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【覚悟】

10.

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 そんなトヨホギの姿を見たものは、天女のようだとささやいた。明るい夢想に捉われたトヨホギは、浮世離れした空気を漂わせて里を進む。その姿に、なんとはなしに手を合わせる民もいた。

 男手の戻った里は、彼等が帰ってくる前よりも生き生きとしている。手が回らずに荒れた畑や、治癒せぬ傷を負った民の姿が見えるが、それでも女と子ども、年寄りだけのころよりもずっと、人々の顔は明るい。

(私がエミナの女王としてホスセリを支えることが、国を助けることになる)

 その想いを強く噛みしめながら、トヨホギは里のはずれの小川に向かった。せせらぎにちりばめられた陽光が、楽しそうに踊っている。人々の心もこうなるのだと、確信めいた予想をしながら川沿いを歩くトヨホギは、狩りに出る男たちの姿を見て立ち止まった。

「不思議ね」

 トヨホギのつぶやきに、侍女が問う目になった。それに笑いかけて「日常が戻ってきたんだって、実感がわかないのよ」と答えると、自分もそうだと侍女が言う。

「これは夢で、目が覚めたら夫の姿がないのではと怖くなります」

「長かったものね」

「はい」

 トヨホギと侍女は、男たちを見送った。その中にシキタカの姿もあった。

「今夜は酒宴かしら」

 そうかもしれませんねと侍女が返した。

 獣肉は、戦のために男手がなくなってから、めったと口に入らないものとなっていた。彼らが帰還した日の祝いにも、狩る者がいなかったので出せなかった。

「それなら今宵のために、宴の支度をしておきましょう。獲物を捕らえてもいないのに、気がはやいと言われるかもしれないけど」

「シキタカ様のお姿もあられましたから、必ず仕留めて帰られますよ」

「そうね」

 なにかすばらしいことが起こる気がする。

 トヨホギは軽い足取りで来た道を戻った。

   ***

 日が暮れる前に、シキタカたち狩りに出た一行は、立派な鹿と数羽のウサギを仕留めて戻ってきた。広場に人々が集まり、その中心で肉が焼かれた。子どもたちは走り回り、大人たちは酒の壺を手から手へと巡らせて、あらためて戦の終焉を喜び、今後のエミナの快癒と発展を願った。

「重大な話がある」

 すっかり腹も満たされて、子どもたちが眠りに誘われ家に戻り、外にいるのは大人のみとなったころ、シキタカが声を響かせた。

「どうか、心静かに聞いてくれ」

 力強い声に、誰もが耳をかたむけた。シキタカは静まった座を見回して、ホスセリにうなずきかけた。ホスセリは立ち上がってトヨホギを探した。

「トヨホギ」

 呼ばれ、女たちの輪にいたトヨホギはホスセリの傍へ立った。

「どうか驚かずに、聞いてほしい」

 静かなホスセリのささやきに、トヨホギはうなずいた。
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