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第5章 実行と収穫
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草木を揺らす風に黒髪を梳かれながら、カナミがのんびりと木陰で休んでいると、足早に近づいてくる人影が見えた。
金色にたなびく長い髪とゆるみのない服装、きびきびとした挙措から誰なのかを察して、カナミは立ち上がった。
予想通り近づいてきたのはラチェットで、カナミの背筋が思わず伸びる。じっと立って彼が近づいてくるのを待ちながら、パンデイロかチェレスタがいてくれたらいいのにと考えた。ラチェットがここに来る用件は、ひとつしか思いつけない。
「聞きたいことがあります」
寸分の隙もない、鋭くまっすぐな声音にカナミの喉がゴクリと動く。
(大丈夫。なにも悪いことはしていないんだもの)
むしろクラベスのためを思ってしたのだから、堂々としていればいい。よけいなお世話だと言われても、反論するだけの下地や説明は胸の中にある。
カナミは必要以上に胸を張って、ラチェットと向き合った。
「なんですか」
「その様子だと、私の要件は察しているみたいですね」
ラチェットの視線が鋭さを増し、カナミは心臓に切っ先を突きつけられた気になった。彼の言葉や視線は抜き身の白刃のように、カナミの心に狙いを定めている。カナミの背中に冷たい汗が流れた。
「クラベスから、提案をされたんですか」
「提案というあいまいなものではありません。決定事項として、会議の場で発表なされました。――私には、ひと言の相談もなしにです」
眉を吊り上げるラチェットに、カナミは半歩後ずさりした。
(こわい……、けど)
ラチェットに相談もせずに発言したということは、それだけクラベスは乗り気だということだ。
(私の気持ちが通じたんだ)
カナミはうれしくなった。
「それで、決定したんですか」
王の発言がそのまま計画の実行になるものだと思ったが、ラチェットは嘆息しながら首を振った。
「賛成をしている人間と、反対の人間と……。話がまとまらないので、休憩をはさんで考えをまとめ、改めて会議を続けることになりました」
「じゃあ、いまは休憩時間なんですね」
「ええ。――クラベス様はパンデイロに話があるとおっしゃるので、私はあなたに話を聞きに来たのです」
「どうして……?」
「それは、あなたがよくご存じのはずだ」
わずかに低くなったラチェットの声に、カナミの心臓は恐怖と不安で押しつぶされた。
(大丈夫、大丈夫)
彼がこういう態度でいるのは、心の底からクラベスを案じているからだと知っている。こちらも気持ちはおなじだと、カナミは自分を奮い立たせた。
「私がクラベスに提案をしたって思っているんですね」
「ほかにクラベス様をそそのかせる相手を、私は知りません」
「ラチェットさんが知らないだけかもしれませんよ」
「私がどれほどクラベス様と共にあるのか、あなたは知らない」
切りつけるような鋭い語気に、カナミは胸の前で手を握った。
(負けられない。――私だって、クラベスを助けたいんだから)
カナミは逃げ出したがる脚に力を込めた。
「ずっと近くにいるからこそ、わからなくなることだってあると思います!」
「……なにが言いたいのです?」
「クラベスに聞きました。悩んでいることがあるって。……ラチェットさんも知っていますよね。どんなことで、クラベスが苦しんでいるのか」
「当然です」
間髪入れぬ肯定に、カナミは前に出た。
「だったら、それをどうにかしたいと思っていますよね」
「それが今回のことと、どう関係があるのです」
「私、パンデイロさんに町に連れて行ってもらいました」
「知っています。そのために私は、夕刻までクラベス様が執務室から出ないよう、気を配りましたから」
「そのときに、町の人たちがクラベスをどう思っているかを聞いたんです」
「――それで?」
冷ややかに見下ろされ、どうしてわからないのとカナミは歯がゆくなった。
「パンデイロさんから、どうだったか聞いていないんですか」
「聞きました」
「だったら」
カナミは思い切りラチェットをにらんだ。
「その声をクラベスに届けたいと思いましたよね」
「ええ」
「だから、お祭りの話をしたんです。クラベスが直接、町の人たちの声を聞けるようにしなきゃと思って」
「ちょっと待ってください」
ラチェットが片手をカナミに向け、もう片手でこめかみを抑える。
「つまり、今回の祭りの計画は、クラベス様のお悩みを解決するための提案であって、あなたが郷里に戻るために画策したものではない、ということですか」
「えっ」
ポカンとしたカナミに、やれやれとラチェットが首を動かす。
「私はてっきり、あなたがクラベス様を置いて帰ろうとしているのかと」
「そんな……。どうしてそんなふうに考えたんですか」
「あなたがこちらへ流れ着いたのは、地元の祭りが原因とうかがいました。それを再現し、もとの場所へ帰ろうと考えているのかと」
まったくの慮外だと、カナミは首を振って否定した。そんな考えはすこしも持っていない。予想外の疑いに、カナミはうろたえた。
「だから、怖い顔をしていたんですか」
「クラベス様は、あなたが来てから明るくなられた。表面的にはお変わりなくあらせられるので、誰もそのあたりに気づいてはいないでしょうが」
言外に「自分だけはわかっている」と匂わせられて、ずいぶんな自信家だなとカナミは吹き出す。
「はじめ、私をお城に連れて帰るの、すっごくイヤがっていませんでした?」
「どこの馬の骨かもわからない相手を城の奥深くに入れるなど、どのような災いがあるかしれませんからね。当然でしょう」
それもそうだとカナミは納得する。
「ですがあなたは害になるどころか、クラベス様のお心をなぐさめる役に立っています。なにより贅沢を好まず、貴金属をねだることも寵愛を理由に権力を振りかざすこともしない」
「私にとっては、充分すぎるくらい贅沢をさせてもらっています」
「カバサから聞きました。向こうでは、御用聞きをしていたそうですね」
向こうという言い方がおかしくて、カナミはちょっと笑った。
「なんですか」
ラチェットの眉間にシワが寄る。
「いえ。――なんか、遠い場所から来たんだなぁって、改めて思っただけです」
怪訝に片目をすがめるラチェットに、カナミは「それで」と会話を戻した。
「お祭りだったらクラベスが変装をして町中に出ても、大丈夫なんじゃないかなって思ったんです。パンデイロさんに案内してもらって、私がしてもらったようにクラベスの評判をさりげなく聞いたりして。……それに、町の活気に触れたらクラベスも自分がいいことをしてるんだなって気分になると思いますし。あと、お年寄りって、孫とかがはしゃいでいたら、にこにこするなぁって。私の知っている人は、すくなくともそうなんです。それで、ええと……、クラベスが王様なのはイヤだって言っている人は、お年寄りが多いって聞いたんで、自分たちが子どものころに体験したことが復活したってなったら、なつかしくてうれしくなって、それでクラベスの評価が上がったらいいなぁっていうか」
なんて説明がへたくそなのだろうと、カナミは自分が情けなくなった。あれこれと筋道を立てて説明をするために考えていたはずなのに、ちっとも理路整然と説明ができていない。これじゃあ子どもの言い訳みたいだと、カナミは落ち込んだ。
「つまり、祭りを開催することで旧態にこだわる頭の固い連中を遠回しに説得し、かつ民の喜びをクラベス様に見せるという計画なのですね」
端的に要点を突かれて、喜んでいいのか情けないとへこんでいいのか、カナミは複雑な心地になった。
「そうです」
ふむ、とラチェットが思案顔になる。
「この国に、過去そのような祭りがあったと知っていたのですか」
「スルドさんから聞きました。そういうお祭りがあったって、スルドさんはお父さんから聞いたって」
「そうですか。それで、スルドはどこに?」
「奥の畑です」
だからカナミは食堂ではなく庭でぼんやり過ごしていたのかと、ラチェットは得心したらしかった。
「――誰の入れ知恵ですか」
「えっ」
「なにもないところから、あなたがひとりで考えついたわけではないでしょう」
記憶を見通すように目を細められ、カナミはうろたえた。思いついたのはカナミ自身だが、クラベスに提案するための計画はチェレスタやパンデイロと相談をして生まれたものだ。
(パンデイロさんたちが、怒られちゃったらイヤだし)
「私の発案です。町の市場がお祭りみたいだったから、それで」
疑うように首をかしげたラチェットに見つめられ、カナミはドキドキした。ラチェットの瞳は空のように澄んだ青色で、ウソなど簡単に見透かされそうな気がする。
「そうですか。そうおっしゃるのなら、そうなのでしょう。たしかに、ちょっとした思いつきなら誰に相談しなくとも簡単に提言できるでしょうからね」
ホッとしたカナミは、そうそうと首を動かす。
「市場のにぎわいを見たら、お祭りを思い出しちゃったって言っただけです」
「ほう」
きらりとラチェットの目が光る。
「あなたが城から出たことは、クラベス様には内密のはず。それを自ら告白なさったんですか」
しまったとカナミは頬をひきつらせた。ラチェットが片頬を笑みにゆがめる。
「まあ、いいでしょう。――あなたの目論見は、クラベス様のためであるとわかっただけでも、よしとします」
「それじゃあ、ラチェットさんも賛成してくださるんですね」
「ええ。あなたが己のためにクラベス様をそそのかしたわけではないと知って、安堵しました。心底あなたを信用しているわけではありませんが、クラベス様のためになるのであれば、あなたの存在を認めることにいたします。……この計画の成功の結果、婚儀をおこなうという運びになったとしても」
ぱ、とカナミの頬が赤くなる。
(そういえば、ラチェットさんに止められているから私とは繋がらないんだって、クラベスは言っていたっけ)
ラチェットがふたりの婚儀を認めるということは、誰も知らないふたりの行為の隔たりを消すということになる。
カナミの赤面の意味をわかっているのかいないのか、ラチェットが目元をなごませた。
「祭りが成功した場合、間を置かずにあなたをクラベス様の妻として、正式に人の前に出しましょう。古き言い伝えの通りに、神がクラベス様のもとへ遣わした者が支えていたとなれば、クラベス様の支持は盤石なものとなりますからね。ですがそれまでは、不用意にひと目につかぬよう、これまで通り行動をなさってください。――いいですね」
「はい」
素直にカナミがうなずけば、それではとラチェットが足早に去っていく。その背中を見送りながら、どうか会議で祭りの開催が決定しますようにと、カナミは胸元で指を組んだ。
金色にたなびく長い髪とゆるみのない服装、きびきびとした挙措から誰なのかを察して、カナミは立ち上がった。
予想通り近づいてきたのはラチェットで、カナミの背筋が思わず伸びる。じっと立って彼が近づいてくるのを待ちながら、パンデイロかチェレスタがいてくれたらいいのにと考えた。ラチェットがここに来る用件は、ひとつしか思いつけない。
「聞きたいことがあります」
寸分の隙もない、鋭くまっすぐな声音にカナミの喉がゴクリと動く。
(大丈夫。なにも悪いことはしていないんだもの)
むしろクラベスのためを思ってしたのだから、堂々としていればいい。よけいなお世話だと言われても、反論するだけの下地や説明は胸の中にある。
カナミは必要以上に胸を張って、ラチェットと向き合った。
「なんですか」
「その様子だと、私の要件は察しているみたいですね」
ラチェットの視線が鋭さを増し、カナミは心臓に切っ先を突きつけられた気になった。彼の言葉や視線は抜き身の白刃のように、カナミの心に狙いを定めている。カナミの背中に冷たい汗が流れた。
「クラベスから、提案をされたんですか」
「提案というあいまいなものではありません。決定事項として、会議の場で発表なされました。――私には、ひと言の相談もなしにです」
眉を吊り上げるラチェットに、カナミは半歩後ずさりした。
(こわい……、けど)
ラチェットに相談もせずに発言したということは、それだけクラベスは乗り気だということだ。
(私の気持ちが通じたんだ)
カナミはうれしくなった。
「それで、決定したんですか」
王の発言がそのまま計画の実行になるものだと思ったが、ラチェットは嘆息しながら首を振った。
「賛成をしている人間と、反対の人間と……。話がまとまらないので、休憩をはさんで考えをまとめ、改めて会議を続けることになりました」
「じゃあ、いまは休憩時間なんですね」
「ええ。――クラベス様はパンデイロに話があるとおっしゃるので、私はあなたに話を聞きに来たのです」
「どうして……?」
「それは、あなたがよくご存じのはずだ」
わずかに低くなったラチェットの声に、カナミの心臓は恐怖と不安で押しつぶされた。
(大丈夫、大丈夫)
彼がこういう態度でいるのは、心の底からクラベスを案じているからだと知っている。こちらも気持ちはおなじだと、カナミは自分を奮い立たせた。
「私がクラベスに提案をしたって思っているんですね」
「ほかにクラベス様をそそのかせる相手を、私は知りません」
「ラチェットさんが知らないだけかもしれませんよ」
「私がどれほどクラベス様と共にあるのか、あなたは知らない」
切りつけるような鋭い語気に、カナミは胸の前で手を握った。
(負けられない。――私だって、クラベスを助けたいんだから)
カナミは逃げ出したがる脚に力を込めた。
「ずっと近くにいるからこそ、わからなくなることだってあると思います!」
「……なにが言いたいのです?」
「クラベスに聞きました。悩んでいることがあるって。……ラチェットさんも知っていますよね。どんなことで、クラベスが苦しんでいるのか」
「当然です」
間髪入れぬ肯定に、カナミは前に出た。
「だったら、それをどうにかしたいと思っていますよね」
「それが今回のことと、どう関係があるのです」
「私、パンデイロさんに町に連れて行ってもらいました」
「知っています。そのために私は、夕刻までクラベス様が執務室から出ないよう、気を配りましたから」
「そのときに、町の人たちがクラベスをどう思っているかを聞いたんです」
「――それで?」
冷ややかに見下ろされ、どうしてわからないのとカナミは歯がゆくなった。
「パンデイロさんから、どうだったか聞いていないんですか」
「聞きました」
「だったら」
カナミは思い切りラチェットをにらんだ。
「その声をクラベスに届けたいと思いましたよね」
「ええ」
「だから、お祭りの話をしたんです。クラベスが直接、町の人たちの声を聞けるようにしなきゃと思って」
「ちょっと待ってください」
ラチェットが片手をカナミに向け、もう片手でこめかみを抑える。
「つまり、今回の祭りの計画は、クラベス様のお悩みを解決するための提案であって、あなたが郷里に戻るために画策したものではない、ということですか」
「えっ」
ポカンとしたカナミに、やれやれとラチェットが首を動かす。
「私はてっきり、あなたがクラベス様を置いて帰ろうとしているのかと」
「そんな……。どうしてそんなふうに考えたんですか」
「あなたがこちらへ流れ着いたのは、地元の祭りが原因とうかがいました。それを再現し、もとの場所へ帰ろうと考えているのかと」
まったくの慮外だと、カナミは首を振って否定した。そんな考えはすこしも持っていない。予想外の疑いに、カナミはうろたえた。
「だから、怖い顔をしていたんですか」
「クラベス様は、あなたが来てから明るくなられた。表面的にはお変わりなくあらせられるので、誰もそのあたりに気づいてはいないでしょうが」
言外に「自分だけはわかっている」と匂わせられて、ずいぶんな自信家だなとカナミは吹き出す。
「はじめ、私をお城に連れて帰るの、すっごくイヤがっていませんでした?」
「どこの馬の骨かもわからない相手を城の奥深くに入れるなど、どのような災いがあるかしれませんからね。当然でしょう」
それもそうだとカナミは納得する。
「ですがあなたは害になるどころか、クラベス様のお心をなぐさめる役に立っています。なにより贅沢を好まず、貴金属をねだることも寵愛を理由に権力を振りかざすこともしない」
「私にとっては、充分すぎるくらい贅沢をさせてもらっています」
「カバサから聞きました。向こうでは、御用聞きをしていたそうですね」
向こうという言い方がおかしくて、カナミはちょっと笑った。
「なんですか」
ラチェットの眉間にシワが寄る。
「いえ。――なんか、遠い場所から来たんだなぁって、改めて思っただけです」
怪訝に片目をすがめるラチェットに、カナミは「それで」と会話を戻した。
「お祭りだったらクラベスが変装をして町中に出ても、大丈夫なんじゃないかなって思ったんです。パンデイロさんに案内してもらって、私がしてもらったようにクラベスの評判をさりげなく聞いたりして。……それに、町の活気に触れたらクラベスも自分がいいことをしてるんだなって気分になると思いますし。あと、お年寄りって、孫とかがはしゃいでいたら、にこにこするなぁって。私の知っている人は、すくなくともそうなんです。それで、ええと……、クラベスが王様なのはイヤだって言っている人は、お年寄りが多いって聞いたんで、自分たちが子どものころに体験したことが復活したってなったら、なつかしくてうれしくなって、それでクラベスの評価が上がったらいいなぁっていうか」
なんて説明がへたくそなのだろうと、カナミは自分が情けなくなった。あれこれと筋道を立てて説明をするために考えていたはずなのに、ちっとも理路整然と説明ができていない。これじゃあ子どもの言い訳みたいだと、カナミは落ち込んだ。
「つまり、祭りを開催することで旧態にこだわる頭の固い連中を遠回しに説得し、かつ民の喜びをクラベス様に見せるという計画なのですね」
端的に要点を突かれて、喜んでいいのか情けないとへこんでいいのか、カナミは複雑な心地になった。
「そうです」
ふむ、とラチェットが思案顔になる。
「この国に、過去そのような祭りがあったと知っていたのですか」
「スルドさんから聞きました。そういうお祭りがあったって、スルドさんはお父さんから聞いたって」
「そうですか。それで、スルドはどこに?」
「奥の畑です」
だからカナミは食堂ではなく庭でぼんやり過ごしていたのかと、ラチェットは得心したらしかった。
「――誰の入れ知恵ですか」
「えっ」
「なにもないところから、あなたがひとりで考えついたわけではないでしょう」
記憶を見通すように目を細められ、カナミはうろたえた。思いついたのはカナミ自身だが、クラベスに提案するための計画はチェレスタやパンデイロと相談をして生まれたものだ。
(パンデイロさんたちが、怒られちゃったらイヤだし)
「私の発案です。町の市場がお祭りみたいだったから、それで」
疑うように首をかしげたラチェットに見つめられ、カナミはドキドキした。ラチェットの瞳は空のように澄んだ青色で、ウソなど簡単に見透かされそうな気がする。
「そうですか。そうおっしゃるのなら、そうなのでしょう。たしかに、ちょっとした思いつきなら誰に相談しなくとも簡単に提言できるでしょうからね」
ホッとしたカナミは、そうそうと首を動かす。
「市場のにぎわいを見たら、お祭りを思い出しちゃったって言っただけです」
「ほう」
きらりとラチェットの目が光る。
「あなたが城から出たことは、クラベス様には内密のはず。それを自ら告白なさったんですか」
しまったとカナミは頬をひきつらせた。ラチェットが片頬を笑みにゆがめる。
「まあ、いいでしょう。――あなたの目論見は、クラベス様のためであるとわかっただけでも、よしとします」
「それじゃあ、ラチェットさんも賛成してくださるんですね」
「ええ。あなたが己のためにクラベス様をそそのかしたわけではないと知って、安堵しました。心底あなたを信用しているわけではありませんが、クラベス様のためになるのであれば、あなたの存在を認めることにいたします。……この計画の成功の結果、婚儀をおこなうという運びになったとしても」
ぱ、とカナミの頬が赤くなる。
(そういえば、ラチェットさんに止められているから私とは繋がらないんだって、クラベスは言っていたっけ)
ラチェットがふたりの婚儀を認めるということは、誰も知らないふたりの行為の隔たりを消すということになる。
カナミの赤面の意味をわかっているのかいないのか、ラチェットが目元をなごませた。
「祭りが成功した場合、間を置かずにあなたをクラベス様の妻として、正式に人の前に出しましょう。古き言い伝えの通りに、神がクラベス様のもとへ遣わした者が支えていたとなれば、クラベス様の支持は盤石なものとなりますからね。ですがそれまでは、不用意にひと目につかぬよう、これまで通り行動をなさってください。――いいですね」
「はい」
素直にカナミがうなずけば、それではとラチェットが足早に去っていく。その背中を見送りながら、どうか会議で祭りの開催が決定しますようにと、カナミは胸元で指を組んだ。
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