18 / 21
18.
しおりを挟む
歩いている間、ラーシュはしきりに話しかけてくれたけれど、ろくに返事をすることができなかった。
英語が聞き取れなかったせいでもあるし、みじめさに打ちのめされていたせいでもある。
興奮していた頭が冷えると、さっきの行動が考えなしだったのではないかと思えてきたのだ。
あの三人が犯人だとラーシュが信じてくれたとして、彼は学校でどう身の潔白を証明すればいいのだろう。
私が証人として発言する? それにどれほど信ぴょう性があるだろうか。
もし、星のささやきのことをラーシュに話していたら、見張るなりわなを仕掛けるなりして、もっとちゃんとした証拠を手に入れられたかもしれない。けれど私は、彼にばれたくない一心で、そのチャンスをつぶしてしまった。
どっちにしろ、彼とちゃんと話をしなければならない。
日本語で話してくれるよう頼むと、ラーシュは怪訝な顔をしながらも、言う通りにしてくれた。
彼は日本語もうまかった。ちょっと癖のある発音で、それでもちゃんと意味が伝わるように言葉を紡ぐ。
さっきの三人組の話をすると、彼は私の懸念を察して首を横に振った。
「彼らの話、俺も聞いた。だから、先生、説得できる」
聞けば、あの三人組は素行が悪くて有名らしい。彼らと比べたら、たとえ証拠がなくても、優秀な成績を収めているラーシュの方に軍配が上がる、外人という不利は言葉で打ち負かしてやると、彼は自信ありげに笑った。
「コトハのおかげだ。ありがとう」
でも、と、ラーシュは続けた。
――なぜ、あいつらが犯人だとわかったか。
「あれ、わざと言わせた、と見えた。コトハも知らなかったこと。でも、知っていたから。なぜ?」
(……ああ、ついに来た)
私はラーシュの顔を見ることができず、目をそらした。
「聞いても、信じないよ。……ありえないことだから」
「ありえない? なにが?」
「……ごめんなさい。私、ラーシュに悪いことしてた……」
「だから、なに? 言わないと、わからない。そうだろ?」
そう言うと、ラーシュは私の顔を両手で包んで、ぐいっと正面を向かせた。デリカシーのない強引さに腹が立ち、抵抗しようとしたけれど、ラーシュの困った表情を見て気が抜けた。
そうだった。ラーシュが強引になるのは、他人を心配しているときなのだ。
彼の透明な目で見つめられているうちに、気が付いた時には、星のささやきのことを洗いざらい話してしまっていた。
英語が聞き取れなかったせいでもあるし、みじめさに打ちのめされていたせいでもある。
興奮していた頭が冷えると、さっきの行動が考えなしだったのではないかと思えてきたのだ。
あの三人が犯人だとラーシュが信じてくれたとして、彼は学校でどう身の潔白を証明すればいいのだろう。
私が証人として発言する? それにどれほど信ぴょう性があるだろうか。
もし、星のささやきのことをラーシュに話していたら、見張るなりわなを仕掛けるなりして、もっとちゃんとした証拠を手に入れられたかもしれない。けれど私は、彼にばれたくない一心で、そのチャンスをつぶしてしまった。
どっちにしろ、彼とちゃんと話をしなければならない。
日本語で話してくれるよう頼むと、ラーシュは怪訝な顔をしながらも、言う通りにしてくれた。
彼は日本語もうまかった。ちょっと癖のある発音で、それでもちゃんと意味が伝わるように言葉を紡ぐ。
さっきの三人組の話をすると、彼は私の懸念を察して首を横に振った。
「彼らの話、俺も聞いた。だから、先生、説得できる」
聞けば、あの三人組は素行が悪くて有名らしい。彼らと比べたら、たとえ証拠がなくても、優秀な成績を収めているラーシュの方に軍配が上がる、外人という不利は言葉で打ち負かしてやると、彼は自信ありげに笑った。
「コトハのおかげだ。ありがとう」
でも、と、ラーシュは続けた。
――なぜ、あいつらが犯人だとわかったか。
「あれ、わざと言わせた、と見えた。コトハも知らなかったこと。でも、知っていたから。なぜ?」
(……ああ、ついに来た)
私はラーシュの顔を見ることができず、目をそらした。
「聞いても、信じないよ。……ありえないことだから」
「ありえない? なにが?」
「……ごめんなさい。私、ラーシュに悪いことしてた……」
「だから、なに? 言わないと、わからない。そうだろ?」
そう言うと、ラーシュは私の顔を両手で包んで、ぐいっと正面を向かせた。デリカシーのない強引さに腹が立ち、抵抗しようとしたけれど、ラーシュの困った表情を見て気が抜けた。
そうだった。ラーシュが強引になるのは、他人を心配しているときなのだ。
彼の透明な目で見つめられているうちに、気が付いた時には、星のささやきのことを洗いざらい話してしまっていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

短編集 【雨降る日に……】
星河琉嘩
ライト文芸
街の一角に佇む喫茶店。
その喫茶店に来る人たちの話です。
1話1話がとても短いお話になっています。
その他のお話も何か書けたら更新していきます。
【雨降る日に……】
【空の上に……】
【秋晴れの日に】
【君の隣】
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社をクビになった私。郷土料理屋に就職してみたら、イケメン店主とバイトすることになりました。しかもその彼はーー
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ライト文芸
主人公の佐田結衣は、おっちょこちょいな元OL。とある事情で就活をしていたが、大失敗。
どん底の気持ちで上野御徒町を歩いていたとき、なんとなく懐かしい雰囲気をした郷土料理屋を見つける。
もともと、飲食店で働く夢のあった結衣。
お店で起きたひょんな事件から、郷土料理でバイトをすることになってーー。
日本の郷土料理に特化したライトミステリー! イケメン、でもヘンテコな探偵とともに謎解きはいかが?
恋愛要素もたっぷりです。
10万字程度完結。すでに書き上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる