妖育―忠義の果てにー

水戸けい

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貫く

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 ◇

 休憩しようとサヒサに誘われ、トゥヒムが通されたのは覗き窓のある部屋だった。隣室からは切れ切れに嬌声が響いてくる。

 ソファに腰かけたトゥヒムの前には、色とりどりの果物や焼き菓子が並べられ、従僕が薫り高い紅茶を用意していた。それを視界に入れるトゥヒムの意識は、背後から流れてくるすすり泣きに似た淫らな声に奪われていた。

「ずっと頭を使っていたから、疲れたのではないかね」

 サヒサが声を響かせて、トゥヒムにレモンタルトを勧める。トゥヒムはあいまいな笑みで礼を言い、受け取った。

 ここに通されたのは、隣室の嬌宴を自分に見せるためだとトゥヒムはわかっていた。耳に届く声はリュドラーのものだ。ティータイムに間に合うように、リュドラーは誰かに肌身を暴かれていたらしい。

(昨日とおなじだ)

 ゾクリとトゥヒムは身を震わせた。従僕の手に体を拓かれ、乱されていたリュドラーの姿が脳裏に浮かぶ。すぐにでも首を伸ばして覗き窓に顔を当てたい気持ちを抑え、トゥヒムはカップに口をつけた。

(落ち着くんだ、トゥヒム。サヒサは私を試しているのだ。どれほどの余裕をもって、事態に対応できるかを)

 ゆったりとした呼吸を意識し、隣室を意識すまいと努めてみても、ひときわ高く甘い悲鳴が聞こえると心が揺れる。身をこわばらせて堪えるトゥヒムの若い体は、欲望に素直な反応を示した。硬く凝ったものが、ごまかしようがないほどズボンを押し上げる。

「頭を使った後は、無心になって遊ぶことが肝要。そうは思わないかね、トゥヒム」

「それは――」

「なにごとも、バランスが大切だ。どちらに偏っても、不具合が生じてしまう。その配分は人によってさまざまだが、いまの君はお茶を楽しむよりも、無心になって体を使うほうが先のようだな」

 太ももに手を置かれ、トゥヒムはカッと赤くなった。

「いい反応だ、トゥヒム。若いというのはすばらしい」

 サヒサの手が太ももを滑り、トゥヒムの盛り上がりをそっと包んだ。

「んっ」

「ここが硬くなりすぎる前に、隣室に行くとしようか。――可憐なさえずりを聞きながらお茶をしようと思ったのだが、君はすぐにも特別な菓子を味わいたいらしい」

 下唇を噛んで、トゥヒムは戯言を聞きながした。否定をするには反応をしすぎているし、肯定ができるほど露骨な気分にはなれない。

 けれどトゥヒムは、サヒサの提案を心から喜んでいた。リュドラーがどのような姿で、どんな相手にどこを責められ、あれほど淫靡で艶やかに啼いているのかをはやく知りたい。

 急いているとは知られたくなくて、サヒサの誘いにゆっくりと立ち上がったトゥヒムは隣室へと導かれた。

「さあ、トゥヒム」

 ドアをくぐったトゥヒムは、想像以上の光景に絶句した。

  首輪に紐を着けられたリュドラーが、数名の中性的な青年に肌身をもてあそばれている。首輪の紐を握っているのは、ガラス細工のような目をしたティティだった。美しい青年たちはうっとりと、リュドラーの鍛え抜かれた肉体に指を這わせ、舌を伸ばし、己の欲をこすりつけている。汗と淫欲の液にまみれたリュドラーは口を開いて舌を伸ばし、恍惚に瞳を潤ませて啼いていた。

「なんとも美々しい光景だとは思わないかね」

 サヒサに腰を引き寄せられて、トゥヒムはソファに導かれた。四つん這いにされたリュドラーはビクビクと怒張したものを震わせて、先走りを床に垂らしながら腰をくねらせている。

「は、ぁあ、あっ、あ、あ」

 舌を伸ばして求めるリュドラーの口に、青年のひとりが己の欲を含ませた。するとリュドラーはうまそうにしゃぶり、尻を突き出す。別の青年がリュドラーの尻に唇を寄せ、指を秘孔に押し込んで遊ぶと、別の青年も真似をして、楽しそうにリュドラーの太ももに欲熱をこすりつけた。

「彼はじつに、呑み込みがはやい。もう、あれほどうまく口淫ができるようになっている」

 ティティがチラリとトゥヒムを見た。なんの感情も浮かべないその視線に、得体のしれない不安を感じたトゥヒムは頬をひきつらせた。

「ティティ」

 サヒサが呼べば、ティティは紐を手にしたまま滑るようにやってきて、膝をついた。

「君の生徒の具合はどうだね」

「ご覧のとおりです、サヒサ様」

「どのような処置をほどこした?」

「自覚が足りないようでしたので、それを深めさせましたら、あのように」

 平坦な声で、ティティがリュドラーの仕上がりを示す。サヒサはゆったりと首を縦に動かした。

(いったい、どんな方法でリュドラーをあのようにしたのか)

 詳しく聞きたいと、トゥヒムはティティを見た。するとティティの瞳に、チラリといたずらめいた光が走った。見間違いかとまばたきをする間にその光は消え失せて、ティティはまた人形としか思えない無表情に戻っていた。

(あれは……)

「さあ、トゥヒム。君のかわいいリュドラーは、すっかり準備が整っているらしい。やはりはじめては、飼い主がしてやらねばならないだろう」

 その声を合図に、リュドラーにたわむれていた青年たちは手を止めて立ち上がった。

「おまえたちは、それぞれで遊んでいたまえ」

 サヒサの命に、青年たちは手足を絡ませ、濃艶な遊びをはじめた。衝撃的な光景に、トゥヒムは息を呑む。

「あれが、性奴隷の別の使い方だ。ああいうふうにショーをさせて、自らは手を触れない、という趣向を好む者もいる。もてなす相手に合わせて使い分けることも大切だよ、トゥヒム」

 どう返事をしていいものか、トゥヒムは困った。商人というものは、ああいう光景にも平然としていなくてはならないものなのか。商売の知識だけでは成り立たない世界なのか。

「トゥヒム様」

 ティティに呼ばれ、トゥヒムは我に返った。ティティが感情のない笑みを浮かべて、トゥヒムの手に紐を渡す。受け取ったトゥヒムは、紐のほかに小さな紙片があることに気がついた。手を開こうとすると、グッとティティに握られる。

(なんだ――?)

「さ、紐を引いてリュドラーをお呼びください」

 ティティの言葉にうなずいて、トゥヒムは紐を引きつつ、サヒサの目に隠れてズボンのポケットに紙片を入れた。紐を引かれたリュドラーが、淫靡に濁った瞳でトゥヒムを見つめながら這ってくる。

「っ!」

 その姿に、トゥヒムは思わず立ち上がった。背筋に劣情という名の電流が走り、トゥヒムの心臓をキリキリと苛む。

「ああ、リュドラー」

 股間はズボンを突き破りそうなほど硬くなり、獰猛な欲情が腰のあたりにうずまいた。

「トゥヒム様」

 かすれた声で、リュドラーはトゥヒムを求めた。興奮に頬を染めたトゥヒムの清らかな瞳が艶めいている。すらりとした体に似つかわしくないほど力強く隆起している下肢を見て、リュドラーは飢えを覚えた。

「命じたまえ、トゥヒム」

 サヒサに言われ、トゥヒムはとまどった。なにをどう命じるのかがわからない。

「わ、私は……」

 足元にペタリと座ったリュドラーを見下ろし、トゥヒムは渦巻く欲望に混乱した。これほど淫靡で無防備なリュドラーに、なにをどう命ずればいいのか。性交経験の乏しいトゥヒムは、自分がなにを望んでいるのか把握しきれなかった。

「メイドに処理をさせるばかりで、ほかにはなにも知らないんだったな。――ならば、自分が変わりに命じてあげよう。さあ、トゥヒム。リュドラーの体はどこもかしこも準備が整っている。ティティがそのように仕上げてくれた。あとは君が、この甘く狂おしい菓子を肉体の望むまま、むさぼっていいのだよ。彼の口で慰められたいかね。それとも、彼を思うさま貫き、突き上げたいかね」

「貫きたい」

 思うよりも先に、トゥヒムの唇から望みがあふれた。

「ほう?」

 さも愉快だと言わんばかりに、サヒサが片方の眉を持ち上げる。

「だ、そうだ。リュドラー。君の主人に背を向けて、尻を持ち上げたまえ」

 リュドラーはまっすぐにトゥヒムを見上げ、ほほえんだ。心臓が破れそうなほど鼓動が高まる。ティティに拓かれ、媚肉と化した部分にトゥヒムの情熱を受け入れる。幼少のころから守り育ててきた相手に、犯される。その事実に興奮する心を慈しみの微笑に変えて、リュドラーはサヒサに命じられたポーズを取った。

 肌を震わせ尻を突き出すリュドラーに、トゥヒムはめまいを覚えた。興奮のあまり気を失ってしまいそうだ。身動きの取れないトゥヒムの腰に、ティティの手が伸びる。ベルトを外され、下着ごとズボンをおろされたトゥヒムは、そっと尻を押されて前に出た。

「さあ、彼の身も心も文字通り、君のものにしてしまうがいい」

 笑いに震えたサヒサの声は、さながら悪魔のささやきだった。耳奥にまで響く心音に背中を押され、トゥヒムはリュドラーの尻を掴んで開いた。ヒクヒクと動くちいさな花が、そこにある。ティティがトゥヒムの陰茎に手を添えて、先端をリュドラーの秘孔にあてた。リュドラーがビクリと震え、先端をかすめた刺激にトゥヒムがうなる。

「準備は整っております。どうぞ、ご随意に」

 ゴクリとつばを飲み込んで、トゥヒムはリュドラーを見た。こんなにちいさな場所に入るのだろうか。

「あっ、ああーっ!」

 高い声に驚いて、トゥヒムは顔を上げた。意識の外にあった青年たちの姿が目に入る。いまの声は、ある青年が別の青年に突き上げられた叫びだった。しっかりと繋がっている姿を見て、トゥヒムは唇を引き結ぶ。

(入るのか)

 あんなふうに、私とリュドラーは繋がるのか。そう思うと、心がとろけそうに熱くなった。身も心も君のものに、というサヒサの声が頭の中に鳴り響く。

「リュドラー」

 トゥヒムはつぶやき、ひと息に己の騎士であり性奴隷でもある男を肉欲で貫いた。
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