人気ユーチューバーかなんだか知らんが俺に近寄るな!

サラダ菜

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道端に人が座り込んでいた。
体育座りをしながら膝に顔を埋めて、いかにも拾ってくださいと言わんばかりの格好で。
しかしキラキラと輝く銀髪やがっしりとした体躯は、視線を集めるには適しているものの人を寄せ付けようとはしない。

あの日、俺は三徹明けで研究室から帰宅するところだった。
だから気が狂っていたんだ。
でなければあんな常軌を逸した奴に声をかけたりしないし、ましてや家に上げたりしない。

この気まぐれな優しさがこれからの生活を大きく変えることなど、あの時の俺は知る由もなかった。

***

「……お前、何をしている」
「あ!こーちゃん!おっそいよ~」
「人の玄関の前で座り込むなと何度言ったら分かる」
「こーちゃんが合鍵くれないのが悪いんでしょ?」
「……」

ああ言えばこう言う男に、徹夜明けの頭を抱えながら玄関の鍵を開ける。
その間にも男は背中に抱き着いてきて「こーちゃんの匂い……ふは」と気持ち悪い発言をしている。本当に気持ち悪い。
そして、さも当然のように一緒に家に入ってこようとする。

「おい」
「なーに?こーちゃん」
「お前は家に入るな」
「えぇー?なんでそういうこと言うのお?」
「ちょ、やめろ……っ!」

ひょいと軽く抱きかかえられ、俺の代わりにコイツがドアを開けた。
突然のことで見開いた目は、廊下の向こう側で同じように目を見開いている隣人を捉えてしまった。
最悪すぎる。今後隣人に合わせる顔が無い。

「……絶対に許さないからな、伊月」
「ふは、かァわいい」

伊月は嬉しそうに笑っている。

伊月こと西園寺伊月さいおんじいつきは最近勢いのある人気ユーチューバーだ。
『イケメンチャンネル』とか言う死ぬほどダサい名前で売り出しているにもかかわらず、顔面偏差値が高いおかげか登録者数百万人を突破しているらしい。
チャンネルの中でも「イツキ」は一際顔がいいと人気なのだそうだ。
そんなこととは露知らず、俺はあの日『道端で派手な男がうずくまってたら助ける人は現れるのか!?』という馬鹿な企画にまんまと乗っかってしまった。

これが、企画だけで済めばまだよかった。
最悪なことにコイツはおれに執着するようになった。
理由は「オレのことを下に見てくれるから」だという。
本当に気持ちが悪い。
しかし、気持ち悪いと口に出すと「もっと言って」と頬を赤らめてくるから手に負えない。

「こーちゃん、今日は何しようね」
「何もしない。寝る」
「オレと寝たいってこと?しょーがないなあ、こーちゃんは」
「……お前、本当に……はぁ」

俺のことを抱きかかえながら器用に唇を落としてくる伊月の顔を思いきり押さえつける。

伊月とは正反対の人生を送っている俺、八嶋幸太やしまこうたはただの一般人だ。
銀髪碧眼という異次元の顔面を持つコイツの前で、黒髪平凡顔の俺はかなり役不足だろう。

幸太なんて名前の割に俺の人生は不幸続きだった。
知り合いと呼べるものはほとんど存在せず、学生時代には虐められ、それでも勉強だけはできたからいい大学には入れたが、肝心の研究室でハズレに当たってしまい。
そして今、オレは毎日眠い目を擦りながらパソコンとにらめっこする日々を送っている。
加えて伊月の存在だ。
俺は前世で相当な罪を犯したとしか考えられない。

「こーちゃん、好きっ」
「うわ、んむっ!」

埃っぽいベッドに放り投げられると同時にでかい図体ものしかかってきて、そのまま唇を奪われる。
この巨躯に抑え込まれてしまえば、ヒョロガリ選手権日本代表の俺に抵抗する術は存在せず、ただ伊月が満足するまで待機するしかない。

一時期は「打倒伊月」を掲げて筋トレをすることもあったが、結局日々の研究に追い込まれていつしかそれもなくなってしまった。
仕方ないので今後はベッドサイドにスタンガンを常時しておくことにする。

「っふ、ぅ、んぅ」

もちろん彼女の一人もいたことがない俺としては、未だにキスの仕方が分かっていない。
そもそも伊月にキスされること自体が嫌だから、必死にコイツの舌を避けようとするがあっという間に捕まって絡みついてくる。
そして悲しいことに、俺と伊月では経験値がまるで違う。

だから、伊月の舌が離れていく頃にはトロトロに蕩けてしまっていても、それは仕方がないことなのだ。

「はぁ……っ」
「えっちな顔してる」
「見る、な」

ふいと顔を逸らすが、伊月の手がそれを許してくれない。
俺を見て、タレ目をさらに垂らして微笑んでいるコイツは正真正銘の異常者だ。

「キスだけで勃起しちゃった?」
「うあっ!さ、触るなっ」
「触って欲しくないの?こーちゃんが言うなら仕方ないなぁ」

一度握り込まれた肉棒はすぐに解放された。
ほっとしなければならないはずなのに、どこかで残念だと感じてしまう自分がいる。
いや、ここで流されれば伊月の思うツボだ、とかぶりを振って睨みつけた。

「強気なこーちゃんもかわいいよ」
「っ」

軽く唇が触れ合って、それだけで肩が跳ねる。

「今日はコッチで可愛がってあげるね」
「や、やめろ、そこだけはっ!」
「そこだけは?」
「……っ」
「……ふーん、ここだけはイヤなんだぁ~」

胸元を触られて、失言が口から飛び出てしまった。
咄嗟に唇を押さえても時すでに遅し。
伊月はプチプチとシャツのボタンを外してきた。

「違う、嫌じゃない!」
「イヤじゃないなら触ってもいいでしょ」
「う……」

ボコボコと叩いても一向に伊月の手が止まる気配はない。

何故だ。
何故コイツと俺とではこんなにも力の差があるんだ。
同じ男なのに……!

「あれ、なんで下着着てないの?もしかしてオレのこと誘ってる?」
「馬鹿か。……洗濯し損ねただけだ」
「ふは、かァわいい。でも変な人に狙われちゃうかもしれないから、今度からしっかり下着着てよ?」

その変な人間とはまさにお前のことだ。
それに、俺は女でもなければ美形でもないから襲われることはまずない。

……と罵倒してやりたかったが、俺の声帯は上手く機能してくれない。
それもこれも、伊月の長い指が乳首に触れるか触れないかのところで静止しているせいだ。

「っ……」
「ねえ、なんでココ触ってほしくないの?」

ぷっくりと膨らんだそこの上部で、人差し指がクルクルと回転し始めた。
決して触られているわけではないが、ムズムズと体が疼いてくる。

「ほーら、早く答えないと触っちゃうよ?イヤなんでしょ?」
「ぁ、う……っ」

急激に体温が上がるのを感じる。
口がはくはくと動いて、言葉にならない声だけが漏れる。

言いたくはない。
が、これであの責め苦を回避できるのであれば……!

「お、女みたいだから……」
「んぇ?なにが?」
「そこを触られて……か、感じるなんて、女みたいだろ……」

「……っくははは!!」

深夜にもかかわらず伊月の笑い声が部屋中に響き渡した。
ご近所に迷惑だという思いよりも、羞恥心の方が遥かに勝る。

俺は意を決して白状したのに、何故その決死の告白を馬鹿にされなければならないんだ。
だからコイツを家に上げるのは嫌なんだ。

「くそ、お前なんて炎上しろ……っ」
「……ふは、ごめんごめん。こーちゃんがかわいすぎてつい」
「もう離……っあ!?」

羞恥に顔を赤らめながらも、今日一番の危機を脱したと安堵したその瞬間。
胸元に走った予想外の甘い痺れに、俺の体は大袈裟に跳ねた。

え、なんで、

「理由言ったら触らないって、」
「こーちゃんはいつまでも純粋でかわいいねぇ。ねえ、このオレが約束守るとでも思った?」
「……この、ゲス野郎……!」

口端を上げて人を小馬鹿にしたような笑みで見下げられて、羞恥とは異なる理由で顔が熱くなる。

そうだ、いつもそうだ。
コイツは自分のことばかり優先して、人のことなんてこれっぽっちも気にしてない。

伊月の自分勝手な行動で過去に炎上する事件もいくつかあったらしいし、大学食堂のテレビで『人気ユーチューバーイツキ、また炎上か』というニュースが流れた瞬間はリアルにうどんを噴き出した。
それでも人気が衰えないのは生まれ持ったカリスマ性というやつだ。多分。
しかし、ユニットを組んでいるメンバーに申し訳ないという気持ちはないのだろうか。
……そんなものが欠片でも存在していたら、俺はコイツに処女を捧げる羽目になっていないだろう。

それに、俺のことも散々「好き」とか言ってくるくせに、その行動には誠意の欠片も感じられない。
空いた時間に勝手に家に押しかけてくる。
いなければ部屋の前で堂々と待ち伏せする。
俺が何徹明けだろうとこの顔だけ男には関係ない。
会うたびにこうして……いや、これ以上は割愛する。
ユニットが忙しいからか、月一ペースなのがまだ助かるところだが……

そうだ、引っ越そう。俺はそう心に決めた。

「んぅっ」
「オレ以外のこと考えるのやめてよ」
「うぁ、お前こそ、っ、やめろ……!」
「やーだ。今日はこーちゃんを女の子にする日なの」

言うんじゃなかった、と心から後悔の念に駆られるが、やはり覆水は盆に返らない。
乳輪を沿うようにクルクルと弄られて、大した快楽でもないのに唇から嬌声が漏れる。

はじめはこんな体じゃなかった。
全て目の前の性悪ゴミクズユーチューバーのせいなのだ。

「は、やめ、っく」
「まだ乳輪しか触ってないよ?こーちゃんきもちいの?」
「るさい、気持ちく、なんか、んぅっ」
「きもちいからアンアン言ってるんでしょ?」
「く、そ……っ」

唇を千切れる勢いで噛み締める。
両手で口元を塞ぎたくても、当たり前のように伊月の片手が俺の自由を奪っている。

コイツいつものやり口だ。
俺の動きを拘束して、散々快楽を与えておいて、「きもちいんだ?」と馬鹿にしてくる。
不愉快極まりないが、俺の力がないせいでいつも流されてしまう。

「っふ、ぅ……」
「俺の乳首触ってください、ってかわいくおねだりできたら触ってあげてもいいよ」
「誰が、そんなこと、っ」
「あーあ、素直じゃないんだからぁ」

伊月はふざけた提案をした後、それきり喋らなくなった。
俺に残されてるのはこの焦らしプレイをひたすら受け続けることか、あるいは自尊心を捨ててみっともなく懇願をすること。
間違っても後者だけはありえない。絶対にだ。
そのうちコイツも疲れてきて「こーちゃんって意地っ張りだよね。オレの負けだよ」って言い出すだろう。

と、俺は高を括っていたのだが。

「ふぁ、あ、んっ」
「またえっちな声漏れちゃってるよ?」
「も、やだ、やだぁ……っ!」
「ふは、イヤイヤしてるこーちゃんかわいい」

あれから何分経ったのか分からないが、伊月は先程と変わらない方法で俺を虐め続けていた。
はじめは我慢出来ていた声も、快楽が募っていって段々と抑えが効かなくなっている。
必死になって俺が首を振るのも、コイツにとっては興奮材料でしかない。

もう、シャツと乳首が擦れてムラムラとしてしまうのも、シャワーの水が当たって一人無様に喘いでしまうのも嫌なのだ。
だからこれ以上、コイツに絶対触れられたくない。

そう思っているのに、俺の瞳が伊月の指を捉えて離そうとしない。

「ほら。乳首ぷっくりして、早く触ってーって言ってるよ?」
「っく、あ」
「否定しないの?じゃあ触っちゃうよぉ」

鼓動が一気に高鳴った。
じわじわと体内からせり上がってくるそれは間違いなく切望の念。

駄目だと繰り返す俺の脳はもはや形骸化している。
本当は、俺はどう思っている?
考えたくない。
しかし、このどうしようもない高まりが答えだった。

「……なーんてね!ジョーダンだよぉ。期待した?」
「あ、え……?」
「ふは、すっごい残念って顔してる。こーちゃんかわいそお」

よしよしと頭を撫でてくる伊月を尻目に、俺は呆然とするしかなかった。

そうだ、コイツは「おねだりできたら触ってあげてもいい」と言った。
ふわふわした見た目で、口調で、だけどコイツは発言したことを訂正しない。
それが例えどんなことであっても、決して意見が変わることは無い。
今回も、きっと。

「さわ、れ……」
「んー?」
「触れって言ってんだよ!馬鹿!」

急激に切れた糸は俺を饒舌にした。
男としての矜持とか、乳首が性感帯として発達していく懸念とか、俺は小難しいことを考えるのを一切やめることにした。
根暗幸薄大学生にも人並みの性欲はあるんだよ!悪いか!

伊月は目を大きくした後、そこに弧を描いた。

「……どこを?」
「はぁ?」
「どこ触ってほしいの?オレに教えてよ」

両手の拘束が解かれ、羞恥で赤くなっていた俺の顔色がどんどん悪くなっていく。
伊月は俺のことを好きだと言うが、本当は嫌いなんじゃないかと思う時がある。
だって、普通は好意を持つ相手にこんな屈辱的な行為を望まない。

「……ここ」

俺の顔色は青くなったり赤くなったりと忙しい。
顔を逸らして、決して視線を合わせないようにしながら自身の胸元に手を這わした。

「自分で触ってみなよ」
「なっ……!」
「ほら、オレって好きな子虐めたいタイプだからすぐいじわるしちゃうんだもん。こーちゃんが自分で触った方がきもちくなれるって」

通常の脳みそを持ち合わせていればすぐに論破出来ていただろうが、度重なる責め苦で理性がほとんど削れてしまった自分は妙に納得してしまった。
たしかに、コイツに任せるよりは……

「……っ」

先っぽに手が触れる直前で、動きは止まった。
俺は、限界まで焦らされたココを触ればどうなる?
気持ちよくなってしまって、そして後戻りができなくなったら?

「自分で触らないならさっきみたいにいっぱい我慢させるけどいい?」
「や、やだっ」

爽やかな笑みを浮かべながら脅してくる伊月。
かぶりを振って、覚悟を決めてそろりと手を伸ばした。

「うあっ!」

きっと気持ちいのだろうと覚悟をしていたものの、それでも凄まじい衝撃に声を抑えることが出来なかった。

白状しよう。
俺はずっとこの突起を触るか否かで悩んでいた。
ある日は大学で、またある日は風呂で、乳首に刺激があるたびに首をもたげる局部に心底辟易としながらも、もし自分で触ったらどうなるだろう、という好奇心もまた抱き続けていた。
しかし、前述のように後戻りができなくなってしまう……つまり、乳頭への刺激がなければ絶頂に達することが難しくなってしまう体になることを懸念していた。

だから、だから、触りたくなかったのに……!

「んく、ぁあっ!はぁ、あっ」

理性がどれだけ暴れたところで俺の本能は留まることを知らない。
軽く摘まめば全身に稲妻が走る。
親指と人差し指をくりくり動かすと腰の奥から甘い痺れがじわじわと湧きあがる。
気付けば頬が濡れていた。

「あ~、ガチかわいいね。こーちゃん」
「うるさ……は!?」

伊月はニコニコ笑いながらさも当然のようにスマホをこちらに向けている。
レンズ部分は赤く光って、録画機能が使用されていることは容易に想像がついた。
自らも二度と思い出したくない恥ずかしい状況を、この男のスマホが録画している……?

「やめろっ!!今すぐ消せ!!」
「一分間ひとりえっちして?」
「はぁ!?」
「一分頑張れたら、この動画はオレのオカズ用にしてあげる。頑張れなかったら……そうだね、サブチャンにでもあげちゃおっかなぁ」
「何、言って……」

ぐずぐずに溶けたはずの脳が急速に回転し出す。
どう考えても気が狂ったとしか思えない提案だが、この男はやるといったら「やる」。

サブチャンとは、ユーチューブにアップしてるメインのアカウントとは別のものだろう。
メインアカウント程の登録者数はいないにしても、メインの方が数百万人であることを考えるとおそらく百万人以上は登録しているはずだ。

もし、本気でこの男が俺の痴態をネット上にアップしたら?
まずは退学せざるを得ないだろう。
好奇の視線が連日俺に突き刺さってくるだろうし、その視線に耐えられる気もしない。
その上、街中もろくに歩けなくなるだろう。
コンビニに寄っただけで、『イケメンチャンネル』に出てた乳首の人だ、と後ろ指を指されて生きることになる。

ああ、最悪だ。
俺の人生、本当にツイてない。

「ふぁ、んんっ」
「素直になれてえらいね、こーちゃん」

素直になったわけじゃない、お前が脅してるだけだ。

しかし、一度弄り出してしまったそこはじわじわと快楽を溜めてきている。
元々喘ぐのが好きではないのに、録画されていると分かればなお声を出したくない。
それでも、食いしばった俺の唇から情けない声が次々と漏れる。

「く、んぅっ」
「我慢してるのにえっちな声出しちゃうこーちゃん……はぁ、さいこぉ」
「だまれ、っ」

目を瞑って無心を保とうとしてるのに、ねっとりとした声が継続的に邪魔をしてくる。
迷惑極まりない。

「乳首くりくりしてきもちいんだ?ほんとに女の子みたいだね」
「っく、ふ」
「こーちゃんはきゅって摘まむ方が好きなんだよ?自分の体のことなんだから覚えておいて」
「っあ、あ……っ」
「怖いかもしれないけど、摘まんだのをすこーし上に引っ張ってみて。それもきっときもちいよ」
「ぅあぁっ!ぁ、あ……っ!」

いつの間にか伊月の声に従ってしまっている自分がいる。
どうせこれも後から馬鹿にされる材料にされるのだから、無視すればいい。
頭の中は至って冷静なのに、体が言うことを聞かない。

「……はい、おーわり」
「おわっ、た……?」

その声を聞いた瞬間、全身から力が抜ける。

しかし、俺は忘れていた。
伊月の前で安堵することが、どれほど危険なことか。

「さて、本番いきますか?」
「なっ……うあぁぁあああっ!!」

何が、起こった?

「あのね、こーちゃんは痛いのが好きなの。ちまちま優しく触っててもきもちくなかったでしょ?」
「やら、ひっぱらな、い゛ああぁっ!!」
「ふは、お隣さんに聞こえちゃうよ」

この時を待っていましたと言わんばかりの表情で、伊月は膨らんだ先端を摘まんだ。
摘まむ、なんて表現では生ぬるい。「握り潰されて」いるのだ。
生理的な涙が次々と溢れ、力では勝てないと分かっていながらも伊月の両肩を押して抵抗を試みる。
快楽とは程遠い行為に、喉が枯れるのも構わず叫び続ける。

「やだ、やだぁあ゛あああ!!」
「イヤなの?でも、こーちゃんのおちんちん勃ってるよぉ」
「……は」

息を吞んで、おそるおそる下腹部に視線をやる。
未だにテントを張っているズボンが視界に映り込む。

こんなに痛いのに、萎えてもおかしくないはずなのに。

「ねえ、さっき一人で乳首いじってたときドキドキしてたよね。それに、オレに動画撮られてるって意識してから余計に興奮してたよね」
「ち、ちが、う……!」
「で、思いっきり乳首摘ままれて勃起させちゃったと」
「ちがう、ちがう、ちがう……っ!!」

千切れんばかりに首を振り続けた。
薄々感づいていながら、心の奥にしまい続けていた事実。
ずっと目を背け続けてきた、俺の浅ましい本性。

幸薄ながら、俺は真面目にやってきたと思う。
人間関係には恵まれなくとも、勉強だけは必死にこなした。
あらゆる書籍を積極的に読み漁った。
この先何があっても一人で生きていけるようにと知識をつけるために。

目立たず、しかし着実に、堅実にと生きていく予定だったのに。
あの日、この男に目をつけられてしまったばっかりに……!

「うぇ!?こーちゃん泣かないでよぉ」
「誰のせい、だと……」
「大丈夫!こーちゃんはなんにも心配しないで、オレのお嫁さんになればいいんだよ」
「なるわけ、ないだろ……馬鹿」

ずず、と鼻水を啜って伊月を睨みつける。
ムカつく程整った顔面の近くに、未だに赤く灯っているスマホがふと目に入った。

あ。
何か嫌な予感がする。

「……おい」
「なーに?いまから婚約指輪買いに行く?」
「……なんで、未だにカメラを起動してるんだ」
「あ、バレちゃったぁ」

悪びれもせず舌を出してくる伊月に殺意を覚える。
肘に力を入れてじり、と壁際に寄っていくが、すぐに距離を詰められた。

俺の鈍い直感が珍しく働いている。
これは、今すぐ逃げないとマズいやつだ。

「こーら、どこいくの」
「……いや、別に」
「オレから逃げようとするなんて、こーちゃんにはお仕置きが必要かなぁ?」
「やだ、触るな、ぁあっ!」

ぎり、と再び摘ままれる乳首。
痛みに涙を流すオレを心底嬉しそうに笑いながら見つめる伊月は本当に狂っている。

そして、胸元に走る苦痛がずくずくと下腹部を疼かせている。

「ぃぎ、ぁああああっ!!」
「そっか。これ、きもちいからお仕置きになんないかぁ」
「やだ、やだぁっ、い゛あああっ!」

一人のほほんとした雰囲気を醸し出している伊月だが、やっていることはえげつない。
形が変わるんじゃないかと不安になってしまう程に乳首を引っ張ったり、握り潰したりと、好き放題だ。

「こっちの方がお仕置きになるかも」
「え、なに、やだっ」

伊月の顔が近づいてくるのにとてつもない不安感を覚えるが、俺の抵抗なんて結局は無力だ。
すっかり真っ赤に染まった先端に軽くキスをした後、伊月は俺を見上げながら綺麗な顔で笑った。

「失神しないでね」
「やだ、やだ、や、………………―――っ!!」

今までと比べものにならない激痛に、背中がぐいんと大きくのけ反る。
息が出来なくて、涙が止めどなく溢れて、本気で「死んだ方がマシ」と思うくらいの痛み。
今日を境に金輪際コイツと関わるのをやめようと決心する程度には本気で痛かった。

「ふは、上手にイけたね?よかったぁ」
「は……?」
「ほーら、ここヌルヌルでしょ」

伊月に指摘されて、やっと俺はその事実に気づいてしまった。
ズボン越しに局部を揉まれると、ヌルヌルと嫌な感触がある。
乳首を嚙まれた痛みに紛れて射精の感覚が掴めなかったのかもしれない。
そうか。きっとそうだ。

…………
……
これ以上のことは一切何も考えないようにしよう。

「こーちゃん乳首噛まれてイっ「それ以上喋るな殺すぞ」

この眼光は後にも先にも一番鋭いものだったと自負している。

「でもよかったぁ。バッチリ記録できて」
「今の、撮ったのか……?」
「うん!」

元気いっぱいの五歳児のような返事をしてくるコイツだが、その手に握られているのは俺のあられもない……本当にあられもない姿が録画されているスマホだ。
俺は、この場でコイツを殺るしかないのか……?

「消してほしい?」
「当たり前だろ!!」
「分かった。じゃあねぇ……」
「うぐっ」

押し倒されて、俺ははじめて気付く。
コイツの瞳が、肉食獣のようにギラギラと光っていることに。

「オレといっぱいえっちしてくれたら考えるよ」
「っ……!い、いっぱいって、何回……んむっ」

俺が話し終わる前に唇が気道を塞いでくる。
最初のとは比較にならないレベルの荒々しいキスに、一度達したはずの俺の息子は再び硬度を取り戻していく。

「っぷは、はぁっ、はぁ……っ」
「いっぱいはいっぱい、でしょ?」
「やだ、お前、絶倫だから、あぁっ」

「頑張ってオレたちの赤ちゃん作ろうね、こーちゃん?」



三度目の挿入でぷっつり意識を飛ばした俺が動画の存在を思い出した頃には、データはしっかりクラウド上に保存された後だった。
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