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容赦なく照らしてくる真夏の日差しは引きこもりにとって天敵だ。
セミの鳴き声を聞くと体感温度が5°くらい上昇する気がするから、急いでイヤホンをつけて、早歩きで学校へと向かう。
1年前は、せっかくの夏休みなのに毎日学校に行かなきゃいけないことが嫌だと思っていた。
でも、今は違う。
照り続ける日差しを我慢してでも会いたい人たちがいる。
「おはよ、唯!」
「………夏菜」
教室に入ると、両手に絵の具を抱えて限界まで眉根を寄せている唯が目に入った。
よっぽど集中していたみたいで、私に気付くまでたっぷり5秒はかかったように思う。
「何してるの?」
「色塗り。ココをピンク色で塗って欲しいって頼まれてる」
「ピンク…かあ…」
唯の手に握られている絵の具は青色、緑色、茶色、黄色などなど。
そしてパレットの上ですでに何度も混ぜられたであろう絵の具は、この世の言葉では形容できない色をしている。
…これ、異世界召喚の材料として使えるんじゃないだろうか。
「あーっ!こら!唯ちゃんてばまたダークマター作ってるんだからあ!」
「…この色を混ぜればピンクになる」
「なるわけないでしょって!ほら、洗いに行くからパレット持って」
私が目を点にしていると、背後から八神くんの軽快なツッコミが入る。
唇を尖らせて不貞腐れている唯に対して八神くんは動じることもなく、唯の手を握って教室を出ていった。
心なしか二人の距離感が縮んでいるような気がする。
前ならもっと唯が毒舌を発揮していたと思うけど。
そんなことを考えながら教室をぐるりと見回した。
派手な服装の人達を探して、いないことを確認しほっとする反面心苦しい気持ちになる。
屋上での一件以来、花音さんをはじめとしたギャル三人組をほとんど見かけなくなった。
もちろん授業中は一緒だけど、こうして文化祭の準備が始まった夏休み以降、私は一度も彼女たちの姿を見ていない。
あれから特に何も言われていない。
こちらから干渉することもない。
だけど、本当にこれでいいのかな、とモヤモヤし続けている。
教室にびいん、びいんと低い音が鳴り響いて、ちらりとそちらに視線を向けた。
男子三人が壇上で楽器を持ちながら真剣な表情で打ち合わせをしている一方で、一人の男子が橙色の髪を揺らしながらベースを鳴らしている。
床に座り込んで楽器を抱えている湊くんは相変わらずかっこよくて、ほとんどの女子が作業を止めて見惚れている。
中にはこっそりスマホを向けている子もいる。
動画撮影をしているんだろうか。
「動画代貰うからな」
湊くんはベースに視線をやったまま呟く。
その発言を受けて、スマホを構えていた女の子がその姿勢のまま倒れこんでしまった。
隣にいた男子が慌てて彼女を支えている。
終始ベースとにらめっこしていたはずなのに、どうして動画を撮っていることが分かったんだろう。
湊くん、末恐ろしい。
「見惚れてるねえ」
「!ち、ちがっ」
「ま、男の僕から見てもかっこいいと思うよお。悔しいけどさあ」
どさっと隣に座ってきた八神くんが茶化してくる。
唯は真っ白になったパレットに絵の具をのせる作業を再開したみたいだ。
八神くんは器用に唯の手から黒色や紫色の絵の具を取り上げながらも、こちらを向いてくれている。
「あの顔でベースまで弾けちゃうのは反則だよねえ」
「そ、そうだよね…!」
あんなにイケメンで、勉強もできて、歌も上手くて、挙句の果てにはベースまで弾けちゃうって、アニメのキャラクターも顔負けの超人ぶりだ。
湊くんが教室中を沸かせたあの日を思い出す。
セミの鳴き声を聞くと体感温度が5°くらい上昇する気がするから、急いでイヤホンをつけて、早歩きで学校へと向かう。
1年前は、せっかくの夏休みなのに毎日学校に行かなきゃいけないことが嫌だと思っていた。
でも、今は違う。
照り続ける日差しを我慢してでも会いたい人たちがいる。
「おはよ、唯!」
「………夏菜」
教室に入ると、両手に絵の具を抱えて限界まで眉根を寄せている唯が目に入った。
よっぽど集中していたみたいで、私に気付くまでたっぷり5秒はかかったように思う。
「何してるの?」
「色塗り。ココをピンク色で塗って欲しいって頼まれてる」
「ピンク…かあ…」
唯の手に握られている絵の具は青色、緑色、茶色、黄色などなど。
そしてパレットの上ですでに何度も混ぜられたであろう絵の具は、この世の言葉では形容できない色をしている。
…これ、異世界召喚の材料として使えるんじゃないだろうか。
「あーっ!こら!唯ちゃんてばまたダークマター作ってるんだからあ!」
「…この色を混ぜればピンクになる」
「なるわけないでしょって!ほら、洗いに行くからパレット持って」
私が目を点にしていると、背後から八神くんの軽快なツッコミが入る。
唇を尖らせて不貞腐れている唯に対して八神くんは動じることもなく、唯の手を握って教室を出ていった。
心なしか二人の距離感が縮んでいるような気がする。
前ならもっと唯が毒舌を発揮していたと思うけど。
そんなことを考えながら教室をぐるりと見回した。
派手な服装の人達を探して、いないことを確認しほっとする反面心苦しい気持ちになる。
屋上での一件以来、花音さんをはじめとしたギャル三人組をほとんど見かけなくなった。
もちろん授業中は一緒だけど、こうして文化祭の準備が始まった夏休み以降、私は一度も彼女たちの姿を見ていない。
あれから特に何も言われていない。
こちらから干渉することもない。
だけど、本当にこれでいいのかな、とモヤモヤし続けている。
教室にびいん、びいんと低い音が鳴り響いて、ちらりとそちらに視線を向けた。
男子三人が壇上で楽器を持ちながら真剣な表情で打ち合わせをしている一方で、一人の男子が橙色の髪を揺らしながらベースを鳴らしている。
床に座り込んで楽器を抱えている湊くんは相変わらずかっこよくて、ほとんどの女子が作業を止めて見惚れている。
中にはこっそりスマホを向けている子もいる。
動画撮影をしているんだろうか。
「動画代貰うからな」
湊くんはベースに視線をやったまま呟く。
その発言を受けて、スマホを構えていた女の子がその姿勢のまま倒れこんでしまった。
隣にいた男子が慌てて彼女を支えている。
終始ベースとにらめっこしていたはずなのに、どうして動画を撮っていることが分かったんだろう。
湊くん、末恐ろしい。
「見惚れてるねえ」
「!ち、ちがっ」
「ま、男の僕から見てもかっこいいと思うよお。悔しいけどさあ」
どさっと隣に座ってきた八神くんが茶化してくる。
唯は真っ白になったパレットに絵の具をのせる作業を再開したみたいだ。
八神くんは器用に唯の手から黒色や紫色の絵の具を取り上げながらも、こちらを向いてくれている。
「あの顔でベースまで弾けちゃうのは反則だよねえ」
「そ、そうだよね…!」
あんなにイケメンで、勉強もできて、歌も上手くて、挙句の果てにはベースまで弾けちゃうって、アニメのキャラクターも顔負けの超人ぶりだ。
湊くんが教室中を沸かせたあの日を思い出す。
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