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8.獅童の意外な一面
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目の前にはもはや見慣れてしまったド派手な髪の男。
周りには自分が一生関わることのない人たちがわらわらと群れている。
どこか既視感のある光景だ。
「この前と一緒のやつでいいか?」
「あ、はい」
…ああ、そうだ。
性懲りもなくまた拉致されてタピオカ店に連れて来られたんだった。
つい眉間に皺を寄せてしまう。
「そんな顔してると買ってやんねえぞ」
「やだ!食べたい!」
「…お前、食に対しては貪欲だな」
つい語気を強めてしまった。
だってタピオカ食べたいもん。
獅童に連れてきてもらわないとタピオカ食べれないんだもん。
…とは死んでも言えないので、獅童の後ろで大人しく待つ。
「ほい」
「あ、ありが、と…?」
獅童からタピオカミルクティーを手渡され、いざ実食!と期待していた私だったけど、一向にタピオカが私の手元に来ない。
それどころか私の元から遠ざかっている。
「タピオカ…っ!」
「ほら、頑張らねえと大好きなタピオカが飲めねえなあ」
私のタピオカは意地悪獅童の手によってはるか上空に行ってしまった。
獅童の手から取り返せばいいだけの話なんだけど、えげつない身長差のせいで私が精いっぱい手を伸ばしても全く届かない。
せめてもの抵抗に獅童の胸元を叩いて応戦してみる。
「一丁前に反抗するようになったな」
「だって、タピオカ飲みたいもん!」
「これがそんなに飲みたいのか?」
「あああっ!!」
ニヤニヤしながらタピオカに口をつける獅童。
半透明のストロー越しにタピオカたちが吸われていく光景を見つめながら、ただただ私は立ち尽くすしかない。
そんな、ことって。
「大変お待たせしました!紫いもタピオカミルクティーです」
「はーい、じゃ、これ夏菜に返すわ」
手渡された私のタピオカミルクティーは少し量が減ってしまっている。
今回も獅童がお金を出してくれたから、彼が飲んだって文句は言えない。
だけど…私はもう二度と飲めないとたかをくくっていたタピオカが再び飲めることに、密かに心を躍らせていたのに。
「もしかしてショック受けてる?」
「受けてない」
「噓つけ」
獅童が頭をぽんぽんと軽く叩いてくれるが、私の深く傷ついた心はそんなものでは癒されない。
そもそも私の心を傷つけた張本人は獅童だ。
まつ毛を伏せてしょぼくれている私に、まさかそんなことで落ち込むとは思っていなかったのか獅童の口数が多くなる。
「なあ紫いも飲むか?」
「…いらない」
「夏菜前においしいって言ってたろ?」
「…いらないったらいらない」
珍しく焦っている獅童を見たら、いつもと形勢逆転したみたいでなんだか楽しくなってきた。
「悪かったって!夏菜がそんなにタピオカ楽しみにしてるなんて知らなかったんだよ」
「…」
「わーった!新しいの買ってやるから!」
「…ぷ、ふふっ」
「…お前、俺の反応見て楽しんでたな?」
「わーっ!ごめんなさいごめんなさいっ!!」
あまりのうろたえぶりに思わず吹き出してしまった。
獅童は私の頭をぐしゃぐしゃにして、ただでさえボサボサの髪をさらにひどいことにした。
髪を隙間からちらりと獅童の顔が見えたけど、これまた珍しいことに頬を少し赤らめていた。
それが面白くて笑いが止まらなくて、それが気に入らない獅童にさらに髪を乱されてしまった。
「…男に二言はない。タピオカ買ってやる」
「えっほんと!?」
「ただし半分ずつな」
「えー」
「えーじゃない。買ってやるだけありがたいと思え」
「ふぁい」
獅童は私の頬を掴んだまま、感触が気持ちいいのかふにふにと触り続けている。
いつもならとっくに払いのけているところだけど、男前の獅童くんはなんとおかわりを買ってくれるらしいから頬を触らせることでご機嫌をとっておく。
こんなことでご機嫌取りになるかどうかは謎だけど。
「夏菜のほっぺ、なんでこんなにフワフワなんだ?」
「ふぁふぁふ」
「くっ…!!」
獅童は肩で顔を隠して小刻みに震えている。
失礼な。
獅童が頬を掴んでるせいでこんな喋り方しかできないのに。
「ふぁふぁふぃふぇ」
「ちょっ…!それ、やめ…!」
よっぽどツボに入ったのかもはやまともに話すことすらできていない。
再び立場が逆転したみたいだ。
「ふぁふぁっふふ」
「ほんっとに…くくっ…やめ…」
「ふぁ」
私の頬はついに解放された。
一方の獅童は横腹を押さえて苦しそうに笑っている。
相変わらず獅童のツボは謎だ。
いつの間にか獅童を怖いと思うことはなくなっていた。
強引な俺様だしチャラチャラしてるしすぐエロいことばかりしようとするけど、意外とかわいいところもある。
タピオカおごってくれるしいい人だ。
一緒にいて楽しいとも思う。
上手く言葉に表すことはできないけど、唯と一緒にいるときとはまた違った種類の楽しさがある。
…たまにドキドキさせてくるのはやめてほしいけど。
獅童と一緒にいると楽しいって今度伝えてみようと決意したものの、肝心のその日はいつまで経っても訪れなかった。
目の前にはもはや見慣れてしまったド派手な髪の男。
周りには自分が一生関わることのない人たちがわらわらと群れている。
どこか既視感のある光景だ。
「この前と一緒のやつでいいか?」
「あ、はい」
…ああ、そうだ。
性懲りもなくまた拉致されてタピオカ店に連れて来られたんだった。
つい眉間に皺を寄せてしまう。
「そんな顔してると買ってやんねえぞ」
「やだ!食べたい!」
「…お前、食に対しては貪欲だな」
つい語気を強めてしまった。
だってタピオカ食べたいもん。
獅童に連れてきてもらわないとタピオカ食べれないんだもん。
…とは死んでも言えないので、獅童の後ろで大人しく待つ。
「ほい」
「あ、ありが、と…?」
獅童からタピオカミルクティーを手渡され、いざ実食!と期待していた私だったけど、一向にタピオカが私の手元に来ない。
それどころか私の元から遠ざかっている。
「タピオカ…っ!」
「ほら、頑張らねえと大好きなタピオカが飲めねえなあ」
私のタピオカは意地悪獅童の手によってはるか上空に行ってしまった。
獅童の手から取り返せばいいだけの話なんだけど、えげつない身長差のせいで私が精いっぱい手を伸ばしても全く届かない。
せめてもの抵抗に獅童の胸元を叩いて応戦してみる。
「一丁前に反抗するようになったな」
「だって、タピオカ飲みたいもん!」
「これがそんなに飲みたいのか?」
「あああっ!!」
ニヤニヤしながらタピオカに口をつける獅童。
半透明のストロー越しにタピオカたちが吸われていく光景を見つめながら、ただただ私は立ち尽くすしかない。
そんな、ことって。
「大変お待たせしました!紫いもタピオカミルクティーです」
「はーい、じゃ、これ夏菜に返すわ」
手渡された私のタピオカミルクティーは少し量が減ってしまっている。
今回も獅童がお金を出してくれたから、彼が飲んだって文句は言えない。
だけど…私はもう二度と飲めないとたかをくくっていたタピオカが再び飲めることに、密かに心を躍らせていたのに。
「もしかしてショック受けてる?」
「受けてない」
「噓つけ」
獅童が頭をぽんぽんと軽く叩いてくれるが、私の深く傷ついた心はそんなものでは癒されない。
そもそも私の心を傷つけた張本人は獅童だ。
まつ毛を伏せてしょぼくれている私に、まさかそんなことで落ち込むとは思っていなかったのか獅童の口数が多くなる。
「なあ紫いも飲むか?」
「…いらない」
「夏菜前においしいって言ってたろ?」
「…いらないったらいらない」
珍しく焦っている獅童を見たら、いつもと形勢逆転したみたいでなんだか楽しくなってきた。
「悪かったって!夏菜がそんなにタピオカ楽しみにしてるなんて知らなかったんだよ」
「…」
「わーった!新しいの買ってやるから!」
「…ぷ、ふふっ」
「…お前、俺の反応見て楽しんでたな?」
「わーっ!ごめんなさいごめんなさいっ!!」
あまりのうろたえぶりに思わず吹き出してしまった。
獅童は私の頭をぐしゃぐしゃにして、ただでさえボサボサの髪をさらにひどいことにした。
髪を隙間からちらりと獅童の顔が見えたけど、これまた珍しいことに頬を少し赤らめていた。
それが面白くて笑いが止まらなくて、それが気に入らない獅童にさらに髪を乱されてしまった。
「…男に二言はない。タピオカ買ってやる」
「えっほんと!?」
「ただし半分ずつな」
「えー」
「えーじゃない。買ってやるだけありがたいと思え」
「ふぁい」
獅童は私の頬を掴んだまま、感触が気持ちいいのかふにふにと触り続けている。
いつもならとっくに払いのけているところだけど、男前の獅童くんはなんとおかわりを買ってくれるらしいから頬を触らせることでご機嫌をとっておく。
こんなことでご機嫌取りになるかどうかは謎だけど。
「夏菜のほっぺ、なんでこんなにフワフワなんだ?」
「ふぁふぁふ」
「くっ…!!」
獅童は肩で顔を隠して小刻みに震えている。
失礼な。
獅童が頬を掴んでるせいでこんな喋り方しかできないのに。
「ふぁふぁふぃふぇ」
「ちょっ…!それ、やめ…!」
よっぽどツボに入ったのかもはやまともに話すことすらできていない。
再び立場が逆転したみたいだ。
「ふぁふぁっふふ」
「ほんっとに…くくっ…やめ…」
「ふぁ」
私の頬はついに解放された。
一方の獅童は横腹を押さえて苦しそうに笑っている。
相変わらず獅童のツボは謎だ。
いつの間にか獅童を怖いと思うことはなくなっていた。
強引な俺様だしチャラチャラしてるしすぐエロいことばかりしようとするけど、意外とかわいいところもある。
タピオカおごってくれるしいい人だ。
一緒にいて楽しいとも思う。
上手く言葉に表すことはできないけど、唯と一緒にいるときとはまた違った種類の楽しさがある。
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