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第二章 紋の疼きと心の揺れと

(なんだよ。俺にしゃぶられたのが、そんなにイヤだったのかよ)

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「それで、どうすればいい」

 ずるい問いだと、リアノは自覚していた。自分から行動をするほどの勇気はなく、けれどカヒトを求めている。

「匂いを確かめるんだから、脱いでくれよ。服の匂いとか、邪魔だし」

「わかった」

 うなずいて、リアノは首元に手を当てた。リアノの脱衣姿を、カヒトは息を呑んで凝視する。わずかも視線を逸らすまいと身を硬くするカヒトを、リアノは緊張しているのだと判断した。

(無理もない)

 自分の体が奇妙になってしまった理由を調査するためとはいえ、危険を伴う行動をしようとしているのだから。

(私なら、ひとり部屋にこもってしまっていただろうな)

 肩からシャツを滑り落として、リアノはベルトに手をかけた。魔術の知識があるなしにかかわらず、魔物に紋を刻まれて体に異常をきたせば、症状が出ることを恐れて人を遠ざけるのが一般的な反応ではないのか。ましてやカヒトは隆々とした体躯を誇る兵団長。矜持や立場を考慮すれば、かなりの屈辱のはず。

(だが、カヒトは受け入れている)

 自分の状況を冷静に判断し、対応策を模索している。なんて強い心の持ち主かと、リアノはズボンから足を抜きつつ感心した。

 ほう、と感嘆の吐息を漏らして、カヒトはリアノのしなやかな肉体を称賛した。ぶ厚い筋肉に覆われている日焼けしたカヒトの肉体とは違い、透明感のある白い肌となめらかなラインは上等な陶器を思わせる。かといって脆弱な感じはしない。薄くはあるが、引き締まった筋肉に包まれていた。余計な肉は、どこにもない。

「なんだ?」

「ん。思ったより、ヒョロくねぇなと思ってさ」

「紙の束は、おまえが思うよりも重量がある」

「薬草を取りに行くのにも、体力がいるしな」

 はやく触れたくて、カヒトは両腕を伸ばした。その中にリアノが収まる。裸身で向き合ったふたりは、己の鼓動が相手に悟られないよう、平静を装いながらも期待を膨らませていった。

「触るぜ」

「好きにしろ」

 背を伸ばしてリアノを抱きしめたカヒトが、首筋に鼻を近づける。ふりかかる息がくすぐったくて、リアノはわずかに身じろぎした。

「俺の匂いはするか?」

「甘い匂いがするな。これは、紋から出ているんだろう」

「ああ。部下の連中がおかしくなっちまった匂いか。俺にはわかんねぇんだけどよ、平気なのか?」

「私を見くびるな」

「ははっ。リアノの精神力を、あいつらにも見習わせなくっちゃなぁ」

 笑ったカヒトの頭が動き、首筋から脇、さらに下へと移動する。

(紋の匂いなど、おまえの匂いに比べれば、どうということもない)

 胸のあたりで揺れる茶色のクセ毛に向かって、リアノは頭の中で話しかけた。股間は熱くたぎっている。これは紋から立ち上る情欲をあおる香りのせいではなく、カヒト自身のせいだ。想いが彼の淫らな姿に反応して、肉欲を引き起こしているにすぎない。

(だからこそ、私はおまえの部下よりも危険だぞ)

 フッと頬をゆがめたリアノに、うつむいているカヒトは気づかない。

(リアノの……欲が)

 目の前に隆々とそびえている欲の象徴に、カヒトは心を震わせた。呪いの紋のせいとはいえ、リアノの肉体が欲情を示している。渇いた肉の先端に、うっすらと湿り気を見つけたカヒトは、ふうっと魂が抜けるほどの恍惚を覚えた。頭の中がふわふわとして、思考が鈍る。鼻をうごめかせたカヒトは、舌を伸ばして先端をつついてみた。

「っ、ふ」

 短い息が後頭部に落ちてきて、カヒトはもっと浴びたくなった。乱れたリアノの息をかけられたい。彼の欲を体の中に取り込みたい。

「んっ、カヒト」

 情動のままに陰茎にしゃぶりついたカヒトは、短いうめきに目を細めた。尻を両手で掴んで腰を固定し、頭を上下に動かしてリアノを味わう。硬くそり返ったものを舌で転がし舐めながら、キュウッと吸えば先走りが口内に広がった。

「は、ぁ……んむっ、ん……ふ」

 夢中になって、カヒトはリアノの液を求めた。鼻息を荒くしたカヒトの尻が揺れるのを、リアノは欲情を滾らせた目でながめた。

「ふ……っ、カヒト、ん……どうだ」

「むっ、ふ……ふはっ、はぁ、すげぇ……うまい」

「どういう、ことだ」

 これはあくまでも調査のための行為なのだと忘れないために、リアノは質問を続ける。欲に溺れかけているカヒトの理性が、ギリギリのところで止められた。

「わかんねぇよ。めちゃくちゃ、うまいって感じるんだ。それに、ケツがヒクついて、たまんねぇ」

「どう、たまらない」

「どうって、こういうことだよ」

 片手を自分の尻に伸ばしたカヒトは、己の指で秘孔を犯しながら口淫を再開した。

「んっ、ふ……ぅうっ、んっ、ん……んむっ、ふ……ううっ、う」

 陰茎に擦られる口の中が、気持ちよくてたまらない。もっともっと刺激が欲しくて、カヒトは頭を大きく振り立て、秘孔を乱す指の動きを激しくした。

「んふっ、う……んぅうっ、う、ふ……んんっ、ん」

 夢中になってむしゃぶりつくカヒトの髪に、リアノはそっと指を沈めた。胸が痛いほどに愛しくて、紋のせいにしている罪悪感が増していく。

「カヒト」

 かすれて乱れたリアノの息と、髪に触れる彼の指に、カヒトはますます興奮した。頬をすぼめて強く吸いながら陰茎を扱けば、リアノの尻に力がこもる。絶頂が近いのだと察して、カヒトは励んだ。

(呑みてぇ)

「カヒト……もう」

「んっ、ぅううっ」

 口を離せと指で示したリアノを無視して、カヒトは喉の奥まで陰茎を呑み込んだ。一滴残らず飲みつくしてやると強く吸い上げると、リアノがビクンと強張った。

「くっ、う」

「ぐっ、ごふ……っ、ふ、んっ、んんっ、ぅ」

 喉を叩かれてむせたカヒトは、リアノをこぼしてなるものかと、筒内のものまで吸い上げて、ねばつく液体を嚥下した。

「ふ、ぅ……はぁ、は……っ」

「飲んだのか」

「ああ、飲んだ」

 顔を上げてニッと笑ったカヒトの頬を、リアノは撫でた。目を細めて、唇を動かすも言葉が出てこない。

(カヒトが、私をしゃぶり、飲んだ)

 衝撃が強すぎて、受け止めきれない心が揺れる。こんな日が来ようとは、夢にも思わなかった。いまなら、彼を抱けるのではないか。いや、確実に抱ける。紋の調査のためだと言って、彼自身が乱して広げた箇所に肉欲を突き立てて、思うさま情欲を叩きつけられる。

「カヒト……体の具合は、どうだ」

「んっ、匂いを嗅いでいる最中は、すげぇたまんねぇってなったけど、いまはちょっと落ち着いてんな」

「落ち着いている?」

 うーんと首をかしげて、カヒトは自分の頬を人差し指で叩いた。

「疼いてるちゃあ、疼いてるんだけどよ。なんつうか、ちっと満足したっつうか、そこまで飢えてねぇっつうか」

 欲望の当てが外れたことを、落胆しながらホッとして、リアノは表情を引き締めた。

「魔物は、人を喰らっていた……人の精を飲んだことで、落ち着いたということか?」

「なるほどな。そうかもしんねぇな」

「ならば、おまえの体の変化は、人の精を得るためのものかもしれんな」

「ガキを作るためにケツが濡れるってぇ部分は、ハズレかもしれねぇってことか」

「だが、まだ確信は持てない」

(そうだ。その危険性があるというのに、私はなんてことを考えていたんだ)

 本来は子を宿すことのない男体が、子どもを孕めばどうなるかわからないのに、肉欲のままにカヒトを抱こうとしていた自分を恥じて、リアノは視線をそらした。

「そんなら、俺が妙な匂いをさせちまって、周囲のヤツを興奮させちまった場合は、しゃぶって呑んじまえば、お互いスッキリとマシになるってことか」

 ひとりごとめいたカヒトの言葉に、ギョッとしたリアノの胸中が凍える。

(私が特別なのではない)

 必要があれば、カヒトは部下の陰茎も口にするのだと泣きたくなった。

「まあ、あんまりしたかねぇけどよ。うっかりケツに突っ込まれたら困るしな。それより……なぁ、リアノ。俺はまだイケてねぇんだ」

 不敵な笑みを浮かべて、カヒトは己の腰のものをリアノに示した。

「ん、ああ……そちらは自分でしなかったのか」

「こっちより、ケツのが疼いてしょうがなかったからな。もう片手は、リアノのケツを掴むのに使ってたしよ」

 ニヤリとされて、リアノは顔をそむけた。網膜に自分をしゃぶるカヒトの姿がよみがえって、まともに視線を返せなかった。

(なんだよ。俺にしゃぶられたのが、そんなにイヤだったのかよ)

 ムッとしたカヒトは、ほんの少しだけ落ち込んだ。

(けどまぁ、イッたってことは、感じてたってことだからな)

 わずかでも欲情されたのだと、気を取り直す。

「今度は、リアノがしゃぶってくれよ」

「は?」

 すっとんきょうな声を出し、リアノは顔をカヒトに戻した。いたずらっぽい笑みのカヒトからは、本気とも冗談とも判断しづらかった。ザワザワと胸をさわがせながら、リアノはカヒトの言葉を待った。

「俺だって飲んだんだしよ。逆にしてくれたって、かまわねぇだろ?」

「どんな理屈だ」

「調査の一環だって」

 軽口を叩くカヒトの内心は、緊張しきっていた。冗談だと流せる逃げ道を残しつつ、本気でリアノを誘っている。

 ふたりの思惑は微妙にすれ違いながら、おなじ地点へ到達した。

「わかった」

「えっ」

「なんだ。調査の一環なんだろう?」

「お、おう……そうだ、ええと、俺はどうすりゃいい」

「寝転がって足を開け」

「ん」

 色気も素っ気もないリアノの物言いに、カヒトは素直に従った。

(冗談で言ったのだろうが)

 この際だ。味わえるのならば、存分に状況を利用しようと、リアノはベッドに上ってカヒトの膝の間に座った。

「報告は、逐一だ」

「わかってる」

 いよいよだと思うと、羞恥が湧き上がってきたカヒトは、腕で顔を隠した。

「なにをしている」

「なにって?」

「自分で脚を持ち上げておけ」

「は? なんで」

「いいから、さっさとしろ」

 しゃぶるのに、なぜ脚を持ち上げなければいけないのかと不思議になりつつ、カヒトは脚を開いた形で膝を抱えた。腰が浮いて、尻の秘部までリアノの眼前にさらされる。

「うっ」

「恥ずかしいのか?」

「そりゃあ、まあ……なぁ」

「耐えろ」

「わかってるよ」

 つ、とリアノが尻の谷を指でなぞると、カヒトはギュッと目を閉じた。指先でクルクルと濡れた秘孔の口を撫でたリアノは、小刻みに震えるカヒトの肌と、顔中を硬く閉じている表情に頬をゆるめた。

(叱られるのを待つ子どものようだな)

 強がっているのだと、リアノは思う。相談の出来る幼馴染ではあるが、恥辱を感じないということはないだろう。それを押し隠して、平然と振る舞っている。

(強い男だな、おまえは)

「んぁっ」

 秘孔に指を押し込んだリアノは、ゆっくりと指を回してカヒトの反応を確かめた。

「は、ぁ……リアノ、ぁ、う」

「どうだ」

「んっ、だんだん……奥が、あっ、ぁ」

「奥が?」

「ムズムズしてきた」

「そうか。これは、どうだ」

「ひぁっ、あ、そこっ、すげ……頭の先にビリッと……ぁあっ、くひ、ぃい」

「指を増やすぞ」

「ふぁ、あっ、リアノ……く、ぅうっ」

 奥からとめどなく液をあふれさせる箇所が、ひくついてリアノの指を奥へと誘う。熱っぽい息を吐いたリアノは、体を伏せて口を開き、カヒトの陰茎を舐め上げた。

「はふぅっ、あ、あ」

 チロチロと舌先で先端をもてあそび、クビレをなぞって鈴口を軽く吸えば、キュンッと指を呑んでいる肉壁が締まった。脈打つ媚肉と指でたわむれ、カヒトの熱を舌で味わうリアノの陰茎が硬さを取り戻す。

(突き立てたい)

 めまいがするほど強い欲求を抑え込み、リアノはカヒトを乱すことに集中した。

「は、ぁあっ、あ、リアノ……もっと、奥、ぁ、奥に……なぁ、奥ぅ、あっ、あ」

「指では、ここまでが限界だ」

「はっ、ぁ、指じゃねぇので、すりゃいいだろ……っ」

「バカな。達したら落ち着くだろう。ガマンしろ」

「ひぅうっ、あ、あ……なら、もっと強くしゃぶれよぉお」

 あられもない声を上げて首を振るカヒトの痴態にあおられたリアノの欲が、理性を溶かす。

(ダメだ、どんな危険があるかわからない行為だ)

 必死に理性を繋ぎ止め、リアノはカヒトの陰茎を口内に含んで、彼の望むとおりに上顎や頬裏で扱いた。

「んはっ、ぁ、ああ……リアノ……は、すげぇ……いいっ、ぁ、いい……、もっと、ぁ、あ……体中、すげぇ、ムズムズして、あっ、ぁ、おかしくなっちま、ぁ、あ」

 だらしなく口を開いて舌をのぞかせ、カヒトはリアノから与えられる快感に集中した。紋が消えれば、もう二度と彼と肌を合わせることなどなくなってしまう。それなら、いまのうちに記憶にしっかりと刻んでおきたい。

「あっ、ぁ、リアノ……リアノぉ」

 紋から誘う香りが発せられているのなら、陰茎を咥えているリアノの鼻に、くっきりと匂いは届いているはずだ。部下たちのように、リアノの理性も崩れてしまえばいい。体の奥の飢えた場所にリアノを迎えたい。指では届かない奥に、リアノが欲しい。

「ふぁっ、ぁ、んぁあっ、も、ぁ、リアノ……っ、くれよ、なぁ、いいからっ、ぁ、あ」

 欲しがられていると理解しているリアノは、それでも欲望を必死に抑え込んでいた。カヒトの誘いは紋に性欲を増幅させられているからだ。快感ともどかしさのせいで、理性が飛んでいるだけ。魔力にうながされて、人の精を求めてしまっているだけだ。

(カヒトが私を誘っているわけではない)

 餌を求める魔物の欲求が、カヒトの体を支配している。だから、屈してはいけない。

(くそっ)

 悪態をついたリアノは、苛立ちのままにカヒトの内壁を乱して陰茎を吸い上げた。

「ひぁあっ、あっ、は、はふぅうっ、ひ、くぅうっ、あっ、ああっ、すげ、ぇ、あああっ」

 ビクンビクンと身もだえるカヒトの脚がリアノに絡む。グイッと引き寄せられて、リアノは水音が響くほど激しくカヒトの秘孔を犯し尽した。

「ひぅうっ、あっ、ひ、ぁふぁあああっ!」

 腰を突き上げたカヒトのしぶきがリアノの口内に広がった。グッと喉を詰まらせながらも飲み干して、彼がしたように筒内のものまで吸い上げてから顔を上げると、カヒトの盛り上がった胸筋が大きく上下していた。

「ふは、はぁ……は、はぁ……は」

「落ち着いたか」

「ん……すげ……やべぇ」

「なんだ、それは。具体的に、わかりやすく報告しろ」

「めちゃくちゃ、気持ちよかった。けど、奥がやっぱ物足りねぇ」

「私の指では、届かない。あきらめろ」

「けどよぉ」

 もの言いたげに、頭を起こしたカヒトがリアノの下肢を見る。そこはまた、しっかりと大きく勃ち上がっていた。

「子どもを孕めば、どうするつもりだ」

「産んで、育てりゃいいじゃねぇか。俺の体力とリアノの頭を持つガキができりゃ、最強だろ?」

「私の体力と、おまえの頭脳かもしれないぞ」

「そいつぁ、まあ、人並みってこったな。それはそれでいいんじゃねぇか?」

「よくはない」

「なんでだよ」

「そもそも、産む前提で話をするな。呪いを解く方法を考えろ」

「俺は、専門外だからな。万が一の場合を常に考えて行動するのが、兵士ってもんだ」

「万が一の場合は、私の子を産むつもりなのか」

「いいだろ? ほかのヤツに抱かれるくれぇなら、リアノがいい」

 よろこびのあまり、気を失いそうになったリアノは下腹に力を込めてなんとか堪えた。

(ほかの誰かにされるなら、という程度のことだ。だが、私を誰よりも信頼しているのだな)

 想いを暴走させてはいけないと、さりげなく爪を足に食い込ませて痛みで冷静を取り戻す。

「最悪の場合は、付き合ってやる」

「そりゃどうも」

 気楽に答えるカヒトは、大いに落胆していた。戯れ言めいてはいたが、精一杯の告白だった。まっすぐに言って嫌悪されたくはない。だが、わずかでも好意的な反応があればという目論見は、見事に外れた。

(だよなぁ……わかっていたけどさ。やっぱ傷つくっつうか、エロいことしたんだから、期待しちまうじゃねぇか)

 行為と気持ちを完全に切り離しているらしいリアノを、カヒトは恨めしく思う。

(まあ、だからリアノは優秀なんだけどさ。そのせいで、人からは冷たいだのなんだの、言われちまってるのは損だよなぁ)

 本当は彼が優しいことを知っている。怪我人や病人を治療するとき、表情は冷たいままだが丁寧な手つきで最善の治療を施す。ささいな症状を見落とさないよう神経を張り巡らせて、的確な処置をするリアノのどこが冷淡なのだと、カヒトは彼の評価に不満を持っていた。

(俺も、患者のひとりってだけなんだろうなぁ)

 さみしくなって、体を起こしたカヒトはリアノを腕の中にくるんだ。

「なんだ」

「ん。体臭が強くなってねぇかなと思ってさ」

「紋の反応を確かめているのか」

「そ。だから、じっとしてろよ」

 腕に力を込めたカヒトは、リアノの首に顔をうずめた。サラサラとした黒髪が頬に当たってくすぐったい。

 熱い体に抱きしめられて、リアノは腕を彼の背に回すかどうかためらった。抱きしめ返す必要はない。だが、したい。すればカヒトはどう思うだろう。

(まさか、私の気持ちに気づいたりはしないだろうが)

 こちらの気持ちの抑えが利かなくなりそうで、リアノは言われた通りじっとしていた。

(抱きしめ返すくれぇ、してくれてもいいのによ。俺が、じっとしてろっつったからか?)

 物足りなさを感じたカヒトは、足でリアノの腰を引き寄せた。まだ勃ったままのリアノの陰茎の先が腹に触れる。濡れた先端が紋に触れると、肌が粟立った。

「は……紋がリアノの精液をよろこんでやがる」

「なに?」

「当たってんだろ? さきっぽ。そしたら、体が熱くなった」

「紋が直接、精を吸い取っているのか」

「たぶんな」

「ふむ……媒体を使わなくとも、紋に栄養が与えられれば問題はないということか」

「うん?」

「つまり、おまえは抱かれなくとも、紋に精をかけられれば満足をするのではないかと言っている」

「なんだそれ。ぶっかけられろってことか」

「ありていに言えば、そうだな」

「ふうん」

 唇を尖らせて、視線を斜め上に走らせたカヒトがなにかを言うのを、リアノは待った。

(どうせ、ろくなことは言わないだろうが)

「なら、匂いが出て部下が変な気分になったら、紋に向かってマスを掻けって命じればいいんだな」

 やっぱりろくなことではなかったなと、リアノは嘆息した。

「なんだよ、その顔」

「欲に取りつかれた人間が、ひとりひとり順番を守ると思うのか」

「俺の部下を甘く見るなよ」

「なら、してみればいい」

「止めねぇのか?」

「せいぜい、犯されないように気をつけるんだな」

「ちぇ。もうちいっとばかし、心配してくれてもいいだろう」

「言い出したのは、おまえだ」

「違ぇねぇ」

 カラカラと笑ったカヒトを、リアノはにらむ。

(人の気も知らずに、呑気なものだ)

 だからこそ、関係を続けていられる。冷たく、興味のないふりをしているからこそ、カヒトは無防備に体をさらけ出しているのだ。

(だが、案は見過ごせないな)

 本気でやりかねない。紋のせいで淫靡に震える体になれば、いくらカヒトでも襲いかかってくる部下たちに押さえつけられてしまうだろう。大勢の男たちに陰茎を向けられて、体中に擦りつけられ、秘孔にも口にも呑まされる姿を想像したリアノは、ハッと思いついてカヒトの腕から抜け出して机へ走った。

「えっ、リアノ? 怒ったのか」

「最悪のケースに予防線を張る」

 傍にあったタオルで手を拭ったリアノは、魔術書を取り出して該当のページを広げた。

「これなら」

 つぶやいたリアノの目には、結界についての魔術という項目が映っていた。
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