23 / 25
外伝「妹と脱糞」1-②
しおりを挟む
最近、妹の様子が変だ。
小さい方の妹である梨香は、真面目で和人のことを慕ってくれている。
だが、その梨香が鉢合わせしそうになる度に和人を避ける。家にいるときはほとんど部屋にこもりきりだ。
それでも理由はだいたい分かっている。それは、和人が梨香の、おそらく下痢の音を聞いてしまったからだ。しかし、それが分かっていても問題は解決しない。
(どう声をかけたものか……)
和人はトイレにこもり、脱糞しながら悩む。
ストゥールと呼ばれ、影で目から大量の液体をこぼしながら耐えしのいでいる和人だからこそ、この問題の複雑さは理解している。
(……よし、自然に。自然に声をかけよう)
そう、自然に脱糞し、自然にケツを拭き、自然にクソを流すように。
彼は決意した。
個室の扉を開け、外に出ようとする。
ガチャ。
「…………あ」
扉の反対側。そこには同じようにノブに手をかける梨香の姿があった。
「梨―」
彼女は今にも泣きそうな顔で走り去っていった。
「最悪だ……」
「最悪だ……」
梨香はまさかよりによってトイレで兄と鉢合わせるとは思っていなかった。
「……ひぐ……えぐ…………」
嗚咽が彼女の喉からもれる。
「もう、嫌だよぅ……」
小学生にしては大人びた彼女が年相応の口調で泣き言を言う。
コンコン。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
(…………!)
「梨香、いるか?」
和人だ。しかし、くしゃくしゃになった顔で外に出られる訳もない。
「梨香、話がしたい」
(…………)
泣いている今では声すら出すこともできない。
(………………)
梨香は顔を伏せ、どん底に落ちていく自分の気持ちを感じた。しかし、和人が立ち去る気配はない。一分ほど経った頃だろうか。梨香は思い出した。
(…………ぅ)
和人と思わぬ遭遇をしてしまったことで、自分がトイレに行こうとしていたことを忘れていた。
迫り来る便意。
(どうしよう……!)
扉の前には和人。扉を開ければ、また彼と遭遇してしまう。だが、便意は去ってくれない。どころかますます強まっていく。
(どうしようどうしようどうしよう……!)
扉を開けてトイレに向かって駆け込む姿を兄に見られてしまうのか。このまま漏らしてしまうのか。
究極の選択を強いられる梨香。
もう、迷っている暇はない。
(ここでしてしまったら……)
この場で漏らしてしまえば脱糞音を聞かれ、臭いをかがれてしまう恐れがある。
(出るしか、ない!)
梨香は涙目で覚悟を決め、勢いよくドアを開けた。
(目は合わせない!)
周辺視野で和人を捉えながら、その横を一気に走り抜けようとする。
だが。
「待ってくれ梨香!」
ガクン。
和人が梨香の腕を捕まえた。
「は、離してください!」
「頼むから話を聞いてくれ!」
「む、無理です!」
(早くしないと漏れちゃう!)
「俺は……!」
「お願いだから離して!」
やつは、肛門のすぐそばまで迫ってきている。
暴れる梨香。
それを押さえつける和人。
「に、兄さん!」
梨香はなおももがく。
そんな梨香を和人は抱きしめた。
そして言う。
「俺はうんこの音を聞いたくらいでお前を嫌いになったりなんかしない!」
梨香の動きがピタリと止まった。
「どんなことがあっても、梨香は俺の妹だ」
静かに、言い聞かせるように告げる和人。
「…………」
「俺は梨香のことを愛している。今までも、これからも」
「…………本当ですか?」
「ああ」
「何があっても?」
「ああ」
その返事を聞いて、梨香はほっとした。
「……ふぇ……」
ほっとしたら涙がこぼれた。
ブリッ。
ほっとしたらうんこもこぼれた。
「こんな私でも?」
兄は少し驚いていたようだが、微笑んだ。
「ああ」
ほっとしたら、笑顔がこぼれた。
「兄さん……」
「……大好き」
小さい方の妹である梨香は、真面目で和人のことを慕ってくれている。
だが、その梨香が鉢合わせしそうになる度に和人を避ける。家にいるときはほとんど部屋にこもりきりだ。
それでも理由はだいたい分かっている。それは、和人が梨香の、おそらく下痢の音を聞いてしまったからだ。しかし、それが分かっていても問題は解決しない。
(どう声をかけたものか……)
和人はトイレにこもり、脱糞しながら悩む。
ストゥールと呼ばれ、影で目から大量の液体をこぼしながら耐えしのいでいる和人だからこそ、この問題の複雑さは理解している。
(……よし、自然に。自然に声をかけよう)
そう、自然に脱糞し、自然にケツを拭き、自然にクソを流すように。
彼は決意した。
個室の扉を開け、外に出ようとする。
ガチャ。
「…………あ」
扉の反対側。そこには同じようにノブに手をかける梨香の姿があった。
「梨―」
彼女は今にも泣きそうな顔で走り去っていった。
「最悪だ……」
「最悪だ……」
梨香はまさかよりによってトイレで兄と鉢合わせるとは思っていなかった。
「……ひぐ……えぐ…………」
嗚咽が彼女の喉からもれる。
「もう、嫌だよぅ……」
小学生にしては大人びた彼女が年相応の口調で泣き言を言う。
コンコン。
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
(…………!)
「梨香、いるか?」
和人だ。しかし、くしゃくしゃになった顔で外に出られる訳もない。
「梨香、話がしたい」
(…………)
泣いている今では声すら出すこともできない。
(………………)
梨香は顔を伏せ、どん底に落ちていく自分の気持ちを感じた。しかし、和人が立ち去る気配はない。一分ほど経った頃だろうか。梨香は思い出した。
(…………ぅ)
和人と思わぬ遭遇をしてしまったことで、自分がトイレに行こうとしていたことを忘れていた。
迫り来る便意。
(どうしよう……!)
扉の前には和人。扉を開ければ、また彼と遭遇してしまう。だが、便意は去ってくれない。どころかますます強まっていく。
(どうしようどうしようどうしよう……!)
扉を開けてトイレに向かって駆け込む姿を兄に見られてしまうのか。このまま漏らしてしまうのか。
究極の選択を強いられる梨香。
もう、迷っている暇はない。
(ここでしてしまったら……)
この場で漏らしてしまえば脱糞音を聞かれ、臭いをかがれてしまう恐れがある。
(出るしか、ない!)
梨香は涙目で覚悟を決め、勢いよくドアを開けた。
(目は合わせない!)
周辺視野で和人を捉えながら、その横を一気に走り抜けようとする。
だが。
「待ってくれ梨香!」
ガクン。
和人が梨香の腕を捕まえた。
「は、離してください!」
「頼むから話を聞いてくれ!」
「む、無理です!」
(早くしないと漏れちゃう!)
「俺は……!」
「お願いだから離して!」
やつは、肛門のすぐそばまで迫ってきている。
暴れる梨香。
それを押さえつける和人。
「に、兄さん!」
梨香はなおももがく。
そんな梨香を和人は抱きしめた。
そして言う。
「俺はうんこの音を聞いたくらいでお前を嫌いになったりなんかしない!」
梨香の動きがピタリと止まった。
「どんなことがあっても、梨香は俺の妹だ」
静かに、言い聞かせるように告げる和人。
「…………」
「俺は梨香のことを愛している。今までも、これからも」
「…………本当ですか?」
「ああ」
「何があっても?」
「ああ」
その返事を聞いて、梨香はほっとした。
「……ふぇ……」
ほっとしたら涙がこぼれた。
ブリッ。
ほっとしたらうんこもこぼれた。
「こんな私でも?」
兄は少し驚いていたようだが、微笑んだ。
「ああ」
ほっとしたら、笑顔がこぼれた。
「兄さん……」
「……大好き」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる