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 最後の矢も、狙いをはずれて飛んで行った。

 落胆の息をこぼしつつ、情けない顔で振り向くと、アルテは考えるように腕を組んで、カターナを見ていた。

「矢を拾ってくるわ」

 左にそれることを意識して、狙いを右にずらしていた。それなのに、どれもこれも的にかすりもしない。

 いったいなにが悪いのか、アルテが見つけてくれればいいのだけれどと、カターナは矢を拾いながら考えた。

 矢を拾って戻っても、アルテは難しい顔をしたままだった。なにか、とんでもない欠点があるのかと、カターナは怖くなった。

「カターナ」

 ビクリと反応をすれば、アルテが苦笑を浮かべて、両腕を開いた。

「オレに向かって、射てみろ」

「え」

「いいから。オレを的に定めて、射るんだ」

「でも」

「どうせ当たらない」

 事実そうなのだが、カチンときたカターナは、弦の張り具合を確かめて、矢をつがえた。

「右に狙いを定めるな。オレのここに照準を合わせろ」

 アルテが自分の胸を、親指で示した。

「もしかして、奇跡的にまっすぐ飛ぶかもしれないわよ。もし、そうなったら、どうするの」

「どうもしない」

「え」

「どうにもならない、というべきか」

「どうにもって……。射抜かれて終わりとか、言わないわよね」

 カターナは怖くなった。それに、アルテがニヤリとする。

「矢を止めるから、問題はない。オレは、どうにもならないさ」

「そんなこと――」

「できるんだよ」

 信じられないと、カターナは首を振った。

「怖気づいたのか。冒険をするのなら、人を相手に矢を射なければならない場面も、出てくるぞ」

「そんな冒険、したくないわ」

「あくまで、可能性の話をしたまでだ。――さあ、カターナ」

 アルテがあらためて、両腕を広げる。

「どうせ、当たらない」

 カターナは不安に目元を曇らせながらも、狙いを定めた。アルテの心臓をにらみつけて、矢を放つ。

 ヒョウッとするどい音を立てて飛んだ矢は、アルテの左にそれていき、背後に消えた。

「さあ、次だ」

 うながされ、矢をつがえる。カターナは「次」と言われるままに、アルテを狙った。そのどれもが、左にそれていく。

「ふむ」

 すべての矢がアルテの後方に流れると、アルテは腕を組んでカターナの手元と胸元に、視線を注いだ。

「なにか、おかしなところが見つかった?」

「その胸当てを、もうすこしきつくはできないか」

 どういうことなのか、カターナにはわからなかった。

「ゆるくはないわ」

「そういう意味じゃない」

 ゆっくりとカターナに近づいたアルテは、胸当ての肩の部分に触れ、背後に回り、脇の紐を外すと力いっぱい引っ張った。

「うっ……なに、痛い」

「いいから。じっとしていろ」

 グイグイと締め付けられて、カターナは息が詰まった。アルテが紐を引くたびに、体が揺れる。

「動くな」

「そう言われても」

 踏ん張っていても、揺れるものは揺れるのだ。もしかして、そういう重心の弱さがあるから、放つときに狙いがはずれると言いたいのだろうか。

「あの、アルテ」

「とりあえず、これでいい」

 カターナは息苦しかった。それなのに「これでいい」とは、どういうことか。

「矢を拾ってくる。その状態に、すこし慣れていろ」

 有無を言わさぬ口調で、アルテはスタスタと行ってしまった。

「なんなのよ」

 カターナは胸当ての隙間に指を入れて、服のシワを直した。けれど胸がつぶされているぶん、服のシワも寄ったままで、消えそうにない。

「苦しい」

 息が深く吸えなくて、カターナは眉をひそめた。弓を射るには、呼吸が大事と教わっている。これはその訓練の、ひとつなのだろうか。

「説明をしてくれないと、わからないわ」

 締めつけの苦しさを抜こうと息を吐く。すると今度は、肺の奥にまで空気が吸えない。こんな状態に慣れることができるのか、カターナは不安になった。

「できなければ、私の射的の腕は、このままなのかしら」

 つぶやくと、悲しくなった。いつまでも上達をしない自分を、それでも弓師でいたいのだと、強く奮い立たせることに、疲れはじめている。どうしてこんなに、弓師にこだわっているのだろうと、自分にあきれるときもあった。

 カターナはエルフの特徴である、耳の尖りに触れ、みごとな金色の髪をなでた。

「おばあさまに、うりふたつなのは姿だけ。中身はちっとも、エルフらしくない」

 エルフでありたい、と思っているわけではない。ただ、祖母のランダにあこがれていた。やさしくて、温かくて、なんでもできる祖母は、子どものころからずっと、カターナのあこがれで在り続けている。

 アルテのような旅の剣師でさえ、名前を知っているほどの人。

 ひと目見ただけで、旅の剣師が敬意を示すほどの人。

「ああ……」

 カターナは自分のふがいなさを、呪いたくなった。そんなにすごい祖母の若いころに、そっくりだと言われ続けてきた。だからきっと、立派な人になるだろうと。

 けれど実際は、魔力を欠片も持ち合わせておらず、薬の知識もなかなか蓄えられず、星も読めない上に、弓の腕はこのとおりだ。

「そっくりって言われて、だからそれで、おばあさまのようになりたいって、がんばってきたのかも」

 カターナは自分の夢を、他人に言われていつのまにか取りこんでいた、呪縛なのではないかと思った。

「私……」

 子どものころを思い出す。はじめて弓を手にしたのは、たしか6歳のときだ。誕生日にねだって、当時の体格にあわせた弓を、父が与えてくれた。矢の先は布が巻いてあって、危険のないように工夫されていた。それを誰かに自慢したくて、カターナは家を飛び出し、ディルのところへ行ったのだ。するとディルは、木製の剣をもらったんだと、カターナに自慢した。

「剣師になるんだって、言っていたっけ」

 思い出し、笑いが込み上げてくる。それからカターナは弓の練習に、ディルは剣の練習にはげんだ。

 カターナはみるみる上達し、ディルは剣に振り回されるという状態だった。そんなディルをからかって過ごしながら、カターナは弓の稽古とともに、魔法の練習もしたがった。

「あのころは、ちゃんと狙い通りに矢が飛んでいたのに」

 それなのに突然、矢が狙いどおりに飛ばなくなってしまった。はじめは手が滑ったのだと思った。次に、弓が自分に合っていないのだと考え、その次は弓を引く力が足りないからだと思った。

 あれこれと試してみる間に、矢はどんどん狙いからはずれるようになってしまった。魔法の練習も、魔力を持ち合わせていないから、無理だと言われた。

 ディルは「僕もおなじだから」と、カターナをなぐさめた。しかし彼は、成長するにしたがい、魔力があるとわかった。剣師よりも魔導師になれと助言され、ディルはそれに従った。

「私もあのとき、方向を変えたほうがよかったのかな」

 しめつけられた胸の苦しさが、かなしい思い出の辛さを増幅させる。ディルはあれだけ、剣師になるのだと練習にはげんでいたのに、資質のあるなしを突きつけられると、あっさりと未練なく魔導師に切り替えた。そして彼は着々と能力を開花させ、立派な魔導師になっている。薬の調合も、ずいぶんと覚えたらしい。たまに祖母に質問や相談をしていることを、カターナは知っていた。

「私に気を遣わなくてもいいのに」

 ディルはいつも、カターナが不在のときに、ランダに教えを乞いにくる。

 それに気づいたのは、カターナがはやめに弓の練習を切り上げ、て帰宅をした日に、祖母の部屋からディルの声が聞こえたからだ。なんとなくノックしづらく、カターナは気づかぬふりで自分の部屋に入った。しばらく階下の様子に耳をこらしていると、ドアの音と遠ざかる足音が聞こえた。部屋の窓から外を覗いて、ディルが帰って行くのを確認すると、カターナは祖母の部屋に直行し、ディルとなにをしていたのかとたずねた。

 ランダは春の日差しのような、おだやかな声で答えてくれた。

「ディルはもっと、誰かの役に立ちたいと考えているの。それで、私に薬の調合を習いにきているのよ」

 祖母の言い方は、ずっと前からディルがきていたと表していた。

「私、ちっとも知らなかったわ。どうしてディルもおばあさまも、そのことを私に言わなかったの」

 すると祖母は、ほほえみはそのままに、困ったように眉を下げた。

「あの子は、ちょっと気を遣い過ぎるところがあるのね」

 どういうことだろうと、カターナは首をかしげた。

「あなたが魔力のないことを、気にしているからナイショにしておきたいのよ。おばあさまの魔法を、誰よりも使えるようになりたいと思っているのは、カターナだからって言っていたわ」

「そんなこと……」

 カターナは絶句した。そんなふうにディルに気遣われているなど、思ってもみなかった。

「あの子は、カターナがかなえられなかったぶん、自分がそれを引き継ごうとしているのかも、しれないわね」

「そんなの、ちっともうれしくないわ」

 カターナは拳を握った。なんだかバカにされているような気がした。そして自分のせいで、ディルに剣師の夢をあきらめさせてしまったとも思った。

「私そんなの、望んでいないわ」

 声を震わせたカターナを、祖母はやさしく胸の中に包みこんだ。若草の萌える香りに包まれて、カターナはくやしいのか悲しいのかわからないまま、大声を上げて泣いた。

 それから意地のように弓師にこだわり、練習を続け、同時に俊敏さも鍛えた。森の妖精との異名を持つエルフらしく、木々の隙間や枝々を、獣のように駆け抜けられるように。

「はあ……」

 苦い思い出に浸るカターナは、胸元に手を当てた。

 息苦しい。

 青い瞳に涙が滲み、目の光が青と灰の間をチラチラと行き来する。

「私は――」

 本当に、弓師になりたいのだろうか。

 ニルマの言うように、闘師の道に切り替えたほうがいいのではないか。

「どうして私、こんなふうになっちゃったんだろう」

 目の奥が熱くなり、涙がこぼれ落ちそうになった。


「カターナ」

 呼ばれ、物思いから引き離されたカターナは、あわてて瞳に盛り上がった涙をぬぐった。

「どうした」

「苦しいのよ」

 涙の理由を、とっさに胸当てのせいにすると、アルテはもの言いたげな顔をしつつも、「そうか」とひと言つぶやき、追求しなかった。

「ほら」

 アルテの手に握られている矢を受け取り、矢筒に入れる。アルテはまた、カターナから離れて両腕を広げた。

「さっきとおなじ要領だ。オレの、ここを狙え」

 しっかりと胸の中心を示したアルテは、だらりと両腕を下ろしてカターナを見た。唇を引き結び、うなずいて矢をつがえる。しっかりと狙いを定めて矢を放てば、それは吸い込まれるようにアルテの中心に飛んでいった。

「えっ」

 アルテの手が動く。矢が刺さる寸前に、彼は矢を掴んで止めた。呆然とするカターナに、アルテがニヤリと口の端を持ち上げる。

「次だ」

 おどろきが引かないまま、カターナはふたたび矢をつがえ、放った。それもまた真っ直ぐに、アルテへ向かう。指示されるまま全てを放ったカターナは、呆然と弓を下ろした。

「信じられない、と言いたそうだな」

「……だって、矢が狙い通りに飛んだんだもの。胸当てがきつく締められただけなのに。どうして――」

 質問の先が言葉にならず、カターナはアルテを見上げた。アルテはカターナの矢筒に矢を戻しつつ、言いづらそうに瞳を動かす。

「それは、まあ、そういうことだ」

「どういうこと?」

 軽く咳払いをしたアルテが、カターナから顔をそらす。

「邪魔なものを、胸当てでおさえつけたからだ。それに弦が当たるのを、無意識に避ける動きをしていたから、左に矢がそれていたんだ」

「邪魔な、もの」

 繰り返しながら胸当てに手を当てたカターナは、ハッと気づいて顔を真っ赤にした。

「そういうことだ」

 きまりが悪そうに、アルテは鼻をかいた。カターナは両腕で胸を隠し、真っ赤な顔のまま口をパクパクと動かす。

「弦は勢いよく前方に動く。かすっただけでも、かなり痛いだろう。だから、胸当てで保護をする。そして胸当ては、その隆起を押さえつけるものでもある」

 カターナは顔を赤くしたまま、うなずいた。

「おばあさまも、こんなに苦しい思いをしていたのね。……でも、これじゃあ激しく動けないわ。すぐに息が上がりそう」

「苦しいか」

「息がしづらいから、頭がクラクラしそうよ」

「そうか」

 ふうむ、とアルテの視線がカターナの胸元に落ちる。カターナは羞恥を堪えて、受け止めた。

「おばあさまも、こんなふうにしていたのかしら」

「いや……、どうだろうな。射るときの態勢に工夫をしていたのかもしれないし、わからないな」

「戻って、おばあさまに聞いてみようかしら」

「聞きづらくはないか」

 カターナは言葉につまった。射的のときに邪魔になる胸のふくらみを、どうしていたかと聞くのは、かなり恥ずかしい。

「まあ、いい。原因はわかったんだ。あとは、対処法を考えればいい」

「なにか、案があるの?」

 カターナは目を輝かせた。青い瞳にグレーがきらめく。

「まあ、ないことはない」

「教えて! すぐに試してみたいわ」

「まあ、待て。いそいでも仕方がない。もうすこし、計画を立ててからにしよう。カターナ」

「なあに」

「胸当てを、いつも通りに戻しておけ。村に戻ろう」

「このまま、どのくらい動けるのか、試さなくてもいいの?」

「ああ。息苦しいというのは、けっこうな問題だからな。そうしなくとも、弓師として働ける方法を見つけたほうがいいだろう」

「そうね。そうなってくれると、ありがたいわ。実はもう、ちょっと痛くなってきていたの」

 言いながら、手ばやく紐を元通りにしたカターナは、希望に頬を紅潮させて、アルテとともに村に戻った。


 村に到着をすると、ニルマが武具を身に着け、待ち構えていた。

「あんたが、カターナの世話になっているという、旅の剣師か」

 値踏みするようなニルマの視線を、アルテはさらりと受け止めた。

「アルテだ」

「オレはニルマ。見てのとおり、剣師をしている」

「そのようだな」

 アルテはざっとニルマの全身をたしかめると、不敵な笑みを浮かべる彼に笑みを返した。

「オレに稽古でも、つけてほしいのか」

「そのとおり。カターナの練習が終わったから、戻ってきたんだろう」

「まあ、そんなところだ」

「そんな」

 対処法はまだ見つかっていないと、カターナは言いかけた。それをアルテが片手を上げて制する。

「カターナ」

 ニルマの背後にいたリズが、心配そうな顔でカターナにかけよった。

「いまから、森に行こうと思っていたの。カターナがふたりきりで森に入ったって聞いたから」

 リズの手には、焼菓子と水筒の入ったカゴがあった。

「お菓子を持ってきてくれたの? リズも旅の話を聞きたいのね」

 リズは困惑顔で、首をちいさくかたむけた。違う理由らしいとわかったが、カターナは他の理由が思いつかなかった。

「いい体格をしているな」

 アルテがニルマに近づく。背の高さはほぼ同じだが、胸の厚みはニルマのほうが上だった。

「獣人の血が強く出たらしい」

「なるほど。獣人か」

「ああ。親父が狼の獣人だ。そっちは魔人のようだな」

「見てのとおりだ」

「魔法なしで、剣のみの稽古をつけてもらえるか。真剣勝負でだ」

 ニルマがすごむ。アルテは微風ほどの威力も感じず、軽くうなずいた。ニルマが獣じみた笑みを浮かべる。

「ずいぶんと好戦的だな」

「相手があんただからだろうぜ」

「どういう理由から、そういう結論に達したのかはわからないが……。まあ、いいだろう」

 アルテのまとう空気が、冷ややかなものとなる。おだやかな顔のまま、剣呑な気配を放つアルテにリズがおびえ、カターナの腕にしがみついた。

「あんなに怖い人と、森でふたりでいたなんて……。危ないわ」

「大丈夫よ、リズ。あれはニルマが悪いんだわ。ケンカをふっかけたんだもの。ふつうにしていれば、いい人よ。さっきも、私の矢がどうして狙いからはずれるのか、教えてくれたの」

「理由、わかったの?」

 ええ、と答えようとして、原因を思い出したカターナは頬を赤らめた。それをチラリと見たニルマが、すさまじい目つきでアルテをにらむ。

「なるほど。そういう理由か」

 アルテが薄い笑みを浮かべた。

「なにをした」

「なにも。カターナはあまりにも初歩的な問題に気づかなかったことを、恥じているだけだ」

 真実を探る目で、ニルマがアルテをねめつける。アルテは平然としていた。

「ところで、君にはどこで稽古をつければいい」

「ここでいい」

 村に入ったばかりのここは、広場のようになにもない。うなずきで了承を示したアルテは、軽くニルマの胸を叩いた。ニルマの足元から影が浮き上がり、彼の体を包む。

「なにをした」

「闇の防御魔法だ。真剣で勝負がしたいんだろう。これなら、剣戟を受けても肌に直接ダメージはこない。自分の影を鎧として、まとわせているからな」

 ニルマが眉をひそめる。

「動きに支障はない。そんな小細工をしなくとも、君の刃は当たらない」

 余裕たっぷりなアルテの笑みに、ニルマが奥歯を噛んでうなった。

「この程度で冷静さを欠くな。怒りは判断力を鈍らせる。守りたいものを、危険にさらすことにもなりかねないぞ」

 言いながらニルマに背を向けたアルテは、おびえるリズにさわやかな笑みを向けた。

「あとで、あの魔法を君に教えよう。君は炎のほかに、闇の属性とも相性がよさそうだからな。あれを知っておくと、危険の備えになる。効果のほどは、これからオレと彼のやりとりを見て、確認すればいい」

 リズは唇をまっすぐに閉じて、警戒の目でアルテを見ながら、カターナを抱きしめた。それに笑みを深くして、カターナの不安顔と目を合わせると、アルテはニルマに体を開いた。

「さあ、どこからでもかかってくるといい」

 カターナはリズを抱えるようにして、アルテから離れた。それを確認したニルマが剣を抜き、水平に構える。アルテはただ、立っているだけだった。

「チッ」

 舌打ちをして、ニルマが突進する。切っ先はまっすぐ、アルテの胴を目指していた。リズは目を閉じ、カターナは目を見開く。

 ニルマの剣が触れる寸前、アルテは身を沈めて、ニルマの膝裏を蹴った。

「くっ」

 バランスを崩したニルマが、膝をつく。アルテはニルマの背後に回って、うなじに剣を突きつけた。

 鉄の鋭い音が響く。

「これが、この影の防具の威力だ」

 アルテがリズに向けて声を放つ。リズはこわごわと目を開けて、顔をしかめたままふたりを見た。

「アルテさんの剣が、ニルマの首を打ったけど、ニルマは無傷のままよ」

 目を閉じていたリズに、カターナは説明をした。

「ふぅっ、ん」

 膝をついたまま気合を溜めて、ニルマが剣を背後に向ける。アルテは軽く後方に飛んで、それをかわした。ニルマは剣を振った遠心力を利用して立ち上がると、その勢いのままアルテに向かった。
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