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こだわらず
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そんな扱いをされたというのに、隼人は笑っていたのだろう。
晴信は瞼を閉じ、隼人の笑みを浮かべた。その横に、栄の姿が立ち昇る。彼女の侍女は、ひどく怯えていた。栄はどんな扱いを受けていたのだろう。集められた人々は、どんな思いで日々を過ごしていたのだろう。
「俺は、本当に何も知らないな」
自嘲を浮かべた晴信は、冴えた意識を無理やり眠りにつかせようと、体を丸めた。
「思う以上に、大変だな」
「当然でしょう」
過去五年分の納税額と諸費用を洗い出し、不要な部分は民に還元すると晴信が言っても、予測をしていた克頼が根回しをしていたおかげで、誰も意を唱えなかった。
その年に行った諸事の経費を纏めたものと、国費の残高を記した書面はあった。それと各所から取り立てた税、国の産物による収入をまとめた物もある。書面上の国はとても豊かだったが、晴信は隼人に案内され、貧しく暮らしている里の姿を目にしている。ここに記されているものが、真の状態であるとは思えなかった。
「父上が人を斬り、手入れのされていない田畑が増えたというのに、納められている米の量は変わっていないな。増えている所もある」
「米の代わりに、肉や麻布などを増やしている所もあります」
晴信は考え込むように口に手を当て、書面をにらんだ。
「これでは、どのくらいの収穫があったのか、わからないな」
書かれているのは、納められた物のみ。その年の収穫量などは、何も記載されていなかった。
「それを調べる方法は無いのか」
「そういうものは調べなくて良いとの命が下されていたそうです」
「父上に知られぬように調べていた者は、いないのか」
克頼が口を閉じた。晴信の顔が曇る。
「斬られたのか」
「それ以後、誰も行わぬようになったとか」
太い息を吐き、晴信は首を振った。父はどうして、そんな事をするようになったのだろう。もともと、そういう気性の人間だったのだろうか。
「俺も、その人の血を受け継いでいるのだな」
「晴信様?」
「いずれ父のようになると思っている者も、いるかもしれない」
「それは」
違うと言えぬ克頼の正直さを、晴信はありがたく思った。
「ですから、身辺にはお気をつけ下さい」
「国主だからと遠慮して物を言えぬ者ではなく、克頼のように正直に言ってくれる者を重用するよう、心がけよう」
「道を外れたとき、お諌め出来ぬ者は真の忠臣とは言えませぬ」
「斬られるとわかっていては、口も重くなるだろう。守るべき家族もいるのだからな」
孝信を諌めきれなかった者たちをかばう晴信に、克頼が口を結んだ。
「隼人はどうだろう」
克頼が思いきり顔をしかめる。
「そんなふうに、お前が感情を露骨にするのも珍しいな」
「楽しまないで下さい」
「楽しんでいるというか……まあ、そうかもしれないな」
気を静めるように息を吐いた克頼が「とにかく」と続ける。
「あのような者を取り立てる理由は、ございますまい」
「何故だ。あんなふうに正直に里の状態を言える者は、貴重だろう」
「程度の問題です。あれは国主を国主とも思わぬ振る舞い。正直に進言するというものとは、違っております」
「どう違う」
克頼が言葉に詰まる。
晴信は瞼を閉じ、隼人の笑みを浮かべた。その横に、栄の姿が立ち昇る。彼女の侍女は、ひどく怯えていた。栄はどんな扱いを受けていたのだろう。集められた人々は、どんな思いで日々を過ごしていたのだろう。
「俺は、本当に何も知らないな」
自嘲を浮かべた晴信は、冴えた意識を無理やり眠りにつかせようと、体を丸めた。
「思う以上に、大変だな」
「当然でしょう」
過去五年分の納税額と諸費用を洗い出し、不要な部分は民に還元すると晴信が言っても、予測をしていた克頼が根回しをしていたおかげで、誰も意を唱えなかった。
その年に行った諸事の経費を纏めたものと、国費の残高を記した書面はあった。それと各所から取り立てた税、国の産物による収入をまとめた物もある。書面上の国はとても豊かだったが、晴信は隼人に案内され、貧しく暮らしている里の姿を目にしている。ここに記されているものが、真の状態であるとは思えなかった。
「父上が人を斬り、手入れのされていない田畑が増えたというのに、納められている米の量は変わっていないな。増えている所もある」
「米の代わりに、肉や麻布などを増やしている所もあります」
晴信は考え込むように口に手を当て、書面をにらんだ。
「これでは、どのくらいの収穫があったのか、わからないな」
書かれているのは、納められた物のみ。その年の収穫量などは、何も記載されていなかった。
「それを調べる方法は無いのか」
「そういうものは調べなくて良いとの命が下されていたそうです」
「父上に知られぬように調べていた者は、いないのか」
克頼が口を閉じた。晴信の顔が曇る。
「斬られたのか」
「それ以後、誰も行わぬようになったとか」
太い息を吐き、晴信は首を振った。父はどうして、そんな事をするようになったのだろう。もともと、そういう気性の人間だったのだろうか。
「俺も、その人の血を受け継いでいるのだな」
「晴信様?」
「いずれ父のようになると思っている者も、いるかもしれない」
「それは」
違うと言えぬ克頼の正直さを、晴信はありがたく思った。
「ですから、身辺にはお気をつけ下さい」
「国主だからと遠慮して物を言えぬ者ではなく、克頼のように正直に言ってくれる者を重用するよう、心がけよう」
「道を外れたとき、お諌め出来ぬ者は真の忠臣とは言えませぬ」
「斬られるとわかっていては、口も重くなるだろう。守るべき家族もいるのだからな」
孝信を諌めきれなかった者たちをかばう晴信に、克頼が口を結んだ。
「隼人はどうだろう」
克頼が思いきり顔をしかめる。
「そんなふうに、お前が感情を露骨にするのも珍しいな」
「楽しまないで下さい」
「楽しんでいるというか……まあ、そうかもしれないな」
気を静めるように息を吐いた克頼が「とにかく」と続ける。
「あのような者を取り立てる理由は、ございますまい」
「何故だ。あんなふうに正直に里の状態を言える者は、貴重だろう」
「程度の問題です。あれは国主を国主とも思わぬ振る舞い。正直に進言するというものとは、違っております」
「どう違う」
克頼が言葉に詰まる。
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