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第1章/
第1話:10年越しの想い
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――これは、夢だ。子供の頃の、夢――。
野原で僕と向かい合ってお尻をペタンと付けて座り、シロツメクサの花輪を作りながら、無邪気に笑う少女。
「わあ、まあくん、じょうず!」
その少女、犬山ことりは自分の手元と僕の手元を見比べて、尊敬の声を上げた。
「どーだ、すごいだろ!」
「うん、まあくん、なんでもできてかっこいい!」
得意気な僕にことりはそう言った後、急に顔を赤らめてモジモジとし出した。
……どうしたんだろう。……おトイレかな?
どう言えば恥ずかしがらせないでトイレに行かせてあげられるかを考えていると、ことりは意を決した様子で顔を上げ、大きな声を上げた。
「まあくん、おとなになったら、およめさんにして!!!」
――そう、これは、夢なんだ――。
「いいよ、おとなになったら、およめさんにしてあげる!」
上から目線で偉そうに言った幼稚園児の僕は、ことりの小さな指にシロツメクサの指輪を填めた。
――この時のことりの幸せに満ちた笑顔と約束を、今でも僕は後生大事に忘れられずにいる――。
〇〇〇
パコン!
後頭部を、不意に鋭い痛みが襲う。
痛覚の余韻でジンジンする頭を押さえながら突っ伏していた顔を上げると、教科書を構えて笑顔で僕を見下ろす現国教師と目が合った。
「良い夢は見れたかな、美浜守君?」
……生徒の頭を叩くのは気持ち良いですか、渥美清美先生?
反射的に心の中で言い返したけれど、……まあ、普通に考えて授業中に居眠りをしていたこっちが悪い。
「お陰様で」
控え目にそう返すと、教室中で笑いが起きた。
……そして。
皆が笑っていたからこそ、……窓際の一番前の席から振り返ってこっちを見る、ことりのその視線は僕に深く突き刺さった。
〇〇〇
「おい守、さっきの犬山の表情、見たか?」
現国の授業が終わって休み時間になると、1つ前の席に座る中学からの腐れ縁の親友――清須信行――は座ったまま振り返って、興奮している様子で言った。
中学に入って直ぐに知り合ったこいつは、何でか僕に親身になって絡んで来る。
いや、有り難くは有るけれど。
「……ああ、放っておいてくれ」
上げていた視線を伏せて、もう一度机に頭を預ける。
頬に触れる、机の天板の冷たさが心地良い。
――まるで汚物を見るかの様な、ことりの冷たい視線。
今ではもう慣れっこになってはいるけれど、……なってしまってはいるけれど、直前に夢で見た幼稚園の頃のあの無垢な天使の笑顔からの落差は、流石にいつもと比べて胸を強く握り潰して来る。
ギュウゥゥゥ。
授業の内容が遠藤周作の『幼なじみたち』だったから、タイトルに引っ張られてあんな夢を見たのだろうか。
ことりはもうこっちを気にしている様子は全く無く、今は仲良しの女子数人と談笑している。
窓から差し込む日差しが、ことりの笑顔を輝かせる。
「あんな顔をされる程、お前等って仲が悪かったっけ? 喧嘩中?」
その様子を一緒に眺めながら、信行は首を捻った。
「いや、普通に話し掛ける分には別に嫌な顔はしないし、喧嘩したりしている訳でも無いかな……」
……そう。
今や、僕とことりは喧嘩も出来ない仲になっている。
ただ、ことりも普段は周りの仲の良い友達にさえそんな態度をおくびにも出さないので、仲良くなってから僕とずっと一緒に居るこいつでさえ、こんな認識である。
……僕も、もう不用意に話し掛けたりしないし。
今回は、振り向き様に偶々こいつの目に留まってしまっただけだ。
「そっか。……なんか、虫の居所でも悪いんかな?」
「…………かもな」
僕の顔の熱を吸って、机が温くなって来た。
『虫の居所』。……信行が口にしたそれは、いみじくも的を射ているのかも知れない。
ことりがあんな顔をするのは、……僕が知る限りではだけど……、僕がなにがしかのヘマをしてしまった時だけだから……。
……いつ頃から、こんな風になってしまったんだったか……。
少なくとも、小学校の高学年になる頃までは、いつも一緒に遊んでいた。
……うん、そうだった。
思い返すと、小学6年の頃に2人の距離は少しずつ離れ始めて、全く遊ばなくなったのは、中学に入った頃だった。
目の前のこいつ、清須信行と仲良くなる前。
その頃に有った事と言えば…………。
……。
……。
……。
…………あっ――。
「お、おい、急にどうした?!」
いきなり勢い良く立ち上がった僕に、信行は驚きの声を上げた。
「トイレ」
「お、おう……」
呆気に取られる信行を残して、ことりの動きを横目に、廊下に出た。
ことりも独りで丁度教室を出て来たので、横に並んで歩調を合わせる。
「…………何よ」
ことりはこっちに一瞥もくれず、顔に張り付けている笑顔とは裏腹の、不機嫌な声をぶつけて来た。
……お前は竹中直人か。
なまじ嫌な顔はしていないだけに、その声は棘を増して痛い。
「放課後、体育館裏に」
感情を噛み潰し、端的に伝える。
「…………何、その呼び出し。私、ボコられるの?」
……笑顔のままで、何て事を。
「いや、話したい事が有るから、ちょっとだけ時間をくれないかな」
平静を装って伝えると、ことりはハァッと大きく溜め息を……表情は変えずに……吐いた。
「……まあ、良いわ。何か知らないけど、授業後に、体育館裏ね」
声だけを残して、ことりはそのまま女子トイレにその姿を消した。
〇〇〇
「――それで。こんな所に呼び出して、どうしたの?」
授業後、約束通り体育館裏に来てくれるなり、ことりは無表情に無機質な声で言った。
……既に泣きそう……。
昔みたいに笑い掛けてくれなくても良いから、せめて、率直に感情をぶつけて来て欲しい。
「ああ、いや……。先ずは、来てくれて有り難う」
「皆を待たせています」
……うん……。
「……うん。えっと、……こと……犬山さんはさ、子供の時の約束は覚えている?」
「今更名字で呼ばれても違和感しか無いから、そこは別にことりで良い」
……うぅぅ……。
……めげるな守……。
「お嫁さんにしくれるって言っていたアレの事かな。覚えてはいるけれど、何か」
「今はこんな関係だし、無効……だよね?」
「はい」
……吐きそう……。
「それってやっぱり、……今は勉強とか運動とか、何をやっても、ことりの方が上だから?」
「…………うぅん、上だからって言うか…………。今のまあ……守に、魅力を感じないの。子供の頃は、何でも出来て凄いなって思っていたのに……」
揺らいだ?!
「やっぱり昔の、子供の頃の約束だけじゃあ……」
「じゃあ!」
ことりの両肩を掴んで言うと、思っていた以上に声が大きくなった。
「ちょ、ちょっと……」
体を捩って僕の手を振り払おうとしてくるけれど、もう引けない……、……引かない。
「僕は約束を忘れられない!! 魅力を感じられないと言うのなら、また感じる様にして見せる!!」
「……こ、声が大きい……。誰かに聞かれたらどうするの……」
慌てて辺りをきょろきょろと見渡すことりに、声のトーンは落として訴え続ける。
「これからは、以前の様に前向きに生きて行くから。今はとても付き合ってなんて言えないけれど、いずれまた、改めて言うから。その時には一度、考えてみて欲しい」
一息に言い終わり、荒れた呼吸を整えながら、ことりの目を見詰める。
……小学6年の時の、2人の間の変化。
それから僕は自分の内に籠りがちになって行った。
その所為で、大切な事を忘れていた。
その頃の記憶を、見ない様に心の奥底に追いやっていた。
今の僕が魅力的では無いのは仕方が無い。
自分でも、自分に魅力を感じないのだから。
だから。
――あの頃の自分を取り戻す。
先ずは、そこから始めよう。
ことりは感情の読めない表情を浮かべ、じっとこっちを見返している。
「……えっと……、……ダメ、……かな?」
流石に余りの緊張感に抗う事は出来ず、不安気な声が口から洩れてしまう。
狼狽える僕を暫く見詰めていたことりは、不意に「プッ」と吹き出した。
「……良いよ。守が魅力的になったら、その時は考えてあげる。……別にそれは、私にとって損な話では無いしね」
緊張が解けて、僕の口からも安堵の息が漏れる。
ことりはそんな僕の肩をポンと叩き、「それにしても」と続ける。
「今の状態で『付き合ってくれ』なんて言われたら断らなきゃいけなかったから、良い判断だったと思うよ。……ま、頑張って」
そう言い残して、ことりは校舎の方に戻って行った。
その場で見送っていたその姿が見えなくなると、全身の力が一気に抜けて、その場にへたり込んだ。
こんな情けない姿は見られなくて良かったと思うけれど、兎も角、これで1歩前進だ。
……尤も、あの頃と比べて何歩後退しているのかは、全体見当も付かないけれど。
「よしっ!」
景気付けに叫んで、両の拳を力強く空に突き上げる。
……見ていろ、ことり。
そう遠くない未来に、僕の魅力にギャフンと言わせてやるからな。
……と、その時。
申し訳なさそうに「あの~」と言いながら、信行が体育館の陰から顔を出した。
ギャフン。
「お、お前、今の、聞いて?!」
「ああ、済まん。部活に行くのにお前を探していたら、偶々……。お前ら、そんな事になっていたんだな……」
吃る僕の背中を、信行はパンパンと叩いてサムズアップをした。
「俺も協力するから、頑張ろうな!」
……やばい、今度は心強さに嬉しくて泣きそうだ。
何処までやれるか分からないけれど、……いや、違うな。
必ずもう一度、ことりの、犬山ことりの気持ちを、僕に向けてみせる!
うん。
……。
……。
……。
……。
「……なあ、信行。僕は先ず、何からすれば良いと思う?」
具体策が何も浮かばずに訊くと、信行は「お前な……」と頭を抱えた。
……気持ちだけで突っ走り過ぎたかな。
「…………取り敢えず、部活に行こうぜ」
…………そうだな、先ずはそれからだ。
野原で僕と向かい合ってお尻をペタンと付けて座り、シロツメクサの花輪を作りながら、無邪気に笑う少女。
「わあ、まあくん、じょうず!」
その少女、犬山ことりは自分の手元と僕の手元を見比べて、尊敬の声を上げた。
「どーだ、すごいだろ!」
「うん、まあくん、なんでもできてかっこいい!」
得意気な僕にことりはそう言った後、急に顔を赤らめてモジモジとし出した。
……どうしたんだろう。……おトイレかな?
どう言えば恥ずかしがらせないでトイレに行かせてあげられるかを考えていると、ことりは意を決した様子で顔を上げ、大きな声を上げた。
「まあくん、おとなになったら、およめさんにして!!!」
――そう、これは、夢なんだ――。
「いいよ、おとなになったら、およめさんにしてあげる!」
上から目線で偉そうに言った幼稚園児の僕は、ことりの小さな指にシロツメクサの指輪を填めた。
――この時のことりの幸せに満ちた笑顔と約束を、今でも僕は後生大事に忘れられずにいる――。
〇〇〇
パコン!
後頭部を、不意に鋭い痛みが襲う。
痛覚の余韻でジンジンする頭を押さえながら突っ伏していた顔を上げると、教科書を構えて笑顔で僕を見下ろす現国教師と目が合った。
「良い夢は見れたかな、美浜守君?」
……生徒の頭を叩くのは気持ち良いですか、渥美清美先生?
反射的に心の中で言い返したけれど、……まあ、普通に考えて授業中に居眠りをしていたこっちが悪い。
「お陰様で」
控え目にそう返すと、教室中で笑いが起きた。
……そして。
皆が笑っていたからこそ、……窓際の一番前の席から振り返ってこっちを見る、ことりのその視線は僕に深く突き刺さった。
〇〇〇
「おい守、さっきの犬山の表情、見たか?」
現国の授業が終わって休み時間になると、1つ前の席に座る中学からの腐れ縁の親友――清須信行――は座ったまま振り返って、興奮している様子で言った。
中学に入って直ぐに知り合ったこいつは、何でか僕に親身になって絡んで来る。
いや、有り難くは有るけれど。
「……ああ、放っておいてくれ」
上げていた視線を伏せて、もう一度机に頭を預ける。
頬に触れる、机の天板の冷たさが心地良い。
――まるで汚物を見るかの様な、ことりの冷たい視線。
今ではもう慣れっこになってはいるけれど、……なってしまってはいるけれど、直前に夢で見た幼稚園の頃のあの無垢な天使の笑顔からの落差は、流石にいつもと比べて胸を強く握り潰して来る。
ギュウゥゥゥ。
授業の内容が遠藤周作の『幼なじみたち』だったから、タイトルに引っ張られてあんな夢を見たのだろうか。
ことりはもうこっちを気にしている様子は全く無く、今は仲良しの女子数人と談笑している。
窓から差し込む日差しが、ことりの笑顔を輝かせる。
「あんな顔をされる程、お前等って仲が悪かったっけ? 喧嘩中?」
その様子を一緒に眺めながら、信行は首を捻った。
「いや、普通に話し掛ける分には別に嫌な顔はしないし、喧嘩したりしている訳でも無いかな……」
……そう。
今や、僕とことりは喧嘩も出来ない仲になっている。
ただ、ことりも普段は周りの仲の良い友達にさえそんな態度をおくびにも出さないので、仲良くなってから僕とずっと一緒に居るこいつでさえ、こんな認識である。
……僕も、もう不用意に話し掛けたりしないし。
今回は、振り向き様に偶々こいつの目に留まってしまっただけだ。
「そっか。……なんか、虫の居所でも悪いんかな?」
「…………かもな」
僕の顔の熱を吸って、机が温くなって来た。
『虫の居所』。……信行が口にしたそれは、いみじくも的を射ているのかも知れない。
ことりがあんな顔をするのは、……僕が知る限りではだけど……、僕がなにがしかのヘマをしてしまった時だけだから……。
……いつ頃から、こんな風になってしまったんだったか……。
少なくとも、小学校の高学年になる頃までは、いつも一緒に遊んでいた。
……うん、そうだった。
思い返すと、小学6年の頃に2人の距離は少しずつ離れ始めて、全く遊ばなくなったのは、中学に入った頃だった。
目の前のこいつ、清須信行と仲良くなる前。
その頃に有った事と言えば…………。
……。
……。
……。
…………あっ――。
「お、おい、急にどうした?!」
いきなり勢い良く立ち上がった僕に、信行は驚きの声を上げた。
「トイレ」
「お、おう……」
呆気に取られる信行を残して、ことりの動きを横目に、廊下に出た。
ことりも独りで丁度教室を出て来たので、横に並んで歩調を合わせる。
「…………何よ」
ことりはこっちに一瞥もくれず、顔に張り付けている笑顔とは裏腹の、不機嫌な声をぶつけて来た。
……お前は竹中直人か。
なまじ嫌な顔はしていないだけに、その声は棘を増して痛い。
「放課後、体育館裏に」
感情を噛み潰し、端的に伝える。
「…………何、その呼び出し。私、ボコられるの?」
……笑顔のままで、何て事を。
「いや、話したい事が有るから、ちょっとだけ時間をくれないかな」
平静を装って伝えると、ことりはハァッと大きく溜め息を……表情は変えずに……吐いた。
「……まあ、良いわ。何か知らないけど、授業後に、体育館裏ね」
声だけを残して、ことりはそのまま女子トイレにその姿を消した。
〇〇〇
「――それで。こんな所に呼び出して、どうしたの?」
授業後、約束通り体育館裏に来てくれるなり、ことりは無表情に無機質な声で言った。
……既に泣きそう……。
昔みたいに笑い掛けてくれなくても良いから、せめて、率直に感情をぶつけて来て欲しい。
「ああ、いや……。先ずは、来てくれて有り難う」
「皆を待たせています」
……うん……。
「……うん。えっと、……こと……犬山さんはさ、子供の時の約束は覚えている?」
「今更名字で呼ばれても違和感しか無いから、そこは別にことりで良い」
……うぅぅ……。
……めげるな守……。
「お嫁さんにしくれるって言っていたアレの事かな。覚えてはいるけれど、何か」
「今はこんな関係だし、無効……だよね?」
「はい」
……吐きそう……。
「それってやっぱり、……今は勉強とか運動とか、何をやっても、ことりの方が上だから?」
「…………うぅん、上だからって言うか…………。今のまあ……守に、魅力を感じないの。子供の頃は、何でも出来て凄いなって思っていたのに……」
揺らいだ?!
「やっぱり昔の、子供の頃の約束だけじゃあ……」
「じゃあ!」
ことりの両肩を掴んで言うと、思っていた以上に声が大きくなった。
「ちょ、ちょっと……」
体を捩って僕の手を振り払おうとしてくるけれど、もう引けない……、……引かない。
「僕は約束を忘れられない!! 魅力を感じられないと言うのなら、また感じる様にして見せる!!」
「……こ、声が大きい……。誰かに聞かれたらどうするの……」
慌てて辺りをきょろきょろと見渡すことりに、声のトーンは落として訴え続ける。
「これからは、以前の様に前向きに生きて行くから。今はとても付き合ってなんて言えないけれど、いずれまた、改めて言うから。その時には一度、考えてみて欲しい」
一息に言い終わり、荒れた呼吸を整えながら、ことりの目を見詰める。
……小学6年の時の、2人の間の変化。
それから僕は自分の内に籠りがちになって行った。
その所為で、大切な事を忘れていた。
その頃の記憶を、見ない様に心の奥底に追いやっていた。
今の僕が魅力的では無いのは仕方が無い。
自分でも、自分に魅力を感じないのだから。
だから。
――あの頃の自分を取り戻す。
先ずは、そこから始めよう。
ことりは感情の読めない表情を浮かべ、じっとこっちを見返している。
「……えっと……、……ダメ、……かな?」
流石に余りの緊張感に抗う事は出来ず、不安気な声が口から洩れてしまう。
狼狽える僕を暫く見詰めていたことりは、不意に「プッ」と吹き出した。
「……良いよ。守が魅力的になったら、その時は考えてあげる。……別にそれは、私にとって損な話では無いしね」
緊張が解けて、僕の口からも安堵の息が漏れる。
ことりはそんな僕の肩をポンと叩き、「それにしても」と続ける。
「今の状態で『付き合ってくれ』なんて言われたら断らなきゃいけなかったから、良い判断だったと思うよ。……ま、頑張って」
そう言い残して、ことりは校舎の方に戻って行った。
その場で見送っていたその姿が見えなくなると、全身の力が一気に抜けて、その場にへたり込んだ。
こんな情けない姿は見られなくて良かったと思うけれど、兎も角、これで1歩前進だ。
……尤も、あの頃と比べて何歩後退しているのかは、全体見当も付かないけれど。
「よしっ!」
景気付けに叫んで、両の拳を力強く空に突き上げる。
……見ていろ、ことり。
そう遠くない未来に、僕の魅力にギャフンと言わせてやるからな。
……と、その時。
申し訳なさそうに「あの~」と言いながら、信行が体育館の陰から顔を出した。
ギャフン。
「お、お前、今の、聞いて?!」
「ああ、済まん。部活に行くのにお前を探していたら、偶々……。お前ら、そんな事になっていたんだな……」
吃る僕の背中を、信行はパンパンと叩いてサムズアップをした。
「俺も協力するから、頑張ろうな!」
……やばい、今度は心強さに嬉しくて泣きそうだ。
何処までやれるか分からないけれど、……いや、違うな。
必ずもう一度、ことりの、犬山ことりの気持ちを、僕に向けてみせる!
うん。
……。
……。
……。
……。
「……なあ、信行。僕は先ず、何からすれば良いと思う?」
具体策が何も浮かばずに訊くと、信行は「お前な……」と頭を抱えた。
……気持ちだけで突っ走り過ぎたかな。
「…………取り敢えず、部活に行こうぜ」
…………そうだな、先ずはそれからだ。
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