3 / 39
2.
しおりを挟む
六星花学園。
街の中心地から離れた森の高台にある私立高校だ。
常軌を逸した金持ちが創設した学校で、風変わりなカリキュラムが組まれており、生徒達も変わり者が多いと聞く。
目の前の少年も、そのうちの一人なのだろう。
彼は、視線を上から下まで移動させて、花音の全身を観察した。
「最近、ストーカー被害の相談が多いっていうけど、まさか――」
「ス、ストーカー!? ちょ、ちょっと待って! あたしは、天宮花音っていって、ちゃんとした高校生で……!」
「……ちゃんとした?」
うさんくさげな声を正面から浴びせられ、花音は顔を引きつらせた。
少年の無表情からは何も読み取れない。しかし、不審に思われていることだけはばっちり伝わってくる。適当な言い訳で見逃してもらえるような雰囲気ではなく、花音は事情を話してわかってもらえる可能性にかけることにした。
「あのね、ちょっと込み入った話になるんだけど、聞いてくれる? 実はあたし、一週間後に日本を発つことになってるの!」
不信感を力まかせに押し切る勢いで説明する。
「だけど、いきなり、随分前に離婚した父親から連絡があってね。この学校に何か隠したらしいんだ。それをあたしにくれるって。最初はそんなの、無視しようと思ったんだけど、いざ日本を離れるとなると、放っておくのも寝覚めが悪いかなって考えるようになって。だから、確認だけでもしておきたいの。こっそり入ったのは悪かったけど、あたしはここの生徒じゃないし……」
花音だって最初から忍び込もうと考えていたわけではない。見学の申請を出そうにも、学校関係者か入学希望の中学生しか学園側では受け付けていなかったのだ。仕方なく、フリマサイトで制服を一式そろえ、登校する生徒に混じって忍び込んだのである。
無言で見つめてくる少年の結論を、気をもみながら待つ。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「……なんで、この学園に?」
「ええと、それは、わかんないんだ。でも、そういえば高校受験の時、やたらこの学校勧められた気がする。なんか不自然だったから、あいつの差し金だったのかも」
「…………」
花音は父親のことを思い出して舌打ちをした。それを見た少年は、数回、瞬きをしただけで、あとは何の反応もしない。信じてくれたのかは判らないが、即連行されなかったことに希望を抱いた花音は、ここぞとばかりにたたみかけた。
「お願い! 別に悪いことしようとしてるわけじゃないの! 用事が済んだらすぐに出ていくから、見逃して!」
「……不法侵入が、すでに犯罪……」
「それはまあそれとして!」
平身低頭して拝み倒すと、花音の読み通り彼は折れた。
「……本当に、悪いことはしない?」
「うん、迷惑はかけないから!」
「用事が終わったら、帰る?」
「うん、それはもうおとなしく!」
「……わかった。通報するのはやめる」
「! やったー! ありがとう!」
目を輝かせて飛び上がり、勢いのまま彼の手を握って上下に振った。それから意気揚々と図書室の出口へ向かうと、なぜか彼が後ろからついてきた。
「……あの?」
怪訝に思って首をかしげた花音に、少年は簡潔に答えた。
「通報はしない。けど、あんたが本当に悪いことしないか、監視する」
「ええ~っ!?」
信用してくれたのかと思いきや、しっかり疑われているらしい。
街の中心地から離れた森の高台にある私立高校だ。
常軌を逸した金持ちが創設した学校で、風変わりなカリキュラムが組まれており、生徒達も変わり者が多いと聞く。
目の前の少年も、そのうちの一人なのだろう。
彼は、視線を上から下まで移動させて、花音の全身を観察した。
「最近、ストーカー被害の相談が多いっていうけど、まさか――」
「ス、ストーカー!? ちょ、ちょっと待って! あたしは、天宮花音っていって、ちゃんとした高校生で……!」
「……ちゃんとした?」
うさんくさげな声を正面から浴びせられ、花音は顔を引きつらせた。
少年の無表情からは何も読み取れない。しかし、不審に思われていることだけはばっちり伝わってくる。適当な言い訳で見逃してもらえるような雰囲気ではなく、花音は事情を話してわかってもらえる可能性にかけることにした。
「あのね、ちょっと込み入った話になるんだけど、聞いてくれる? 実はあたし、一週間後に日本を発つことになってるの!」
不信感を力まかせに押し切る勢いで説明する。
「だけど、いきなり、随分前に離婚した父親から連絡があってね。この学校に何か隠したらしいんだ。それをあたしにくれるって。最初はそんなの、無視しようと思ったんだけど、いざ日本を離れるとなると、放っておくのも寝覚めが悪いかなって考えるようになって。だから、確認だけでもしておきたいの。こっそり入ったのは悪かったけど、あたしはここの生徒じゃないし……」
花音だって最初から忍び込もうと考えていたわけではない。見学の申請を出そうにも、学校関係者か入学希望の中学生しか学園側では受け付けていなかったのだ。仕方なく、フリマサイトで制服を一式そろえ、登校する生徒に混じって忍び込んだのである。
無言で見つめてくる少年の結論を、気をもみながら待つ。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「……なんで、この学園に?」
「ええと、それは、わかんないんだ。でも、そういえば高校受験の時、やたらこの学校勧められた気がする。なんか不自然だったから、あいつの差し金だったのかも」
「…………」
花音は父親のことを思い出して舌打ちをした。それを見た少年は、数回、瞬きをしただけで、あとは何の反応もしない。信じてくれたのかは判らないが、即連行されなかったことに希望を抱いた花音は、ここぞとばかりにたたみかけた。
「お願い! 別に悪いことしようとしてるわけじゃないの! 用事が済んだらすぐに出ていくから、見逃して!」
「……不法侵入が、すでに犯罪……」
「それはまあそれとして!」
平身低頭して拝み倒すと、花音の読み通り彼は折れた。
「……本当に、悪いことはしない?」
「うん、迷惑はかけないから!」
「用事が終わったら、帰る?」
「うん、それはもうおとなしく!」
「……わかった。通報するのはやめる」
「! やったー! ありがとう!」
目を輝かせて飛び上がり、勢いのまま彼の手を握って上下に振った。それから意気揚々と図書室の出口へ向かうと、なぜか彼が後ろからついてきた。
「……あの?」
怪訝に思って首をかしげた花音に、少年は簡潔に答えた。
「通報はしない。けど、あんたが本当に悪いことしないか、監視する」
「ええ~っ!?」
信用してくれたのかと思いきや、しっかり疑われているらしい。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
片翼の天狗は陽だまりを知らない
道草家守
キャラ文芸
静真は天狗と人の半妖だ。味方などおらず、ただ自分の翼だけを信じて孤独に生きてきた。しかし、お役目をしくじり不時着したベランダで人の娘、陽毬に助けられてしまう。
朗らかな彼女は、静真を手当をするとこう言った。
「天狗さん、ご飯食べて行きませんか」と。
いらだち戸惑いながらも、怪我の手当ての礼に彼女と食事を共にすることになった静真は、彼女と過ごす内に少しずつ変わっていくのだった。
これは心を凍らせていた半妖の青年が安らいで気づいて拒絶してあきらめて、自分の居場所を決めるお話。
※カクヨム、なろうにも投稿しています。
※イラストはルンベルさんにいただきました。
JACK━セカンド━【約5人用声劇台本】
未旅kay
キャラ文芸
分断された仲間たちを復讐の刃が襲う。
ムゲン体の脅威は、少年少女の心を(えぐ)る。
最も壮絶な戦いが始まる。
男3:女2
全7話。
息遣い、バトルシーンの演技の追加・アドリブ自由。
(M) はモノローグです。
あらすじ、登場人物、利用規約は最初に記載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる