだろうか?
・
・
・
二一二八年 九月二十七日
アンドロイドのいる学校での生活もすっかり慣れた。夢のために入った美術部も
案外楽しくなってきた。片井さんはアンドロイドのくせによく喋るし、怒ったフリ
までする。面白い人だ。
・
・
・
二一二九年 八月七日
美術部の合宿で片井さんが私の絵を描いた。その絵を見た時、衝撃が走った。私
の中に直接染み込んでくるような、そんな不思議な感覚だった。技術だけでは伝わ
らない何かを感じた。少しだけ、母さんの絵に似ていた。
・
・
二一二九年 十月三十日
あれからずっと考えている。人間とアンドロイドの違いは何なのか。「外」では
はっきり違うと分かっていたから、特に気にもしなかった。だけど、ここでは……
片井さんは……。少なくとも、片井さんの描く絵には人間の心が宿っていた。片井
さん、片井さんか。今頃何してるのかな。
・
・
二一二九年 十二月二日
片井さんが美術部を辞め、いじめられていることを知った。怒りと悲しみで涙が
出た。片井さんを泣かせた奴らは許さない。
・
・
二一三〇年 二月十一日
やっぱり片井さんと一緒にいるのは楽しい。斉藤さんも加わって少し悪いことも
しているが、これも青春だということで許してもらおう。
・
・
二一三〇年 四月二十三日
片井さんをいじめていた生徒が廃棄処分になったことを知った。いじめの件を暴
走と判断されたらしい。だけど、いじめって人間でもすることだ。許されない行為
ではあるけれど、人間がいじめをしても廃棄されたりしない。
・
・
二一三〇年 五月四日
生きているということについて考えていた。体に当たる雨が冷たい。冷たいとい
うことは、私の体に熱があって、生物として生きているということだ。でも、だと
したら、アンドロイドも同じではないか。あの廃棄処分になったアンドロイドも生
きていて、殺されたということなのではないか。
・
・
二一三〇年 六月十四日
知ってしまった。新世代のアンドロイドは実験終了後に全部処分される。それが
いつかは分からないけれど、データを取り終わった機体はそれを待たずして廃棄さ
れるらしい。廃棄がいつ行われるか分からない以上、ゆっくりしている時間はな
い。どうすれば廃棄を止められる?
・
・
二一三〇年 六月二十四日
どうしよう……片井さんを失うのは嫌だよ……。
二一三〇年 七月十日
この作戦にかけるしかない。「外」への荷物の持ち込みは厳しくチェックされ
る。だから、チェックをかいくぐるためには、私が重症を負って「外」の病院へ
緊急搬送される瞬間を狙うんだ。
・
・
二一三〇年 七月十八日
私は今日、この日記を抱えて飛び降ります。命を捨てる気はありませんが、助か
るかは分かりません。でも、多くのアンドロイドは、命の選択すらできずに、何も
知らずに死んでいくのです。私にも小説家になるという夢があるように、アンドロ
イドたちにも夢があります。どうか皆さん、彼女たちの命を救ってください。みん
な、生きているんです。
最後に、片井さんへ。
片井さん、人間は生きてるんだよ。
赤い血を巡らせて、喜びも、痛みも感じながら。
アンドロイドだって目には見えないけれど、きっと血が流れてる。
傷付いてその血が溢れることもあるけれど、たぶんそれが生きてるってこと。
片井さんは生きてるんだよ。
だから、片井さんが生きたいと思う限り、命を諦めたりしないで。
私も、諦めないから。』
「亜子さん」
日記を読み終わった小花は亜子に聞いた。
「アンドロイドの目から流れるこの液体は何なんでしょうか」
「……」
「たまらなく苦しいのは、機体の不具合ではないんでしょうか」
「……」
「私は、生きているんでしょうか」
「……」
「生きたいって思って、いいんでしょうか」
「……あなたがそう思うのなら、誰にもそれを止める権利はないわ」
両目から大量の涙を溢れさせる小花を亜子は優しく抱きしめた。
彼女が加奈の母親だと知って小春が始めに聞いたのは、加奈の容態のことだった。
「でも、きっとすぐに良くなるわ」
亜子はそう言って微笑んだ。
竹内の話によると、小春の処分が決定するまで、彼女は経過観察のために訪れたらしい。なぜか場所は二階建ての一軒家に移され、共同生活を送ることになった。経過観察と言っても、特に何もすることはなかった。
亜子はといえば、一日の三分の一を絵を描いて過ごしていた。また、食事を作ってくれたり、空いた時間には話し相手になったりしてくれた。
「私と加奈は血は繋がってないからかしらね、あまり似てないのは」
「血?」
「人間にはね、命を維持するために体中を液体が流れているの」
「もしかして、赤い?」
「よく知っているわね」
「加奈が、流していたから」
「……そう」
「それで、血が繋がるってどういうことですか?」
「うーん、そうね……人間の男女は特殊な細胞を分け合って子供を作るの。だから、親子で体をつくっている情報が似通うの。だから、血が繋がるって言うんだけど……分かるかしら?」
「何となく」
「ごめんなさいね、説明が下手くそで」
苦笑する亜子に、小春は首を横に振る。
「いえ、教えてくれてありがとうございます」
亜子は「ふふ」っと笑って話を変える。
「今度は私から質問していいかしら?」
「どうぞ」
「ありがとう。……加奈は、学校ではどんな感じで過ごしていたのかしら?」
「山下さんは……加奈さんの第一印象は少し怖い人だなって感じでした」
「どうして?」
「感情をあまり表に出さなくて、言っていることが理論的過ぎるというか。でも、同じ美術部で学年も同じだからこのままなのは寂しいなって思って、いっぱい話しかけたんです。正直、うるさかったかもしれません。だけど、だんだん加奈さんも話をしてくれるようになって、それが嬉しくて、部活の時はいつも隣で絵を描いていました。そして、いつの間にか、それが当たり前になって、私にとって加奈さんの隣が一番落ち着く場所になってました。
二年生になって、私のために泣いてくれたことがあって、あんなに感情を出す加奈さんは初めて見ました。それからです。加奈さんが前よりおかしな行動をすることが多くなったのは。私はそれが何でなのか分からなくて戸惑いました。でも、何だか前より加奈さんのことが好きになって、もっとずっと一緒にいられたらいいなって思ったんです。だけど、あの時だけは違いました」
「あの時?」
「加奈さんが、飛び降りた時です。すごく怖くて、すごく嫌で、すごく悲しくて、すごく怒りたい気持ちになりました」
「そう、小花さんは加奈のことを、心配してくれたのね」
「心配……そう、かもしれませんね」
「ありがとう、小春さんと加奈のこと知れて嬉しかったわ」
「亜子さんは加奈さんのお母さんですよね?」
「そうだけど?」
「良く知ってるんじゃないんですか?」
「親子だからって何でも分かる訳じゃないのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。……さぁ、もうこんな時間。お昼ご飯作るわね」
「あの」
「何かしら?」
「間違ってたらごめんなさい。でも、私たぶんご飯っていらないんじゃないかと思うんですけど」
亜子は笑う。
「食事はただのエネルギー補給じゃないのよ」
亜子は人間のことを色々教えてくれた。体に関すること、社会のこと、国のこと。そして、他にも教えてくれたことがある。
「すごく、心がこもっていていい絵ね」
小花が描いた絵を見て、亜子はそう褒めてくれた。時々、こうして絵を教わっているのだ。
「心……」
「そう、心」
「アンドロイドにも、心ってあるんでしょうか?」
「哲学的な質問ね」
「すみません……」
「ううん、いいのよ。そうね、アンドロイドに心があるかは正直よく分からないわ。それほどアンドロイドのことを知っている訳じゃないもの」
「そう、ですか……」
「でも、小花ちゃんに心はあるわ」
「何で分かるんですか?」
「だって、心がない人にそんな絵は描けないわ」
ニッコリと笑う亜子。
「だけど」
「だけど?」
「絵の技術はまだまだね」
「あはは……」
苦笑いを浮かべながら、小花は話題を変えることにした。
「亜子さんは、何で画家になったんですか?」
「そうね……最初はすごく綺麗な絵を見つけて、その絵に憧れたからだったわ。でも、本気で画家を目指したのは、そうしたいって思ったからかしら」
「それって、竹内さんが言ってたみたいな?」
「ええ、たぶんそうかもしれないわね。絵を描きたい、もっと描きたい、心が熱くなるような絵を描きたいって思ったのよ」
「『そうしたい』……私が加奈さんに会いたいって思ったのも、そうですか?」
「それも、その一つね」
「じゃあ、加奈さんも『そうしたい』から、飛び降りたんですか?」
「…………」
「……ごめんなさい」
「ああ、ごめんなさい。別に怒ってる訳じゃないから。ただ、そうね……加奈は飛び降りたかったんじゃないと思うわ。その先にしたいことがあったから……その目的のために飛び降りたんだと思うわ」
「加奈さんのしたかったことって何ですか?」
亜子は少しの間、目を閉じた。
そして、決心したように目を開け、「少し待っててね」と言って部屋を出た。
しばらくして戻ってきた彼女の手には一冊のノートがあった。
「小花ちゃんにこれを読んでほしいの」
「これは?」
「これは、加奈の日記よ」
『二一二八年 三月二十一日
今日から特区での暮らしが始まった。孤児院で育った私にとって、何の負い目も
なく高校に通えるのは嬉しいことだ。院長である母さんにも、負担をかけなくて済
む。アンドロイドだらけの学校というのは不安だけれど、これが最良の選択だ。
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二一二八年 四月五日
高校生活が始まった。部活は夢のために美術部に入ろう。
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二一二八年 五月十一日
美術部におかしなアンドロイドがいる。やたらと話しかけてくるし、表情の変化
が激しくて鬱陶しい。彼女だけじゃない、新世代のアンドロイドはこんなにも感情
があるのだろうか?
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二一二八年 九月二十七日
アンドロイドのいる学校での生活もすっかり慣れた。夢のために入った美術部も
案外楽しくなってきた。片井さんはアンドロイドのくせによく喋るし、怒ったフリ
までする。面白い人だ。
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二一二九年 八月七日
美術部の合宿で片井さんが私の絵を描いた。その絵を見た時、衝撃が走った。私
の中に直接染み込んでくるような、そんな不思議な感覚だった。技術だけでは伝わ
らない何かを感じた。少しだけ、母さんの絵に似ていた。
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二一二九年 十月三十日
あれからずっと考えている。人間とアンドロイドの違いは何なのか。「外」では
はっきり違うと分かっていたから、特に気にもしなかった。だけど、ここでは……
片井さんは……。少なくとも、片井さんの描く絵には人間の心が宿っていた。片井
さん、片井さんか。今頃何してるのかな。
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二一二九年 十二月二日
片井さんが美術部を辞め、いじめられていることを知った。怒りと悲しみで涙が
出た。片井さんを泣かせた奴らは許さない。
・
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二一三〇年 二月十一日
やっぱり片井さんと一緒にいるのは楽しい。斉藤さんも加わって少し悪いことも
しているが、これも青春だということで許してもらおう。
・
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二一三〇年 四月二十三日
片井さんをいじめていた生徒が廃棄処分になったことを知った。いじめの件を暴
走と判断されたらしい。だけど、いじめって人間でもすることだ。許されない行為
ではあるけれど、人間がいじめをしても廃棄されたりしない。
・
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二一三〇年 五月四日
生きているということについて考えていた。体に当たる雨が冷たい。冷たいとい
うことは、私の体に熱があって、生物として生きているということだ。でも、だと
したら、アンドロイドも同じではないか。あの廃棄処分になったアンドロイドも生
きていて、殺されたということなのではないか。
・
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二一三〇年 六月十四日
知ってしまった。新世代のアンドロイドは実験終了後に全部処分される。それが
いつかは分からないけれど、データを取り終わった機体はそれを待たずして廃棄さ
れるらしい。廃棄がいつ行われるか分からない以上、ゆっくりしている時間はな
い。どうすれば廃棄を止められる?
・
・
二一三〇年 六月二十四日
どうしよう……片井さんを失うのは嫌だよ……。
二一三〇年 七月十日
この作戦にかけるしかない。「外」への荷物の持ち込みは厳しくチェックされ
る。だから、チェックをかいくぐるためには、私が重症を負って「外」の病院へ
緊急搬送される瞬間を狙うんだ。
・
・
二一三〇年 七月十八日
私は今日、この日記を抱えて飛び降ります。命を捨てる気はありませんが、助か
るかは分かりません。でも、多くのアンドロイドは、命の選択すらできずに、何も
知らずに死んでいくのです。私にも小説家になるという夢があるように、アンドロ
イドたちにも夢があります。どうか皆さん、彼女たちの命を救ってください。みん
な、生きているんです。
最後に、片井さんへ。
片井さん、人間は生きてるんだよ。
赤い血を巡らせて、喜びも、痛みも感じながら。
アンドロイドだって目には見えないけれど、きっと血が流れてる。
傷付いてその血が溢れることもあるけれど、たぶんそれが生きてるってこと。
片井さんは生きてるんだよ。
だから、片井さんが生きたいと思う限り、命を諦めたりしないで。
私も、諦めないから。』
「亜子さん」
日記を読み終わった小花は亜子に聞いた。
「アンドロイドの目から流れるこの液体は何なんでしょうか」
「……」
「たまらなく苦しいのは、機体の不具合ではないんでしょうか」
「……」
「私は、生きているんでしょうか」
「……」
「生きたいって思って、いいんでしょうか」
「……あなたがそう思うのなら、誰にもそれを止める権利はないわ」
両目から大量の涙を溢れさせる小花を亜子は優しく抱きしめた。
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