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顎を持ち上げて瞳を重ねたアレスティがささやく。

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 ソファの傍まで来たアレスティが、リューイを見る。意味深な目をしたアレスティがリューイとは逆のフェリスの横へ腰かけた。

「なんで、コイツがこんなところで眠っているのかは知らないが……」

 フェリスの顎に手をかけ、顔を覗き込む。

「昨日よりは、マシな顔色になってるな」

「心配してくれたの?」

「青白い顔をして泣いてんのを見りゃあ、気にもなるさ」

 腰に腕が回り、戸惑うフェリスを抱き止め、顎を持ち上げて瞳を重ねたアレスティがささやく。

「国王との対面は、どうだった」

「どうって……」

 心音が早鐘のように鳴り響く。異性と、これほど近くに顔を付きあわせたことなど、フェリスは今まで一度たりとも経験をしたことが無かった。

 いや、昨日アレスティに顔を寄せられているから、二度目となる。けれど、あの時はそんなことを意識できる心の余裕など、持ち合わせていなかった。

「国王とタレンティに、対面をしたんだろう?」

「タレンティ?」

「控えていただろう。――国王の側に男が、一人」

 アレスティの声に含まれる息の量が増えていく。どきまぎとして、逃れたいのに視線に絡め取られて身動きが取れない。蜘蛛の巣にかかった蝶のように、フェリスはアレスティの紡いだ視線に捕らえられていた。

「居ただろう?」

 重ねられた問いに、わずかに顎を引いて応える。喉が渇き、唇が開いた。早まる心臓に体中が熱っぽく、意識がぼうっとしている。

(私、どうしてしまったの?)

「あの男は、王子の教育係だ。何かと、接することもあるだろうな」

 うわん、と言葉がたわんで届く。何かの催眠にかかったように、フェリスは言葉を発することが出来なくなっていた。

「フェリス」

 ほとんどが息の、音の無い声で名を呼ばれ鼻が触れる。自然と瞼が下り、魂ごとアレスティに委ねかけた瞬間に

「ああっ!」

 大きな声がして、我に返った。
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