37 / 39
36.
しおりを挟む
「天宮 花音」。
「雨」ではなく、「天」と書く方の天宮。
「……理事長って、レオンって名前のアメリカ人ですか?」
ほとんど確信しているが、念のため聞いてみる。青年は眉をひそめつつ、答えてくれた。
「今更何言ってんだ。当たり前だろ。レオン・ナインティーン。冗談みたいな名前で有名じゃないか」
どう見ても日本人なのに、日本人離れした名前の不審な人。
きっと、国籍を変えたときに改名したのだろう。変な名前の由来が、ようやく判った。
天宮。
「てん・きゅう」とも読める。「てん」を「十」、「きゅう」を「九」と変換すれば、「十九」になる。英語で「十九」は、ナインティーン。
入り婿で離婚した彼が、改名してまでこだわった名字。
娘に見せたくて、娘に伝えたくて、ただそれだけで作り上げた学校。
「殺しても死にそうになかったのに……、交通事故で、こんなにあっさりなんてな。全校集会で黙祷もしただろう? ――ってお前、まさかそれも出てなかったのか!?」
冗談やだじゃれが好きで、いつも楽しそうな人だった。
勉強しかすることのなかった律に、別の世界を見せてくれた人だった。
けれど、決して律に何かを押しつけたりはしなかった。
――きれいな花だろう? ……え? 虫の方がきれいだって?
彼の思いとは裏腹に、律が結局興味を持ったのは花畑ではなく虫だったけれど、それでも興味が持てるものが見つかって良かったと、喜んでくれた人だった。
――そう、花音のように。
「雨」ではなく、「天」と書く方の天宮。
「……理事長って、レオンって名前のアメリカ人ですか?」
ほとんど確信しているが、念のため聞いてみる。青年は眉をひそめつつ、答えてくれた。
「今更何言ってんだ。当たり前だろ。レオン・ナインティーン。冗談みたいな名前で有名じゃないか」
どう見ても日本人なのに、日本人離れした名前の不審な人。
きっと、国籍を変えたときに改名したのだろう。変な名前の由来が、ようやく判った。
天宮。
「てん・きゅう」とも読める。「てん」を「十」、「きゅう」を「九」と変換すれば、「十九」になる。英語で「十九」は、ナインティーン。
入り婿で離婚した彼が、改名してまでこだわった名字。
娘に見せたくて、娘に伝えたくて、ただそれだけで作り上げた学校。
「殺しても死にそうになかったのに……、交通事故で、こんなにあっさりなんてな。全校集会で黙祷もしただろう? ――ってお前、まさかそれも出てなかったのか!?」
冗談やだじゃれが好きで、いつも楽しそうな人だった。
勉強しかすることのなかった律に、別の世界を見せてくれた人だった。
けれど、決して律に何かを押しつけたりはしなかった。
――きれいな花だろう? ……え? 虫の方がきれいだって?
彼の思いとは裏腹に、律が結局興味を持ったのは花畑ではなく虫だったけれど、それでも興味が持てるものが見つかって良かったと、喜んでくれた人だった。
――そう、花音のように。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
どうやら私は二十歳で死んでしまうようです
ごろごろみかん。
キャラ文芸
高二の春。
皆本葉月はある日、妙な生き物と出会う。
「僕は花の妖精、フラワーフープなんだもん。きみが目覚めるのをずっと待っていたんだもん!」
変な語尾をつけて話すのは、ショッキングピンクのうさぎのぬいぐるみ。
「なんだこいつ……」
葉月は、夢だと思ったが、どうやら夢ではないらしい。
ぬいぐるみ──フラワーフープはさらに言葉を続ける。
「きみは20歳で死んじゃうんだもん。あまりにも不憫で可哀想だから、僕が助けてあげるんだもん!」
これは、寂しいと素直に言えない女子高生と、その寂しさに寄り添った友達のお話。
宵闇町・文字屋奇譚
桜衣いちか
キャラ文芸
【文字、売ります】──古びた半紙が引き寄せるのは、やおよろずの相談事。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
──その出会い、合縁奇縁(あいえんきえん)──
小動物(モフモフ)大好きな女性・秋野千代。
亡くなった祖母の書道教室を営むかたわら、売れっ子漫画家を目指すが、現実は鳴かず飛ばず。
稲荷神社に出かけた矢先。
供え物を盗み食いする狐耳少年+一匹を発見し、追いかけた千代が足を踏み入れたのは──あやかしと獣人の町・宵闇町(よいやみちょう)だった。
元の世界に帰るため。
日々の食い扶持を得るため。
千代と文字屋の凸凹コンビが、黒と紫色の世界を奔走する。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
キャラ原案/△○□×(みわしいば)
Picrewの「少年少女好き?2」で作成
https://picrew.me/share?cd=5lbBpGgS6x
小児科医、姪を引き取ることになりました。
sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。
慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる