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そういったものがどろどろの渦の中に巻き込まれてうねり、高まっていく。それを感じ、それを欲し、受け止めるためにキュウと締まった私の中に
「ぅ、くぅ」
「っ、は――ぁ」
幸正の、宗也の命の熱が注がれた。
指の先にすら、力を込めることが出来ない。ぐったりとした私の背を宗也が抱き、私を挟むようにして、幸正は宗也ごと私を抱きしめていた。ゆらゆらと、揺りかごのように体を揺らし、思い出したように唇をかすめさせ、髪を撫でる。
情事の後のまどろみに、溶けた意識がたゆたっていた。
「幸正よ」
「うん?」
ぼんやりと、水底にいるような心地で、遠い世界の音のように、二人の声を耳が拾った。
「伊佐が、欲しいか」
「欲しいも何も、コイツははじめから、俺のモンだ」
「――そうか」
何を言っているのかと幸正に言いたいのに、胸がむずがゆく跳ねて、くすぐられたようにあたたかくなるばかりで、抗議の声は口から出ない。
「アンタは、伊佐が欲しくねぇのかよ」
「俺は、伊佐ではなく俺が欲しい」
「――はぁ?」
「俺を証明できるものが、欲しい」
「なんでぇ、そりゃあ」
呆れた幸正の声に、静かに、悲しげに宗也の気配がゆがんだ。――ああ、と胸がため息をこぼす。宗也の頬を撫で、なぐさめたいと思うのに深く重い沼に落ち込んだように、指先すらも動かない。
「うぅん、まぁ……身代わりとして生きて来たアンタが、これから当主として生きていくのに、伊佐が必要なことぐれぇ、俺にだってわかってる。けどよ――伊佐を道具みてぇに、したくねぇんだよ。コイツはコイツなりに、苦労をしてきてるしよォ」
滲むような幸正の優しさに、胸が膨らんだ。
「そのくらい、俺とて理解しておるわ。――だからこそ、閨に貴様を呼び、こうして許したのではないか。伊佐を――初めて俺を俺個人として見たものを、大切に思わぬほどに身代わりの人形として生きてきたわけでは無い」
「ぅ、くぅ」
「っ、は――ぁ」
幸正の、宗也の命の熱が注がれた。
指の先にすら、力を込めることが出来ない。ぐったりとした私の背を宗也が抱き、私を挟むようにして、幸正は宗也ごと私を抱きしめていた。ゆらゆらと、揺りかごのように体を揺らし、思い出したように唇をかすめさせ、髪を撫でる。
情事の後のまどろみに、溶けた意識がたゆたっていた。
「幸正よ」
「うん?」
ぼんやりと、水底にいるような心地で、遠い世界の音のように、二人の声を耳が拾った。
「伊佐が、欲しいか」
「欲しいも何も、コイツははじめから、俺のモンだ」
「――そうか」
何を言っているのかと幸正に言いたいのに、胸がむずがゆく跳ねて、くすぐられたようにあたたかくなるばかりで、抗議の声は口から出ない。
「アンタは、伊佐が欲しくねぇのかよ」
「俺は、伊佐ではなく俺が欲しい」
「――はぁ?」
「俺を証明できるものが、欲しい」
「なんでぇ、そりゃあ」
呆れた幸正の声に、静かに、悲しげに宗也の気配がゆがんだ。――ああ、と胸がため息をこぼす。宗也の頬を撫で、なぐさめたいと思うのに深く重い沼に落ち込んだように、指先すらも動かない。
「うぅん、まぁ……身代わりとして生きて来たアンタが、これから当主として生きていくのに、伊佐が必要なことぐれぇ、俺にだってわかってる。けどよ――伊佐を道具みてぇに、したくねぇんだよ。コイツはコイツなりに、苦労をしてきてるしよォ」
滲むような幸正の優しさに、胸が膨らんだ。
「そのくらい、俺とて理解しておるわ。――だからこそ、閨に貴様を呼び、こうして許したのではないか。伊佐を――初めて俺を俺個人として見たものを、大切に思わぬほどに身代わりの人形として生きてきたわけでは無い」
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