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36.優しい嘘
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「…なんで夏菜がここにいるんだ」
「え、え、え?」
私は下駄箱で腕を組みながら佇む人物を見て目を丸くした。
相手も同じように切れ長の瞳を丸くしている。
みんなが汗水を垂らしながら文化祭に向けて準備を進めている中、私は八神くんからとあるお願いを受けた。
それは衣装を裁縫するための布地をいくつか買ってきてほしいというもの。
裏方冥利につきるような依頼に一つ返事で了承したのだけど、今日に限って唯はお休みだった。
それは八神くんも理解していたようで、「今作業してる裏方の子に声をかけておくから、先に下駄箱に行っておいてくれる?」と言われた。
八神くんの気遣いをありがたく感じる一方で、クラスの人たちと買い物に行くなんて大丈夫かな、と正直私はかなり緊張していた。
文化祭の準備を通して周りの人々と関わることはあっても、世間話をするほどではない。
もし話が合わなさそうな子が来たら?買い物に行くまでの道のりで沈黙が訪れてしまったら?
緊張と不安でドクドクとうるさい心臓を抱えながらも下駄箱に到着したら、そこにはなぜか湊くんがいたのだ。
「大地からなんか言われてるか」
「うん、えっと、衣装の布地を買ってきてほしいって、それでクラスの子をここで待ってるんだけど」
「スマホ見せろ」
「はぇっ!?」
手元にぎゅっと握り締めていたスマホをいとも簡単に取り上げられて情けない声が出た。
オタクとってスマホは命よりも大切な代物。
あんなものからこんなものまで、他人には見られたくないものがたくさん入っている。
「か、返してっ」
「ちょい待て」
手を挙げられた状態で操作されてしまえば私に勝ち目はない。
飛び跳ねてスマホの奪還を試みるけど、絶望的なまでの身長差が邪魔をする。
ああ、トーク履歴をまじまじ見ないで…湊くん達以外に友達がいないことがバレちゃう…!
いや、もうバレてるんだけど…!
「…はぁ」
ため息をつく湊くんが見せてきた画面には八神くんからのメッセージ。
『衣装の件は嘘だよお。湊とのデート楽しんでねえ』
メッセージとともに、猫が投げキッスをするスタンプも一緒に送られてきていた。
急展開に頭が追い付かず混乱している一方で、湊くんは眉をひそめている。
「欲しい機材があったから大地と買いに行く約束してたんだけど…完全にハメられたな」
「はめられた…?」
「…まあ、行くか」
踵を返して歩いて行ってしまう湊くんの背中を急いで追いかけた。
布地を買いに行くはずが、なぜか湊くんとデートをすることになってしまった。
みんなが頑張って準備をしている中、自分だけサボるようなことをしてしまうのはなんだか申し訳ないけど、湊くんと久々にゆっくり話す機会を設けることができたのは少し嬉しい。
「え、え、え?」
私は下駄箱で腕を組みながら佇む人物を見て目を丸くした。
相手も同じように切れ長の瞳を丸くしている。
みんなが汗水を垂らしながら文化祭に向けて準備を進めている中、私は八神くんからとあるお願いを受けた。
それは衣装を裁縫するための布地をいくつか買ってきてほしいというもの。
裏方冥利につきるような依頼に一つ返事で了承したのだけど、今日に限って唯はお休みだった。
それは八神くんも理解していたようで、「今作業してる裏方の子に声をかけておくから、先に下駄箱に行っておいてくれる?」と言われた。
八神くんの気遣いをありがたく感じる一方で、クラスの人たちと買い物に行くなんて大丈夫かな、と正直私はかなり緊張していた。
文化祭の準備を通して周りの人々と関わることはあっても、世間話をするほどではない。
もし話が合わなさそうな子が来たら?買い物に行くまでの道のりで沈黙が訪れてしまったら?
緊張と不安でドクドクとうるさい心臓を抱えながらも下駄箱に到着したら、そこにはなぜか湊くんがいたのだ。
「大地からなんか言われてるか」
「うん、えっと、衣装の布地を買ってきてほしいって、それでクラスの子をここで待ってるんだけど」
「スマホ見せろ」
「はぇっ!?」
手元にぎゅっと握り締めていたスマホをいとも簡単に取り上げられて情けない声が出た。
オタクとってスマホは命よりも大切な代物。
あんなものからこんなものまで、他人には見られたくないものがたくさん入っている。
「か、返してっ」
「ちょい待て」
手を挙げられた状態で操作されてしまえば私に勝ち目はない。
飛び跳ねてスマホの奪還を試みるけど、絶望的なまでの身長差が邪魔をする。
ああ、トーク履歴をまじまじ見ないで…湊くん達以外に友達がいないことがバレちゃう…!
いや、もうバレてるんだけど…!
「…はぁ」
ため息をつく湊くんが見せてきた画面には八神くんからのメッセージ。
『衣装の件は嘘だよお。湊とのデート楽しんでねえ』
メッセージとともに、猫が投げキッスをするスタンプも一緒に送られてきていた。
急展開に頭が追い付かず混乱している一方で、湊くんは眉をひそめている。
「欲しい機材があったから大地と買いに行く約束してたんだけど…完全にハメられたな」
「はめられた…?」
「…まあ、行くか」
踵を返して歩いて行ってしまう湊くんの背中を急いで追いかけた。
布地を買いに行くはずが、なぜか湊くんとデートをすることになってしまった。
みんなが頑張って準備をしている中、自分だけサボるようなことをしてしまうのはなんだか申し訳ないけど、湊くんと久々にゆっくり話す機会を設けることができたのは少し嬉しい。
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