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見つめたアレスティの目に、痛みがあった。

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「だから、あんなふうに引き込まれてしまったんだね」

「ごめんなさい」

 しゅんとしてしまったフェリスに、あわてて手を振る。

「責めているんじゃないよ。むしろ、あれほど驚いてくれたことが、うれしいなって――」

「着いたぞ」

 低い庭木の間を通れば、ガラス戸が見えた。そこを開けてアレスティが二人に入るよう促す。濡れたまま足を踏み入れたリューイはそのまま浴室へ進み、入り口で足を止めてしまったフェリスに、ほらとアレスティが招き入れ、庭を背にしたソファへ座らせた。小さくクッションに納まり俯くフェリスに、困ったような苛立ちを含んだ息を吐き、頭を掻いたアレスティが、どさりと乱暴に横に座る。

「そんな、気にするなよ」

「――はい」

 答えるフェリスの声は、沈んでいる。メイドとして仕えてきた彼女は、失態には叱咤か罰が与えられることが、当たり前だった。それは意識としてあるのではなく、経験してきた結果が態度に出ているだけのことで、委縮するのは彼女にとっては自然な反応だった。けれど、アレスティには過度なものにしか、見えなかった。別の何かが、今回のことと絡んで彼女を萎縮させているのだと、思えた。

「気にしてんのか?」

「それは……。だって、私のせいでリューイを濡らして、昼食までダメにしてしまったのだから」

「そうじゃねぇよ」

 ぐい、と肩を掴まれ顎に手を添えられて上向かされる。

「敗戦国の、人質同然に送り出された王女だってことを、気にしてんのかって、聞いているんだ」

 はっとして、見つめたアレスティの目に、痛みがあった。

「アンタの父親は、戦争を仕掛けてきた。この国は迎え撃って勝利した。だからって、別にアンタの国を欲しいとは思わなかった。何故だか、わかるか」

「それは、この国が豊かだから」

 震える、掠れた声で答えたフェリスにアレスティが首を振る。

「そっちの国にも、民がいて平穏な生活をしているだろう」

 それを壊す理由は無かったのだと、アレスティが続けた。

「攻めてきた相手を打ち滅ぼして、関係のない奴らを苦しめるつもりは、無かったんだよ。ただ、この国の民の平穏があれば、それでいいんだ。もう二度と攻めかけてこないってんなら、別にアンタを寄越さなくても、納得をしていた」
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