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しばらくして、足音が一つ戻って来た。襖は開かない。耳を澄ませてみても、他に足音は聞こえてこなかった。これほど広い屋敷なら、爺様のところへ私が呼んでいると伝わるまで時間がかかりそうだ。
それからどれくらい待ったのか。立ちっぱなしでいることに飽きてきた頃、二つの足音と衣擦れの音が聞こえてきた。それが襖の前で止まり、左右に開いた襖の先に爺様と徳の姿があった。
目を丸くする徳を背後に連れた爺様は、わずかの驚きも浮かべずに微笑みかけてくる。
「何か、御用がおありとか」
「調べてほしいことがある」
促すように、笑みを深くされた。
「私が魚を売っていた男が、どうしているのかが知りたい」
爺様の眉が片方だけ、持ち上がる。
「買い取る予定だったものが、手に入らないんだ。困っているだろう――私が、急に姿を消したのだから」
言いながら、漁を終えた後の事を思い出す。
「それと、私を捕らえた男――宗也という男と、会わせろ」
宗也が私をここへ連れて来たはずだ。だとすれば、宗也をここに連れて来ることが出来ないとは言わないだろう。
私の言葉を受け取ったことを示すように、深くゆっくりと頷いた爺様は
「もうすぐ、昼餉の時間となります。こちらに膳を運ぶつもりでいましたが、場所を変えて召し上がっていただくことにいたしますかな」
言いながら徳に顔を向け、徳は何か言いたげな顔をしていたが唇を結んで頭を下げ、去って行った。
「さて、せっかくここまで来た年寄を、すぐに追い返すようなことはなさらんでしょう。伊佐姫様」
私に顔を戻した爺様の言葉に、招き入れるように一歩下がる。
「では、姫様がどのような暮らしをし、どのように生きて来たのかを聞かせてもらいましょうか」
爺様が部屋に入れば、襖が静かに閉じられた。脇息のある座の向かいに座った爺様に手招かれ、脇息のある座へ腰を下ろす。
「さて、では――何から伺いますかな。…………宗近様が、どのようにお暮しになっていたか。そこから、聞かせていただきますか」
自分の考えを、そのまま口に出したような爺様に頷き、話しはじめる。
それからどれくらい待ったのか。立ちっぱなしでいることに飽きてきた頃、二つの足音と衣擦れの音が聞こえてきた。それが襖の前で止まり、左右に開いた襖の先に爺様と徳の姿があった。
目を丸くする徳を背後に連れた爺様は、わずかの驚きも浮かべずに微笑みかけてくる。
「何か、御用がおありとか」
「調べてほしいことがある」
促すように、笑みを深くされた。
「私が魚を売っていた男が、どうしているのかが知りたい」
爺様の眉が片方だけ、持ち上がる。
「買い取る予定だったものが、手に入らないんだ。困っているだろう――私が、急に姿を消したのだから」
言いながら、漁を終えた後の事を思い出す。
「それと、私を捕らえた男――宗也という男と、会わせろ」
宗也が私をここへ連れて来たはずだ。だとすれば、宗也をここに連れて来ることが出来ないとは言わないだろう。
私の言葉を受け取ったことを示すように、深くゆっくりと頷いた爺様は
「もうすぐ、昼餉の時間となります。こちらに膳を運ぶつもりでいましたが、場所を変えて召し上がっていただくことにいたしますかな」
言いながら徳に顔を向け、徳は何か言いたげな顔をしていたが唇を結んで頭を下げ、去って行った。
「さて、せっかくここまで来た年寄を、すぐに追い返すようなことはなさらんでしょう。伊佐姫様」
私に顔を戻した爺様の言葉に、招き入れるように一歩下がる。
「では、姫様がどのような暮らしをし、どのように生きて来たのかを聞かせてもらいましょうか」
爺様が部屋に入れば、襖が静かに閉じられた。脇息のある座の向かいに座った爺様に手招かれ、脇息のある座へ腰を下ろす。
「さて、では――何から伺いますかな。…………宗近様が、どのようにお暮しになっていたか。そこから、聞かせていただきますか」
自分の考えを、そのまま口に出したような爺様に頷き、話しはじめる。
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