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パーティーなんて億劫だと思っていたけれど、なかなかどうして。外交お仕事モードのマルクス様を同じ場で拝めるときたら、悪くはない。むしろこれだけでパパ上この席を用意してくれてありがとうの気持ちだ。
私は距離こそ遠けれど営業スマイルを振り撒くマルクス様をオカズに、立食仕様の豪勢なディナーをひたすら皿に取っては食い取っては食いしていた。本当に発光しているのではと思うほどに煌びやかなオーラを放つマルクス様が、一般庶民の美女に入れ込んだ挙句放尿プレイやら言葉責めおせっせやら強要しているんだもんなぁ。人は見かけによらないありがとうございます。
その隣で同じように挨拶を交わす、彼によく似た美形が一人。本日の主役の第一王太子でありマルクス様の異母兄であるハロルド様だ。実は彼もまた、『戦華』においては攻略対象だったりする。彼の√に入ると隣国で暗躍する一派との激しい交戦や拐かされるアシュリーヌちゃん、それを華麗に救出するハロルド王子など波乱万丈な活劇が待っているのだが、実は私は彼の√を一度しか攻略していない。マルクス様に負けず劣らずの甘いマスクの王子フェイスなのだが、竜騎士団部隊長を務めるマルクス様と異なり、ハロルド王子は完全にデスクワーク型。線が細く、儚美しい印象が強い。そして何よりロン毛なのだ。ブロンドに輝く長髪をサイドに垂らし、ゆるく結んだ髪型は彼の穏やかで聡明な人柄を表しているようで。前世からロン毛に村を焼かれた人間としてあの髪型は頂けない。詰まる所、タイプじゃないのだ。
√によっては彼とマルクス様がアシュリーヌちゃんを巡って対立してしまう展開もあった筈なのだが、今の所その兆候は見られない。まあ側から見てもアシュリーヌちゃんはマルクス様にぞっこんのようだし、私としてもそうでないとこれまでの努力が水の泡になる訳で。どうかこのまま私というファンのためにも、マルクス様と上手いこと添い遂げてほしいものだ。
結婚かぁ……
また新しく皿に料理人の趣向が凝らされた料理を盛り付けた後、ぼんやりと人で溢れるホールを眺める。
こんな色気の無いモブ顔田舎っぺでも、腐ってもそこそこの爵位持ちだ。式典が終わり、パーティーが始まると数人の男性がちらほら声を掛けてきた。やれ父上は息災かだの、やれ女性ながらも騎士を務めるとは立派だがそろそろ家庭に入り身を固めては如何かだの、流れ出る言葉は照らし合わせたかのようにそんなものばかりで。それにあたり我が領地との取引はどうか、近々二人で食事でもどうかなどと無駄に広大な我が領地と辺境ながらも酪農業に富んだ環境が目的なのが見え見えで、いっそ清々しいほどだった。
私とていい大人だ。自分の身の振り方がどうあるべきか、重々承知している。運良く騎士の中でも王宮竜騎士団員というエリート街道に乗れたものの、付け焼き刃の知識とノアの助力でギリギリ滑り込んだクチだ。今の落ちこぼれっぷりからしても今後このまま騎士として働き続けられるか分からないし、世間としてもそのような生き方をしている女性騎士は未だ少ない。両親だってそれを許してくれるかも怪しいし。
とは言え恋愛結婚が主だった前世の記憶持ちの上に重度の乙女思考の絶賛処女歴更新中問題物件は、それでもやはり生涯を添い遂げるのは好きな相手がいいなぁなどと、いけしゃあしゃあと夢見てしまう。ビジュアルはマルクス様とアシュリーヌちゃんみたいに、とはいかないけれど、彼らを長年かけて追い続けてきた身としては、自身もどうせするなら運命的で甘い恋愛をしてみたいと自然と憧れを抱いてしまうというものだ。
まあ、そんな無駄に高い理想を抱き続けた結果前世は死ぬまで処女、今世においてもこの20年と少し、恋愛という恋愛をしないまま健やかに育ってしまったんですけどね! 思わず乾いた笑いも漏れるってもんよ。
肉厚ローストビーフを口に放り込むと、ちらりと視界の端に見慣れた黒髪が見えた。あちらも私を見ていたようで、鳶色の瞳と視線が交わる。
ノアだ。
そこそこの距離があろうと人壁が遮ろうとすぐに分かった。ホール内を担当しているのか、たまたま諸連絡などでこの付近を通り掛かったのか。屋内に配属されているのは間違い無いようで、装備は普段の遠征任務時の鎧姿よりも幾分か軽装だった。対して自分はシンプルながらもそこそこ気合の入ったドレス姿。普段は適当に一つに結わいている髪も侍女達によって綺麗にセットされ、化粧もきちんと施されている。完全に社交会モードの時にこうして仕事中のノアと対峙するのは、なんだか変な気分だ。というかよく私だと分かったな。
一瞬逡巡したもののここで挨拶をしないのも逆に気まずい。へらりと笑いながら手を振ろうとしたが、突然目の前に現れた体に視界が遮られてしまった。
「やあ、フェリシア」
「ユーグリッド」
同じ王宮竜騎士団第8部隊所属の同僚、ユーグリッドだ。アシュリーヌちゃん曰く、私とノアが別れたなどと吹聴した傍迷惑な男だ。普段の隊服姿や鎧姿と違い、がっつりフォーマルな正装に身を包んでいる。そう言えばこの男も貴族の出だったな。
「ユーグリッドも参加してたんだ」
「うん。こう見えて嫡男だからね。横との繋がりもきちんと築いておかないと。ぶっちゃけ警備の通常勤務の方が変な気を遣わなくて良くて楽だし、今すぐにでも抜け出したい気持ちでいっぱいだけどね」
入口付近を警備する他の隊の同僚達を眺めながら、ユーグリッドは肩を竦ませる。
軽薄でいい加減な男だけど、こう見えて私なんかよりずっと腕が立つし要領も良い。良い意味でも悪い意味でもすぐに顔に出てしまうらしい私やノアよりもよっぽど処世術にも長けている。つまり、曲者なのだ。
馬鹿正直の代名詞のような私はこの男が少し苦手だったりする。ノアとは割と、仲が良いみたいだけど。
「それはそうと、ユーグリッドさんよ。私に何か言うことはないかしら??」
「言うこと? ああ、今日はまた一段と可愛いね。普段の隊服姿も好きだけどそのドレス、よく似合ってるよ」
「へっ?! あ、ありがとう。……って、いや違う違う! ノアと私についてだよ!」
「ああ」
そのことかとわざとらしく掌の上に拳を乗せる姿がなんとも腹立たしい。絶対に分かって言っただろ。
「俺だけじゃなくてみんな言ってるよ。あれだけ四六時中一緒にいたのが急にパッタリだもの。嫌でも目に付くって」
「そ、そうなの」
「うん。何かあったの? ノアに聞いても何でもないの一点張りだし。何でもない訳無いよね? 明らかにフェリシアのこと避けてるし」
ずずいと詰め寄られ、思わず視線を逸らす。
いや本当の事なんて言えるわけがなかろう。ド変態の名を穿たれて明日から仕事に行けなくなってしまうわ。
「別れたんじゃないなら何? 浮気でもされた?」
「はっ?! なんで! いやそもそも付き合ってないし」
「あれ、そうなの。入団した時から二人べったりだったからてっきり。……ふーん」
なんだその目は。
「じゃあ告白でもされた?」
「んぶっ?! なんでそうなるの!!」
「あれ、これも違うのか。なにやってんだよあいつ……」
居た堪れなくて口に含んだ果実酒が変なとこに入って咽せ込む。
「……ノアと私はそういうのじゃないし、大体、ノアだって私のこと手の掛かる妹くらいにしか思ってないよ」
実際、私を見てると弟を思い出すって言われたし。口から垂れた果実酒をハンカチで拭って、先程ノアがいた場所へ視線を向ける。既にその姿は消えていたけれど。
「そうかなぁ……まあいいか。こっちとしてはフェリシアに声掛け易くなったし」
「え?」
「知ってる? フェリシアのこと狙ってる奴、結構いるんだよ」
「それは私を媒介にしてアシュリーヌちゃんと仲良くなりたいか、家柄目当てでしょ。うちはともかく、アシュリーヌちゃんはもう心に決めた相手がいるんだから、近付いても無駄だからね」
推しカプの恋路の邪魔はさせるものか。ジト目で目の前の優男を睨み付けると、困ったように笑われた。
「いやそれも勿論あったかもしれないけど。純粋に、フェリシアと仲良くなりたい奴もいるって。お前面白いし、変に身分をひけらかさないし、愛嬌もあって可愛いし」
「へっ」
ま、まじでか。いや騙されるな相手はユーグリッド。適当な事ほざいてるか、何らかの魂胆があるに違いない。しかし非モテ歴前世+20年とちょっとの問題物件にその言葉は素直に嬉しくて、頰が勝手に赤らんでしまうのも許してほしい。ノアにすら可愛いなんて、言われた事ないし。
「ははっ、そういうとこそういうとこ。ノアとコンビ解散したなら俺新たなフェリシアお世話係に立候補しようかなー」
「えっ、やだよ。ノアじゃなきゃやだ」
「瞬殺かよひどい。……それ本人に言ってやってほしいなぁ」
生温かい目で見られてなんだかむず痒い気持ちになる。本人にって言われても、避けられておりますし。きっともう私の世話を焼くの嫌がられておりますし。元のとは言わないけど、せめて軽口を叩ける友人同士に戻るので精一杯な気がする。私はノアを手放したくはないけど、ノアに自由に生きてほしい気持ちだってあるのだ。
お皿に乗った既に冷めてしまった料理を見つめ、俯いていると、ぽふと頭に重量感を覚える。ユーグリッドに頭を撫でられていた。仮にもドレスアップしたレディになんたる扱い。けど慰めようとしてくれているのだろう。ノアにも最近されていないし、頭撫でられるの久しぶりだな。ノアの手が恋しい。(当分、は未来に対して使う言葉)
「ま、早く仲直りするなり完全に関係を断つなり、きちんと決着つけなよ。中途半端な状態続けられても、地味に視線が痛いからさ」
一体どういう意味だろう。
ユーグリッドを見上げようとしたその時、彼の肩越しにマルクス様が通用口から抜け出すのが見えた。
し、しまった!! もうそんな時間か……!
一刻も早く追わねばと慌てて足を踏み出すものの、それにはユーグリッドを撒かねばならない。昨日の昼時と言い、またしても私の邪魔をする気か……!
顔色を変えた私に気付いたのか、訝しげな視線を向けてくるユーグリッドに向き直る。
「ごめんっ、私ちょっと気分が……休めるとこ探してくる」
「えっ! あ、ちょっ……」
何か言いたげなユーグリッドの制止を無視して、私は足早にマルクス様の後を追った。
私は距離こそ遠けれど営業スマイルを振り撒くマルクス様をオカズに、立食仕様の豪勢なディナーをひたすら皿に取っては食い取っては食いしていた。本当に発光しているのではと思うほどに煌びやかなオーラを放つマルクス様が、一般庶民の美女に入れ込んだ挙句放尿プレイやら言葉責めおせっせやら強要しているんだもんなぁ。人は見かけによらないありがとうございます。
その隣で同じように挨拶を交わす、彼によく似た美形が一人。本日の主役の第一王太子でありマルクス様の異母兄であるハロルド様だ。実は彼もまた、『戦華』においては攻略対象だったりする。彼の√に入ると隣国で暗躍する一派との激しい交戦や拐かされるアシュリーヌちゃん、それを華麗に救出するハロルド王子など波乱万丈な活劇が待っているのだが、実は私は彼の√を一度しか攻略していない。マルクス様に負けず劣らずの甘いマスクの王子フェイスなのだが、竜騎士団部隊長を務めるマルクス様と異なり、ハロルド王子は完全にデスクワーク型。線が細く、儚美しい印象が強い。そして何よりロン毛なのだ。ブロンドに輝く長髪をサイドに垂らし、ゆるく結んだ髪型は彼の穏やかで聡明な人柄を表しているようで。前世からロン毛に村を焼かれた人間としてあの髪型は頂けない。詰まる所、タイプじゃないのだ。
√によっては彼とマルクス様がアシュリーヌちゃんを巡って対立してしまう展開もあった筈なのだが、今の所その兆候は見られない。まあ側から見てもアシュリーヌちゃんはマルクス様にぞっこんのようだし、私としてもそうでないとこれまでの努力が水の泡になる訳で。どうかこのまま私というファンのためにも、マルクス様と上手いこと添い遂げてほしいものだ。
結婚かぁ……
また新しく皿に料理人の趣向が凝らされた料理を盛り付けた後、ぼんやりと人で溢れるホールを眺める。
こんな色気の無いモブ顔田舎っぺでも、腐ってもそこそこの爵位持ちだ。式典が終わり、パーティーが始まると数人の男性がちらほら声を掛けてきた。やれ父上は息災かだの、やれ女性ながらも騎士を務めるとは立派だがそろそろ家庭に入り身を固めては如何かだの、流れ出る言葉は照らし合わせたかのようにそんなものばかりで。それにあたり我が領地との取引はどうか、近々二人で食事でもどうかなどと無駄に広大な我が領地と辺境ながらも酪農業に富んだ環境が目的なのが見え見えで、いっそ清々しいほどだった。
私とていい大人だ。自分の身の振り方がどうあるべきか、重々承知している。運良く騎士の中でも王宮竜騎士団員というエリート街道に乗れたものの、付け焼き刃の知識とノアの助力でギリギリ滑り込んだクチだ。今の落ちこぼれっぷりからしても今後このまま騎士として働き続けられるか分からないし、世間としてもそのような生き方をしている女性騎士は未だ少ない。両親だってそれを許してくれるかも怪しいし。
とは言え恋愛結婚が主だった前世の記憶持ちの上に重度の乙女思考の絶賛処女歴更新中問題物件は、それでもやはり生涯を添い遂げるのは好きな相手がいいなぁなどと、いけしゃあしゃあと夢見てしまう。ビジュアルはマルクス様とアシュリーヌちゃんみたいに、とはいかないけれど、彼らを長年かけて追い続けてきた身としては、自身もどうせするなら運命的で甘い恋愛をしてみたいと自然と憧れを抱いてしまうというものだ。
まあ、そんな無駄に高い理想を抱き続けた結果前世は死ぬまで処女、今世においてもこの20年と少し、恋愛という恋愛をしないまま健やかに育ってしまったんですけどね! 思わず乾いた笑いも漏れるってもんよ。
肉厚ローストビーフを口に放り込むと、ちらりと視界の端に見慣れた黒髪が見えた。あちらも私を見ていたようで、鳶色の瞳と視線が交わる。
ノアだ。
そこそこの距離があろうと人壁が遮ろうとすぐに分かった。ホール内を担当しているのか、たまたま諸連絡などでこの付近を通り掛かったのか。屋内に配属されているのは間違い無いようで、装備は普段の遠征任務時の鎧姿よりも幾分か軽装だった。対して自分はシンプルながらもそこそこ気合の入ったドレス姿。普段は適当に一つに結わいている髪も侍女達によって綺麗にセットされ、化粧もきちんと施されている。完全に社交会モードの時にこうして仕事中のノアと対峙するのは、なんだか変な気分だ。というかよく私だと分かったな。
一瞬逡巡したもののここで挨拶をしないのも逆に気まずい。へらりと笑いながら手を振ろうとしたが、突然目の前に現れた体に視界が遮られてしまった。
「やあ、フェリシア」
「ユーグリッド」
同じ王宮竜騎士団第8部隊所属の同僚、ユーグリッドだ。アシュリーヌちゃん曰く、私とノアが別れたなどと吹聴した傍迷惑な男だ。普段の隊服姿や鎧姿と違い、がっつりフォーマルな正装に身を包んでいる。そう言えばこの男も貴族の出だったな。
「ユーグリッドも参加してたんだ」
「うん。こう見えて嫡男だからね。横との繋がりもきちんと築いておかないと。ぶっちゃけ警備の通常勤務の方が変な気を遣わなくて良くて楽だし、今すぐにでも抜け出したい気持ちでいっぱいだけどね」
入口付近を警備する他の隊の同僚達を眺めながら、ユーグリッドは肩を竦ませる。
軽薄でいい加減な男だけど、こう見えて私なんかよりずっと腕が立つし要領も良い。良い意味でも悪い意味でもすぐに顔に出てしまうらしい私やノアよりもよっぽど処世術にも長けている。つまり、曲者なのだ。
馬鹿正直の代名詞のような私はこの男が少し苦手だったりする。ノアとは割と、仲が良いみたいだけど。
「それはそうと、ユーグリッドさんよ。私に何か言うことはないかしら??」
「言うこと? ああ、今日はまた一段と可愛いね。普段の隊服姿も好きだけどそのドレス、よく似合ってるよ」
「へっ?! あ、ありがとう。……って、いや違う違う! ノアと私についてだよ!」
「ああ」
そのことかとわざとらしく掌の上に拳を乗せる姿がなんとも腹立たしい。絶対に分かって言っただろ。
「俺だけじゃなくてみんな言ってるよ。あれだけ四六時中一緒にいたのが急にパッタリだもの。嫌でも目に付くって」
「そ、そうなの」
「うん。何かあったの? ノアに聞いても何でもないの一点張りだし。何でもない訳無いよね? 明らかにフェリシアのこと避けてるし」
ずずいと詰め寄られ、思わず視線を逸らす。
いや本当の事なんて言えるわけがなかろう。ド変態の名を穿たれて明日から仕事に行けなくなってしまうわ。
「別れたんじゃないなら何? 浮気でもされた?」
「はっ?! なんで! いやそもそも付き合ってないし」
「あれ、そうなの。入団した時から二人べったりだったからてっきり。……ふーん」
なんだその目は。
「じゃあ告白でもされた?」
「んぶっ?! なんでそうなるの!!」
「あれ、これも違うのか。なにやってんだよあいつ……」
居た堪れなくて口に含んだ果実酒が変なとこに入って咽せ込む。
「……ノアと私はそういうのじゃないし、大体、ノアだって私のこと手の掛かる妹くらいにしか思ってないよ」
実際、私を見てると弟を思い出すって言われたし。口から垂れた果実酒をハンカチで拭って、先程ノアがいた場所へ視線を向ける。既にその姿は消えていたけれど。
「そうかなぁ……まあいいか。こっちとしてはフェリシアに声掛け易くなったし」
「え?」
「知ってる? フェリシアのこと狙ってる奴、結構いるんだよ」
「それは私を媒介にしてアシュリーヌちゃんと仲良くなりたいか、家柄目当てでしょ。うちはともかく、アシュリーヌちゃんはもう心に決めた相手がいるんだから、近付いても無駄だからね」
推しカプの恋路の邪魔はさせるものか。ジト目で目の前の優男を睨み付けると、困ったように笑われた。
「いやそれも勿論あったかもしれないけど。純粋に、フェリシアと仲良くなりたい奴もいるって。お前面白いし、変に身分をひけらかさないし、愛嬌もあって可愛いし」
「へっ」
ま、まじでか。いや騙されるな相手はユーグリッド。適当な事ほざいてるか、何らかの魂胆があるに違いない。しかし非モテ歴前世+20年とちょっとの問題物件にその言葉は素直に嬉しくて、頰が勝手に赤らんでしまうのも許してほしい。ノアにすら可愛いなんて、言われた事ないし。
「ははっ、そういうとこそういうとこ。ノアとコンビ解散したなら俺新たなフェリシアお世話係に立候補しようかなー」
「えっ、やだよ。ノアじゃなきゃやだ」
「瞬殺かよひどい。……それ本人に言ってやってほしいなぁ」
生温かい目で見られてなんだかむず痒い気持ちになる。本人にって言われても、避けられておりますし。きっともう私の世話を焼くの嫌がられておりますし。元のとは言わないけど、せめて軽口を叩ける友人同士に戻るので精一杯な気がする。私はノアを手放したくはないけど、ノアに自由に生きてほしい気持ちだってあるのだ。
お皿に乗った既に冷めてしまった料理を見つめ、俯いていると、ぽふと頭に重量感を覚える。ユーグリッドに頭を撫でられていた。仮にもドレスアップしたレディになんたる扱い。けど慰めようとしてくれているのだろう。ノアにも最近されていないし、頭撫でられるの久しぶりだな。ノアの手が恋しい。(当分、は未来に対して使う言葉)
「ま、早く仲直りするなり完全に関係を断つなり、きちんと決着つけなよ。中途半端な状態続けられても、地味に視線が痛いからさ」
一体どういう意味だろう。
ユーグリッドを見上げようとしたその時、彼の肩越しにマルクス様が通用口から抜け出すのが見えた。
し、しまった!! もうそんな時間か……!
一刻も早く追わねばと慌てて足を踏み出すものの、それにはユーグリッドを撒かねばならない。昨日の昼時と言い、またしても私の邪魔をする気か……!
顔色を変えた私に気付いたのか、訝しげな視線を向けてくるユーグリッドに向き直る。
「ごめんっ、私ちょっと気分が……休めるとこ探してくる」
「えっ! あ、ちょっ……」
何か言いたげなユーグリッドの制止を無視して、私は足早にマルクス様の後を追った。
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