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第4章 発想と計画
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たっぷりと歩いたカナミは、じんわりと鈍い痛みにおおわれた脚を、カバサにもらった香油でマッサージしていた。
「ふう」
こんなに歩いたのは、どのくらいぶりだろう。けれどすこしも疲れていない。それどころか、もっとあちこち見て回りたいと思っている。
(パンデイロさんが、こまめに休憩をとってくれたからだろうな)
パンデイロはカナミが疲れを見せる前に、適当な店にカナミを通してお茶を頼み、店員や周囲の客にそれとなくクラベスをどう思っているのか、カナミの耳に聞かせてくれた。そうして過ごす休憩は充分すぎるほど長かった。だから、かなり歩いたと感じているのは、脚が鈍く痺れているからだった。これがなければ、カナミは明日も連れて行ってほしいと願っていた。それほど今回の外出は有意義な時間だった。
ふふ、とカナミは口の端に笑みを乗せる。
どこもかしこも、カナミの知らない世界だった。言葉は通じるのに、物の名前がわからなかったりするのは不思議な心地だ。日本語の通じる外国に来た、といったところか。
(でも、ここは私の知ってる世界じゃない)
道行く人の髪色は、見慣れた茶系の人もいたが、ほとんどが緑や水色など、カナミの常識から言えばありえないものだった。それらは天然の髪色で、カナミとおなじ黒髪はひとりもいない。
「本当に、黒髪の人っていないんだなぁ」
それを実感する外出でもあった。この国の人間だけでなく、船でやってきた人々のなかにも黒髪はいなかった。それをしみじみ告げると、黒い髪は特別なのだとパンデイロに言われた。
「特別、ねぇ」
カナミにとっては当たり前すぎるものが、ここでは特別なものになっている。それがうまく理解できなくて、カナミは毛先を指に絡めた。
「あ、枝毛」
異世界に来ても枝毛はできるんだなぁ、とぼんやりしていたら扉の開く音がして、カナミは顔を上げた。
「カナミ」
クラベスが柔和な笑みを浮かべてベッドに近づく。
「あれ、香油を塗っているの?」
「カバサがくれたの。寝る前にこれでマッサージをしたら、よく眠れるって」
なるほど、とも、そのとおり、ともとれる動きで、クラベスがうなずく。
「そういえば、カナミが来てからまだ数日しか経っていなかったな。……神経が高ぶって、眠れないのも無理はない。その瓶を貸してくれ。私がしてやろう」
「ええっ」
ほら、と手のひらを出されても、素直に「ありがとう」とは頼めない。
「どうした、カナミ」
「だって、そんな……」
整骨院とかマッサージ店で頼むのとは、わけが違う。相手はこの国の王なのに、それじゃあよろしくと気楽に瓶を渡せるはずもない。
「遠慮をする必要はない。私はカナミが来てから、ずいぶんと安らぐ夜を過ごせている。その礼をさせてくれ」
「そんなの、王様がすることじゃないよ」
クラベスの気配が固まった。えっ、とカナミが驚く間もなく、クラベスはさみしそうに目を伏せる。
「そういうものを抜きに、カナミとは過ごしたいんだがな」
ズキリとカナミの胸が痛んだ。
「クラベス」
カナミは彼の落ちた手を取った。
「クラベスは、王様ではいたくないの?」
クラベスの手がカナミの頬に触れ、髪に唇が落とされる。
「わからない。……これは私の使命だというだけで、なりたいとか、なりたくないとか、そのようなことを考えもせずに王となった」
「王様になると決まっていたから、考えもしなかった?」
クラベスの気持ちを探ろうと、カナミは彼の顔をのぞき込んだ。クラベスはヒンヤリとした笑みを浮かべてベッドに上がり、カナミを抱き寄せる。
「情けない話になるが、聞いてもらえるか」
もちろんとカナミがうなずくと、クラベスは感謝のキスを額に置いた。
「私には兄弟がいる。兄、姉、弟、妹……。私は5人兄弟の、ちょうど真ん中になる。これは、前にも話したな」
クラベスの手がカナミの肩を滑り、腕を掴む。カナミはクラベスのわずかな表情の変化も見逃すまいと、耳を澄ませて意識を視界に集めた。
「姉と妹は結婚をして城を出ている。私を含めた男兄弟はみな、城にとどまり職務についているんだ」
「どうして――?」
さあ、とクラベスは首をかたむける。
「縁談はそれぞれに来ているみたいだけれど、兄も弟も承服していない。理由までは聞いていないが、心に叶う相手ではないということだろうね」
「……クラベスにも、縁談は来ていた?」
「いくつも、ね。――だが、どれも断っている。表向きは、いまだ王として未熟な身で妻を得るつもりはない、と言っている。しかし、本心は違うんだ。……それが、いまからカナミに伝えたい、私の弱さだ」
クラベスのはかない笑みを勇気づけようと、カナミは彼の手を強く握った。どんな話を聞いても、クラベスからは離れないという気持ちを込めて。
通じたのか、クラベスの目元がわずかに細められる。
「歴代の王は、英傑と呼ばれるにふさわしい人物ばかりだった。我が父もそうだ。次の王も武勇に優れた者がなるのだと、誰もが考えていた。兄弟の中で、私が一番、武芸が苦手だった。しかし兄の母は身分が低く、騎士になると決まっていた。だから次代の王は私ではなく、弟のチェレスタだと貴族たちは信じていた。私もそうなるものと思い、弟の補佐として、いまのラチェットの位置に己を置くつもりでいた。父王もチェレスタを王にするつもりでいたはずだ。なのに先々王は、私を王にすると宣言した。チェレスタもそれが当然だと答えた。ラチェットはそのために教育をまかされてきたのだと、先々王の決定を受け止めた。私は……、とまどいながらも拝命した」
息を吐いたクラベスの肩を、カナミは抱きしめた。そこから先の気持ちが知りたい。しかし急かしてはクラベスを傷つけそうで、カナミは「大丈夫だよ」と示すために、クラベスの体にピッタリと寄り添った。クラベスの腕がカナミの腰に回り、すがるように抱きしめられる。
「王として、私はまず民の暮らしを正そうとした。戦で疲弊した民が笑顔で過ごせることが重要だと、先々王はつねづね語られていた。戦で得られたものはすくなく、失ったものは多い。それを取り戻す世を作れと言われて、私は私なりに尽力した」
クラベスの体温を感じながら、カナミは町の様子を思い出した。誰もが笑みを浮かべ、楽しそうに過ごしていた。クラベスが王になってよかったと、さまざまな人の口から聞いた。しかしそれをここで言うわけにはいかない。カナミの外出はクラベスには秘密の行動だったのだから。
「しかし、やはりチェレスタが王にふさわしいと言う者はすくなくないんだ。私は武にうとく、国を統べるには不安だと。……ラチェットはいまの時代には私のような王が必要だと言う。チェレスタもそう言ってくれる。だが、はたしてそうなのだろうか。ラチェットは教育係として長年仕えてくれたひいき目で、チェレスタは弟という立場と先々王の決定を踏まえて、私を王として立ててくれているだけなのではないか。――そんな疑惑が、常に胸にある」
クラベスの手に導かれたカナミの手は、クラベスの胸に乗せられた。
そんなことない、と言うのは簡単だ。けれど、ひどく無責任な発言だとカナミは知っている。それが相手をより深く傷つけるということも。
(昼間の、民の声を直接クラベスに聞かせられたら)
身内びいきから応援されていると思っているのなら、まったく違った位置からの声を届けなければ。
(でも、王様を簡単に町中になんて連れていけないよね。身分を隠して、さりげなく話を聞かせなきゃ意味がないし)
「カナミ」
ひしと抱きしめられて、カナミの思考は中断した。
「私が妻をめとらないのは、チェレスタを次の王にと思っているからだ。私に子ができなければ、必然的にチェレスタが次の王となる。それを多くの者たちが望んでいるのだと思いながらも、いま求められているものは武勇ではなく、温情で国を統べる時代なのだと考えてもいる」
「クラベス」
苦しげな彼をすこしでも癒したくて、カナミは彼の背に腕を回した。
「迷いを捨てきれない私は、神に願った。我が心の支えを……。私が王にふさわしいと思われるのであれば、強くあれるためのなにかを与えてほしい。新月の暁闇に私が願ったのは、それだった。そして満月の夜明けに……、願い成就の刻限に、この世界にはない黒髪のカナミが現れた」
「……それでも、まだ自分が王様だって認められないんだ」
「情けないと、愛想をつかされてしまうかな」
ううん、とカナミは首を振った。そんなに簡単に払しょくできる悩みなら、これほど強く惑わされてはいないだろう。
(問題は、クラベスよりもチェレスタさんが王様にふさわしいって、クラベスに言っちゃう人たちだよね)
王の耳に入るくらいだから、地位のある人々の発言に違いない。影響力を持つ人間の言葉は、多くの人の代表の声のように錯覚してしまう。その人たちを納得させるか、そういう発言をしないように仕向けるには、どうすればいいのだろう。
(これはきっと、よそ者の私じゃないと解決できない問題だよね)
そのために、この世界に連れてこられたのだとカナミは確信する。
「クラベス」
きっと私がなんとかしてみせると、カナミは心の中で強く誓いながらクラベスの唇に唇を重ねた。
「私、クラベスの支えになりたい。――それが欲しいって、クラベスが神様にお願いして私がここに来たんなら、きっとそれができると思うの」
「カナミ。……カナミも望みを叶えようとして、海に願いをかけたんだったな。どんな願いか、教えてもらえるか」
「それはまだ、内緒」
カナミは肩をすくめて、クラベスの肩に頭をあずけた。ふわりと心地よい気だるさが、体の奥から湧き上がる。疲れていないと感じていたが、体はそうではなかったらしい。とろとろとまどろみはじめたカナミを抱いて、クラベスが横になる。
「おやすみ、カナミ」
おやすみなさいとキスを受け止め、かならずいい方法を見つけてみせると気合を入れながら、カナミはクラベスを抱きしめて眠りの中に落ちた。
「ふう」
こんなに歩いたのは、どのくらいぶりだろう。けれどすこしも疲れていない。それどころか、もっとあちこち見て回りたいと思っている。
(パンデイロさんが、こまめに休憩をとってくれたからだろうな)
パンデイロはカナミが疲れを見せる前に、適当な店にカナミを通してお茶を頼み、店員や周囲の客にそれとなくクラベスをどう思っているのか、カナミの耳に聞かせてくれた。そうして過ごす休憩は充分すぎるほど長かった。だから、かなり歩いたと感じているのは、脚が鈍く痺れているからだった。これがなければ、カナミは明日も連れて行ってほしいと願っていた。それほど今回の外出は有意義な時間だった。
ふふ、とカナミは口の端に笑みを乗せる。
どこもかしこも、カナミの知らない世界だった。言葉は通じるのに、物の名前がわからなかったりするのは不思議な心地だ。日本語の通じる外国に来た、といったところか。
(でも、ここは私の知ってる世界じゃない)
道行く人の髪色は、見慣れた茶系の人もいたが、ほとんどが緑や水色など、カナミの常識から言えばありえないものだった。それらは天然の髪色で、カナミとおなじ黒髪はひとりもいない。
「本当に、黒髪の人っていないんだなぁ」
それを実感する外出でもあった。この国の人間だけでなく、船でやってきた人々のなかにも黒髪はいなかった。それをしみじみ告げると、黒い髪は特別なのだとパンデイロに言われた。
「特別、ねぇ」
カナミにとっては当たり前すぎるものが、ここでは特別なものになっている。それがうまく理解できなくて、カナミは毛先を指に絡めた。
「あ、枝毛」
異世界に来ても枝毛はできるんだなぁ、とぼんやりしていたら扉の開く音がして、カナミは顔を上げた。
「カナミ」
クラベスが柔和な笑みを浮かべてベッドに近づく。
「あれ、香油を塗っているの?」
「カバサがくれたの。寝る前にこれでマッサージをしたら、よく眠れるって」
なるほど、とも、そのとおり、ともとれる動きで、クラベスがうなずく。
「そういえば、カナミが来てからまだ数日しか経っていなかったな。……神経が高ぶって、眠れないのも無理はない。その瓶を貸してくれ。私がしてやろう」
「ええっ」
ほら、と手のひらを出されても、素直に「ありがとう」とは頼めない。
「どうした、カナミ」
「だって、そんな……」
整骨院とかマッサージ店で頼むのとは、わけが違う。相手はこの国の王なのに、それじゃあよろしくと気楽に瓶を渡せるはずもない。
「遠慮をする必要はない。私はカナミが来てから、ずいぶんと安らぐ夜を過ごせている。その礼をさせてくれ」
「そんなの、王様がすることじゃないよ」
クラベスの気配が固まった。えっ、とカナミが驚く間もなく、クラベスはさみしそうに目を伏せる。
「そういうものを抜きに、カナミとは過ごしたいんだがな」
ズキリとカナミの胸が痛んだ。
「クラベス」
カナミは彼の落ちた手を取った。
「クラベスは、王様ではいたくないの?」
クラベスの手がカナミの頬に触れ、髪に唇が落とされる。
「わからない。……これは私の使命だというだけで、なりたいとか、なりたくないとか、そのようなことを考えもせずに王となった」
「王様になると決まっていたから、考えもしなかった?」
クラベスの気持ちを探ろうと、カナミは彼の顔をのぞき込んだ。クラベスはヒンヤリとした笑みを浮かべてベッドに上がり、カナミを抱き寄せる。
「情けない話になるが、聞いてもらえるか」
もちろんとカナミがうなずくと、クラベスは感謝のキスを額に置いた。
「私には兄弟がいる。兄、姉、弟、妹……。私は5人兄弟の、ちょうど真ん中になる。これは、前にも話したな」
クラベスの手がカナミの肩を滑り、腕を掴む。カナミはクラベスのわずかな表情の変化も見逃すまいと、耳を澄ませて意識を視界に集めた。
「姉と妹は結婚をして城を出ている。私を含めた男兄弟はみな、城にとどまり職務についているんだ」
「どうして――?」
さあ、とクラベスは首をかたむける。
「縁談はそれぞれに来ているみたいだけれど、兄も弟も承服していない。理由までは聞いていないが、心に叶う相手ではないということだろうね」
「……クラベスにも、縁談は来ていた?」
「いくつも、ね。――だが、どれも断っている。表向きは、いまだ王として未熟な身で妻を得るつもりはない、と言っている。しかし、本心は違うんだ。……それが、いまからカナミに伝えたい、私の弱さだ」
クラベスのはかない笑みを勇気づけようと、カナミは彼の手を強く握った。どんな話を聞いても、クラベスからは離れないという気持ちを込めて。
通じたのか、クラベスの目元がわずかに細められる。
「歴代の王は、英傑と呼ばれるにふさわしい人物ばかりだった。我が父もそうだ。次の王も武勇に優れた者がなるのだと、誰もが考えていた。兄弟の中で、私が一番、武芸が苦手だった。しかし兄の母は身分が低く、騎士になると決まっていた。だから次代の王は私ではなく、弟のチェレスタだと貴族たちは信じていた。私もそうなるものと思い、弟の補佐として、いまのラチェットの位置に己を置くつもりでいた。父王もチェレスタを王にするつもりでいたはずだ。なのに先々王は、私を王にすると宣言した。チェレスタもそれが当然だと答えた。ラチェットはそのために教育をまかされてきたのだと、先々王の決定を受け止めた。私は……、とまどいながらも拝命した」
息を吐いたクラベスの肩を、カナミは抱きしめた。そこから先の気持ちが知りたい。しかし急かしてはクラベスを傷つけそうで、カナミは「大丈夫だよ」と示すために、クラベスの体にピッタリと寄り添った。クラベスの腕がカナミの腰に回り、すがるように抱きしめられる。
「王として、私はまず民の暮らしを正そうとした。戦で疲弊した民が笑顔で過ごせることが重要だと、先々王はつねづね語られていた。戦で得られたものはすくなく、失ったものは多い。それを取り戻す世を作れと言われて、私は私なりに尽力した」
クラベスの体温を感じながら、カナミは町の様子を思い出した。誰もが笑みを浮かべ、楽しそうに過ごしていた。クラベスが王になってよかったと、さまざまな人の口から聞いた。しかしそれをここで言うわけにはいかない。カナミの外出はクラベスには秘密の行動だったのだから。
「しかし、やはりチェレスタが王にふさわしいと言う者はすくなくないんだ。私は武にうとく、国を統べるには不安だと。……ラチェットはいまの時代には私のような王が必要だと言う。チェレスタもそう言ってくれる。だが、はたしてそうなのだろうか。ラチェットは教育係として長年仕えてくれたひいき目で、チェレスタは弟という立場と先々王の決定を踏まえて、私を王として立ててくれているだけなのではないか。――そんな疑惑が、常に胸にある」
クラベスの手に導かれたカナミの手は、クラベスの胸に乗せられた。
そんなことない、と言うのは簡単だ。けれど、ひどく無責任な発言だとカナミは知っている。それが相手をより深く傷つけるということも。
(昼間の、民の声を直接クラベスに聞かせられたら)
身内びいきから応援されていると思っているのなら、まったく違った位置からの声を届けなければ。
(でも、王様を簡単に町中になんて連れていけないよね。身分を隠して、さりげなく話を聞かせなきゃ意味がないし)
「カナミ」
ひしと抱きしめられて、カナミの思考は中断した。
「私が妻をめとらないのは、チェレスタを次の王にと思っているからだ。私に子ができなければ、必然的にチェレスタが次の王となる。それを多くの者たちが望んでいるのだと思いながらも、いま求められているものは武勇ではなく、温情で国を統べる時代なのだと考えてもいる」
「クラベス」
苦しげな彼をすこしでも癒したくて、カナミは彼の背に腕を回した。
「迷いを捨てきれない私は、神に願った。我が心の支えを……。私が王にふさわしいと思われるのであれば、強くあれるためのなにかを与えてほしい。新月の暁闇に私が願ったのは、それだった。そして満月の夜明けに……、願い成就の刻限に、この世界にはない黒髪のカナミが現れた」
「……それでも、まだ自分が王様だって認められないんだ」
「情けないと、愛想をつかされてしまうかな」
ううん、とカナミは首を振った。そんなに簡単に払しょくできる悩みなら、これほど強く惑わされてはいないだろう。
(問題は、クラベスよりもチェレスタさんが王様にふさわしいって、クラベスに言っちゃう人たちだよね)
王の耳に入るくらいだから、地位のある人々の発言に違いない。影響力を持つ人間の言葉は、多くの人の代表の声のように錯覚してしまう。その人たちを納得させるか、そういう発言をしないように仕向けるには、どうすればいいのだろう。
(これはきっと、よそ者の私じゃないと解決できない問題だよね)
そのために、この世界に連れてこられたのだとカナミは確信する。
「クラベス」
きっと私がなんとかしてみせると、カナミは心の中で強く誓いながらクラベスの唇に唇を重ねた。
「私、クラベスの支えになりたい。――それが欲しいって、クラベスが神様にお願いして私がここに来たんなら、きっとそれができると思うの」
「カナミ。……カナミも望みを叶えようとして、海に願いをかけたんだったな。どんな願いか、教えてもらえるか」
「それはまだ、内緒」
カナミは肩をすくめて、クラベスの肩に頭をあずけた。ふわりと心地よい気だるさが、体の奥から湧き上がる。疲れていないと感じていたが、体はそうではなかったらしい。とろとろとまどろみはじめたカナミを抱いて、クラベスが横になる。
「おやすみ、カナミ」
おやすみなさいとキスを受け止め、かならずいい方法を見つけてみせると気合を入れながら、カナミはクラベスを抱きしめて眠りの中に落ちた。
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