ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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けれどもし、譲が本気で拒んだら。

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 逸る気持ちを宥めようとして、恭平は特に面白いとも思わずに、テレビを眺めた。何か別の事に意識を向けていないと、落ち着かない。けれど目はテレビを映しているのに、意識は譲から離れてはくれなかった。

 譲の、とっさに思考を停止させてしまうクセを利用して、譲の意識に残るような方法で、体を繋げる。恭平の性技を求めるように、先に体を手に入れる。そうすれば、譲は拒絶をする前に俺に流され、受け入れるはずだ。

 心から先に、なんて綺麗事は今更だ。とっくに強引に抱いてしまっているのだから。

 何をグダグダ遠回りをしていたんだ俺は。さっさとあのまま譲をものにしてしまっていれば、良かったんだ。片思い期間が長くて、隠さなければと思い続けていたから、情けないことをしてしまった。意識を失わせてどうこうなんてことをしなくても、譲をきっぱりと手にしてしまえばよかったんだ。譲への気持ちをごまかすために、好きでもない女と付き合って、つまらない時間をこれからまた繰り返すよりも、先に体から手に入れて、ゆっくりと心も手に入れていけばいい。

 けれどもし、譲が本気で拒んだら。

 差し込まれた自己反論に、ぞくりと背筋が寒くなる。恭平は首を振り、すぐさまその考えを振り払った。

 俺は譲の性質を知っている。譲は拒絶をする前に、どうしてと悩むだろう。その間に、陥落をしてしまえばいい。

 不安をごまかすための言い訳を繰り返し、恭平はスマホに目を向ける。ライトは充電中の赤ランプで、メールの着信点滅は無い。

 メールを送ってから、どのくらいの時間が経っただろうか。

 もしかして、メールが送信されていないのかもしれない。

 そんな不安が胸をよぎり、恭平は手を伸ばしてスマホのロックを解除し、送信済みフォルダを開く。メールはたしかに送信されていた。

 譲は、まだメールを見ていないのだろうか。駅に入らず歩いていくのを見た。何か、用事があってメールを確認できていないのだろうか。

 時計を確認し、テレビを消して暖房を切り、恭平は『本田薫』になるために部屋に戻る。服を着替えて化粧をし、ウイッグをかぶって姿見で確認してから家を出た。

 もし、譲がまだメールを見ていなくても、待っていよう。譲のことだから、メールを見ればすぐに返信をしてくるはずだ。譲の今日のシフトの入り時間は知っている。譲に、俺のバイトの開始時間も告げている。ギリギリまで、あのショッピングモールでうろついていてもいい。たまには、待たされる側になってみてもいいだろう。

 足早に、恭平は駅へと向かった。同じ急いた足の運びでも、家に戻るときと駅に向かうときとでは、恭平の心情はまったく違っていた。

 恭平は今、自分でも気付かぬまま不安に急かされて電車に飛び乗り、そわそわと駅に到着するのを待っている。
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