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「事情を、話してくれないか」

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 ――気持ちよく、させてくれよ?

 意地の悪いアレスティの声が、耳に蘇る。売女を相手にするような響きに、体が冷えた。けれど与えられたものは甘く、やわらかな愛の行為で。

(どうして)

 あれほど、優しく扱われたのだろう。

 思いながらドレスルームを出れば、タレンティの姿があった。ダイニングテーブルに、焼き菓子とお茶の用意がされてある。それが二人分であることに疑問を浮かべるフェリスを手招いたタレンティが

「メイドのフェリスと、話をしようと思ってな」

 声をかけ、フェリスは緊張に唇を引き結んだ。

「ああ、そんなに緊張をしなくていい。どういう経緯で、メイドが王女として来ることになったのかを、教えてもらいたいだけだ」

 席に着くよう促され、ダイニングテーブルに近づく。席に着くと、向かいにタレンティが座り、お茶で唇を湿らせた。

「まず、俺がアンタのことを調べようと思ったのは、馬車から降りるアンタの手を取った時だ」

 言いながら焼き菓子を勧められたが、フェリスは手を伸ばす気にはなれずに膝の上で手を握りしめて、うつむいた。

「わずかに、硬いと感じたんだ。何かの作業をしてきた手だと、思った。取るに足らないことなのかもしれねぇが、小さな疑問は早めに潰しておいたほうが良い。大きくなってからじゃあ、遅いからな」

 悪く思うなと言われ、うつむいたまま首を振る。

「すぐに、スアル王国に王女は何人いるのかを調べさせた。結果は、ひとりだ。その王女は今でも城内にいるという。そうなれば、第二王女として入ったフェリスは何者かという話になる。行商人が、アンタのことを知っていた。王女付のメイドの名前だと、な」

 間違いないかと確認をされ、ぎゅっと唇と目を固く閉じたフェリスが頭を下げる。

「ごめんなさい」

「事情を、話してくれないか」

 タレンティの声音は、あくまでも優しい。震えながら、フェリスは口を開いた。

「王女が、来るはずだったんです。出立の朝、王女の部屋に呼ばれて、国王様と女王様、王女様に労(ねぎら)われて、最後の別れだと言われて。突然に、私が身代わりとして行くのだと告げられました。そうして詳しい説明を求めるまもなく着替えをさせられて、馬車に乗せられて……、ここへ」
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