妖育―忠義の果てにー

水戸けい

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導き

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 ティティが身をかがめる。呼気が絡むほどに顔が近づき、リュドラーは彼の目の奥をじっと探った。ティティの瞳には微笑と哀情があった。

「今夜、リュドラーは大勢の性奴隷と会うことになるよ。その前に、君の体の下ごしらえをしておかなくちゃならない」

「下ごしらえ?」

「そう。――本当なら、覗き窓のある部屋でしなくちゃいけないんだけど、君と内緒話をしたかったからね」

 軽く唇をつつかれても、リュドラーは身じろぎすらもしなかった。ティティはリュドラーの唇に指でたわむれながら、言葉を続ける。

「それに、君のためでもあるんだよ」

「俺のため?」

「そう。君のためということは、君の飼い主のためにもなる」

「もったいぶらずに言ってくれ」

 彼への警戒を解いていることに、リュドラーは気づいていなかった。棘も懐疑的響きもないリュドラーの声に、ティティの目尻が下がる。

「僕はキレイなものが大好きなんだ。だから、君たち主従のこともキレイなままでいてほしいと思ってる。これは僕のためにもなるんだよ」

「だから、なにが言いたい」

「僕の声に耳をかたむけて。そして、それに身をゆだねるんだ。僕は君が好きだよ、リュドラー。だから、男に抱かれる、というものがどういうことなのか、僕が丁寧に教えてあげる」

 眉をひそめたリュドラーは、軽く鼻先に口づけられてこぶしを握った。手首に絹のリボンの感触を感じつつ、ティティの言葉を吟味する。

 男に抱かれる、という覚悟が足りていないと言いたいのか。たしかに実感としてはまだ理解できていない。だから悩み、繰り返し自分に言い聞かせていたのだと、さきほど気がついたところだ。それをティティは見抜いていたということか。そしてその覚悟を確固たるものにするために、なにかをすると言いたいんだな。

 リュドラーの顔を、ティティの両手がやさしく包む。額を重ねられ、リュドラーは間近にあるティティの瞳に映っている自分を見た。

「大丈夫。僕を信じて、なにもかもをゆだねるんだ。いきなりほかの性奴隷たちの手を感じるよりも、僕とここで体の準備をしておいたほうがずっといいよ。ね、リュドラー」

 ちいさな子どもに接するようなティティの声音に、リュドラーは諦めを吐き出した。

「俺は、どうすればいい」

「ただ、僕のするにまかせて、声を聞いて。それだけでいい。それが大切なんだ。意地を張らずに、素直に自分の反応を受け入れるんだよ」

 ティティの唇がリュドラーの額に触れる。リュドラーは目を閉じて、ティティの手と唇に意識を集中した。やわらかなティティの唇は顔中に触れて首筋に落ち、鎖骨を滑る。手は胸筋の輪郭をなぞり、内側に包むように揉みながら親指で乳首を擦った。

「……っ」

「声は、素直にぜんぶ出して」

 耳奥に吐息を注がれて、リュドラーの腰が震えた。耳朶を舌でなぶられて、胸を手のひらと指でやわやわと刺激され、皮膚の内側に熾火に似た官能の熱が熾る。

「――は、ぁ」

「そう、それでいい」

 唇を開き、口内にたまった熱を吐き出すと、蠱惑的な声で褒められた。ゾクリと下肢に震えが走る。徐々に頭を持ち上げていく陰茎を、ティティは尻で踏みつけた。

「んっ、う」

「僕たちは、こうやって上に乗って受け入れなきゃいけないこともある。……リュドラー。君は男との経験はある?」

 ちいさく首を横に動かしたリュドラーは、ティティにそれをされるのかと目を開けた。目尻にキスをされ、乳首をつままれる。

「ふっ、んぅ……」

「ふふ、そう。そうやって、声を出して」

 麻薬のように、ティティの声がリュドラーの意識に沁みる。耳奥を舌で愛撫されながらそそがれる声は、リュドラーの理性を心地よくとろかせた。

「ああ、ほら。こんなに尖って自己主張してる。感じている証拠だよ」

「あ、あ――、んぅ」

 指の腹で擦られる乳首は、これ以上ないほど硬く凝っていた。淡く甘い快楽が、皮膚と肉の間をさざ波のように駆け抜けて、リュドラーの全身を支配する。陰茎はすっかり起き上がり、ティティの尻の谷に挟まれていた。

「ふふ、かわいいよ、リュドラー」

 乳首にあったティティの手が、リュドラーの陰茎に触れた。ハーネスを外され、そっと指で包まれたリュドラーは、うっとりと吐息を漏らした。

「は、ぁ、ああ……」

 ティティはリュドラーの熱をゆるゆるとしごきながら、シャツごしに尖った乳首を口に含んだ。舌先ではじかれ、軽く歯を立てられてリュドラーがうめく。

「っは、あ、ああ」

「リュドラー。君はいま、僕に抱かれているんだ。ねえ、それを意識して」

「ふっ、ぁ、あ」

 ギシ、と手首を縛るリボンが音を立てた。

「君は僕に身をゆだねるしか道はないんだ。――君に自由はない。ただ僕に支配され、受け入れることだけに集中して」

「……俺は」

 かすれたリュドラーの声は、ティティの手のひらにふさがれた。そのまま指で口内を乱される。

「トゥヒムのことは忘れて。――ううん、違うな。これはトゥヒムの望んだことだと思うんだ。君はトゥヒムの命で僕に抱かれている。君は、間接的にトゥヒムに抱かれているんだ」

 ぞわ、とリュドラーは総毛立った。

「あっ、あ……」

「口の中が大好きな人はいるんだけど、君もそうみたいだね」

 感度の上がった自分にとまどうリュドラーに、ティティがやさしく語りかける。脇腹を撫でられただけで、嬌声が湧き上がるほど過敏になったリュドラーの肌を、ティティは時間をかけてじっくりと、隅々まで撫でまわした。

「はっ、ぁ、ああ、あ……、あ、ふ、ぅう」

 屹立したリュドラーの陰茎から先走りがトロトロと流れて、下生えを濡れ光らせる。ティティはほほえみ、瞳を淫らにうるませたリュドラーから離れた。

「――?」

 ベッドわきのチェストから小瓶を取り出すティティを、リュドラーは淫靡に滲んだ視界で追った。ティティの手にある瓶は、リュドラーの部屋のチェストにあったものとおなじだった。

「膝を立てて、脚を開いて。できるよね? リュドラー」

 頬を上気させたリュドラーは、その小瓶がなにのためのものなのか、わからぬままに従った。

「いい子だね、リュドラー」

 ニッコリとしたティティが、リュドラーの頬に唇を寄せる。

「でも、もっと脚を開いてほしいな。ああ、でも……、そうか。ねえ、リュドラー。君は体がやわらかい?」

「なぜ、そんなことを聞く」

「これからする準備に、大切なんだよ。ねぇ、どう?」

「体が硬ければ、ケガをしやすくなるんでな」

「つまり、やわらかい、ということだね。それなら――」

 手首のリボンを外されて、リュドラーは疑惑の目でティティを見た。これで行為が終わりだとは思えない。

「肩につくくらいまで、膝を上げられる?」

 リュドラーは無言で右膝を肩まで持ち上げた。ティティはリュドラーの腕を掴んで膝裏に通すと、手首にリボンをかけなおした。

「もう片足も」

 促され、リュドラーはためらった。

「ねえ、リュドラー。トゥヒムに望まれても、君はためらうの?」

「……それは」

 視線を泳がせるリュドラーの迷いを、ティティはやんわりとなだめる。

「性奴隷の奉仕は、相手が誰であろうと飼い主が望んだことなんだ。――それを覚えておかなくちゃいけないよ」

 ゴクリと唾を飲み込んで、リュドラーは目を閉じる。

「君は性奴隷になると決めたんだろう? リュドラー」

 その通りだと、リュドラーは己に言う。

(俺は幾度、覚悟を新たにするつもりだ? サヒサの不興を買うことになれば、トゥヒム様はどうなる。俺は、なんのために身を捧げると誓った? すべてはトゥヒム様の未来のため。それは俺のなによりの望みでもある)

 ――君はトゥヒムの命で僕に抱かれている。君は、間接的にトゥヒムに抱かれているんだ。

 ティティの言葉を反芻し、リュドラーは左膝を持ち上げた。そちらも右とおなじにされたリュドラーは、尻をわずかに浮かせる恰好となった。

「目を開けて、リュドラー。自分の姿を見てごらん?」
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