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【告白】
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どれほど平穏な日々を繰り返し求めたのかがうかがえる話に、トヨホギは胸を痛めた。思わず胸元で手を握ったトヨホギとおなじく、侍女も苦しげに胸に手を当てる。
「夢ではないと、どうしても夫に伝えたくて、私は夫を抱きしめました。そして唇を押しつけて、現実のぬくもりを身を持って夫に与えたのです」
「与えた……、って」
侍女の頬が赤く染まる。
「私から、夫の肌に触れて求めたのです」
トヨホギは目を丸くした。
「そんなことを……?」
「ええ。トヨホギ様はまだ、それほどの余裕など持つことはかなわないでしょうけれど、私くらいになると、こちらから相手を心地よくさせようと、いろいろとできるのですよ。まあ、まったくそうではない人も、いるみたいですけれど」
トヨホギはどんな反応をしていいのかわからずに、ただ侍女を見つめた。
「そんなに不思議そうな顔をなさらないでくださいまし。……いやがる殿方もいらっしゃるようですけど、私の夫はそれを好むのです。ですから私も気兼ねなく、夫を愛し、求めているのだと自ら行動できるのです。そういう日々を過ごしていると、さまざまに覚えるというか、なんというか」
はにかむ侍女に、詳しい説明を求めるのは無粋だとトヨホギは察した。たとえ詳しく教えられたとしても、今の自分には理解し納得する余裕はないだろう。
「そう。……それじゃあ、あの、そういうことをしている時に、相手の腕が他にもあるような気がしたことって、ある?」
侍女が首をかしげる。
「あのね、その、なんて言ったらいいのか……。夫の体とは別に、誰かが自分に触れているような心地がするというか、なんというか」
トヨホギは昨夜の衝撃を、どう伝えればいいのか迷った。はっきりとホスセリとは別の男を感じたとは、言いづらい。
「まあまあ、トヨホギ様」
侍女の声が高くなる。瞳は輝き、うっとりとした色を帯びた。
「それはきっと、ホスセリ様がお上手だったからですわ」
「え?」
「私も、いつもではないのですけれど、そのように感じる瞬間があるのですよ。丁寧に、それこそ焦れるほど体の隅々まで愛し、高められたときは、夫の手が何本にも増えて、私を恍惚の高みへと導いていく気がするのです」
自分を自分で抱きしめて、夢見ごこちの吐息を漏らした侍女が、まるでそこに記憶の官能が映し出されているかのように、中空を見つめる。
「そうなの……?」
「ええ。夫であって、夫でないもの……。自分の一部のように感じられると申しましょうか。思いもよらない角度で深くつながり、神聖な獣として神の前で契りを交わしているような、そんな心地になる場合がございます」
「思いもよらない角度で……」
「夢ではないと、どうしても夫に伝えたくて、私は夫を抱きしめました。そして唇を押しつけて、現実のぬくもりを身を持って夫に与えたのです」
「与えた……、って」
侍女の頬が赤く染まる。
「私から、夫の肌に触れて求めたのです」
トヨホギは目を丸くした。
「そんなことを……?」
「ええ。トヨホギ様はまだ、それほどの余裕など持つことはかなわないでしょうけれど、私くらいになると、こちらから相手を心地よくさせようと、いろいろとできるのですよ。まあ、まったくそうではない人も、いるみたいですけれど」
トヨホギはどんな反応をしていいのかわからずに、ただ侍女を見つめた。
「そんなに不思議そうな顔をなさらないでくださいまし。……いやがる殿方もいらっしゃるようですけど、私の夫はそれを好むのです。ですから私も気兼ねなく、夫を愛し、求めているのだと自ら行動できるのです。そういう日々を過ごしていると、さまざまに覚えるというか、なんというか」
はにかむ侍女に、詳しい説明を求めるのは無粋だとトヨホギは察した。たとえ詳しく教えられたとしても、今の自分には理解し納得する余裕はないだろう。
「そう。……それじゃあ、あの、そういうことをしている時に、相手の腕が他にもあるような気がしたことって、ある?」
侍女が首をかしげる。
「あのね、その、なんて言ったらいいのか……。夫の体とは別に、誰かが自分に触れているような心地がするというか、なんというか」
トヨホギは昨夜の衝撃を、どう伝えればいいのか迷った。はっきりとホスセリとは別の男を感じたとは、言いづらい。
「まあまあ、トヨホギ様」
侍女の声が高くなる。瞳は輝き、うっとりとした色を帯びた。
「それはきっと、ホスセリ様がお上手だったからですわ」
「え?」
「私も、いつもではないのですけれど、そのように感じる瞬間があるのですよ。丁寧に、それこそ焦れるほど体の隅々まで愛し、高められたときは、夫の手が何本にも増えて、私を恍惚の高みへと導いていく気がするのです」
自分を自分で抱きしめて、夢見ごこちの吐息を漏らした侍女が、まるでそこに記憶の官能が映し出されているかのように、中空を見つめる。
「そうなの……?」
「ええ。夫であって、夫でないもの……。自分の一部のように感じられると申しましょうか。思いもよらない角度で深くつながり、神聖な獣として神の前で契りを交わしているような、そんな心地になる場合がございます」
「思いもよらない角度で……」
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