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【苦悩】
4.
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トヨホギはゆるくかぶりを振った。髪飾りが揺れて、ホスセリからもらった翡翠の球が光を含んで冷たく輝く。
(このまま、ホスセリの体のことは黙ったままで過ごさなくちゃ)
彼の命を救うにはそうするしかないと、トヨホギは唇を固く結んだ。
(だけど、いつまでも子どもを授からなければ、私のほかに妻となる女が選ばれる)
ホスセリは男の機能を失ったのだから、いくら寝台で共に過ごしてもトヨホギに子は宿らない。秘密を知らないものたちは、トヨホギのほかに妻を持つようホスセリに勧めてしまう。跡継ぎを得なければならない王が、それを拒めるはずもない。その人がホスセリの体の傷を知ったら、どうするだろう。シキタカをホスセリとして受け入れるだろうか。
(私がシキタカを拒んで、心身ともにホスセリの妻でいたいと望んだら、跡継ぎのために現れたふたり目の妻は、表向きはホスセリの側室だけれど、実状はシキタカの妻になる)
ずきりと胸が痛んで、トヨホギは首をかしげた。どうして心が痛むのだろう。
(きっと、その人とシキタカが哀れだからだわ)
堂々と夫婦として振舞えないのは哀れだと、気持ちが痛んだのだろう。
(それでも、ふたりが納得をしてくれたなら、ホスセリは王でいられるし、私もホスセリの妻として、シキタカを受け入れなくて済む)
それが最良の道だろうと、トヨホギは思う。あんなふうに自分をだますのではなく、それを承諾してホスセリの妻となり、シキタカを受け止める娘を探せばいいのだ。
心臓が大きな手で握られているように苦しくなって、トヨホギはちいさくあえいだ。
「トヨホギ様?」
様子に気づいた娘に声をかけられ、トヨホギは「大丈夫よ」と返した。
「ちょっと、クラッとしただけ。疲れが出たのよ。男たちが帰ってきて、ほっとしたから張っていた気がゆるんだんだわ」
あなたもそうでしょうと匂わせれば、心配そうにしながらも納得をされた。
「木陰ですこし、休んでおられたほうがいいですよ。無理をして大変なことにならないうちに」
「そうね。私が気を失ったら、皆が抱えて戻らなくちゃいけないから、大変だわ」
肩をすくめて軽くおどけたトヨホギは、さきほど座っていた場所に戻った。
憂いを抜くように息を吐いて、空に目を向ける。木の葉の先にある空は、濃く澄んだ青色をしていた。
(もしもそういう娘が現れたら)
そんな都合のいい娘がいるだろうか。
(シキタカは人気があるもの。彼が相手なら、喜んで陰の妻になるという娘はいるわ)
しかしその娘が、うっかりシキタカに親密な態度を取って、ふたりの仲を疑われては困る。
トヨホギはかぶりを振った。
(うかつな娘は選ばないはずよ)
(このまま、ホスセリの体のことは黙ったままで過ごさなくちゃ)
彼の命を救うにはそうするしかないと、トヨホギは唇を固く結んだ。
(だけど、いつまでも子どもを授からなければ、私のほかに妻となる女が選ばれる)
ホスセリは男の機能を失ったのだから、いくら寝台で共に過ごしてもトヨホギに子は宿らない。秘密を知らないものたちは、トヨホギのほかに妻を持つようホスセリに勧めてしまう。跡継ぎを得なければならない王が、それを拒めるはずもない。その人がホスセリの体の傷を知ったら、どうするだろう。シキタカをホスセリとして受け入れるだろうか。
(私がシキタカを拒んで、心身ともにホスセリの妻でいたいと望んだら、跡継ぎのために現れたふたり目の妻は、表向きはホスセリの側室だけれど、実状はシキタカの妻になる)
ずきりと胸が痛んで、トヨホギは首をかしげた。どうして心が痛むのだろう。
(きっと、その人とシキタカが哀れだからだわ)
堂々と夫婦として振舞えないのは哀れだと、気持ちが痛んだのだろう。
(それでも、ふたりが納得をしてくれたなら、ホスセリは王でいられるし、私もホスセリの妻として、シキタカを受け入れなくて済む)
それが最良の道だろうと、トヨホギは思う。あんなふうに自分をだますのではなく、それを承諾してホスセリの妻となり、シキタカを受け止める娘を探せばいいのだ。
心臓が大きな手で握られているように苦しくなって、トヨホギはちいさくあえいだ。
「トヨホギ様?」
様子に気づいた娘に声をかけられ、トヨホギは「大丈夫よ」と返した。
「ちょっと、クラッとしただけ。疲れが出たのよ。男たちが帰ってきて、ほっとしたから張っていた気がゆるんだんだわ」
あなたもそうでしょうと匂わせれば、心配そうにしながらも納得をされた。
「木陰ですこし、休んでおられたほうがいいですよ。無理をして大変なことにならないうちに」
「そうね。私が気を失ったら、皆が抱えて戻らなくちゃいけないから、大変だわ」
肩をすくめて軽くおどけたトヨホギは、さきほど座っていた場所に戻った。
憂いを抜くように息を吐いて、空に目を向ける。木の葉の先にある空は、濃く澄んだ青色をしていた。
(もしもそういう娘が現れたら)
そんな都合のいい娘がいるだろうか。
(シキタカは人気があるもの。彼が相手なら、喜んで陰の妻になるという娘はいるわ)
しかしその娘が、うっかりシキタカに親密な態度を取って、ふたりの仲を疑われては困る。
トヨホギはかぶりを振った。
(うかつな娘は選ばないはずよ)
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