ひとりよがりなFalse Face

水戸けい

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「あ。このカップルランチ、ください」

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「う」

 赤くなった譲の手を取り、クスクス鼻を鳴らしながら、女装した恭平が腕を引く。

「行こう。ちょっと早いほうが混まないから」

「ああ、うん」

 引かれるままに歩く譲は、女装した恭平のうきうきとした背中を見つめる。恭平と、本当に本当のデートをしているんだと噛みしめれば、心がふわりとくすぐったくなり、譲の頬がゆるんだ。

「ここ」

 恭平に手を引かれるままに連れて行かれたのは、小洒落たカフェだった。ランチプレートがどうのと大きなメニュー黒板に書かれている。

「ここの、ランチが食べたいんだけど」

 上目づかいに、甘えるように小首をかしげる恭平はかわいらしすぎて、譲は心臓が破裂してしまわないように気をつけながら、頷いた。

「ふふ。ありがと」

 肩をすくめた恭平が、店員に二名だと告げる。案内をされるまま席に着いた譲は、こんな店に入るのは初めてで、物珍しげに店内を見回してしまう。恭平とデートをしているのだということも重なって、そわそわと尻の座りが落ち着かなかった。

「メニューがお決まりになりましたら、お呼びください」

「あ。このカップルランチ、ください」

 さらりと注文した恭平の口から飛び出たカップルという言葉にぎょっとして、譲はあわててメニューを見る。ランチ限定メニューのところに、二名様分のパスタとサラダにスープ、パンの食べ放題と書かれた『カップルランチ』があった。

「パスタとサラダ、どれがいい?」

「え。あ、俺はよくわからないから、きょ……薫の好きなのでいいよ」

「ありがと。じゃあパスタは魚介とトマトので、サラダはシーザーで。食後のドリンクとデザートは、どれにする?」

「ん。それも、まかせる」

「もう。じゃあ、私は」

 すっかり女言葉と態度を身につけ自然に振る舞っている恭平を、譲はぼんやりと見つめた。

 手馴れているのは、幾度もこういう場所に彼女と来たことがあるからだろうな。

 そう思った瞬間ズキリと走った嫉妬の痛みに、譲は片目を細めた。

「譲?」

「なんでもない」

 水に手を伸ばした譲は、落ち着けと念じながら口をつける。嫉妬をする必要も資格も、自分には無いと言い聞かせて水を飲み干し、息をついた。
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