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「私、二人の矢になりたい!」
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リューイが時折、気を使って天気がいいだの雲の形がどうだのと口を開くが、アレスティは何も返さず、もそもそとサンドイッチを食べるばかりで、フェリスはだんだんと焦り始めた。
「あ、あの――」
思い切って口を開き、昨夜ほどこした刺繍を取り出す。
「これを」
ハンカチの縁に、赤い弓と青い弓が描かれたものを二枚取り出し、押し付けるように差し出した。弓には矢が無く、受け取った二人は首をかしげる。
「あの、……ええと」
何を、どう言えば伝わるのだろうかと言葉を探すのに、良いものが見つからない。二人がじっと言葉を待って見つめてくるのに耐え兼ね、考えがまとまらないままフェリスは口を開いた。
「私の父は、弓を扱っていて……。その、弓は弦の張り具合で変わるんだって口癖のように言っていて、人も、弓と弦のようなものだって……言っていたの」
膝に視線を落とし、おちつかなさげに自分の指を組んでは外すフェリスの様子に、二人は目を向け次の言葉を待った。
「二人も、弓と弦のようだと、思うの。二人と会ってから日は浅いけれど、弦が妙な具合にかかっているように感じているの」
いぶかしげにアレスティが眉をひそめ、リューイが首をかしげた。
「リューイの弓にはアレスティの弦がかかっていて、アレスティの弓にはリューイの弦がかかっているのに、それは今、たわんでいるか、かかりきっていないか。その、きちんと張れていない気がするの」
ぎゅ、と手を握りしめて顔を上げ、二人の顔を見比べて、手を伸ばす。アレスティの、リューイの手を握りしめて勇気を振り絞った。
「私、二人の矢になりたい!」
きょとん、とされた。
「フェリスは、昨日の言い争いを気にかけてくれているんだね。――ありがとう」
「何、わけのわかんねぇ事を言ってんだよ」
リューイに労られ、アレスティに呆れられて、フェリスは自分が情けなくなる。何をどういえば伝わるのかが、フェリスにはわからなかった。
「このまま、私が偽物の王女のままでも本物のように過ごしてもいいのなら、二人のどちらかを夫として生きてもいいのなら、私……。私に選択権があるのなら、アレスティの妻になりたい」
「あ、あの――」
思い切って口を開き、昨夜ほどこした刺繍を取り出す。
「これを」
ハンカチの縁に、赤い弓と青い弓が描かれたものを二枚取り出し、押し付けるように差し出した。弓には矢が無く、受け取った二人は首をかしげる。
「あの、……ええと」
何を、どう言えば伝わるのだろうかと言葉を探すのに、良いものが見つからない。二人がじっと言葉を待って見つめてくるのに耐え兼ね、考えがまとまらないままフェリスは口を開いた。
「私の父は、弓を扱っていて……。その、弓は弦の張り具合で変わるんだって口癖のように言っていて、人も、弓と弦のようなものだって……言っていたの」
膝に視線を落とし、おちつかなさげに自分の指を組んでは外すフェリスの様子に、二人は目を向け次の言葉を待った。
「二人も、弓と弦のようだと、思うの。二人と会ってから日は浅いけれど、弦が妙な具合にかかっているように感じているの」
いぶかしげにアレスティが眉をひそめ、リューイが首をかしげた。
「リューイの弓にはアレスティの弦がかかっていて、アレスティの弓にはリューイの弦がかかっているのに、それは今、たわんでいるか、かかりきっていないか。その、きちんと張れていない気がするの」
ぎゅ、と手を握りしめて顔を上げ、二人の顔を見比べて、手を伸ばす。アレスティの、リューイの手を握りしめて勇気を振り絞った。
「私、二人の矢になりたい!」
きょとん、とされた。
「フェリスは、昨日の言い争いを気にかけてくれているんだね。――ありがとう」
「何、わけのわかんねぇ事を言ってんだよ」
リューイに労られ、アレスティに呆れられて、フェリスは自分が情けなくなる。何をどういえば伝わるのかが、フェリスにはわからなかった。
「このまま、私が偽物の王女のままでも本物のように過ごしてもいいのなら、二人のどちらかを夫として生きてもいいのなら、私……。私に選択権があるのなら、アレスティの妻になりたい」
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