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「助けてもらえたのはありがたいけど、薬代を払える蓄えは、無いよ」
「なんだ。つまんねぇ事を言ってんじゃねぇよ。返したいって思うんなら、さっさと元気になって、漁に出て旨いモンを捕ってきてくれ」
幸正の笑みを見ながら、考える。あの医者を呼ぶ金は、薬代は、誰が出したのだろう。
「ほら、しっかり食って元気になれよ」
幸正が差し出した椀には、たっぷりの具材が入っていた。これらは、誰が買い求めてくれたものなのか。
滋味に富んだ汁を啜り終えれば、すぐに休めと言われた。目が覚めて、幸正の姿が無かったことは一度も無かった。私が怪我をしてから今日まで、幸正は役目をさしおいて私を看護してくれている。そう思うと、すぐにでも何かを返したくなった。――今すぐに、私が出来る事。
食べ終えた椀を幸正に返しながら、裸身の私を同じく裸身の幸正があたためてくれていた事を思い出した。その瞬間に、礼を何にするかが決まった。
椀を受け取った幸正の首に、そのまま腕を伸ばして絡め、顔を寄せた。ゆっくりと唇を重ねれば、幸正の目はこぼれそうなほどに大きく見開かれた。
「……伊佐」
掠れた声に、頬を寄せる。幸正の首に噛みついて、襟を広げて手を差し込んだ。ごくりと、幸正の喉が動くのが見えた。
「伊佐!」
力強く抱きしめられて、押し倒された。ぬくもりに包まれて、心が疼いた。――礼をするつもりでいたのに、私は幸正を求めたいがために腕を伸ばしたのではないかと感じるほどに、胸の奥が熱くなった。
私は、幸正に惚れているのだろうか。それともただ、自分でも気付かぬ寂しさを癒されたかっただけなのか。
頬に唇を押し付けた幸正は、眉根を寄せて苦しげに顔を覗き込んできた。
「伊佐……」
「アンタのまわりにいる女の中じゃ、いっとう貧相な体だろうけどさ」
自嘲気味に言えば
「腹の傷に、響くだろう」
気遣われた。
「女に、恥をかかせないくらいのことは、出来るだろ」
「なんだ。つまんねぇ事を言ってんじゃねぇよ。返したいって思うんなら、さっさと元気になって、漁に出て旨いモンを捕ってきてくれ」
幸正の笑みを見ながら、考える。あの医者を呼ぶ金は、薬代は、誰が出したのだろう。
「ほら、しっかり食って元気になれよ」
幸正が差し出した椀には、たっぷりの具材が入っていた。これらは、誰が買い求めてくれたものなのか。
滋味に富んだ汁を啜り終えれば、すぐに休めと言われた。目が覚めて、幸正の姿が無かったことは一度も無かった。私が怪我をしてから今日まで、幸正は役目をさしおいて私を看護してくれている。そう思うと、すぐにでも何かを返したくなった。――今すぐに、私が出来る事。
食べ終えた椀を幸正に返しながら、裸身の私を同じく裸身の幸正があたためてくれていた事を思い出した。その瞬間に、礼を何にするかが決まった。
椀を受け取った幸正の首に、そのまま腕を伸ばして絡め、顔を寄せた。ゆっくりと唇を重ねれば、幸正の目はこぼれそうなほどに大きく見開かれた。
「……伊佐」
掠れた声に、頬を寄せる。幸正の首に噛みついて、襟を広げて手を差し込んだ。ごくりと、幸正の喉が動くのが見えた。
「伊佐!」
力強く抱きしめられて、押し倒された。ぬくもりに包まれて、心が疼いた。――礼をするつもりでいたのに、私は幸正を求めたいがために腕を伸ばしたのではないかと感じるほどに、胸の奥が熱くなった。
私は、幸正に惚れているのだろうか。それともただ、自分でも気付かぬ寂しさを癒されたかっただけなのか。
頬に唇を押し付けた幸正は、眉根を寄せて苦しげに顔を覗き込んできた。
「伊佐……」
「アンタのまわりにいる女の中じゃ、いっとう貧相な体だろうけどさ」
自嘲気味に言えば
「腹の傷に、響くだろう」
気遣われた。
「女に、恥をかかせないくらいのことは、出来るだろ」
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