7 / 21
7.
しおりを挟む
彼は、ラーシュ・オーバリと名乗った。父親の仕事の都合で、一か月前にスウェーデンから転入してきたらしい。
『やっぱり単一民族だから、外国人が珍しいんだろうな……』
ここからは塀で隠れている十字路の方角に目をやって、ため息をついた。
彼が注目を浴びている一番の理由は、外国人だからではなくイケメンだからだろうと思ったけれど、それよりも、居心地悪げな彼の様子が気になった。
そこまで嫌な思いをさせていたことに気づけなかった。「……ソーリー」と小さな声で謝ると、彼は首を傾げた。
『どうしてまた謝るんだ?』
「だ、だって……。アイルックユー。ソウ(私はあなたを見ます、だから)」
彼は不思議そうな表情をして、頷いた。
『え? ああ、確かに俺を見てるな。イエス』
いや、イエスじゃなくて。
やっぱりちゃんと伝わらない。どう言ったらいいか頭をフル回転させていると、
『それ、日本人のよくないところだ。悪くもないのに謝るのはやめた方がいい』
と、なんか説教されてしまった。
悪いから謝ったのに、言い繕えば言い繕うほど泥沼にはまってしまって、途中で諦めた。勘違いを正せなかった代わりに、せめてこれからは彼を凝視するのをやめようと誓う。
『あ、そうだ』
彼は思い出したように、馬のキーホルダーを取り出した。
『渡日するときに祖母がくれた馬のお守りなんだ。見つけてくれてありがとう、コトハ』
そう言って、はにかんだように微笑んだ。そうすると、冷淡な印象が一気に崩れた。
(わ、この人、笑うんだ……!)
空の色が濃くなり、太陽の光が、彼の髪と風に舞うダイヤモンドダストをキラキラと輝かせる。
今まで無表情か不機嫌そうな顔しか見たことのなかった彼が、笑った。
それは星のささやきにも勝る奇跡に思えて、心の中に深く刻み込まれた。
『やっぱり単一民族だから、外国人が珍しいんだろうな……』
ここからは塀で隠れている十字路の方角に目をやって、ため息をついた。
彼が注目を浴びている一番の理由は、外国人だからではなくイケメンだからだろうと思ったけれど、それよりも、居心地悪げな彼の様子が気になった。
そこまで嫌な思いをさせていたことに気づけなかった。「……ソーリー」と小さな声で謝ると、彼は首を傾げた。
『どうしてまた謝るんだ?』
「だ、だって……。アイルックユー。ソウ(私はあなたを見ます、だから)」
彼は不思議そうな表情をして、頷いた。
『え? ああ、確かに俺を見てるな。イエス』
いや、イエスじゃなくて。
やっぱりちゃんと伝わらない。どう言ったらいいか頭をフル回転させていると、
『それ、日本人のよくないところだ。悪くもないのに謝るのはやめた方がいい』
と、なんか説教されてしまった。
悪いから謝ったのに、言い繕えば言い繕うほど泥沼にはまってしまって、途中で諦めた。勘違いを正せなかった代わりに、せめてこれからは彼を凝視するのをやめようと誓う。
『あ、そうだ』
彼は思い出したように、馬のキーホルダーを取り出した。
『渡日するときに祖母がくれた馬のお守りなんだ。見つけてくれてありがとう、コトハ』
そう言って、はにかんだように微笑んだ。そうすると、冷淡な印象が一気に崩れた。
(わ、この人、笑うんだ……!)
空の色が濃くなり、太陽の光が、彼の髪と風に舞うダイヤモンドダストをキラキラと輝かせる。
今まで無表情か不機嫌そうな顔しか見たことのなかった彼が、笑った。
それは星のささやきにも勝る奇跡に思えて、心の中に深く刻み込まれた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします
皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。
完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる