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18.脳みそパンク寸前
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「…で、ベクトルABがベクトルbとイコールになるだろ」
「………ふぁい」
「わかんねえんだな?」
「ごめんなさい…」
「わかんねえならわかんねえって言え。ここをもう一度見てみろ」
見かけによらず(と言ったら失礼だけど)湊くんはすごく頭がいいし、教えるのも上手だ。
その説明はとても分かりやすくてありがたい。
ありがたいのだけど、湊くんの顔が視界に入ってしまうといまいち集中できない。
湊くんいつも飄々としてるから、真面目な顔してるとギャップがすごいんだもん…!
それに、これは私のせいだけど、教科書が一個しかないから距離が異様に近い…!
けど「顔が近くて集中できない」なんて言ったら私だけ変に意識をしてるみたいだし、目の前の唯がどんなに怒るか分からないから口をつぐむ。
ちらりと目の前の様子を盗み見てみた。
「やまげつき。りゅうさいのこうちょうははかがくさいるい、」
「…ハァ」
「まだ最初の一文しか読んでないよお?」
「まずタイトルから読み違えてる。やまげつきじゃなくてさんげつき」
「なるほどお」
「…それから一文目の読み。隴西の李徴は博学才穎」
「まって!全部メモするからあ!」
「………」
唯の見てはいけない顔を見てしまった。
あれは人を人と思っていない顔だ。
私だって誇れるような成績ではないけど、さすがにあそこまでではない。
八神くん…あと二週間で本当に赤点回避できるのかな…
「…だろ。正三角形の内角くらいは知ってるよな?」
「へ?」
「へ?じゃねえ。中学生で習っただろ」
「…30°くらい?」
「………」
あっ、湊くんが唯と同じ顔をしている…
私たちの頭が思っていた数倍まずいことに気付いた二人は急遽勉強時間を延長することにした。
夕食も宅配を取った。
その夕食を食べているときですら私は片手に参考書を持ち、八神くんに至っては文章を正確に読まないと夕食が食べられないという鬼畜仕様だった。
死んじゃう。
***
「問3、ベクトルAB,BC、CDを足したら何になる?」
「…ベクトルAD、かな?」
「正解!基礎はかなり身に付いたな!」
「えへへ…み、湊くんくるしいです…」
一週間後。
湊くんの鬼指導のおかげで、私はやっと基礎問題が分かるようになってきた。
私ができるようになるたびに湊くんは抱きついてくる。
指導してくれるのはありがたいんだけど、抱きつかれるのは恥ずかしいし唯が般若のようになっていて怖いからやめてほしい。
けど、今回ばかりはあの唯も湊くんに構っている暇はなさそうだ。
「アンタ…今まで山月記の『記』の字を言じゃなくて禾で書いてたの…?」
「んー?ごんべんとかのぎへんとかわかんなあい」
「………」
全力で教科書に視線を戻した。
私は今何も見ていない。
「数Bもかなりできるようになったからそろそろ物理やるか」
「ぶ、ぶつり…」
「今回の範囲の等加速度運動からいくぞ」
「トウカソクドウンドウ」
「…前の範囲の等速直線運動からやるか」
「トウソクチョクセンウンドウ」
「…………」
「ごめんなさいっ!!みっ見捨てないで湊くんっ!!」
湊くんの目がどんどんと濁っていく様子を見て慌てて謝罪した。
実は4月から分からなかったんです…!
でも唯はバイトで忙しいし、唯以外に友達いないし、誰にも相談できないままここまで来ちゃったんです…!
「…いい。一から教えてやる」
「湊くん…!」
「ただし、テスト終わったらたっぷりお返しもらうからな」
「…お手柔らかにお願いします…」
とんでもない取引をしてしまった気がするが、背に腹は代えられない。
私はたまに迫りくる湊くんの整った顔や、部屋のにおいに耐えながらも小さい脳みそをフル回転させて少しずつ苦手分野を克服していった。
「………ふぁい」
「わかんねえんだな?」
「ごめんなさい…」
「わかんねえならわかんねえって言え。ここをもう一度見てみろ」
見かけによらず(と言ったら失礼だけど)湊くんはすごく頭がいいし、教えるのも上手だ。
その説明はとても分かりやすくてありがたい。
ありがたいのだけど、湊くんの顔が視界に入ってしまうといまいち集中できない。
湊くんいつも飄々としてるから、真面目な顔してるとギャップがすごいんだもん…!
それに、これは私のせいだけど、教科書が一個しかないから距離が異様に近い…!
けど「顔が近くて集中できない」なんて言ったら私だけ変に意識をしてるみたいだし、目の前の唯がどんなに怒るか分からないから口をつぐむ。
ちらりと目の前の様子を盗み見てみた。
「やまげつき。りゅうさいのこうちょうははかがくさいるい、」
「…ハァ」
「まだ最初の一文しか読んでないよお?」
「まずタイトルから読み違えてる。やまげつきじゃなくてさんげつき」
「なるほどお」
「…それから一文目の読み。隴西の李徴は博学才穎」
「まって!全部メモするからあ!」
「………」
唯の見てはいけない顔を見てしまった。
あれは人を人と思っていない顔だ。
私だって誇れるような成績ではないけど、さすがにあそこまでではない。
八神くん…あと二週間で本当に赤点回避できるのかな…
「…だろ。正三角形の内角くらいは知ってるよな?」
「へ?」
「へ?じゃねえ。中学生で習っただろ」
「…30°くらい?」
「………」
あっ、湊くんが唯と同じ顔をしている…
私たちの頭が思っていた数倍まずいことに気付いた二人は急遽勉強時間を延長することにした。
夕食も宅配を取った。
その夕食を食べているときですら私は片手に参考書を持ち、八神くんに至っては文章を正確に読まないと夕食が食べられないという鬼畜仕様だった。
死んじゃう。
***
「問3、ベクトルAB,BC、CDを足したら何になる?」
「…ベクトルAD、かな?」
「正解!基礎はかなり身に付いたな!」
「えへへ…み、湊くんくるしいです…」
一週間後。
湊くんの鬼指導のおかげで、私はやっと基礎問題が分かるようになってきた。
私ができるようになるたびに湊くんは抱きついてくる。
指導してくれるのはありがたいんだけど、抱きつかれるのは恥ずかしいし唯が般若のようになっていて怖いからやめてほしい。
けど、今回ばかりはあの唯も湊くんに構っている暇はなさそうだ。
「アンタ…今まで山月記の『記』の字を言じゃなくて禾で書いてたの…?」
「んー?ごんべんとかのぎへんとかわかんなあい」
「………」
全力で教科書に視線を戻した。
私は今何も見ていない。
「数Bもかなりできるようになったからそろそろ物理やるか」
「ぶ、ぶつり…」
「今回の範囲の等加速度運動からいくぞ」
「トウカソクドウンドウ」
「…前の範囲の等速直線運動からやるか」
「トウソクチョクセンウンドウ」
「…………」
「ごめんなさいっ!!みっ見捨てないで湊くんっ!!」
湊くんの目がどんどんと濁っていく様子を見て慌てて謝罪した。
実は4月から分からなかったんです…!
でも唯はバイトで忙しいし、唯以外に友達いないし、誰にも相談できないままここまで来ちゃったんです…!
「…いい。一から教えてやる」
「湊くん…!」
「ただし、テスト終わったらたっぷりお返しもらうからな」
「…お手柔らかにお願いします…」
とんでもない取引をしてしまった気がするが、背に腹は代えられない。
私はたまに迫りくる湊くんの整った顔や、部屋のにおいに耐えながらも小さい脳みそをフル回転させて少しずつ苦手分野を克服していった。
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