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16.淫らに許して王子様

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(両想い!)

 その単語は、頼子の心をふわふわと浮き立たせ、緊張と恐怖でカラカラになっていた体をうるおわせた。

 紅潮した頼子の頬を見て、弘毅もほんのりと目じりを染める。春の日差しのように、やわらかくてやさしい弘毅のほほえみに、頼子はうっとりした。

(許してもらえただけじゃなくって、好きって言われるなんて)

 感激した頼子は、おずおずと弘毅に身を寄せた。ためらいがちに弘毅の腕が背中にまわる。弘毅の胸に頬を寄せて目を閉じた頼子は、彼の体温をたしかめながら再会してから今日までのことを振り返る。

 その中にはもちろん、下半身から陥落させようと迫った記憶も混ざっていて――。

(どうしよう。すごく、キスしたい)

 唇を引きしめた頼子は、ギュッと弘毅の服を握った。

(はしたないとか、言われちゃうかな。でも、いまさらって気もするし)

 悩みながら見上げると、とろける笑みを向けられた。

(ああ……やっぱり好き)

 唇がうずいて、いますぐキスがしたくなった。首を伸ばして、つま先立ちになりながら目を閉じる。キス待ち顔をした頼子の唇が、そっとなにかに撫でられた。薄目を開ければ、視界いっぱいに弘毅の瞳が広がっていた。

(キス、してくれた)

 彼からされたのは、はじめてかもしれない。そう思うと、蓄積された想いが吹き出して貪欲になった。もっと、もっと深いキスが欲しい。

「ん……っ」

 腕を伸ばして弘毅の首を引き寄せる。自分の大胆さにおどろきながらも、頼子はそれをやめられない。

(きっと私、大胆になることに慣れちゃったんだ)

 そしてそれだけ、弘毅のことが大好きなんだと頼子は胸を熱くする。

 弘毅の腕に力がこもり、舌先が頼子の唇をつついた。薄く開けば唇の裏を舐められる。

 弘毅の舌は頼子の歯列や唇の形を確かめて、ゆっくりと奥へ進んだ。舌同士が触れると、頼子の背中が震えた。

「ふっ……んっ、ぁ」

 上あごをくすぐられて、頼子は口を大きく開いた。唾液が湧いて、呑み込もうとすれば彼の舌を吸ってしまった。

「んっ」

 ゾクゾクと腰に甘美な悪寒が走り、頼子の脚の間はすこしうるんだ。

(私……すごく感じてる)

 キスがとても気持ちいい。脚から力が抜けそうで、頼子は弘毅の首にしがみついた。弘毅は丁寧に頼子の口内を舌でなぞって、頼子の性感を育てていく。

「は、ぁ……んっ、ぁ、あ」

 肌を粟立たせた頼子の胸先が、ツンと尖った。下着に包まれていなければ、シャツごしでもクッキリとわかるだろう。女の部分がムズムズとして、そこに刺激が欲しくなった。

(でも、さすがにそれは……言えないよ)

 もどかしいほど丹念なキスに官能をあおられて、頼子の心音は高まった。バクバクと激しく脈打つ鼓動は、ときめきと興奮でうるさいくらいだ。

(最初に迫ったときのことを、思い出して)

 自分に言い聞かせて、頼子は右脚を前に出して弘毅の股間に押し当てた。

(硬くなってる)

 興奮してくれているんだと、うれしくなる。今度こそ最後までしてもらいたくて、頼子は首にかけている手を動かして、弘毅の腰に触れた。

「頼子ちゃん」

 熱っぽく艶めいた弘毅の瞳に、頼子の心がうわずる。腰を支えられて部屋の隅に導かれ、背中を壁に押し当てられたかと思うと、上着をたくし上げられた。

「あっ」

 ブラジャーが持ち上げられて、形のいい頼子の乳房がプルンと現れる。目を細めた弘毅の頭がそこに下りて、色づきを口に含まれた頼子は彼の髪に指を沈めた。

「あっ、あ……っん」

 チロチロと舌ではじかれると、淡い痺れが全身に広がった。両手で乳房を包まれて、内側に揉みこまれながら吸われると、頼子の下肢がじわじわ濡れる。

「は、ぁ……ああっ、あ、あ」

 鼻にかかった切ない息を漏らして、頼子は内ももをすり合わせた。そこの間がむず痒くてたまらない。気づかれているはずなのに、弘毅は胸から手も顔も離さなかった。丁寧に乳房をこねて、先端を舌や唇で味わっている。

「ふっ、ぁ、あ……っ、んぅう」

 気持ちがいい。けれど別のところがもどかしくてたまらない。やめてほしくはないけれど、触れてほしい場所に手が行くと胸の刺激が消えてしまう。じわじわと快感にあぶられる頼子は、こんな愛撫を受けるのははじめてだった。

(すごい……これ、なんて言ったらいいの……っ)

「は、ぁあ……弘毅さん……っ、あ、あ」

 繊細な動きで乳房をなぞられると、粟立った肌が炭酸の泡のようにこまかくはじけた。弘毅の指や唇が動くたびに、頼子のあちこちがパチンとはじけてシュワシュワと溶けていく。それなのに泡はすこしもなくならず、次々に体の奥から湧き上がっては、弘毅に触れられるのを待っていた。

「あ、ああ……っ、ん、こ、弘毅さん」

(気持ちいい……けど、でも……すごく、怖い)

 終わりの見えない快楽に、頼子の目に涙がにじんだ。喉からはちいさな嬌声がとめどなくこぼれ出て、女の丘はしっとりと濡れそぼっている。そこに触れてほしいのに、弘毅はちっとも手を下げてくれない。

「ふ……ぅ、ううっ」

 キュッと唇を噛んで、頼子は快楽に堪えた。気持ちがいいのに、うれしいのに、快楽に浮かんだ肌の頼りなさが怖くてたまらない。こんな愛撫を、頼子は知らなかった。

「んっ、は、ぁあっ」

 ツンと尖って真っ赤に熟れた乳頭から、弘毅の唇が離れる。これで次は下半身にと思った頼子の期待は裏切られ、弘毅の唇はもう片方の胸にとりかかった。

「ああっ」

 たっぷりとしゃぶられた胸先に指がかかって、クリクリと刺激される。濡れているので強くされても刺激が滑り、ちっとも痛くなかった。

 濡れた胸は乱暴に、濡らされている途中の胸は丁寧に扱われ、頼子はわけがわからなくなった。

「ふ、ふぁ、あっ、あ……は、はぁ、うっ、うう……んっ、ぁ、あっ」

 頭の中までとろけはじめて、頼子は天を仰いだ。体中から力が抜けて、立っていられなくなる。壁に背を押しつけられていなければ、床にくずおれていただろう。脚はただのつっかえ棒になっている。自力で立つこともできなくなるほど、愛撫に震える頼子は力を失っていた。

「は、ぁあ……っ、ん、ぁ、あ……は、弘毅さ、ぁんっ」

 ようやく弘毅の顔が上がったころ、頼子の視線は淫蕩に溶けていた。腰を支えられて床に座らされる。ショーツごとズボンを脱がされ、脚を開かれても、頼子はぼんやりしたままだった。

「頼子ちゃん」

 チュッと鼻の頭にキスをされ、焦点のにぶった目を動かして弘毅を見つめた頼子は、うっすらとほほえんだ。笑みは変わらずやさしいのに、弘毅の目の奥にはオスの気配が揺れている。

(私のことを、ちゃんと魅力的だって感じてくれているんだ)

 よろこびに心がはずむ。いとおしさに絞られた胸が、愛撫を求めて震えていた。弘毅の手はそこではなく、下肢に伸びた。脚の付け根を撫でられて、頼子はゾクゾクと背中をそらせた。

「は、ぁ……っ、あ」

 弘毅の髪が目の前を行きすぎて、脚の間に落ち着く。

「すごく、濡れているね」

「っ、あ……だって」

「感じてくれたんだね。たくさん、俺のことを」

 恥ずかしさに体を熱くさせながら、頼子はうれしさをかみしめる。弘毅は、自分の愛撫でほとびた頼子によろこんでいる。頼子は手を伸ばして弘毅の髪を指で梳いた。顔を上げた弘毅と視線を重ねて笑いあう。弘毅はすぐに顔を伏せて、頼子は女丘に刺激を感じた。

「あっ……ふぁ」

(うそ……っ?)

 ぬらりとした感触に、弘毅がそこを舐めているのだとわかった。弘毅の舌はヒダをくすぐり、かきわけて奥に入ったかと思うと入り口に戻り、頼子の陰口と深く甘いキスをしている。

「ぁ、ああ……は、は、ぁあう……っ、んっ、うっ、う」

 太ももを震わせて、頼子は目を閉じた。そんなところにキスをされるなんて、思いもしなかった。あふれる蜜液を舐めとられ、塗り広げられて、頼子は細く高い悲鳴を上げた。

「は、あぁあ……あっ、あ、あ……ふっ、弘毅さん、あっ、弘毅さん……っ」

 弘毅の舌が前に沈んで、ひっそりと隠れている花芽を探る。舌の上で転がされて、頼子の尻は跳ねた。

「あっ、そこ……あっ、あっ」

 弘毅の腕が太ももに絡み、引き寄せられる。下肢に深く顔を沈めた弘毅の息が、濡れたヒダに触れるだけで気持ちがいい。舌撫に震える下肢から全身へと快感が広がって、頼子の乳房はフルフルと揺れた。

「弘毅さん、あっ、あ」

 たっぷりと濡らされ育てられた乳頭がうずいている。頼子は無意識に自分の乳房を掴んで、色づきに指をかけた。

「は、ぁ……ああっ、弘毅さん、あっ、あ」

 チラリと視線を上げた弘毅は唇を笑みにゆがめて、強く花芽を吸った。

「はっ、あぁああ……っ!」

 目の奥に火花が散って、頼子はのけぞった。すがるものが欲しくて、腕を天井に向けて伸ばす。けれどそこにはなんにもなくて、指はむなしく空を切った。

「ああっ、弘毅さん、弘毅さん」

 体中が頼りなくてしかたがなくて、恐ろしい。支えてほしいと、頼子は涙をこぼしてうったえた。

「弘毅さん」

「そんな顔をしなくても、大丈夫だよ」

 どんな顔をしているのか、自分ではわからない。大丈夫と言われても、快感に粟立って細かくはじける肌は頼りなくて心もとない。頼子は弱々しく首を振って、瞳で助けてとうったえた。嘆息した弘毅が顔を上げる。首にしがみついて、頼子は広い肩に顔を伏せた。

「そんなに、いやだった?」

 ポンポンと背中を撫でるように叩かれて、頼子は首を振った。いやなのではなく、怖かったのだ。

「ごめんね」

「違う」

「ん?」

「いやだったんじゃ、ない……です」

 顔を上げなくても、弘毅の不思議そうな表情はすぐに脳裏に浮かんだ。頼子にとっては、見慣れた顔だったから。頼子が言っていることを理解しようと、続く言葉を静かに待ってくれる、やさしくてあたたかい、頼子のすべてを包み込んでくれる王子様のまなざしは、頼子の心の中の宝物のひとつだったから。

 ギュウッと腕に力を込めて弘毅に身を寄せる。頼子の乳房が弘毅の胸に押しつけられて、つぶれた。

「恥ずかしかった?」

 それとも違うと、頼子は首を振った。そうじゃなくて、と心の中で思っても、説明のしかたがわからない。

「じゃあ、今日はもうここでやめようか」

「いや!」

 反射的に顔を上げて否定した頼子に、弘毅がおどろく。あっ、とつぶやいた頼子はうつむいて、力なく「そうじゃなくて」と口の中で言葉を転がした。

 コツンと額に額を重ねられて、頼子は唇を迷わせる。

(いつも、弘毅さんは私のもどかしい説明でも、きちんと最後まで聞いてくれた)

 だからきっと、上手に説明ができなくても聞いてくれる。

「あ……その……」

「ん?」

「溶けてなくなりそうだから」

 どういう意味だろうと、弘毅の視線が考えている。頼子はまっすぐに想いを告げた。

「弘毅さんを、ください」

「えっ」

「溶けてなくなりそうだから、だから、弘毅さんで私がちゃんとここにいるって、教えてください。ふわふわして、なんだか変な感じだから……だから、弘毅さんで私をちゃんと存在させて」

 なにを言っているのか、自分でもよくわからない。それでも弘毅は「うん、わかった」と受け止めると、頼子の腰を引き寄せて膝に乗せた。

「弘毅さん」

 ほほえんだまま、弘毅は片手で自分の欲を取り出した。その先端が頼子の下肢をかすめる。ブルッと震えた頼子は、自分からそれを迎えにいった。

「っ、あ……あ」

 弘毅の腕に支えられ、頼子は女の花で弘毅の熱茎を受け止めた。ゆっくりと花びらが押し広げられ、隘路に茎が沈んでいく。

「ふっ、ん……っ、う」

 たっぷりと濡れたそこは弘毅を歓迎し、キュウキュウと締めつけた。淡々と快楽にぼやける肌とはうらはらに、胎内は弘毅の熱でハッキリと存在を自覚できた。

(私のなかに、弘毅さんがいる)

 やっと繋がることができたと、頼子はよろこびで胸がいっぱいになった。

「うれしい」

 かすかにこぼれた想いを、弘毅の唇が拾ってくれた。軽いキスを繰り返しながら、じっくりと時間をかけて弘毅を根元まで呑み込んだ頼子は、体中が彼に支配された錯覚におちいった。

(弘毅さんが、私を形にしてくれている)

 ぼやけた肌はそのままなのに、芯が通っている。自分の核が弘毅であるかのように、頼子は感じた。

「繋がっちゃったね」

 いたずらっぽい弘毅の声音に、照れくささとよろこびが隠れていた。

「繋がっちゃいましたね」

 胸をあえがせながら、頼子もおなじ言葉を返した。

「こうしてもらいたかったんです」

「俺も、したかった。頼子ちゃんに迫られるたびに、どうしようかと思っていたよ」

「してくれたら、よかったんです」

「そういうわけにも、いかないだろう」

「どうして、ですか?」

「無責任に、欲望のままにそんなこと、できるわけがない」

「私がしてほしいって、迫ったのに?」

「だからこそ、だよ。どうして頼子ちゃんがそうしているのか、俺にはわからなかったんだ。その……からかわれているのかもしれないと、ちょっと考えたりもしたし」

 そっと視線を外されて、頼子は目をぱちくりさせた。

「まさか、そんなことはないだろうとは思ったんだけど。頼子ちゃん、いろいろあって傷ついて、ここに来たんだろう? だからちょっと、自暴自棄になっている部分もあったんじゃないかなって。そう、考えたんだ」

「弘毅さん」

「だから、そんな状態の子を……弱っているところにつけ込むようなマネを、したくなかった。なにがあったのか詳しくは知らないけど、会社を辞めて家を離れるくらい、人間関係でいろいろあったとは聞いていたから。だから、それでちょっと冷静さを欠いているというか、そういう状態のときに、俺の、その……ひとりでシているところを見られてしまったわけで」

 しゃべりながら顔をだんだん赤くしていく弘毅が、なぜかとてもかわいく感じた頼子の頬が持ち上がる。

「弘毅さんは、やっぱり私の王子様です。そんなふうに、私を大事に考えてくれていたなんて」

「ほんとうの王子様なら、きっと上手に気持ちをなだめて、頼子ちゃんの心をなぐさめていたんじゃないかな。俺は誘惑に勝ちきれなかった」

「私がそうしむけたんだから、しかたないですよ。そうだったから私、ちゃんと弘毅さんをあこがれじゃなくて、ほんとうに好きなんだなってわかることができたんです。だから、でも……あしらわれているんじゃないかなって、不安になっていました。だって最後までは、してくれなかったから。とりあえず私を満足させて、終わらせてるって感じがして」

「それは違う。最後の一線だけは越えなければいいって、自分に言い訳をしていただけなんだ。俺の愛撫にもだえる頼子ちゃんを見て、すごく興奮した。――なんて、変態だって幻滅したかな?」

「私だって、はしたないって幻滅されているんじゃないかなって、すごく不安だったんですよ」

「そうか」

「そうです」

 そっかと額をあわせて、クスクスと笑いあう。

「でも、ちゃんと魅力を感じてもらえていたってわかって、安心しました」

「俺も。頼子ちゃんが自暴自棄になっているとかじゃなく、本気で俺とこうなりたいと望んでくれているんだとわかって、すごくうれしいよ」

 唇とともに想いを重ねて確認しつつ、頼子はゆっくりと繋がったまま床に寝かされた。

「昨日は逃げられたけど、今日はこうして話の続きをしにきてくれて、よかった。あのまま避けられたら、どうしようかと思っていたから」

「私も。気まずいままはいやだなと思って。でも、きっかけがなくって。そうしたら、施設で絵を教えてくれる人はいないかって話が出て。おばさんが弘毅さんならいいんじゃないかって。私から頼みなさいって……話をちゃんとしてきなさいって言われて」

「絵を教えるって?」

「そうなんです!」

 その話をしなければと力を込めた頼子の下腹部が締まって、内側につつんでいる弘毅を圧迫した。弘毅がうめき、頼子も短い嬌声を上げる。

「その話は、悪いんだけど終わってからでもいいかな。ちょっと、限界だ」

 軽く腰を揺すられて、頼子は甘い悲鳴を上げてうなずいた。

「私も、弘毅さんをきちんと受け止めてからにしたいです」

「それじゃあ」

「はい」

 淫らで幸福な旋律を刻む弘毅にあわせて、頼子は細く高い嬌声を響かせる。その意識からは、依頼のことなどすっかり失われていた。

「ああっ、弘毅さん……っ、あっ、ああ」

 体の内側も外側も、意識も視界もなにもかもを弘毅に支配されて、頼子は全身で弘毅を求めた。けなげな媚態にあおられた弘毅は、思いの丈を頼子にぶつける。

「はっ、頼子ちゃん」

「んぁあっ、はっ、ああ、弘毅さん、ああっ……あぁ」

 互いの肌に夢中になっているふたりを、壁に貼られた美少女がほほえましく見守っていた。
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