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19.さようなら
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期末テストまで残り三日。
湊くんの分かりやすい指導のおかげで、なんとか物理も基礎は分かるようになってきた。
残りの時間はひたすら問題演習をしようか、という話をしていた矢先の出来事だった。
「調子乗ってんじゃねえよ、陰キャが」
「自分の立場弁えてんのぉ?」
「二人とも言いすぎ…ぷぷ」
目の前で腕組みをしながら立ちはだかっているのは、前に教室で絡んできた花音と呼ばれるギャルを筆頭にした三人組。
今日も湊くんのおうちで勉強をしようと校舎を出る間際に捕まえられてズルズルと校舎裏に連れてこられたのだった。
「聞いてんの?」
花音さんに胸ぐらをつかまれて校舎の壁に押し付けられた。
まるでアニメのような展開だけど、実際に起こると反抗もできずただ恐怖に震えることしかできない。
テスト期間だから部活組の人々の姿はなく、周りを見渡してもただ木々が生い茂るばかりだ。
「ぷぷ、コイツ震えてんだけど」
「てかさあ、なんで呼び出されたか分かってるよねぇ?」
三人分の鋭い視線が一斉にこちらに向けられる。
明確な悪意。憎悪。
ネットで叩かれるのとはわけが違う。
この人たちはやろうと思えば私に危害を加えることができる。
「…み、みなと、くんのこと、ですか」
「分かってんじゃあん」
「…アンタごときが湊のこと名前で呼ぶな」
花音さんはよっぽど怒っているのか、さらに手に力を込めてくる。
苦しくてむせるけど、花音さんはそんなことお構いなしに話を進めてくる。
「アンタのせいで、湊も大地もうちらに塩対応なんだけど」
「結局うちらとは一回も勉強してないしぃ?」
「陰キャが湊と大地をはべらすなんておこがましいよね、ぷぷ」
心がズキズキと痛む。
散々な言われようだけど、結局私が彼女たちから湊くんと大地くんを奪ったという事実は変わらない。
勉強会の前から分かっていたことだった。
彼女たちから一度指摘も受けていた。
けれど、今更勉強会を無しにしようというのも、彼女たちにごめんなさいと謝ることもできなかった。
勇気がない私は結論が出せないままズルズルと問題を先延ばしにして、そしてそのツケが今日回ってきたんだ。
震える唇でなんとか言葉を発する。
「…ご、めんなさ、い」
「謝って済む問題じゃねーから」
「アンタが今後二度と湊に関わらなきゃいい話ぃ。おっけぇ?」
一人の女の子にそう問いかけられ、成すすべなく頷く。
「スマホ出して」
「…え?」
「湊に今後関わるなって連絡しておくから。あー大丈夫、口調は陰キャっぽく寄せとくから心配すんなよ」
「ブロックもしよぉ」
「ぷぷ、賛成!」
震える手でスマホを取り出すと無理矢理彼女たちに奪われた。
私が震えながらかばんを握り締めている一方で、三人は楽しそうにスマホを弄っている。
しばらくすると笑い声が止み、手元にスマホが投げられて慌ててキャッチした。
「メッセも送ったしブロックもしといたから」
「じゃ、そーゆーことで、二度とうちらの湊と大地に話しかけないでよ!ぷぷ」
「約束破ったら、次はアンタの友達も一緒に制裁するからねぇ」
「!!」
彼女たちはそう言い残して、笑いながら校門の方へと去っていった。
ずるずると地面に座り込む。
「っ、ふ」
とめどなく涙があふれる。
今まで当たり前だと思っていた日常が急に音を立てて崩れる。
まるで奈落の底へと突き落とされた気分だった。
今すぐ湊くんと連絡が取りたくて、スマホを見つめる。
だけど、もう連絡することは叶わない。
一連の出来事を相談したら、優しい彼はきっと私のことをかばってくれる。
だけど彼女たちは納得しないだろう。
もしかしたらまた彼女たちは私を攻撃してくるかもしれないし、何より唯に危害が行く可能性もある。
私は口を噤んで、大人しくするしかない。
幸いなことに湊くんは理系科目の基礎を教えてくれたから、応用問題が解けなくても赤点は回避できる。
だからもう勉強会に行かなくても大丈夫。
期末テストが終わっても、以前のように過ごせばいい。
唯とお話ししたり、一人のときは動画を見たりして…以前と同じように。
それが彼女たちと約束したことだから。
鞄の中から一つのファイルを取り出す。
分からない単元があると、湊くんは次の日までに覚えるべきことをまとめて渡してくれた。
綺麗な字でマーカーや赤ペンも使って上手く書かれている。
湊くんが、私のために作ってくれたプリント。
「っ、や、やだ…!」
湊くんがくれたプリントを握りしめて、本音を零した。
こんなにあっけなく終わってしまうのだろうか。
屋上でラギだとバレたこと。
強引にキスされて泣いてしまったこと。
何度もデートに連れ出されて狼狽したこと。
避けられて傷付いたけど、勇気を出して仲直りしたこと。
出来の悪い私に根気強く勉強を教えてくれたこと。
今までの思い出ひとつひとつが尊くて、キラキラしている。
でも、私は湊くんとこれ以上思い出を作ることはできない。
本当はもっと一緒にいたい。
期末テストの結果を一緒に見てほしい。
「俺のおかげだな」なんてニヤニヤする様が容易に想像できる。
地元の夏祭り、湊くんと一緒に行きたい。
「ここのたこ焼き最高にうめーんだぜ」って自慢してくるかな。
文化祭の準備、笑いながら一緒にしたい。
「ペンキ持ってこい」ってコキ使ってきそう。
でも、もうどれだけ願っても叶わない。
私なんかが独占しちゃいけなかったんだ。
時間はかかる。
少しずつ忘れていこう。
大丈夫。
大丈夫。
だいじょうぶだから。
期末テストまで残り三日。
湊くんの分かりやすい指導のおかげで、なんとか物理も基礎は分かるようになってきた。
残りの時間はひたすら問題演習をしようか、という話をしていた矢先の出来事だった。
「調子乗ってんじゃねえよ、陰キャが」
「自分の立場弁えてんのぉ?」
「二人とも言いすぎ…ぷぷ」
目の前で腕組みをしながら立ちはだかっているのは、前に教室で絡んできた花音と呼ばれるギャルを筆頭にした三人組。
今日も湊くんのおうちで勉強をしようと校舎を出る間際に捕まえられてズルズルと校舎裏に連れてこられたのだった。
「聞いてんの?」
花音さんに胸ぐらをつかまれて校舎の壁に押し付けられた。
まるでアニメのような展開だけど、実際に起こると反抗もできずただ恐怖に震えることしかできない。
テスト期間だから部活組の人々の姿はなく、周りを見渡してもただ木々が生い茂るばかりだ。
「ぷぷ、コイツ震えてんだけど」
「てかさあ、なんで呼び出されたか分かってるよねぇ?」
三人分の鋭い視線が一斉にこちらに向けられる。
明確な悪意。憎悪。
ネットで叩かれるのとはわけが違う。
この人たちはやろうと思えば私に危害を加えることができる。
「…み、みなと、くんのこと、ですか」
「分かってんじゃあん」
「…アンタごときが湊のこと名前で呼ぶな」
花音さんはよっぽど怒っているのか、さらに手に力を込めてくる。
苦しくてむせるけど、花音さんはそんなことお構いなしに話を進めてくる。
「アンタのせいで、湊も大地もうちらに塩対応なんだけど」
「結局うちらとは一回も勉強してないしぃ?」
「陰キャが湊と大地をはべらすなんておこがましいよね、ぷぷ」
心がズキズキと痛む。
散々な言われようだけど、結局私が彼女たちから湊くんと大地くんを奪ったという事実は変わらない。
勉強会の前から分かっていたことだった。
彼女たちから一度指摘も受けていた。
けれど、今更勉強会を無しにしようというのも、彼女たちにごめんなさいと謝ることもできなかった。
勇気がない私は結論が出せないままズルズルと問題を先延ばしにして、そしてそのツケが今日回ってきたんだ。
震える唇でなんとか言葉を発する。
「…ご、めんなさ、い」
「謝って済む問題じゃねーから」
「アンタが今後二度と湊に関わらなきゃいい話ぃ。おっけぇ?」
一人の女の子にそう問いかけられ、成すすべなく頷く。
「スマホ出して」
「…え?」
「湊に今後関わるなって連絡しておくから。あー大丈夫、口調は陰キャっぽく寄せとくから心配すんなよ」
「ブロックもしよぉ」
「ぷぷ、賛成!」
震える手でスマホを取り出すと無理矢理彼女たちに奪われた。
私が震えながらかばんを握り締めている一方で、三人は楽しそうにスマホを弄っている。
しばらくすると笑い声が止み、手元にスマホが投げられて慌ててキャッチした。
「メッセも送ったしブロックもしといたから」
「じゃ、そーゆーことで、二度とうちらの湊と大地に話しかけないでよ!ぷぷ」
「約束破ったら、次はアンタの友達も一緒に制裁するからねぇ」
「!!」
彼女たちはそう言い残して、笑いながら校門の方へと去っていった。
ずるずると地面に座り込む。
「っ、ふ」
とめどなく涙があふれる。
今まで当たり前だと思っていた日常が急に音を立てて崩れる。
まるで奈落の底へと突き落とされた気分だった。
今すぐ湊くんと連絡が取りたくて、スマホを見つめる。
だけど、もう連絡することは叶わない。
一連の出来事を相談したら、優しい彼はきっと私のことをかばってくれる。
だけど彼女たちは納得しないだろう。
もしかしたらまた彼女たちは私を攻撃してくるかもしれないし、何より唯に危害が行く可能性もある。
私は口を噤んで、大人しくするしかない。
幸いなことに湊くんは理系科目の基礎を教えてくれたから、応用問題が解けなくても赤点は回避できる。
だからもう勉強会に行かなくても大丈夫。
期末テストが終わっても、以前のように過ごせばいい。
唯とお話ししたり、一人のときは動画を見たりして…以前と同じように。
それが彼女たちと約束したことだから。
鞄の中から一つのファイルを取り出す。
分からない単元があると、湊くんは次の日までに覚えるべきことをまとめて渡してくれた。
綺麗な字でマーカーや赤ペンも使って上手く書かれている。
湊くんが、私のために作ってくれたプリント。
「っ、や、やだ…!」
湊くんがくれたプリントを握りしめて、本音を零した。
こんなにあっけなく終わってしまうのだろうか。
屋上でラギだとバレたこと。
強引にキスされて泣いてしまったこと。
何度もデートに連れ出されて狼狽したこと。
避けられて傷付いたけど、勇気を出して仲直りしたこと。
出来の悪い私に根気強く勉強を教えてくれたこと。
今までの思い出ひとつひとつが尊くて、キラキラしている。
でも、私は湊くんとこれ以上思い出を作ることはできない。
本当はもっと一緒にいたい。
期末テストの結果を一緒に見てほしい。
「俺のおかげだな」なんてニヤニヤする様が容易に想像できる。
地元の夏祭り、湊くんと一緒に行きたい。
「ここのたこ焼き最高にうめーんだぜ」って自慢してくるかな。
文化祭の準備、笑いながら一緒にしたい。
「ペンキ持ってこい」ってコキ使ってきそう。
でも、もうどれだけ願っても叶わない。
私なんかが独占しちゃいけなかったんだ。
時間はかかる。
少しずつ忘れていこう。
大丈夫。
大丈夫。
だいじょうぶだから。
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