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鷹揚に
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「うん……そうか? それだけでは無いように思ったが」
「他に、何があると仰せなのですか」
ううんと晴信が腕を組む。
「そうだなぁ。相反する性質であるがゆえの、本能的な敵愾心と言おうか」
「相反するという部分は、同意をいたします。あのような男と類似する部分など、私にはございません」
「ずいぶんと嫌ったものだな、克頼」
「当然です。あのように、晴信様を試すようなやり方」
尖らせた声で吐き捨てるように言う克頼に、晴信は「まあまあ」と声をかける。
「仕方が無いだろう。それだけ、父上は非道を行っていたんだからな。それに、あれをさせてしまった原因は、克頼にもあると思うぞ」
「私にですか」
心外だと言わんばかりの克頼に頷く。
「里長が膝を進めたとき、警戒をしただろう。何かあれば、刀を抜くような素振りを」
「それは……」
「気に食わない事をすれば、斬ると言っているようなものだ。それを受けて、隼人は俺たちを試したんだろう」
「それは、致し方のない反応と自負しております。あの里ならばと思い、選んだ場所ではございますが、万が一という事もありえますので。もしあそこで刃を向けられていたのなら、何といたします。それに、あの者に刀を置けと言われたわけでもないのに、刀を外して見回りに行くと申されるなど、自らを危険にさらすようなもの。二度とあのようなことは、なさらないでいただきたい」
克頼が目をつり上げて、晴信に詰め寄る。晴信は苦笑を浮かべて頬を掻き、手厳しいなと呟いた。
「御身は、国主となられたのです。その自覚をお持ちください」
「だからこそ、あの場で刀を置いたんだ」
克頼の瞳に問いが乗る。その目に促され、晴信は困ったような笑みを浮かべて答えた。
「里長の言葉を聞いただろう。民は俺の親であり、子どもであると。そんな言葉をずっと聞かされて育った隼人に信用をされるには、あれが一番良いと思ったんだ」
「それで、刀を置いたまま見回る事になっていたら、どうするおつもりだったのですか」
「隼人は刀を持つよう、言ってくれただろう?」
「結果論です」
怒りを滲ませる克頼に、晴信は頭を下げた。
「すまなかった」
続く言葉を飲み込んだ克頼が、瞑目して息を吐く。
「とにかく。今後はあのような軽率な行動を、おつつしみ下さい」
「狙われるから、か。――それだけ、父上は民を苦しめ、恨まれているのだな」
沈んだ声に何か言おうとしたが、克頼は言葉を見つけられなかった。
「隼人の説明は堪えたよ」
力無い晴信の笑みに、克頼が目を伏せる。隼人は先代国主が何をしたのかを、晴信がその息子であると知りながら包み隠さず語った。荒れた田畑を見せ、この土地の持ち主はささいなことで手打ちになったと言った。空っぽの里の米蔵を開け、過度な課税のために、民は米を口にする事が出来ずに、芋の蔓などを煮込んで食べていると説明した。何でも無い事のように話す隼人の姿から、それらが民の日常と知れた。
「俺が訴えで聞いた話は、ほんの一端だったんだな」
晴信は、食べる物や着る物に困った事はなかった。たっぷりの米と野菜、肉や魚が目の前に並べられるのは当たり前の事と、箸を伸ばしていた。民の働きがあった上で得たものだとは知っていた。だが、彼らが飢える寸前となるほど、厳しく取り立てた結果だったとは、思いもしなかった。
「他に、何があると仰せなのですか」
ううんと晴信が腕を組む。
「そうだなぁ。相反する性質であるがゆえの、本能的な敵愾心と言おうか」
「相反するという部分は、同意をいたします。あのような男と類似する部分など、私にはございません」
「ずいぶんと嫌ったものだな、克頼」
「当然です。あのように、晴信様を試すようなやり方」
尖らせた声で吐き捨てるように言う克頼に、晴信は「まあまあ」と声をかける。
「仕方が無いだろう。それだけ、父上は非道を行っていたんだからな。それに、あれをさせてしまった原因は、克頼にもあると思うぞ」
「私にですか」
心外だと言わんばかりの克頼に頷く。
「里長が膝を進めたとき、警戒をしただろう。何かあれば、刀を抜くような素振りを」
「それは……」
「気に食わない事をすれば、斬ると言っているようなものだ。それを受けて、隼人は俺たちを試したんだろう」
「それは、致し方のない反応と自負しております。あの里ならばと思い、選んだ場所ではございますが、万が一という事もありえますので。もしあそこで刃を向けられていたのなら、何といたします。それに、あの者に刀を置けと言われたわけでもないのに、刀を外して見回りに行くと申されるなど、自らを危険にさらすようなもの。二度とあのようなことは、なさらないでいただきたい」
克頼が目をつり上げて、晴信に詰め寄る。晴信は苦笑を浮かべて頬を掻き、手厳しいなと呟いた。
「御身は、国主となられたのです。その自覚をお持ちください」
「だからこそ、あの場で刀を置いたんだ」
克頼の瞳に問いが乗る。その目に促され、晴信は困ったような笑みを浮かべて答えた。
「里長の言葉を聞いただろう。民は俺の親であり、子どもであると。そんな言葉をずっと聞かされて育った隼人に信用をされるには、あれが一番良いと思ったんだ」
「それで、刀を置いたまま見回る事になっていたら、どうするおつもりだったのですか」
「隼人は刀を持つよう、言ってくれただろう?」
「結果論です」
怒りを滲ませる克頼に、晴信は頭を下げた。
「すまなかった」
続く言葉を飲み込んだ克頼が、瞑目して息を吐く。
「とにかく。今後はあのような軽率な行動を、おつつしみ下さい」
「狙われるから、か。――それだけ、父上は民を苦しめ、恨まれているのだな」
沈んだ声に何か言おうとしたが、克頼は言葉を見つけられなかった。
「隼人の説明は堪えたよ」
力無い晴信の笑みに、克頼が目を伏せる。隼人は先代国主が何をしたのかを、晴信がその息子であると知りながら包み隠さず語った。荒れた田畑を見せ、この土地の持ち主はささいなことで手打ちになったと言った。空っぽの里の米蔵を開け、過度な課税のために、民は米を口にする事が出来ずに、芋の蔓などを煮込んで食べていると説明した。何でも無い事のように話す隼人の姿から、それらが民の日常と知れた。
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