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20.イライラする【side獅童】
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***
屋上に来るのは久しぶりだった。
いつもの特等席に寝転がると、雲一つない快晴が空一面に広がっている。
まさに絶好のサボり日和だ。
しかし天候とは反対に俺の気持ちはどんよりと曇っている。
「あーーー」
意味もなく声を出してみる。
当然返事なんてあるはずもなくてただただ虚しいだけだ。
「ッチ」
無性にイライラする。
いや、ここ最近ずっとイライラしている。
スマホを取り出して、チャット履歴をスワイプすると表れる一件のメッセージ。
『もう勉強分かったので大丈夫です。すみません。あと今後関わらないでくれると嬉しいです』
「っんだよコイツ…」
差出人は、夏菜。
期末テストが三日前に差し迫ったタイミングで急にこのメッセージが送られてきた。
すぐに返事をしたが、今日に至るまで無視され続けている。
そして夏菜は宣言通りあの日から一度も勉強会には来なかったし、期末テストが終わってからも頑なに俺を避けるようになった。
せめてテスト結果だけでも聞きたいし、つか関わるなってなんだよと思って追いかけ回してやったこともあったけど、毎回女子トイレに逃げられてお手上げだ。
大地にも、阿佐ヶ谷にも聞いてみたが夏菜が俺を避ける理由は全く分からないという。
「絶対アイツらだと思ったんだけどな…」
前から俺のことを嫌ってた素振りがあるならまだわかる。
けど、あのメッセージを送ってくる前日に夏菜に異変はなかった…と思う。
つまり何が考えられるかっていうと、脅されてるって可能性だ。
俺と仲がいいギャル三人組は何かと夏菜を敵対視していた。
だから確実にアイツらだろうと踏んで問い詰めたが、涙目になって違うと言う。
その後のアイツらを観察していても特に怪しいところはない。
俺は肉体関係だけの奴が校内にいるからそいつらかもしれない。
だとしたら数人では済まない。
正直絞るのはかなり困難だ。
それか、ラギとしての夏菜に突然の異変があったのかもしれない。
しかし、それだとしたら阿佐ヶ谷が理由を知っているはずだが。
「…わっかんねぇ」
涙ながらに「一緒にいたい」と言ったくせにすぐ突き放してきやがって。
夏菜の考えていることが分からなさすぎる。
…もし脅されていないのだとしたら、本当に夏菜の意志で俺と関わらない道を選んだのか。
そうだとしたら、もう俺にできることは何もない。
「ムカつく…」
誰も見ていないと分かっていても両手で顔を隠す。今はただこの顔を誰にも見られたくない。
目が覚めたころには夕方になっていた。
スマホを確認すると、とっくに下校時間を過ぎている。
こりゃ今日も夜更かしコースだな…と考えながら教室に荷物を取りに戻ると、ちょうど渦中の人物が目に入ってきた。
「…夏菜」
「っ!!」
集中して何かを書いていた夏菜は俺に気づいた瞬間飛び上がってびびっていた。
すぐに荷物を持って帰ろうとする夏菜を見て、ここを逃がしちゃいけないと俺の第六感が囁いている。
逃げようとする夏菜の手を掴むと何故かコイツは異様に周りをキョロキョロ見ては狼狽していた。
「はな、離して、ください」
「離さねえ。なんで俺を避けてんのか、それだけ教えろ」
「っ、」
夏菜の瞳が分かりやすく揺れる。
「俺に言えねえ理由があるんだな?」
「ちが、」
「…勉強会の時、俺が夏菜になんて言ったか覚えてるか」
「…?」
「『テスト終わったらたっぷりお返しもらうからな』だ。今度しっかり徴収すっから覚えとけよ」
「あ、え…?で、でも」
「うるせえ。とにかくそういうことだから」
夏菜の手を離し、俺はすぐにその場を去った。
さすがにこんな余裕のない顔を見られるわけにはいかない。
『明日俺んち来れるか』
廊下を歩きながらメッセージを送る。
本当なら今日でもいいくらいだ。
しかし相手にも予定はあるだろう。
「…」
たかが女一人のためにここまで一生懸命になるなんてありえない。
俺らしくない。
それでも何故か体が動いちまう。
わかんねえけど、最近ずっと感じていたこのイライラは夏菜と密接に関係しているような気がする。
夏菜の問題を解決してやらなきゃいつまでも俺の心は晴れないままだろう。
俺は、俺のために仕方なく夏菜を助けてやるだけだ。
屋上に来るのは久しぶりだった。
いつもの特等席に寝転がると、雲一つない快晴が空一面に広がっている。
まさに絶好のサボり日和だ。
しかし天候とは反対に俺の気持ちはどんよりと曇っている。
「あーーー」
意味もなく声を出してみる。
当然返事なんてあるはずもなくてただただ虚しいだけだ。
「ッチ」
無性にイライラする。
いや、ここ最近ずっとイライラしている。
スマホを取り出して、チャット履歴をスワイプすると表れる一件のメッセージ。
『もう勉強分かったので大丈夫です。すみません。あと今後関わらないでくれると嬉しいです』
「っんだよコイツ…」
差出人は、夏菜。
期末テストが三日前に差し迫ったタイミングで急にこのメッセージが送られてきた。
すぐに返事をしたが、今日に至るまで無視され続けている。
そして夏菜は宣言通りあの日から一度も勉強会には来なかったし、期末テストが終わってからも頑なに俺を避けるようになった。
せめてテスト結果だけでも聞きたいし、つか関わるなってなんだよと思って追いかけ回してやったこともあったけど、毎回女子トイレに逃げられてお手上げだ。
大地にも、阿佐ヶ谷にも聞いてみたが夏菜が俺を避ける理由は全く分からないという。
「絶対アイツらだと思ったんだけどな…」
前から俺のことを嫌ってた素振りがあるならまだわかる。
けど、あのメッセージを送ってくる前日に夏菜に異変はなかった…と思う。
つまり何が考えられるかっていうと、脅されてるって可能性だ。
俺と仲がいいギャル三人組は何かと夏菜を敵対視していた。
だから確実にアイツらだろうと踏んで問い詰めたが、涙目になって違うと言う。
その後のアイツらを観察していても特に怪しいところはない。
俺は肉体関係だけの奴が校内にいるからそいつらかもしれない。
だとしたら数人では済まない。
正直絞るのはかなり困難だ。
それか、ラギとしての夏菜に突然の異変があったのかもしれない。
しかし、それだとしたら阿佐ヶ谷が理由を知っているはずだが。
「…わっかんねぇ」
涙ながらに「一緒にいたい」と言ったくせにすぐ突き放してきやがって。
夏菜の考えていることが分からなさすぎる。
…もし脅されていないのだとしたら、本当に夏菜の意志で俺と関わらない道を選んだのか。
そうだとしたら、もう俺にできることは何もない。
「ムカつく…」
誰も見ていないと分かっていても両手で顔を隠す。今はただこの顔を誰にも見られたくない。
目が覚めたころには夕方になっていた。
スマホを確認すると、とっくに下校時間を過ぎている。
こりゃ今日も夜更かしコースだな…と考えながら教室に荷物を取りに戻ると、ちょうど渦中の人物が目に入ってきた。
「…夏菜」
「っ!!」
集中して何かを書いていた夏菜は俺に気づいた瞬間飛び上がってびびっていた。
すぐに荷物を持って帰ろうとする夏菜を見て、ここを逃がしちゃいけないと俺の第六感が囁いている。
逃げようとする夏菜の手を掴むと何故かコイツは異様に周りをキョロキョロ見ては狼狽していた。
「はな、離して、ください」
「離さねえ。なんで俺を避けてんのか、それだけ教えろ」
「っ、」
夏菜の瞳が分かりやすく揺れる。
「俺に言えねえ理由があるんだな?」
「ちが、」
「…勉強会の時、俺が夏菜になんて言ったか覚えてるか」
「…?」
「『テスト終わったらたっぷりお返しもらうからな』だ。今度しっかり徴収すっから覚えとけよ」
「あ、え…?で、でも」
「うるせえ。とにかくそういうことだから」
夏菜の手を離し、俺はすぐにその場を去った。
さすがにこんな余裕のない顔を見られるわけにはいかない。
『明日俺んち来れるか』
廊下を歩きながらメッセージを送る。
本当なら今日でもいいくらいだ。
しかし相手にも予定はあるだろう。
「…」
たかが女一人のためにここまで一生懸命になるなんてありえない。
俺らしくない。
それでも何故か体が動いちまう。
わかんねえけど、最近ずっと感じていたこのイライラは夏菜と密接に関係しているような気がする。
夏菜の問題を解決してやらなきゃいつまでも俺の心は晴れないままだろう。
俺は、俺のために仕方なく夏菜を助けてやるだけだ。
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