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Bar28本目:リオレへの道程
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七妃が駆る馬車の荷台で、体を疲れさせない様に横になっている筈が……。
「痛い」
思わず口に出る程に。これでは交代で体を休めるどころか、ゲームで言うならライフをドンドン削られて行ってしまっている状態だ。
造りのお陰で他の馬車と比べて殆ど揺れないと言えど、恐らく小石かなんかを踏んで跳ねた時などはどうしようも無く、荷台の落下と共に身体が剥き出しのフローリングに叩き付けられる。
……フローリング等と自分を騙してみた処で現状が変わる訳は無く、切り出しただけの木の板そのものなので、当然ささくれ立っているし、容赦無く皮膚を貫いて来る。
どうしてこんな単純な事に気付かなかったのか。絨毯や、それに変わる布団や布が必要だ。こんな所に七妃を横にさせる訳にはいかない。
取り敢えずはリオレで買う物、1個決定だな。
しかし、そうは言っても着くまでこのまま耐えないといけないと云う思いが、精神を擦り減らしに掛かって来る。
奥の隅に積み上げた乾草をある程度の高さで俺が横に慣れる位の面積で均して、その上に寝転がってみる。
クッション性こそは良くなったけど、これはこれで乾燥した草がチクチクする。
このままでは、痛し痒しだ。……いや、精神的な事だけでは無く、実際に痛くて痒い。
どうした物かと自分のバッグを漁った処、最初に立ち寄った街で買った服が出て来たので、それを乾草の上に広げてみた。
素材としてのゴワゴワ感は否めないが、木に直や乾草だけよりは随分マシになったので、当座はこれで凌ぐ事にしよう。今日1日の辛抱だ。
……。
……。
……。
痛い。
硬さやチクチクの問題は解決したけど、それまでに俺の身体に刻まれた細かい傷が、どうにも痛くて痒い。
……魔法でどうにかならないかな。
乗り物酔いするから今は本を読めないけど、風と話したのと同じ流れで、俺の身体と……。
『こんにちは! やっと話し掛けてくれたねぇ。これ位の傷や跡なら、ちょっと力を貰えば直ぐに治せるよ。やる?』
……おお、出来た。自分の胸に手を当てて力を流してみたら、見事話し掛ける事が出来た。
傷を治せると云う事だから、ゲームで言う処の回復魔法か。
手を当てるのは胸じゃなくても、恐らくは何処でも良いんだとは思うけど。
傷を治す血小板なんかは血管を伝って体中の何処にでも行くし、何よりも、そうじゃないと七妃の傷を癒そうとした時に毎回あの豊満な胸に触れないといけなくなって困る。ああ、困る。
(頼めるか?)
『勿論。僕達だって、傷付いたままは嫌なんだよ?』
(それは違いないな。俺はどうすれば良い?)
『話し掛けてくれた時と同じ様に、力を流す様にイメージしてみてね。ああ、触れる場所は何処でも良いよ。手当てとは違うから』
言われた通りに、試しに全く痕の無い所に触れながら、力を渡してみる。
そうすると、俺の身体に付いた無数の傷は、跡形もなく消えて行った。
(なるほど。ありがとな)
『良いんだってば。他の人の身体を治す時も、やり方は一緒だからね』
言うだけ言って、身体は急に静かになった。風が気配を消す時の様な物か。
……風と言えば、俺が最初に話したにも拘らず先に身体に力を使った事に、嫉妬してたりはしないよな?
(風?)
『やあ、力の使い方を覚えたんだね、おめでとう』
(悪いな、先に話をしたのはお前となのに)
『ううん、全然気にならないよ。実際、よく有る事だしさ。人に依って必要な力は違うからね。それに、力を使える様になる人は、まず最初に僕と話すんだよ? イチイチ気にしていたら、やっていられないよ』
(気にしてない割に、急に饒舌になったな)
『もう、ヨシヤ君の意地悪!』
俺の周りを吹き荒れて、身体の下の乾草が揺れる。折角傷を治したばかりなのに、勘弁して欲しい。とすると、図星だったと云う事か。
(悪い、もう言わないから)
『そうしてよね。話はそれだけ?』
(ああ、後、休憩する時に、黒風を洗おうと思うから。確か、水が出せるんだよな?)
『うん、そうだよ。じゃあ、またその時にでも呼んでね。……別に、いつでも話し掛けてくれて良いけど』
何故だか最後に寂しがりやツンデレの様な事を言い残し、吹き止んで風はその気配を消した。
仕方無い、ちょくちょく話し掛けてやるとするか。意外と良い話し相手でも有るし。
ガクンッ。
漸く現状に慣れて微睡み始めた頃、馬車が不意に止まった。
「どうした?」
「あ、善哉、出番だよっ!」
慌てて馬車から飛び降りると、前方に猿が何匹も集まって道を塞いでいるのが見えた。
輪郭が揺らいでいるので、勿論全員魔製。
「あずきボーソード!」
その名を叫んで、例の剣を呼び出す。左手に握った柄の先に添えた右手を動かすのにつれて、日本刀が形作られる感覚が癖になる。
「今日はあーしもちゃんと戦うからねっ!」
七妃は真剣な顔でそう宣言しながら、背負ったリュックから取り出したフライパンを構えた。
「……フライパン?」
いや、リュックから何らかの取っ手が飛び出しているのには気付いていたけど。
「あずきボーほど固く無いけど、魔力を籠めて叩けば何とかなるっしょっ!」
「そうかも知れないけど……」
「ブルルルルっ!」
思わず気が抜けた俺とは対照的に、七妃の気合に応える様に鼻を荒く鳴らした黒風。
「そうそう、黒風ちゃんも、よろしくねっ!」
馬車と繋いでいた縄を七妃が外すと、黒風は後ろ足をその場で何度も蹴り上げ始めた。
やる気は充分な様で、何とも心強い。
と、勢いスタートを切った黒風は瞬間的にサルとの距離を詰め、魔力を籠めたその両前足をサルの群れに振り下ろした。
ズウウウゥゥン……。
地面が揺れた。気がした。それ程の気合と迫力だった。
しかし、サルを一匹踏み抜いた左足とは違い、右足はそのまま地面に突き立てられた。
避けられたのだ。すばしっこい。
尤も踏み抜かれた方も避けようとはしていたが、密集していた為にそれが叶わなかったのが見て取れた。
魔王との決戦の時には、是非にも気を付けたい処だ。
「えいっ!」
飛び掛かって来たサルに、七妃が両手で握ったフライパンを気合一閃振り下ろした。
ゴンッ。
流石にすばしっこいサルでも空中で方向転換する事は出来ず、哀れ、顔面を強打されたサルは地面に叩き落され、その姿を霧散させた。
……これは、俺も負けてられないな。
数匹のサルが集まっている所に突進を掛け、あずきボーソードを振り回す。
サルも飛び跳ねて避けようとするけど、相手が避けるのなら、避けた先を想定して打ち込んでやれば良い。
俺のあずきボーソードは順調にサルを捉え、その姿を減らして行く。
「もうっ! しつこいよっ!」
「ヒヒーンッ!」
七妃と黒風も順調な様だ。
魔製生物は倒すとその姿が消えるとは言え、攻撃をヒットさせた時には衝撃はある。
何匹目かを倒した時に左手に疲れを感じた俺は、少し手を休めようと構えを解いて剣先を下ろした。
――が、それがいけなかった。
俺の隙を見て取ったサルは、その瞬間を逃さずに襲い掛かって来る。
「あっ、善哉っ!」
「大丈夫だ!」
サルに向けて右ストレートを、拳の先にあずきボーを呼び出しつつ打ち込む。
不意を突かれた形になるサルは、戸惑いのままに消えて行った。
「凄い善哉っ!」
「ヒヒーンッ!」
「ふう、やっぱり大丈夫だったな……」
七妃と黒風からの賞賛とは別に、安堵の息を吐く。
あずきボーパンチの懸念される点と言えば、あずきボーの硬さがダイレクトに自分の拳に返ってくるかも知れない処だったけど、俺の右手には全くダメージが無かった。
理屈は良く分からない――無意識にそうしているのかも知れない――けど、魔力の特質なのかも知れない。
攻撃対象には直接その威力を伝え、自分や仲間の身は護る物。
ぶっつけ本番にはなったけど、風達精霊の存在が俺にそう思わせていて、あずきボーパンチを躊躇う心を打ち消していた。
因みにパンチだけだと何発も当てないと倒せないだろうし、あずきボーを充てたのは、黒風で言う蹄代わり。
――さて、残るサルは、1匹、2匹――。
「危ない善哉!」
七妃の悲鳴にも似た叫びと迫り来る気配に身を翻すと、俺の身体を捕え損ねた魔力の籠った石が、護る者の居ない荷台の幌を打ち破らんとしているのが見えた――。
「痛い」
思わず口に出る程に。これでは交代で体を休めるどころか、ゲームで言うならライフをドンドン削られて行ってしまっている状態だ。
造りのお陰で他の馬車と比べて殆ど揺れないと言えど、恐らく小石かなんかを踏んで跳ねた時などはどうしようも無く、荷台の落下と共に身体が剥き出しのフローリングに叩き付けられる。
……フローリング等と自分を騙してみた処で現状が変わる訳は無く、切り出しただけの木の板そのものなので、当然ささくれ立っているし、容赦無く皮膚を貫いて来る。
どうしてこんな単純な事に気付かなかったのか。絨毯や、それに変わる布団や布が必要だ。こんな所に七妃を横にさせる訳にはいかない。
取り敢えずはリオレで買う物、1個決定だな。
しかし、そうは言っても着くまでこのまま耐えないといけないと云う思いが、精神を擦り減らしに掛かって来る。
奥の隅に積み上げた乾草をある程度の高さで俺が横に慣れる位の面積で均して、その上に寝転がってみる。
クッション性こそは良くなったけど、これはこれで乾燥した草がチクチクする。
このままでは、痛し痒しだ。……いや、精神的な事だけでは無く、実際に痛くて痒い。
どうした物かと自分のバッグを漁った処、最初に立ち寄った街で買った服が出て来たので、それを乾草の上に広げてみた。
素材としてのゴワゴワ感は否めないが、木に直や乾草だけよりは随分マシになったので、当座はこれで凌ぐ事にしよう。今日1日の辛抱だ。
……。
……。
……。
痛い。
硬さやチクチクの問題は解決したけど、それまでに俺の身体に刻まれた細かい傷が、どうにも痛くて痒い。
……魔法でどうにかならないかな。
乗り物酔いするから今は本を読めないけど、風と話したのと同じ流れで、俺の身体と……。
『こんにちは! やっと話し掛けてくれたねぇ。これ位の傷や跡なら、ちょっと力を貰えば直ぐに治せるよ。やる?』
……おお、出来た。自分の胸に手を当てて力を流してみたら、見事話し掛ける事が出来た。
傷を治せると云う事だから、ゲームで言う処の回復魔法か。
手を当てるのは胸じゃなくても、恐らくは何処でも良いんだとは思うけど。
傷を治す血小板なんかは血管を伝って体中の何処にでも行くし、何よりも、そうじゃないと七妃の傷を癒そうとした時に毎回あの豊満な胸に触れないといけなくなって困る。ああ、困る。
(頼めるか?)
『勿論。僕達だって、傷付いたままは嫌なんだよ?』
(それは違いないな。俺はどうすれば良い?)
『話し掛けてくれた時と同じ様に、力を流す様にイメージしてみてね。ああ、触れる場所は何処でも良いよ。手当てとは違うから』
言われた通りに、試しに全く痕の無い所に触れながら、力を渡してみる。
そうすると、俺の身体に付いた無数の傷は、跡形もなく消えて行った。
(なるほど。ありがとな)
『良いんだってば。他の人の身体を治す時も、やり方は一緒だからね』
言うだけ言って、身体は急に静かになった。風が気配を消す時の様な物か。
……風と言えば、俺が最初に話したにも拘らず先に身体に力を使った事に、嫉妬してたりはしないよな?
(風?)
『やあ、力の使い方を覚えたんだね、おめでとう』
(悪いな、先に話をしたのはお前となのに)
『ううん、全然気にならないよ。実際、よく有る事だしさ。人に依って必要な力は違うからね。それに、力を使える様になる人は、まず最初に僕と話すんだよ? イチイチ気にしていたら、やっていられないよ』
(気にしてない割に、急に饒舌になったな)
『もう、ヨシヤ君の意地悪!』
俺の周りを吹き荒れて、身体の下の乾草が揺れる。折角傷を治したばかりなのに、勘弁して欲しい。とすると、図星だったと云う事か。
(悪い、もう言わないから)
『そうしてよね。話はそれだけ?』
(ああ、後、休憩する時に、黒風を洗おうと思うから。確か、水が出せるんだよな?)
『うん、そうだよ。じゃあ、またその時にでも呼んでね。……別に、いつでも話し掛けてくれて良いけど』
何故だか最後に寂しがりやツンデレの様な事を言い残し、吹き止んで風はその気配を消した。
仕方無い、ちょくちょく話し掛けてやるとするか。意外と良い話し相手でも有るし。
ガクンッ。
漸く現状に慣れて微睡み始めた頃、馬車が不意に止まった。
「どうした?」
「あ、善哉、出番だよっ!」
慌てて馬車から飛び降りると、前方に猿が何匹も集まって道を塞いでいるのが見えた。
輪郭が揺らいでいるので、勿論全員魔製。
「あずきボーソード!」
その名を叫んで、例の剣を呼び出す。左手に握った柄の先に添えた右手を動かすのにつれて、日本刀が形作られる感覚が癖になる。
「今日はあーしもちゃんと戦うからねっ!」
七妃は真剣な顔でそう宣言しながら、背負ったリュックから取り出したフライパンを構えた。
「……フライパン?」
いや、リュックから何らかの取っ手が飛び出しているのには気付いていたけど。
「あずきボーほど固く無いけど、魔力を籠めて叩けば何とかなるっしょっ!」
「そうかも知れないけど……」
「ブルルルルっ!」
思わず気が抜けた俺とは対照的に、七妃の気合に応える様に鼻を荒く鳴らした黒風。
「そうそう、黒風ちゃんも、よろしくねっ!」
馬車と繋いでいた縄を七妃が外すと、黒風は後ろ足をその場で何度も蹴り上げ始めた。
やる気は充分な様で、何とも心強い。
と、勢いスタートを切った黒風は瞬間的にサルとの距離を詰め、魔力を籠めたその両前足をサルの群れに振り下ろした。
ズウウウゥゥン……。
地面が揺れた。気がした。それ程の気合と迫力だった。
しかし、サルを一匹踏み抜いた左足とは違い、右足はそのまま地面に突き立てられた。
避けられたのだ。すばしっこい。
尤も踏み抜かれた方も避けようとはしていたが、密集していた為にそれが叶わなかったのが見て取れた。
魔王との決戦の時には、是非にも気を付けたい処だ。
「えいっ!」
飛び掛かって来たサルに、七妃が両手で握ったフライパンを気合一閃振り下ろした。
ゴンッ。
流石にすばしっこいサルでも空中で方向転換する事は出来ず、哀れ、顔面を強打されたサルは地面に叩き落され、その姿を霧散させた。
……これは、俺も負けてられないな。
数匹のサルが集まっている所に突進を掛け、あずきボーソードを振り回す。
サルも飛び跳ねて避けようとするけど、相手が避けるのなら、避けた先を想定して打ち込んでやれば良い。
俺のあずきボーソードは順調にサルを捉え、その姿を減らして行く。
「もうっ! しつこいよっ!」
「ヒヒーンッ!」
七妃と黒風も順調な様だ。
魔製生物は倒すとその姿が消えるとは言え、攻撃をヒットさせた時には衝撃はある。
何匹目かを倒した時に左手に疲れを感じた俺は、少し手を休めようと構えを解いて剣先を下ろした。
――が、それがいけなかった。
俺の隙を見て取ったサルは、その瞬間を逃さずに襲い掛かって来る。
「あっ、善哉っ!」
「大丈夫だ!」
サルに向けて右ストレートを、拳の先にあずきボーを呼び出しつつ打ち込む。
不意を突かれた形になるサルは、戸惑いのままに消えて行った。
「凄い善哉っ!」
「ヒヒーンッ!」
「ふう、やっぱり大丈夫だったな……」
七妃と黒風からの賞賛とは別に、安堵の息を吐く。
あずきボーパンチの懸念される点と言えば、あずきボーの硬さがダイレクトに自分の拳に返ってくるかも知れない処だったけど、俺の右手には全くダメージが無かった。
理屈は良く分からない――無意識にそうしているのかも知れない――けど、魔力の特質なのかも知れない。
攻撃対象には直接その威力を伝え、自分や仲間の身は護る物。
ぶっつけ本番にはなったけど、風達精霊の存在が俺にそう思わせていて、あずきボーパンチを躊躇う心を打ち消していた。
因みにパンチだけだと何発も当てないと倒せないだろうし、あずきボーを充てたのは、黒風で言う蹄代わり。
――さて、残るサルは、1匹、2匹――。
「危ない善哉!」
七妃の悲鳴にも似た叫びと迫り来る気配に身を翻すと、俺の身体を捕え損ねた魔力の籠った石が、護る者の居ない荷台の幌を打ち破らんとしているのが見えた――。
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