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アルテについて歩きながら、カターナは昨日の彼とのやりとりと、彼が道具師のところへ行っていたという父の言葉を思い出す。アルテの手には、大きな袋がある。そんな荷物を、彼は持っていなかった。あれはもしかして、自分に関するものではないかと、カターナは考える。
そんなに都合のいい話が、あるわけないと思いつつ、それでも期待せずにはいられない。
カターナは問いたい気持ちと、答えを先伸ばしにしたい気持ちとを交互に浮かべ、無言でアルテの背を追った。
「このあたりで、いいだろう」
アルテが立ち止まったのは、森の中でもすこしひらけた場所だった。
「どうした。今日はずいぶんと静かだな」
「そうかしら」
「昨日のことを、気にしているのか」
「昨日のことって、胸当てを締めたら狙い通りに矢が飛んだこと?」
「そっちもあるが。弓ではなく、短剣でオレに挑めと言ったことだ」
ああ、とカターナは唇を開いた。
「どうして、あんなことをさせたの」
「君の身体能力が、どれほどのものか見極めたかったんだ」
「どうして」
「君のその弓のまま、上達の方法を探るか、別の道を示したほうがいいのかを、判断したかったからな」
カターナは冬の湖に落ちたように、肌身を凍えさせた。さきほどまでの期待が、冷たい予感に変わる。もしかして彼はニルマのように、闘師になったほうがいいと、説得をするつもりなのだろうか。
カターナの心情を察したアルテが苦笑する。
「そんなに、こわばらなくてもいい。オレが、闘師になることを勧めるんじゃないかと、警戒をしているんだろう」
「……」
「たしかに、君には、そっちの道のほうがいいかもしれない」
「でも、私は――」
「弓師でいたいんだろう? 生きたまま伝説のように語られている、偉大なる弓師、ランダ・トイの孫としての誇りがあるから」
「そんな、誇りとかたいそうなものじゃないけど……。でも、うん――。弓師でいたいわ」
「だが、いまのままでは、冒険に出かけるどころか、狩りの仕事すら与えてもらえない」
口をへの字にして、カターナはうなずいた。
「だから、君が弓師のまま、その身体能力を使えるものを、作ってもらってきた」
言いながらアルテが袋から取り出したのは、見たこともない弓だった。
「持ってみろ」
言われるままに両手で受け取ったカターナは、変わった形の弓を、ためつすがめつする。
短弓の中心に、頑丈な木の棒がくっついている。支柱のような木の棒には、溝があった。
「これは?」
「十字弓というんだ」
「十字弓」
たしかに、十字の形になっている。しかしこれを、どう使うのかがわからない。
「この溝のところに、矢を重ねるんだ。そして弦を引いて、狙いを定める。この村には知られていないようだが、世界にはこの弓を使っている弓師が、大勢いる。胸当てで息苦しくなる心配もなく、弓をあやつれる。頑丈にできているから、矢をつがえるヒマがなくても、これで殴れば問題ない。射ても殴ってもいい弓なら、君にピッタリだろう」
カターナはよろこびに体をふくらませて、十字弓を見つめた。
「すごいわ。……世の中には、こんなものがあるのね」
「ただ、射程距離は前の弓よりも、すこし劣るぞ」
「そのぶん、獲物に近づけばいいんだわ」
「そのとおりだ。これは走りながら射ることもできる。小回りがきくからな。どうだ、カターナ」
「最高よ、アルテさん。ありがとう! これなら、ニルマに“殴る弓師”って言われても、堂々としていられるわ」
「礼を言うのは、まだはやい。使いこなせるかどうか、わからないからな」
「大丈夫よ。私、これでも筋はいいの。その……、胸がふくらむまでは、とっても上手だったのよ」
わずかに頬を赤らめたカターナに、そうかとアルテは軽く答える。
「それなら、さっそく試してみるか。まずは、あの木の枝の根元。あれを狙って撃ってみろ」
うなずいたカターナは、ふだんの矢よりも短い、十字弓用の矢をつがえた。溝に当てはめればいいだけなので、準備がしやすい。弦を引き、狙いを定める。
「ふっ」
気合の息とともに指を離せば、矢が勢いよく飛び出して、狙った場所に突き立った。
「当たった! まっすぐよ。狙い通りだわ」
「まずまず、といったところだな。次は、いまよりも遠い位置を狙おう。あの枝を、狙ってみてくれ」
「まかせといて」
嬉々として準備をしたカターナが矢を放つと、狙い通りに飛んで刺さった。
「ああ、すごい。これ、すごくいいわ。アルテさん、ありがとう」
「どういたしまして」
「あの……」
「うん?」
「私のために、その……、道具師に頼んでくれたんでしょう?」
「まあ、そうだな」
「寝ないで?」
「いいや。道具師の仕事場で、眠ったよ。ここの道具師は、十字弓のことは知らなくても、どんなものかを説明すれば、すぐに呑みこんで作ってくれた」
「ありがとう」
深く頭を下げたカターナの肩を、どういたしましてと告げるように、アルテが叩く。
「ランダさんの若いころにそっくりな孫が、弓師として活躍していると聞いて、よろこぶ連中は大勢いる。オレもそのうちの、ひとりだってことだ」
「おばあさまのファンだから、孫のサポートをしたかったってこと?」
「そうだ。それに、孫をよろしくと言われたからな」
「おばあさまって、すごいのね」
「ああ、そうだ。その名を知っている誰かに、さすがはあのランダさんの孫だと言われたくはないか?」
「言われたいわ」
「なら、練習を積むんだな。とりあえず今日は扱いに慣れるため、ひたすら撃ち続けるぞ」
「望むところよ」
それからカターナは、ひたすら十字弓で矢を射続けた。あれこれと持ち方を変えてみたり、照準の合わせ方を工夫しながら、自分なりのやり方を模索する。
「自分で言うだけのことはあるな。筋は、悪くない」
「悪くない、じゃなくて、とてもいいって言ってほしいわ。ほめて伸ばすのも、重要よ」
「ほめるばかりでは、それに満足をして終わりになってしまうだろう。ほどほどにしておかなければな」
「そうかしら」
「そうだ。村では弓師として認められていることに、不満はなかったか」
「あったわ。すっごくね! だって、的に当てられない弓師なんて、とんでもないでしょう?」
「それでも、村の連中はカターナが弓師であることを、認めていた」
「面と向かって、闘師になれって言ってくるのは、ニルマぐらいよ」
カターナは頬をふくらませながら木に登って、矢を回収した。
「もしもニルマがいなかったらと、考えてみればいい」
「いやな思いをしなくてすむわ」
「つまり、村中が的を射られない弓師を、弓師として認めることになる」
カターナは言葉に詰まった。
「そんな状態に置かれても、いまほどの向上心を保ち続ける自信はあるか」
「……わからないわ」
カターナは木に立てかけている、愛用してきた弓を見た。
「私は、甘やかされていたってことね」
「自分でそう気づけたのなら、上等だ。オレは甘やかすつもりはないぞ。矢を回収したんなら、はやく準備をしろ。時間がないからな」
「時間がないって――?」
「豊穣の祭のために、バ・ソニュスを採りに行きたいんだろう。それに、オレは、豊穣の祭が終わったら、次の場所へ行くと決めている。教えられる期間は、今日をふくめて5日しかない」
カターナはおどろき、アルテを見た。アルテがニヤリとする。
「ぼうっとしているヒマなんて、ないだろう」
「そうね。――そうだわ。6日後には、祭が行われるんだもの。それまでに村の大人たちに、認めてもらわなくっちゃ」
「その意気だ。次は、あの枝のコブを狙え」
「うん」
休憩をする間も惜しみ、カターナは夕暮れまでひたすら、十字弓をあやつり続けた。
集会所に、主だった村の男たちが集まっている。テーブルの上には、持ち寄られた飲食物があり、豊穣の祭のための会議が開かれようとしていた。そこにアルテが引率するような格好で、カターナ、ディル、リズ、ニルマ、マヒワの5人を連れて入った。
「会議がはじまる前に、頼みがあるんだが」
アルテの声に、視線が集まる。緊張に身を硬くしたカターナの腕に、リズが不安そうにしがみついた。
「その顔ぶれから察するに、バ・ソニュスの採取に行きたいという願いだろう」
「そのとおり」
発言をした男に、アルテが顔を向けた。
「許可ができる者もいるが、そうでない者もいる。そのあたりもこれから話し合う予定だ。結果は家で、待っていなさい」
「明日も仕事があるだろう。今年はあきらめて、来年にしたらどうだ」
「挑戦させるのも、成長のためには必要かと思いますがね。必ずしも、成功をする必要はない。――挑むということが大切だと考える方は、いないのですか」
アルテが見回すと、男たちはそれぞれ、苦い顔やめんどうくさそうな顔、忌々しそうな顔をして、周囲の反応をうかがった。
「たしかに。挑戦をしてみるのは大切だと思う。だが、それが無謀で危険なものだとわかっていたら、とてものこと許可はできない」
「必ず成功する道しか、通す許可を出さないのであれば、挑戦の意味がない」
「命にかかわる問題なんだ」
「聞いていますよ。銀狼が出るそうですね」
「そうだ。普通の狼ならまだしも、銀狼だぞ。その恐ろしさは、旅をしてきた者ならわかるだろう」
「やりあったことがあるので、銀狼が普通の狼よりも、ずっとやっかいなことは、体感として理解しています」
アルテがさりげなく剣に手を当てると、感歎の声がいくつか上がった。
「それなら、なおさら危険であると、わかっているはずだ。子どもたちがどれほど望んだとしても、許可を出すわけにはいかない」
うなずく顔がいくつかと、考える顔がいくつか見える。カターナは別れている意見が、賛同に向かうようにと祈った。ディルの指が手に触れる。目を向ければ、はげますようにうなずかれた。カターナもうなずきで応じ、不安の目をニルマに向ける。
さきほど、許可ができる者という言葉が出た。それはニルマとマヒワだという確信を、カターナは持っていた。ニルマが、自分だけでも許可してくれと言い出さないか、カターナは心配をしていた。ニルマはそんなカターナを無視するように、大人たちをにらんでいる。マヒワは静かにたたずんでいた。
「危険であるとわかっているから、これからみっちり、彼等に訓練をつけたい。明日から4日間、彼等の仕事を免除してくれないか」
「たった4日で、なにができる」
「リズは新しい魔法を覚えられるし、ニルマはより実践的な体の使い方を覚えるだろう。マヒワの能力はまだ見ていないから、どうとも言えないな。それはディルもおなじだが、彼の潜在能力は広く深い。――ディル。君はランダさんから、魔法の手ほどきを受けているそうだな」
「はい。習得はしても、実践としての訓練をしていない魔法がいくつかあるので、向上のための復習として、それらを使ってみたいです」
たのもしい顔で、迷いなく堂々と言ってのけたディルに、カターナは感心をした。普段の彼とは違う姿に、ひどく新鮮な、けれどすこし遠い場所に行かれたような気分になる。それに気づいたのか気づいていないのか、ディルはカターナに、ちいさくほほえみかけた。
「ランダばあさんに、魔法を教わっているだと」
ザワザワと、どよめきが起こる。
「魔法だけでなく、魔法薬や星読みの方法も、習っています」
「いつからだ」
「魔導師になると、決めてからずっとです」
知っていたか、というささやきに、表向きディルの師匠となっている魔導師のダグィが立ち上がる。
「ディルの言うことに、間違いはない。私はディルの師匠ということになっているが、もうとっくに、ディルに教えるものはなくなっているんだ。逆に、教わっているくらいだよ。ディルはランダさんの弟子だと言って、間違いはない」
「どうしてそれを言わなかったんだ」
発言をした男が、ディルの横にいるカターナに目を向けて、口をつぐんだ。まずいぞ、という顔で、隣の男が発言をした男を肘でつついた。
「ディルは私に遠慮をして、秘密にしていたんです。でも、もう私は知ってしまったから。……ううん。本当は、ずっと前から知っていたんです。だから、ディルがおばあさまの弟子だというのは、本当です」
カターナの声に、男たちの口から憐憫や感心、おどろきの息があふれ出る。
「なるほど。では、ディルは羊の番よりもずっと、有益な仕事ができると言いたいのだね」
それにはアルテが答えた。
「羊の番を、あれほど見事にこなせる人物は、なかなかいませんよ。ディルは風の魔法を、自分の手足のように自在にあやつっている。こまやかな魔力調整は、とても難しいことです。ポンプを動かし、勢いよく地下水を汲み上げるよりも、すこしもこぼさず小さなカップを満たすほうが難しいのと、おなじようにね」
どよめきが起こる。そんなにすごいことだったのかと、魔力を持たないカターナはおどろき、感心をした。ディルがはにかむ。リズは尊敬のまなざしをディルに向け、ニルマは舌打ちをした。マヒワはかわらず、彫刻のように立っている。
ざわめきを制するため、アルテはわざとらしく咳払いをした。
「そして、最後にカターナ。皆さんの心配は、彼女の射的の腕でしょう。――それは、もうすでに解決済みです」
アルテに目で合図され、カターナは十字弓を持ち上げた。
「これは、十字弓というものです。彼女にすこし使わせてみたら、すぐに扱いを覚えましたよ。狙いは正確です」
アルテが集会所の中をゆっくりと歩き、カターナと対角の位置に立った。
「カターナ。それでオレのここを狙え」
アルテが自分の額を示す。
「おい。そんなことをして、大丈夫なのか」
アルテはニヤリとして、カターナをアゴでうながす。カターナの腕にしがみついていたリズが、心配そうに離れた。ディルがはげましの瞳をカターナに向ける。深呼吸をして、カターナは矢をつがえ、腕を持ち上げた。
「ふっ」
照準の時間は、一瞬だった。放たれた矢はアルテの額をめがけて飛び、アルテはそれを、寸前で握った。
息を詰めて見守っていた男たちが、安堵に肩を落とす。
「これをまぐれだと思うのなら、もう一度、射させますが」
「いや、もういい」
ひとりが手を振ると、ちらほらとうなずく顔が出た。
「心臓に悪い見世物だ」
「カターナの弓の腕は、まだまだ向上します。彼女の身体能力は、皆さんもご存知でしょう。この十字弓なら、彼女の身体能力を活かした射的が可能になる。コツさえつかめ掴めば、動き回りながら矢を射ることも可能です」
「そのコツを、あと4日……。豊穣の祭の前日までに、会得できると?」
「カターナなら、可能ですよ。どうです、皆さん。彼等の可能性を引き出すために、集中した訓練の時間を与えてみては。こんなチャンスは、またとないはずです。銀狼を退治できれば、狩りの不安もぐっと減ります」
「銀狼を退治できると、決まったような口ぶりですね。アルテさん」
「決まっているんですよ。彼等がバ・ソニュスを採りに行くのなら、オレも同行しますから。野生のソニュスは貴重ですからね。それを得られるのであれば、彼等を教育する価値がある。それに、銀狼の毛皮や牙は、いい値段になる。旅の資金づくりにもなるので、オレにとってはメリットしかない」
「他のものが採取に行くのでも、かまわないだろう」
「それに同行しても、オレにはなんの面白味もない。自分の手で能力を引き上げたものが、どれほど成長をしたか。それを見る楽しみを、知らないわけではないでしょう」
低いうめきが、いくつかもれる。
「すぐに結論は出せない。明日の朝、朝食の席で必ず結果を伝えると約束する。だからもう、今夜は家に帰って寝なさい。――アルテさんも、それで承知してもらいたい」
「わかりました。いい結果を、期待していますよ」
アルテがゆっくりとカターナたちのもとへ戻ってくる。両腕を広げたアルテにうながされ、カターナたちは集会所を後にした。
「……大丈夫かしら」
「大丈夫さ」
カターナのつぶやきに、ディルが答える。リズは首を動かして、ディルに同意した。
「集会所に行く前に、親父に言っておいたからな。すくなくともひとりは、賛成をするだろうぜ」
ニルマの言葉に、カターナはおどろいた。
「アルテがマヒワを連れてったのを見て、どうしたのか聞いたんだよ。そうしたら、カターナに新しい弓をやって、試させるっていうじゃねぇか。こんなことだろうと思って、先回りしておいたんだ」
「……我も、父に言った。賛成、ふたりはいる」
マヒワが抑揚のない声を出す。
「ごめんね、カターナ。私、その……マヒワに、仕事のときに言ったの。カターナと、バ・ソニュスを採りに行くって約束、したんだって。おとうさんにも、言っちゃったの」
眉を下げたリズに、カターナは首を振った。
「秘密にしなきゃいけない話じゃないから、気にしないで。むしろ、言ってくれて助かったわ。皆のおとうさまが、賛成をしてくれるっていう確信が持てたんだもの」
「ダグィさんも、きっと賛成をしてくれるよ。だから、6人は賛成だ。いい結果になるよ。さっきのカターナとアルテさんのやりとりに、皆おどろいていたからね」
「あれは、ちょっと……怖かった、な」
リズがひきつった笑みで言う。ニルマがアルテに、不敵な笑みを向けた。
「矢を素手で止めるなんて、とんでもないことができるんだな。あんた」
「ニルマも、あのくらいはできるようになる。短期間で会得しようと思うなら、かなりキツいがな」
「望むところだ。狩りもぬるいと感じていたからな。銀狼を打ちのめして、村の連中をおどろかせてやるさ」
「勇ましいことだ」
アルテが発言を求めて、マヒワを見る。マヒワは薄い唇を動かして、平坦な声を出した。
「我は操獣師。蛇やトカゲ、魚あたりを使うのが得意。……大型の獣は、ためしたことがない」
「武器は」
無言でマヒワが持ち上げたのは、太い針だった。
「投げて、縫い止める。あとは、縄。……投げて、捕まえる」
「そうか。だが、もうすこし詳しく、どの程度の実力なのかを知りたい。明日、見せてもらえるか」
マヒワがうなずく。アルテもうなずきで応じて、皆を見た。
「許可が出たら、明日の日の出から訓練を行う。時間がないから厳しくいくぞ。音を上げるなよ」
許諾を得られる自信に満ちたアルテの声に、皆が力強く――マヒワは無表情のまま、うなずいた。
翌朝。
朝食時に、許可が下りたと知らされたカターナは、歓声を上げて飛びはねた。
「ああ、ありがとう!」
村中の大人たちに感謝をするカターナに、ルーエイが苦い笑みを浮かべる。
「しっかりやるんだぞ」
「もちろんよ、おとうさま。――おかあさま、お弁当!」
「わかっているわ、カターナ。無茶はしないでよ」
「もちろんよ。ケガをしたら、本番に出られないもの」
「よかったわね、カターナ。アルテさん。どうか孫を、よろしくね」
「まかせてください、ランダさん。あなたの孫は、文句のつけようのない弓師になりますよ」
「練習の準備をしなくっちゃ。ごちそうさま」
部屋に駆け上がったカターナが準備を終えて、ズィーラから弁当を受け取っていると、ディルがやってきた。
「おはよう、カターナ。もう皆、準備万端だよ。アルテさん、おはようございます。今日から、よろしくお願いします」
「おはよう、ディル。そうやって笑っていられるのも、今のうちだぞ」
「望むところです」
「たのもしいことだ」
外に出ると、リズ、ニルマ、マヒワの姿があった。隙なく準備を整えている彼等を見て、アルテの頬が満足げにゆがんだ。
「それじゃあ、みっちりしごいてやるか」
そうして4日間、カターナたちはアルテの指導のもと、家に帰る足取りもおぼつかなくなるほど、言葉どおりみっちりとしごかれ、鍛えられた。
そんなに都合のいい話が、あるわけないと思いつつ、それでも期待せずにはいられない。
カターナは問いたい気持ちと、答えを先伸ばしにしたい気持ちとを交互に浮かべ、無言でアルテの背を追った。
「このあたりで、いいだろう」
アルテが立ち止まったのは、森の中でもすこしひらけた場所だった。
「どうした。今日はずいぶんと静かだな」
「そうかしら」
「昨日のことを、気にしているのか」
「昨日のことって、胸当てを締めたら狙い通りに矢が飛んだこと?」
「そっちもあるが。弓ではなく、短剣でオレに挑めと言ったことだ」
ああ、とカターナは唇を開いた。
「どうして、あんなことをさせたの」
「君の身体能力が、どれほどのものか見極めたかったんだ」
「どうして」
「君のその弓のまま、上達の方法を探るか、別の道を示したほうがいいのかを、判断したかったからな」
カターナは冬の湖に落ちたように、肌身を凍えさせた。さきほどまでの期待が、冷たい予感に変わる。もしかして彼はニルマのように、闘師になったほうがいいと、説得をするつもりなのだろうか。
カターナの心情を察したアルテが苦笑する。
「そんなに、こわばらなくてもいい。オレが、闘師になることを勧めるんじゃないかと、警戒をしているんだろう」
「……」
「たしかに、君には、そっちの道のほうがいいかもしれない」
「でも、私は――」
「弓師でいたいんだろう? 生きたまま伝説のように語られている、偉大なる弓師、ランダ・トイの孫としての誇りがあるから」
「そんな、誇りとかたいそうなものじゃないけど……。でも、うん――。弓師でいたいわ」
「だが、いまのままでは、冒険に出かけるどころか、狩りの仕事すら与えてもらえない」
口をへの字にして、カターナはうなずいた。
「だから、君が弓師のまま、その身体能力を使えるものを、作ってもらってきた」
言いながらアルテが袋から取り出したのは、見たこともない弓だった。
「持ってみろ」
言われるままに両手で受け取ったカターナは、変わった形の弓を、ためつすがめつする。
短弓の中心に、頑丈な木の棒がくっついている。支柱のような木の棒には、溝があった。
「これは?」
「十字弓というんだ」
「十字弓」
たしかに、十字の形になっている。しかしこれを、どう使うのかがわからない。
「この溝のところに、矢を重ねるんだ。そして弦を引いて、狙いを定める。この村には知られていないようだが、世界にはこの弓を使っている弓師が、大勢いる。胸当てで息苦しくなる心配もなく、弓をあやつれる。頑丈にできているから、矢をつがえるヒマがなくても、これで殴れば問題ない。射ても殴ってもいい弓なら、君にピッタリだろう」
カターナはよろこびに体をふくらませて、十字弓を見つめた。
「すごいわ。……世の中には、こんなものがあるのね」
「ただ、射程距離は前の弓よりも、すこし劣るぞ」
「そのぶん、獲物に近づけばいいんだわ」
「そのとおりだ。これは走りながら射ることもできる。小回りがきくからな。どうだ、カターナ」
「最高よ、アルテさん。ありがとう! これなら、ニルマに“殴る弓師”って言われても、堂々としていられるわ」
「礼を言うのは、まだはやい。使いこなせるかどうか、わからないからな」
「大丈夫よ。私、これでも筋はいいの。その……、胸がふくらむまでは、とっても上手だったのよ」
わずかに頬を赤らめたカターナに、そうかとアルテは軽く答える。
「それなら、さっそく試してみるか。まずは、あの木の枝の根元。あれを狙って撃ってみろ」
うなずいたカターナは、ふだんの矢よりも短い、十字弓用の矢をつがえた。溝に当てはめればいいだけなので、準備がしやすい。弦を引き、狙いを定める。
「ふっ」
気合の息とともに指を離せば、矢が勢いよく飛び出して、狙った場所に突き立った。
「当たった! まっすぐよ。狙い通りだわ」
「まずまず、といったところだな。次は、いまよりも遠い位置を狙おう。あの枝を、狙ってみてくれ」
「まかせといて」
嬉々として準備をしたカターナが矢を放つと、狙い通りに飛んで刺さった。
「ああ、すごい。これ、すごくいいわ。アルテさん、ありがとう」
「どういたしまして」
「あの……」
「うん?」
「私のために、その……、道具師に頼んでくれたんでしょう?」
「まあ、そうだな」
「寝ないで?」
「いいや。道具師の仕事場で、眠ったよ。ここの道具師は、十字弓のことは知らなくても、どんなものかを説明すれば、すぐに呑みこんで作ってくれた」
「ありがとう」
深く頭を下げたカターナの肩を、どういたしましてと告げるように、アルテが叩く。
「ランダさんの若いころにそっくりな孫が、弓師として活躍していると聞いて、よろこぶ連中は大勢いる。オレもそのうちの、ひとりだってことだ」
「おばあさまのファンだから、孫のサポートをしたかったってこと?」
「そうだ。それに、孫をよろしくと言われたからな」
「おばあさまって、すごいのね」
「ああ、そうだ。その名を知っている誰かに、さすがはあのランダさんの孫だと言われたくはないか?」
「言われたいわ」
「なら、練習を積むんだな。とりあえず今日は扱いに慣れるため、ひたすら撃ち続けるぞ」
「望むところよ」
それからカターナは、ひたすら十字弓で矢を射続けた。あれこれと持ち方を変えてみたり、照準の合わせ方を工夫しながら、自分なりのやり方を模索する。
「自分で言うだけのことはあるな。筋は、悪くない」
「悪くない、じゃなくて、とてもいいって言ってほしいわ。ほめて伸ばすのも、重要よ」
「ほめるばかりでは、それに満足をして終わりになってしまうだろう。ほどほどにしておかなければな」
「そうかしら」
「そうだ。村では弓師として認められていることに、不満はなかったか」
「あったわ。すっごくね! だって、的に当てられない弓師なんて、とんでもないでしょう?」
「それでも、村の連中はカターナが弓師であることを、認めていた」
「面と向かって、闘師になれって言ってくるのは、ニルマぐらいよ」
カターナは頬をふくらませながら木に登って、矢を回収した。
「もしもニルマがいなかったらと、考えてみればいい」
「いやな思いをしなくてすむわ」
「つまり、村中が的を射られない弓師を、弓師として認めることになる」
カターナは言葉に詰まった。
「そんな状態に置かれても、いまほどの向上心を保ち続ける自信はあるか」
「……わからないわ」
カターナは木に立てかけている、愛用してきた弓を見た。
「私は、甘やかされていたってことね」
「自分でそう気づけたのなら、上等だ。オレは甘やかすつもりはないぞ。矢を回収したんなら、はやく準備をしろ。時間がないからな」
「時間がないって――?」
「豊穣の祭のために、バ・ソニュスを採りに行きたいんだろう。それに、オレは、豊穣の祭が終わったら、次の場所へ行くと決めている。教えられる期間は、今日をふくめて5日しかない」
カターナはおどろき、アルテを見た。アルテがニヤリとする。
「ぼうっとしているヒマなんて、ないだろう」
「そうね。――そうだわ。6日後には、祭が行われるんだもの。それまでに村の大人たちに、認めてもらわなくっちゃ」
「その意気だ。次は、あの枝のコブを狙え」
「うん」
休憩をする間も惜しみ、カターナは夕暮れまでひたすら、十字弓をあやつり続けた。
集会所に、主だった村の男たちが集まっている。テーブルの上には、持ち寄られた飲食物があり、豊穣の祭のための会議が開かれようとしていた。そこにアルテが引率するような格好で、カターナ、ディル、リズ、ニルマ、マヒワの5人を連れて入った。
「会議がはじまる前に、頼みがあるんだが」
アルテの声に、視線が集まる。緊張に身を硬くしたカターナの腕に、リズが不安そうにしがみついた。
「その顔ぶれから察するに、バ・ソニュスの採取に行きたいという願いだろう」
「そのとおり」
発言をした男に、アルテが顔を向けた。
「許可ができる者もいるが、そうでない者もいる。そのあたりもこれから話し合う予定だ。結果は家で、待っていなさい」
「明日も仕事があるだろう。今年はあきらめて、来年にしたらどうだ」
「挑戦させるのも、成長のためには必要かと思いますがね。必ずしも、成功をする必要はない。――挑むということが大切だと考える方は、いないのですか」
アルテが見回すと、男たちはそれぞれ、苦い顔やめんどうくさそうな顔、忌々しそうな顔をして、周囲の反応をうかがった。
「たしかに。挑戦をしてみるのは大切だと思う。だが、それが無謀で危険なものだとわかっていたら、とてものこと許可はできない」
「必ず成功する道しか、通す許可を出さないのであれば、挑戦の意味がない」
「命にかかわる問題なんだ」
「聞いていますよ。銀狼が出るそうですね」
「そうだ。普通の狼ならまだしも、銀狼だぞ。その恐ろしさは、旅をしてきた者ならわかるだろう」
「やりあったことがあるので、銀狼が普通の狼よりも、ずっとやっかいなことは、体感として理解しています」
アルテがさりげなく剣に手を当てると、感歎の声がいくつか上がった。
「それなら、なおさら危険であると、わかっているはずだ。子どもたちがどれほど望んだとしても、許可を出すわけにはいかない」
うなずく顔がいくつかと、考える顔がいくつか見える。カターナは別れている意見が、賛同に向かうようにと祈った。ディルの指が手に触れる。目を向ければ、はげますようにうなずかれた。カターナもうなずきで応じ、不安の目をニルマに向ける。
さきほど、許可ができる者という言葉が出た。それはニルマとマヒワだという確信を、カターナは持っていた。ニルマが、自分だけでも許可してくれと言い出さないか、カターナは心配をしていた。ニルマはそんなカターナを無視するように、大人たちをにらんでいる。マヒワは静かにたたずんでいた。
「危険であるとわかっているから、これからみっちり、彼等に訓練をつけたい。明日から4日間、彼等の仕事を免除してくれないか」
「たった4日で、なにができる」
「リズは新しい魔法を覚えられるし、ニルマはより実践的な体の使い方を覚えるだろう。マヒワの能力はまだ見ていないから、どうとも言えないな。それはディルもおなじだが、彼の潜在能力は広く深い。――ディル。君はランダさんから、魔法の手ほどきを受けているそうだな」
「はい。習得はしても、実践としての訓練をしていない魔法がいくつかあるので、向上のための復習として、それらを使ってみたいです」
たのもしい顔で、迷いなく堂々と言ってのけたディルに、カターナは感心をした。普段の彼とは違う姿に、ひどく新鮮な、けれどすこし遠い場所に行かれたような気分になる。それに気づいたのか気づいていないのか、ディルはカターナに、ちいさくほほえみかけた。
「ランダばあさんに、魔法を教わっているだと」
ザワザワと、どよめきが起こる。
「魔法だけでなく、魔法薬や星読みの方法も、習っています」
「いつからだ」
「魔導師になると、決めてからずっとです」
知っていたか、というささやきに、表向きディルの師匠となっている魔導師のダグィが立ち上がる。
「ディルの言うことに、間違いはない。私はディルの師匠ということになっているが、もうとっくに、ディルに教えるものはなくなっているんだ。逆に、教わっているくらいだよ。ディルはランダさんの弟子だと言って、間違いはない」
「どうしてそれを言わなかったんだ」
発言をした男が、ディルの横にいるカターナに目を向けて、口をつぐんだ。まずいぞ、という顔で、隣の男が発言をした男を肘でつついた。
「ディルは私に遠慮をして、秘密にしていたんです。でも、もう私は知ってしまったから。……ううん。本当は、ずっと前から知っていたんです。だから、ディルがおばあさまの弟子だというのは、本当です」
カターナの声に、男たちの口から憐憫や感心、おどろきの息があふれ出る。
「なるほど。では、ディルは羊の番よりもずっと、有益な仕事ができると言いたいのだね」
それにはアルテが答えた。
「羊の番を、あれほど見事にこなせる人物は、なかなかいませんよ。ディルは風の魔法を、自分の手足のように自在にあやつっている。こまやかな魔力調整は、とても難しいことです。ポンプを動かし、勢いよく地下水を汲み上げるよりも、すこしもこぼさず小さなカップを満たすほうが難しいのと、おなじようにね」
どよめきが起こる。そんなにすごいことだったのかと、魔力を持たないカターナはおどろき、感心をした。ディルがはにかむ。リズは尊敬のまなざしをディルに向け、ニルマは舌打ちをした。マヒワはかわらず、彫刻のように立っている。
ざわめきを制するため、アルテはわざとらしく咳払いをした。
「そして、最後にカターナ。皆さんの心配は、彼女の射的の腕でしょう。――それは、もうすでに解決済みです」
アルテに目で合図され、カターナは十字弓を持ち上げた。
「これは、十字弓というものです。彼女にすこし使わせてみたら、すぐに扱いを覚えましたよ。狙いは正確です」
アルテが集会所の中をゆっくりと歩き、カターナと対角の位置に立った。
「カターナ。それでオレのここを狙え」
アルテが自分の額を示す。
「おい。そんなことをして、大丈夫なのか」
アルテはニヤリとして、カターナをアゴでうながす。カターナの腕にしがみついていたリズが、心配そうに離れた。ディルがはげましの瞳をカターナに向ける。深呼吸をして、カターナは矢をつがえ、腕を持ち上げた。
「ふっ」
照準の時間は、一瞬だった。放たれた矢はアルテの額をめがけて飛び、アルテはそれを、寸前で握った。
息を詰めて見守っていた男たちが、安堵に肩を落とす。
「これをまぐれだと思うのなら、もう一度、射させますが」
「いや、もういい」
ひとりが手を振ると、ちらほらとうなずく顔が出た。
「心臓に悪い見世物だ」
「カターナの弓の腕は、まだまだ向上します。彼女の身体能力は、皆さんもご存知でしょう。この十字弓なら、彼女の身体能力を活かした射的が可能になる。コツさえつかめ掴めば、動き回りながら矢を射ることも可能です」
「そのコツを、あと4日……。豊穣の祭の前日までに、会得できると?」
「カターナなら、可能ですよ。どうです、皆さん。彼等の可能性を引き出すために、集中した訓練の時間を与えてみては。こんなチャンスは、またとないはずです。銀狼を退治できれば、狩りの不安もぐっと減ります」
「銀狼を退治できると、決まったような口ぶりですね。アルテさん」
「決まっているんですよ。彼等がバ・ソニュスを採りに行くのなら、オレも同行しますから。野生のソニュスは貴重ですからね。それを得られるのであれば、彼等を教育する価値がある。それに、銀狼の毛皮や牙は、いい値段になる。旅の資金づくりにもなるので、オレにとってはメリットしかない」
「他のものが採取に行くのでも、かまわないだろう」
「それに同行しても、オレにはなんの面白味もない。自分の手で能力を引き上げたものが、どれほど成長をしたか。それを見る楽しみを、知らないわけではないでしょう」
低いうめきが、いくつかもれる。
「すぐに結論は出せない。明日の朝、朝食の席で必ず結果を伝えると約束する。だからもう、今夜は家に帰って寝なさい。――アルテさんも、それで承知してもらいたい」
「わかりました。いい結果を、期待していますよ」
アルテがゆっくりとカターナたちのもとへ戻ってくる。両腕を広げたアルテにうながされ、カターナたちは集会所を後にした。
「……大丈夫かしら」
「大丈夫さ」
カターナのつぶやきに、ディルが答える。リズは首を動かして、ディルに同意した。
「集会所に行く前に、親父に言っておいたからな。すくなくともひとりは、賛成をするだろうぜ」
ニルマの言葉に、カターナはおどろいた。
「アルテがマヒワを連れてったのを見て、どうしたのか聞いたんだよ。そうしたら、カターナに新しい弓をやって、試させるっていうじゃねぇか。こんなことだろうと思って、先回りしておいたんだ」
「……我も、父に言った。賛成、ふたりはいる」
マヒワが抑揚のない声を出す。
「ごめんね、カターナ。私、その……マヒワに、仕事のときに言ったの。カターナと、バ・ソニュスを採りに行くって約束、したんだって。おとうさんにも、言っちゃったの」
眉を下げたリズに、カターナは首を振った。
「秘密にしなきゃいけない話じゃないから、気にしないで。むしろ、言ってくれて助かったわ。皆のおとうさまが、賛成をしてくれるっていう確信が持てたんだもの」
「ダグィさんも、きっと賛成をしてくれるよ。だから、6人は賛成だ。いい結果になるよ。さっきのカターナとアルテさんのやりとりに、皆おどろいていたからね」
「あれは、ちょっと……怖かった、な」
リズがひきつった笑みで言う。ニルマがアルテに、不敵な笑みを向けた。
「矢を素手で止めるなんて、とんでもないことができるんだな。あんた」
「ニルマも、あのくらいはできるようになる。短期間で会得しようと思うなら、かなりキツいがな」
「望むところだ。狩りもぬるいと感じていたからな。銀狼を打ちのめして、村の連中をおどろかせてやるさ」
「勇ましいことだ」
アルテが発言を求めて、マヒワを見る。マヒワは薄い唇を動かして、平坦な声を出した。
「我は操獣師。蛇やトカゲ、魚あたりを使うのが得意。……大型の獣は、ためしたことがない」
「武器は」
無言でマヒワが持ち上げたのは、太い針だった。
「投げて、縫い止める。あとは、縄。……投げて、捕まえる」
「そうか。だが、もうすこし詳しく、どの程度の実力なのかを知りたい。明日、見せてもらえるか」
マヒワがうなずく。アルテもうなずきで応じて、皆を見た。
「許可が出たら、明日の日の出から訓練を行う。時間がないから厳しくいくぞ。音を上げるなよ」
許諾を得られる自信に満ちたアルテの声に、皆が力強く――マヒワは無表情のまま、うなずいた。
翌朝。
朝食時に、許可が下りたと知らされたカターナは、歓声を上げて飛びはねた。
「ああ、ありがとう!」
村中の大人たちに感謝をするカターナに、ルーエイが苦い笑みを浮かべる。
「しっかりやるんだぞ」
「もちろんよ、おとうさま。――おかあさま、お弁当!」
「わかっているわ、カターナ。無茶はしないでよ」
「もちろんよ。ケガをしたら、本番に出られないもの」
「よかったわね、カターナ。アルテさん。どうか孫を、よろしくね」
「まかせてください、ランダさん。あなたの孫は、文句のつけようのない弓師になりますよ」
「練習の準備をしなくっちゃ。ごちそうさま」
部屋に駆け上がったカターナが準備を終えて、ズィーラから弁当を受け取っていると、ディルがやってきた。
「おはよう、カターナ。もう皆、準備万端だよ。アルテさん、おはようございます。今日から、よろしくお願いします」
「おはよう、ディル。そうやって笑っていられるのも、今のうちだぞ」
「望むところです」
「たのもしいことだ」
外に出ると、リズ、ニルマ、マヒワの姿があった。隙なく準備を整えている彼等を見て、アルテの頬が満足げにゆがんだ。
「それじゃあ、みっちりしごいてやるか」
そうして4日間、カターナたちはアルテの指導のもと、家に帰る足取りもおぼつかなくなるほど、言葉どおりみっちりとしごかれ、鍛えられた。
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